シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」⑪ アンテナショップが担う知られざる役割。いしかわ百万石物語・江戸本店

地域創生NOW VOL.21

写真左から
jeki北陸支社 営業部 ソーシャルビジネスデザイナー 江指 有紀
ATソリューションズ 会長 中込 進氏
石川県商工労働部 経営支援課 主事 川田 諒 氏
石川県商工労働部 経営支援課 主事 越坂 裕太 氏

東京・銀座、有楽町あたりを歩くと日本各地のアンテナショップが店を構え、さながら旅行気分を味わえる。石川県のアンテナショップ「いしかわ百万石物語・江戸本店」も銀座2丁目に店を構え、2020年3月にリニューアルオープンを行った。新型コロナウイルスの感染拡大のまっただなかでの船出となったが、オンラインを積極的に活用するなど新たなアンテナショップの形をつくりだしている。

今回、運営を担当するジェイアール東日本企画(以下、jeki)北陸支社の江指有紀がホストとなり、石川県商工労働部の川田諒主事と越坂裕太主事、そして、運営の総合プロデュースを行うATソリューションズの中込進会長を迎え、アンテナショップのこれからについて語りあった。

“百万石の華やかさ”をどう演出するか

江指:リニューアルに際し、商品構成やフロアの見直しというところで中込さんからアドバイスをいただきましたが、どういったところがポイントだったでしょうか。

中込:アンテナショップはワンフロアであることが一般的ですが、ここは3フロアで地下もあります。リニューアル前、地下フロアには飲食スペースやバーカウンターが設置されていたのですが、地下はどうしてもお客さんの導線として難しい。そこで1、2階をショップにするのが販売的には良いのでしょうが、2階の内装が石川県の伝統技術や粋を集めたつくりになっていたことで考えを変えました。アンテナショップの役割は地域の文化や伝統、技術などの発信もあります。そこで工芸品を中心とした石川県の伝統をプレゼンする場所にしてはどうかと提案したのです。その結果、地下フロアは完全な売り場になったため、そこへの誘導は今も課題として持ち続けています。

越坂:伝統工芸に関しては、おかげさまで魅力の発信ができるようになったので、インバウンドの方が戻ってきたらと今から楽しみにしています。

川田:地下のフロアについても壁面にはお酒がぎっしりと並び、中央のショーケースには海産物が集中して並んでいますから、お客様にとっては目に入りやすく買いやすい導線になっていると思います。

忘れがちですが暖簾(のれん)もリニューアルで大きくなり、有楽町方面からのお客様の視線に入るようになりました。これも、以前の目立たない店舗という課題解決につながりましたし、店内も明るくなったといわれます。

江指:それは本物の金箔ではないですが豪華なイメージをつけようとトイレの中まで金色に仕上げたからじゃないですか(笑)。

川田:初めてトイレに入ったときは一面金色でビックリして、ちょっと緊張しながら用を足さなければいけませんからね。

一同:(笑)。

江指:リニューアルオープン当初からコロナの影響があったのでオンラインイベントに力を入れたのも変化ですね。お酒のオンライン試飲イベントでは、このお店のターゲット層である30~50代の女性向けに行い、15名くらいの募集枠に300名の方に御応募いただいたのは嬉しかったですね。

越坂:まさに新しい生活様式にマッチしたイベントでしたね。20年11月には、コロナが少し落ち着いたこともあり対面イベントも行えましたね。

江指:蟹面づくり体験でしたが、6000円という高めの設定ながらもイベントを待ち望んでいたのかわずか5日で定員が埋まってしまうほどの人気で、参加者も男女問わず幅広い年齢層の方にご参加いただきましたね。金沢の食文化も学ぶことができて、主催者側としても手応えのあるイベントになりました。今年は完全オンラインに振り切ってライブコマースイベントにも挑戦しましたね。

川田:凄い反響でした。司会を行った江指さんへのコメントもありました(笑)。石川の「加能ガニ」の最高級ブランドが誕生するなど、ちょうど石川の蟹を盛り上げたい時だったのでタイミングもよかったですね。

江指:おかげさまで、蟹とアンテナショップが上手く紐づいたようで「アンテナショップはどこにあるのですか」とか、「実際に買いに行けますか」といった質問をいただきました。今後も石川県といえばコレ、といった商材で県産品の魅力を地域の事業者さんとともに伝えていけたらと思っています。

次世代の事業者を育てているか

江指:「いしかわ百万石物語・江戸本店」では商品を公募し「商品選定委員会」で首都圏マーケットに精通した審査員が審査を行い、ご応募をいただいた事業者の方には専門家の委員から商品に対するフィードバックをさせていただいています。フィードバックを行う理由を総合アドバイザーの中込さんから教えていただけますか。

中込:アンテナショップには本来、首都圏のニーズやトレンドを地元にフィードバックする役割があるはずですが、多くがその役割を果たしていません。フィードバックがなければ、地域のものをアンテナショップで販売するだけですから情報は一方通行です。でも、フィードバックで双方向にすることができれば、ニーズやトレンドが見えてきますから、資本力のない事業者さんにもアンテナショップを足掛かりに首都圏へ進出するチャンスが生まれます。公募制なので誰にでも門戸が開かれていますし、選ばれなくてもフィードバックがあるので次の挑戦に向かえます。未来の県を担う産業のためにフィードバックはあるのです。

川田:事業者さんのなかには販路拡大、商品の磨き上げの部分で何をしていいかがわからない方も多いと思いますので、アンテナショップが商品を公募していて、ダメでもアドバイスがもらえるのは事業者さんにとってはありがたいですね。

江指:これまでは書面でお戻しをさせていただいていて、中には辛辣なコメントもお戻ししなければいけない場合もありましたが、今年度は個別相談会を行うことで、辛辣なアドバイスの行間にある“優しさ”をですね、お伝えできます(笑)。事業者さんにとってもヒントを得られるはずです。先日も10社の個別相談会を行い、専門家の先生への質問が飛び交っていました。今後もこうした取り組みを活用して次のステップに進んでいただきたいですし、我々としても、JRグループの強みを生かして側面支援ができればと考えています。

越坂:アンテナショップが県内事業者の方の全国進出への一つのきっかけになって欲しいと我々も思っているので、jekiさんにもしっかりバックアップ、サポートしていただければと思っています。

川田:同時に、新しい事業者さんの発掘もお願いしたいところです。石川県というのはどうしても金沢に集中しがちなのですが、能登や加賀にもいい事業者さんが多くいらっしゃいますからね。

江指:事業者さんの支援と発掘を年々強化し、北陸新幹線開業10周年の節目には大きな成果を上げたいですね。

中込:その前に金沢〜敦賀間の開業が待っていますし、10周年の先には大阪開業もありますよ。

「メイド・イン・イシカワ」で世界進出⁉

江指:今後のアンテナショップはどんなことが求められると思いますか。

中込:本格的なアンテナショップが誕生して20年、一気に増えてからも10年という節目の時期を迎えていますから、外部環境も含めたアンテナショップの在り方についても見直す時期に来ているのではないかと思います。そう考えると、まずはアンテナショップ自体のブランド化を目指すべきです。石川のアンテナショップブランドで、知名度が低いために東京進出を果たせない事業者さんをカバーするのです。石川県、とくに「加賀」はとっくにブランドになっています。だから、アンテナショップのブランド化でも最初に成功するのではないかと期待しているんですよ。

もうひとつは、EC(電子商取引)の分野で大きな変化があるはずです。EC拡大は日本全体で考えるべきテーマですが、ターゲットを国内マーケットではなく、シンガポールなどのアジア諸国に向けて考えた方がいいと思っています。アジア圏のEC市場はコロナ前と比べても拡大していますし、日本産品は求められています。日本の人口はどんどん減少していますし、インバウンド人気の高い金沢という街の魅力も追い風になるでしょうから、もっと真剣に考えた方がよいでしょうね。

江指:私も中込さんがおっしゃるようにECがカギだと思っています。一方で、担当としてお店に来てもらうことも大事ですので、リアルとオンラインをうまく掛け合わせて、お店を知ってもらい、最終的には石川県にぜひ来てもらうような仕組みづくりを考えていきたいです。

川田:そうですね。県産品の魅力をECで知っていただき、そこから街や自然に興味を持ってもらって、訪れてもらい、お金を落としていただく。そして気に入った商品をまた買ってもらう。そういったサイクルができれば喜ばしいですね。そのためにはやっぱりグローバルに情報を届けないといけませんね。情報がないと気づいてもらえませんからね。

越坂:ライブコマースの英語版をやりましょうか。

川田:中国向けも面白いのではないですか。中国のライブコマースは市場規模も巨大ですからね。石川のアンテナショップブランドをひっさげての進出も、もしかしたら戦略の一つかもしれません。その時はぜひ、「メイド・イン・イシカワ」ということで進出したいですね。

江指:「メイド・イン・イシカワ」でこれからもよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

【シリーズ  地域創生ビジネスを「ひらこう。」】
(1) 地域創生を担う人材をどう育てているのか―ふるさとプロデューサー育成支援事業
(2) なぜ、いまjekiは地域創生に力を入れるのか
(3) 地域をつなぐ懸け橋として「TRAIN SUITE 四季島」のブランディングの裏側
(4)住民参加による「郷土愛・魅力創造」のまちづくり 北海道・芽室町の挑戦
(5)インキュベーション施設「わくばにかほ」がひらく、新たな起業の形 ~秋田県にかほ市
(6)「酒蔵ツーリズム」で広がる地域の魅力
(7)札幌駅前にできた×Station01から地域創生は生まれる
(8)食文化を通じて街を元気にする漁師町のプロジェクト ~福井県高浜町
(9)「お金の支援だけじゃない」地元銀行だからできる群馬経済の活性化
(10)「複業」で8割東京、2割地域を目指す 長野県佐久市YOBOZE!プロジェクト
(11)アンテナショップが担う知られざる役割。いしかわ百万石物語 江戸本店
(12)震災から10年、支援への感謝を込めて「東北」からのメッセージ~東北ハウス
(13)我が街の美味しさをもっと知ってほしい。ルミネエスト新宿の「Sweetいちごフェア」@茨城県筑西市
(14)コロナ禍でも地域創生はできる!岩手・青森のGo To Eat事業
(15)環境省「令和3年度地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業」
(16)「インバウンド解禁」も素直に喜べない日本の課題

江指 有紀
jeki北陸支社 営業部 ソーシャルビジネスデザイナー
2016年入社。主に石川県および県内市町の首都圏・海外への観光誘客プロモーションに従事。2019年に石川県アンテナショップ「いしかわ百万石物語・江戸本店」のリニューアルオープン業務、2020年からは同ショップの運営サポート業務に従事。

川田 諒
石川県 商工労働部 経営支援課 主事
石川県庁入庁後、農林水産部で首都圏における能登牛のブランド化業務に従事した後、商工労働部にてアンテナショップ業務を担当し、首都圏における石川県の魅力発信や産業振興等に取り組む。

越坂 裕太
石川県 商工労働部 経営支援課 主事
石川県庁入庁後、県民文化スポーツ部で石川県における東京オリンピック・パラリンピックの事前合宿誘致に携わった後、商工労働部にて川田主事とともにアンテナショップ事業を通じた石川県の魅力発信や産業振興等に従事する。

中込 進
1986年に大手都市銀行入行して証券ビジネスに従事。2010年以降、経営企画部、ニューヨーク現地法人社長、事業法人部長、執行役員京都支店長等を歴任するとともに、(株)カフェ・カンパニー副社長に就任。2014年には高速道サービスエリア4か所プロデュース&運営等に携わり、同年、ATソリューションズ会長就任。その後、経産省「地域のじまんづくりプロジェクト」統括プロデューサー、農水省「農林漁業成長産業化支援機構プランナー」、総務省「地域再生マネジャー」、復興省「NEW東北ビジネスプロジェクト」審査委員、都内アンテナショッププロデュース、富山県、三重県、山口県萩市、新潟上越市アドバイザー等に従事し、現在に至る。

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