シリーズ 地域ビジネスを「ひらこう。」⑥
「酒蔵ツーリズム」で広がる地域の魅力

地域創生NOW VOL.16

写真左より
株式会社日本政策投資銀行 地域調査部調査役 守山 愛美 氏
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスデザイナー 菅野 智颯
株式会社日本経済研究所 地域産業部 副主任研究員 池原 沙都実
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 第二部 部長 木村 ともえ
(撮影場所:JAPAN RAIL CAFE TOKYO)

酒蔵やワイナリー、ブルワリーをめぐり、酒だけでなく、その土地が育んだ味覚や伝統文化を楽しむ、周遊・滞在型観光の「酒蔵ツーリズム」は、人口減少による日本産酒類の需要の先細りに歯止めをかけるものと期待されている。とくに、コロナ収束の後に再び活気を取り戻すとみられているインバウンド観光は、日本産酒類の需要拡大だけでなく、地域経済のけん引役になると考えられている。

国税庁は、酒蔵ツーリズムの推進を図るため、2020年度の事業として全国16か所の事例研究をもとに、酒蔵ツーリズムを成立させる要件や成功に向けての視点などを整理し、考察を行った。今回、その事務局を担った(株)ジェイアール東日本企画(以下、jeki)の木村ともえと菅野智颯が、同じく調査を行った(株)日本政策投資銀行(以下、DBJ)地域調査部調査役の守山愛美氏と、同グループのシンクタンク(株)日本経済研究所(以下、日経研)地域産業部副主任研究員の池原沙都実氏を迎えて酒蔵ツーリズムの今後を語った。

「季節、食材、人」お酒の需要はまだまだ広がる

木村:2020年度の酒蔵ツーリズム推進事業ではお世話になりました。酒蔵を地域経済の核として考えた時に、経済を見続け、知見も豊富なDBJさんと組めばより地域全体への影響が広がると考えお願いしました。おかげでお酒が関わることで、地域全体の可能性が広がることがわかりました。

守山:こちらこそありがとうございました。弊行グループは以前から、地域経済の活性化に向けた支援を行ってきました。今般公表いたしました中期経営計画においても「地域をつなぐ」ことを柱のひとつに掲げるなど、引き続き地域を重視しております。お酒に関しても、例えば地域の酒蔵に対してファンドを通じた投融資の事例があるほか、支店においても東北支店では日本酒、中国支店はクラフトビール、南九州支店では焼酎など、日経研とともに各地で地域の観光や産品と絡めた調査、情報発信を行っておりましたので、酒蔵ツーリズムは弊行のこれまでの取り組みと親和性が高いプロジェクトでした。私自身は今回、後方支援を主に行っておりましたが、報告書を読みながらお酒が恋しくなっていました(笑)。

池原:私はDBJの東北支店にいた時に、秋田県の発酵ツーリズムについてのレポートを書いたことで、いずれテーマを持って日本酒のレポートを書きあげたいと考えていました。その後、日経研に入社したのですが、酒といえば池原と、DBJからお声がけいただきました(笑)。

jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスデザイナー 菅野 智颯

菅野:JR東日本グループでもお酒に関しては、新潟県で県内の代表的な銘柄の唎酒(ききざけ)を行える「ぽんしゅ館」(新潟・長岡・越後湯沢駅)、訪日(在留)外国人等を対象とした観光誘客施設「JAPAN RAIL CAFE TOKYO」(東京駅)でのオンラインとオフラインでの日本酒のPRイベントなど、地域のお酒と海外の方を結ぶ事業をすすめていました。しかし、酒蔵ツーリズムは、お酒を目的としない旅行者に対して、いかにお酒との接点をつくり、楽しんでもらうかが重要ですから、個人的にはスタートの時点で難しさを感じていました。

木村:菅野さんはあまりお酒を飲まないですからね。

菅野:もともとそんなにお酒を飲まない上に、一年前までお酒を飲まない国であるマレーシアで働いていましたから、最初は私でよいのかと思っていました。でも、この事業に携わるうちにお酒を好きになるきっかけがいくつもありました。そのひとつが、にごり酒の美味しさ。そして、お酒を飲むと女子力が上がった気分になれるところです。

一同:(笑)。

菅野:そしてもうひとつが、蔵元さんがカッコイイところ! 日本酒を紹介するイベントなどで、蔵元さんは自分たちのお酒を紹介します。その時に法被を羽織って壇上に向かうのですが、その姿にキュンとしていました(笑)。

株式会社日本経済研究所 地域産業部 副主任研究員 池原 沙都実

池原:粋なんですよね。試飲イベントに行っても、蔵元さんが書いた本を持っていって、サインをもらっている女性ファンもいますからね。

菅野:酒造りへの想いや日本酒の楽しみ方を話してくださるところも魅力ですが、お酒の奥深さを知れば知るほど、普段、旅館でお酒を飲んでも、それがどこの、誰がつくったお酒なのかを気にすることなく飲むことが多く、お酒も地域も、その魅力が伝わっていないことをもったいないと思うようになりました。

守山:コロナ流行前に旅行した際、宿泊先や飲食店において、食べ物は地元の名産品が提供されているのに、お酒は地元のものが置いていないことがありました。今はなかなか行くことができませんが、私は旅先を選ぶ時には、その地域の味覚とお酒をセットで決めるのが好きです。北陸であればホタルイカの沖漬けや畳干しと地酒はセットですし、日本酒の豊富な兵庫県では、春のいかなごのくぎ煮との相性が最高です。せっかく地元の料理をいただくのですから、それに合う地元のお酒があるともっと楽しめると思います。

菅野:地元の食べ物とのペアリングを考えるだけでもお酒の需要は増えるはずですが、今回の事業で地元の方に「この地酒は地域のどの味に合いますか」と尋ねると、多くの地域で「漬物」と言われたのにはびっくりしました。

一同:そうそう(笑)。

守山:そういう意味では、長野県の事例ではお酒の味覚を専門機関が科学的に分析し、数値での見える化を行っていましたね。お酒の味を一言で表現して、わかりやすく伝えると同時に、どの食べ物と相性がいいかペアリングメニューも提案する、あの取り組みは伝わりますね。

池原:日本酒は種類が多いので、見える化の取り組みは良いと思います。日本酒の課題はラベルにもあります。精米歩合が60%や70%などと書いてあるのですが、外国人旅行者がラベルを見た時に、それをアルコール度数と勘違いすることがあるそうです。すると、「なんだ、この強い酒は」と敬遠される一因になる可能性があります。

旅が終わってもECでつながっていく

木村:日本酒の購買について気になった点はありますか。

池原:お酒を購入する場合、旅行者が一升瓶なんて買ったら持ち歩きにくいじゃないですか。配送に着目した事例も2件ほどありましたが、もっと少量で、持ち運びしやすい工夫は必要かと思いました。

株式会社日本政策投資銀行 地域調査部調査役 守山 愛美 氏

守山:小型化は必須でしょうね。もうひとつ、旅行者はいろんな種類を飲みたいのではないかなと思います。私はいろいろ飲み比べてみたい。

池原:最近では、缶に入っている日本酒も増えました。軽くて、デザイン的にもカッコイイものであれば、瓶よりも缶の方が気軽に買えるかもしれませんね。何より割れませんしね。

菅野:後は、もう少し値段を高く設定しても良いと思います。容器も小さい方が好まれるはずです。おみやげとして買ってもらうにしても、お酒好きの方に買ってもらうにしても安くて大きいよりも、少量で美味しく、種類が多い方が選ばれるはずですからね。

池原:秋田県の大仙市は花火大会が有名ですが、そこでは花火がデザインされた日本酒のかわいい缶が売られていました。おもしろいのは、その缶に二次元コードがついていて、読み取ってアプリを起動したら、酒蔵のウェブサイトなどが表示されるようになっている点です。酒蔵としても、どんな人が買ったのかがわかるわけですから、マーケティングにつながっていいなと思いました。酒蔵には経営規模が小さいところが多いので、なかなかマーケティングまで手がまわりません。でも、こうした二次元コードやアプリの活用でデータが取れるようになると、ツーリズムの面でも打つ手が見つかります。

jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 第二部 部長 木村 ともえ

木村:個別では、様々な取り組みが行われていますが、日本のお酒全体の需要はどう変わっているのですか。

池原:国内の消費量は伸び悩んでいますが、輸出には期待が持てるのではないでしょうか。2020年は新型コロナウイルスの影響で輸出量は減ったものの、輸出金額は増えました。量より質で選ばれたと思われます。今後、日本の人口が減ることも考えれば、輸出への取り組みは重要です。ただ、例えば海外で希少性の高い日本酒の生酒は、品質管理上、空輸が望ましいのですが輸送費用が高く、現地価格は日本の3倍ほどになると聞きます。船便だと時間と管理の問題がでてきます。現地でも日本酒をつくっているところはありますが、日本の酒ですので、日本に来て飲んでもらうか、ブランド化することで高くても日本からの輸出をたくさん受け入れてもらいたいですね。

東京アメリカンクラブでの日本酒ペアリングディナー。
栃木県内の4蔵元・日本酒7種類と栃木県食材をモニタリングした(2020年12月15日栃木県酒蔵酔って見っけ協議会実施)

木村:輸出をするにしても海外ワインなどとの競争がありますから、値段が日本の3倍では勝負になりませんね。そう考えると、酒そのもののブランディングやプレゼンテーション、チルド技術の向上と、缶や紙の容器の開発、それからコールドチェーンの構築がカギになりますかね。

守山:やはりコロナ収束後、日本に来てもらい、帰ってからもお酒を買ってもらうしかないですね。今回の事例でも山形県の天童市がオンラインツアーで台湾の人たちを招いたところ、ツアーの後で輸入商社からお酒の注文があったといいます。今年5月に発行いたしました弊行のインバウンドの意向調査によれば、日本へのオンラインツアー参加者の約9割について、コロナ収束後に日本を訪ねたいという訪日意欲の高まりがみられました。

菅野:天童市の例は、木村さんが以前「酒蔵のオンラインツアーはツーリズムの代わりにはならなくても、オンラインショッピングにはつながる」と言っていたことを思い出しますね。

池原:こういう事例を聞くと、ウェブサイトをつくる場合は、必ず、その中にECサイトを埋め込むなど、購買につながる仕掛けをつくることがいかに大事かということを教えてくれますね。私たちもこうしたDX化支援ができればいいなと思います。

木村:酒蔵ツーリズムは、観光だけでなくECも含めたすそ野の広いものだと思います。コロナ収束後にはどの地域のお酒が人気になっているのか、今から楽しみです。本日はありがとうございました。

(参考)国税庁令和2年度 「酒蔵ツーリズム推進に係るモデル事例構築のための 調査業務」報告書
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/boshujoho/pdf/0021005-079_01.pdf

<日本政策投資銀行>

株式会社日本政策投資銀行(DBJ)
前身である日本開発銀行・北海道東北開発公庫の時代から、その時々の社会課題に柔軟に対応し、日本の持続的発展に貢献。今後、抜本的な人口構造や社会構造の変革が加速し、社会課題と顧客の経営課題が一体不可分となることが見込まれるが、様々な金融機関や事業会社等と連携・協働し、顧客起点で投融資機会を創出することで、金融市場の活性化に貢献しつつ、経済価値と社会価値の両立に取り組んでいる。

<日経研>

株式会社日本経済研究所
株式会社日本政策投資銀行(DBJ)全額出資の調査・コンサルティングを主とする総合研究機関として発足以来、長期性、中立性、パブリックマインド、信頼性の4つのDNAを基本理念として育み、常に顧客満足と経済社会の発展につながる成果を目指してきた。今後も、課題解決の架け橋となり、持続可能な社会の実現に貢献することをミッションとし、顧客や社会から信頼されるプロフェッショナルとして、豊かな未来をともに拓いていくことを目指している。

木村 ともえ
jekiソーシャルビジネスプロデュース局 第二部 部長
大手旅行代理店にて地域交流事業を担当。ブランディング、商品造成など観光に関係する事業を歴任。熱海市観光ブランドプロモーションプロデュース、富山観光推進機構マーケティング部長、鶴岡市における観光戦略策定などを歴任し観光目線でソーシャルビジネスを推進し、2019年jeki入社。現在に至る。

菅野 智颯
jekiソーシャルビジネスプロデュース局 第二部
2017年株式会社ジェイアール東日本企画に入社、ソーシャルビジネス開発局(現:ソーシャルビジネス・地域創生本部ソーシャルビジネスプロデュース局)に配属。とくに地域活性・海外進出支援に関心を持ち、2019年4月より青年海外協力隊マレーシア派遣を経て現在に至る。

守山 愛美
株式会社日本政策投資銀行 地域調査部 調査役
2020年度より、熊本市からの出向にて株式会社日本政策投資銀行 地域調査部(旧:地域企画部)に在籍。

池原 沙都実
株式会社日本経済研究所 地域産業部 副主任研究員
株式会社日本政策投資銀行 東北支店 企画調査課を経て、現職。
主な研究テーマは、花火や日本酒などの地域産業や、地域資源を活かしたツーリズムなど。

地域創生NOW

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そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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