シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」⑮
日本の脱炭素は地域人材がリードする
環境省「令和3年度地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業」

地域創生NOW VOL.25

写真左から
環境省大臣官房 環境計画課 企画調査室 室長 佐々木 真二郎 氏
一般社団法人ローカルグッド創成支援機構 事務局長 稲垣 憲治 氏
八洲建設株式会社 経営企画部産官学連携事務局 課長 宮澤 賢治 氏
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 第一部 三好 睦実

2015年に採択されたパリ協定によって世界は脱炭素へと大きく舵を切った。日本ではさらに50年までにCO2など温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル宣言(20年)を行い、その動きを加速させている。

日本のエネルギー政策でも再生可能エネルギー(以下、再エネ)の重要性が増すなか、環境省は21年度から、地域の中核人材を育てる「令和3年度地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業」を開始。その全体の事務局をジェイアール東日本企画(以下、jeki)が担い、7つの団体が全国で中核人材の育成、相互学習のサポートやネットワーク化などを行うこととなった。

今回、この事業を担当したソーシャルビジネス・地域創生本部の三好睦実が、環境省大臣官房環境計画課の企画調査室長である佐々木真二郎氏をはじめ、人材育成の現場を担った7団体のうちのひとつである一般社団法人ローカルグッド創成支援機構の稲垣憲治氏、ローカルグッドの研修に参加した愛知県半田市で再エネ事業を行う八洲建設株式会社経営企画部の宮澤賢治氏を迎えて、事業を振り返りながら、再エネ拡大の核となる人の重要性について語り合った。

先行地域が講師だからネットワークが生まれる

三好:地域においても再エネへの関心が高まっていますが、特に中核人材の育成に着目したのはどういった理由からでしょうか。

佐々木:カーボンニュートラル宣言以降、企業に限らず自治体も再エネへの取り組み、関心が増加しました。ところが、いざスタートしようと考えたとき、お金の問題もそうですが、足かせとなったのが人の問題、地域課題と再エネの開発、供給を結び付けられる人材が不足していることでした。再エネ導入の利益を地域に還元しようと思うならば、その事業を地域外の人に任せず、地域の人が事業をデザインしなければなりません。あるいは、外から力を借りるにしても地域の人が外の人と対等に渡り合える知識、経験が必要不可欠になるので、人材育成を一番の肝として、この事業をはじめたわけです。

三好:環境省の思いを受けて、jekiが事務局を担うことになったのですが、実際に人材育成を行う活動団体は公募で選ばれました。そのひとつに選ばれたローカルグッドさんはどのような思いで応募されたのでしょうか。

稲垣:我々は「地域を良くする」、つまりローカルをグッドにするために、地方に魅力ある仕事をつくろうと活動しています。そのなかで、地域のなかで主体的に事業をまわしていける人が不足していることは、再エネだけでなくどの分野においても課題として持っていました。それが応募の動機です。ただ、事業を主体的にまわせる人材は、多くはありませんが、地域にもいらっしゃいます。

そこで、先行する地域から別の地域へとノウハウや知見を伝える枠組みがあれば、同じ課題を持つ者同士のネットワークにもなりますので、この「地域から地域」をコンセプトに3つの手法で中核人材の育成を行いました。まずは、先行する地域事業者にオンラインの講座で自身の経験を伝えてもらい、双方向でやりとりができるようにしました。もうひとつが個別の相談会です。オンライン、しかも多くの参加者のなかで自地域の詳細な話などできませんから、そのケアです。最後がパワーランチ。ランチをとりながらコミュニケーションを図り、ネットワーク化をめざしました。繰り返しになりますが、大事にしたことは「地域から地域」。そこに、八洲建設の宮澤さんも参加してくださったのです。

宮澤:いろいろお世話になりました(笑)。私が勤める八洲建設は愛知県半田市にある地元密着の建設会社です。地域の発展が自社の利益という考え方なので、事業もグループ会社などを通じて幅広く行っており、再エネ事業についても、地元企業がやるべきこととして早くから太陽光発電を立ち上げ、それが現在のバイオガス発電につながっています。

発電機の本格稼働を前にしたバイオガス発電施設「ビオぐるファクトリーHANDA」の内部と「バイオマス資源の地域循環」を示す展示物

グループ会社の株式会社にじまちでミニトマトの施設園芸を行っており、施設園芸は燃料代がかかるので、その解決策のひとつとして発電施設の排熱やCO2を活用することをめざしたバイオガス事業が21年10月にスタートしました。この事業によって高騰する燃料問題もそうですが、地域産業である畜産業の臭気問題、農業の担い手不足といった地域が抱えるいくつかの問題の解決をめざすものです。しかしながら、これまで電気の地産地消は実現できていなかったので、今後は地域の電力会社をめざして、電力の小売り事業や地域のエネルギーマネジメントにも取り組みたいと思い、ローカルグッドさんの講座に参加しました。

人のつながりは、結果につながる

三好:宮澤さんが受講して気付いたことはどんなことでしたか。

宮澤:先輩方の話を聞くと、地域をひとつにまとめる存在の重要さがわかりました。例えば、地域新電力を立ち上げる場合、官民が協力しなければなりません。その時、立場の違いを理解し、補い合う体制づくりが求められます。その人材に関してもリードする役、調整役などさまざまな役目が必要だと知りました。私自身、県庁から2年半前に転職してきて両者の言い分がわかるため調整役になれればと思っています。

三好:今回の事業では、地域に裨益する中核人材像について、ビジョンを描き地域をけん引するリーダー、再エネや経営などの専門家、それらをつなぐコーディネーターの3者が必要ではないかと仮説を立てました。宮澤さんは調整役ですからコーディネーターということですね。稲垣さん、他には受講者からどんな声が上がりましたか。

稲垣:多かったのが「仲間とつながれた」ことですね。こうしたセミナーはよくありますが、その多くは事業の紹介に終始してしまいます。でも、大事なのはどう調整したか、どういった考え方で進めたのかという実務的な話なので、我々としても注力したところです。また、「再エネは難しい」という声も多いのですが、やればできるということを多くの方に感じてもらえたことも手応えのひとつです。それから、実際に再エネ事業をしている各地域の方々の「熱」が他の地域に伝わったのも大きいですね。「結果は?」と問われれば、進展した事案は多いですが、人材育成なので、何か数値で出すというのは難しいのが実情です。

佐々木:人がどう育ったかを数値化するのは難しいですよ。成長のスピードは人それぞれですしね。ですから私たちとしても、育成のプロセスがしっかりしていて、場のデザインがきちんとしていて、価値を生み出そうとする姿勢がしっかり感じられれば、結果はいずれついてくると考えています。

地域にとって大事なことは利益とノウハウが残ること

宮澤:受講者としてもうひとつ良かったことは、講座などを録画していないので、講師がデリケートな部分でも本音で語ってくれたところでした。

稲垣:確かに。私も本音を語っているなと思ったのが、大手企業との連携についてでした。大手企業の収益の上げ方は、地域の利益と相反してしまうことが多いので、もし、大手と組むならば、バリューチェーンを上手く分けて、地域の利益が損なわれないようにすべきだという話が出ましたが、これは普通のセミナーでは聞けませんよね。

佐々木:大手企業と地域の事情は違いますからね。それに何より大事なことは地域に利益もノウハウも残ることです。だから八洲建設さんのように地元企業が主体となっているというのは心強い。

宮澤:地域のことはエネルギーに限らず、地域が主体となって進めていきたいと思いますので、我々地元企業がもっと頑張らないといけませんね。

稲垣:そのためにも地域同士つながって情報共有することが大事ですよ。

佐々木:そういう意味では、ローカルグッドさんが行った先輩と関係をつなぐというのは、凄く価値あることで、気軽に電話やメールできる関係性ができると良いネットワークになるでしょう。

三好:では、最後にお一人ずつ今後の目標など教えてください。

宮澤:地域新電力として地域を循環する経済をまわしていくこともそうですが、地域の相談役となって今の課題だけでなく、今はまだ困っていないが、いずれ課題になる問題に対しても官民で協力しながら準備していきたいです。

稲垣:再エネ人材の育成に関しては、もっと事業者の情熱が伝わるものにしたいことと、3つの改善点があります。ひとつが、自治体への注文が多かったので、自治体職員の育成にも取り組むこと。もうひとつが私を含めて参加者が経験を重ねた男性ばかりなので、それ以外の層を取り込むこと。そして最後に、先行地域と人材育成の分野のつながりを強化していくことです。

佐々木:自然が豊かでなければ、そこから資源を取り出すことはできませんし、豊かな暮らしもできません。環境を守りながら地域を元気にしたい、そんな人たちを応援していきたいと思っています。そのカギとなるのは人材ですし、活動を広める原動力でもあるので、脱炭素をバネに地方を元気にし、それを国の元気につなげていければと考えています。

三好:我々は観光や産業分野でも伴走型のサポートを行っています。2021年度は「環境省ローカルSDGs」企業等登録制度(※)にも登録させていただきましたので、これまでの知見やノウハウを環境分野と組み合わせることで、新たな何かを生み出せるようにしていきたいと考えています。そして八洲建設さんのような企業をもっと増やしていくお手伝いができればと考えています。

宮澤:ありがとうございます。今後もこうした講座に積極的に参加して学んでいきたいですし、いずれは、教える側にまわれるようになりたいですね。

佐々木・稲垣・三好:それは素晴らしい!(拍手)

(※) 「環境省ローカルSDGs」企業等登録制度
地域の構想づくりやローカルSDGs(地域循環共生圏)ビジネスの実現に向けた知見や技術の提供、実践地域との交流、企業同士の学びあいやネットワークづくり、環境省や他省庁との意見交換などの機会を提供するための登録制度。
http://chiikijunkan.env.go.jp/deau/kigyo_list/#deau-kigyolist-seido【登録制度サイト】
http://chiikijunkan.env.go.jp/pdf/kigyo_list/136_jeki.pdf 【jeki登録情報】

【シリーズ  地域創生ビジネスを「ひらこう。」】
(1) 地域創生を担う人材をどう育てているのか―ふるさとプロデューサー育成支援事業
(2) なぜ、いまjekiは地域創生に力を入れるのか
(3) 地域をつなぐ懸け橋として「TRAIN SUITE 四季島」のブランディングの裏側
(4)住民参加による「郷土愛・魅力創造」のまちづくり 北海道・芽室町の挑戦
(5)インキュベーション施設「わくばにかほ」がひらく、新たな起業の形 ~秋田県にかほ市
(6)「酒蔵ツーリズム」で広がる地域の魅力
(7)札幌駅前にできた×Station01から地域創生は生まれる
(8)食文化を通じて街を元気にする漁師町のプロジェクト ~福井県高浜町
(9)「お金の支援だけじゃない」地元銀行だからできる群馬経済の活性化
(10)「複業」で8割東京、2割地域を目指す 長野県佐久市YOBOZE!プロジェクト
(11)アンテナショップが担う知られざる役割。いしかわ百万石物語 江戸本店
(12)震災から10年、支援への感謝を込めて「東北」からのメッセージ~東北ハウス 
(13)我が街の美味しさをもっと知ってほしい。ルミネエスト新宿の「Sweetいちごフェア」@茨城県筑西市
(14)コロナ禍でも地域創生はできる!岩手・青森のGo To Eat事業
(15)環境省「令和3年度地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業」

三好 睦実
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 第一部
福井県庁を経て、2020年jeki入社。
行政時代は観光・環境・港湾行政を担当。長野県庁への出向期間も含め観光行政に長く携わり、観光プロモーション・MICE/コンベンション・観光組織機構改革等を担当した。
jekiでは地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業(環境省)・エネルギー構造高度化・転換理解促進事業(資源エネルギー庁)・原子力発電施設等立地地域基盤整備支援事業(資源エネルギー庁)等に携わる。

佐々木 真二郎
環境省大臣官房 環境計画課 企画調査室 室長
2002年、環境省に入省。環境省レンジャーとして、国立公園や世界自然遺産の保全管理、希少野生生物の保護を担当。東日本大震災では、自然環境を活かして復興に貢献する「グリーン復興プロジェクト」として、みちのく潮風トレイルの整備などにかかわる。現場では、阿蘇くじゅう国立公園の管理や、長崎県対馬のツシマヤマネコの保護増殖事業を担当。また、2017年から2019年まで福井県自然環境課長として、年縞(ねんこう)博物館の建設、コウノトリの野生復帰事業や自然再生事業を担当。2020年7月より現職。

稲垣 憲治
一般社団法人ローカルグッド創成支援機構 事務局長
文部科学省、東京都庁を経て、地域活性化・地域低炭素化への思いが高じ、2020年から現職。
これまで自治体の再エネ普及施策企画、自治体新電力の設立・運営などに従事。
現在は、地域新電力・地域再エネ事業支援に全力で取り組んでいる。
また、京都大学大学院において「地域新電力×再エネ×環境まちづくり」の研究活動も行う。
環境省、経産省、自治体の各種検討会委員、総務省地域力創造アドバイザーなど。

宮澤 賢治
八洲建設株式会社 経営企画部産官学連携事務局 課長
愛知県庁で環境分野、企業誘致分野、建設分野、財政分野などを担当した後、2019年9月八洲建設株式会社入社。現在は、産官学連携事務局として、行政、大学と自社の橋渡し役を担当し連携事業の推進を通じて愛知県知多半島エリアを中心とした地域課題の解決に取り組んでいる。

地域創生NOW

日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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