シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㊴
DXが広げるインバウンド観光の向こう側

地域創生NOW VOL.49

写真左より
Vpon JAPAN株式会社 代表取締役社長 篠原 好孝 氏
株式会社イントゥ 代表取締役/観光ブランドプロデューサー 小松﨑 友子 氏
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスソリューション局 第二部長 福島 正敏

コロナ禍で消失していた外国人観光客が急速に戻ってきている。日本政府観光局の統計によれば、2023年上半期ですでに1000万人を超えている。では、なぜ彼らは再び日本を訪れようと思うようになったのだろうか。また、こうした日本を訪問したい、日本の文化に触れたいといった熱を一過性のものにしないために、インバウンド観光を産業として成熟していくためにはどうすればよいのだろうか。ジェイアール東日本企画(jeki)でソーシャルビジネスソリューション局の福島正敏が、DXを通じてインバウンド観光を含めたクールジャパン戦略を推し進めるVpon JAPAN社長の篠原好孝氏とインバウンドにおけるマーケティングとブランディングを手掛けるイントゥ社長の小松﨑友子氏を迎えて、クールジャパンの価値と、新たな産業に必要な戦略について語った。

DXは手段でしかない

福島:街を見渡せば大きなスーツケースを引いた外国人の方をよく見かけますし、統計からもインバウンドの回復が見てとれます。再びインバウンドが順調に数字を伸ばしている要因についてどう思われますか。

篠原:旅を自粛していたことによる反動や円安などいろいろと挙げられますが、日本のファンの方たちが戻ってきてくださっているところは見逃せないです。もちろんその裏で、コロナ禍でもアフターコロナを見据えて日本のファンを海外で増やしていく活動を続けていた結果とも言えます。我々もクールジャパン機構と一緒にデジタルを活用しながら、アニメやポップカルチャーなどで日本に興味を持ってもらい、インバウンドにつなげていくといった段階を踏んだ活動を行っており、少しは貢献できたのではないかと思っています。

小松﨑:インバウンドのビジネスに関わる私から見ても、段階を踏んで日本を知ってもらう戦略が実を結んだと感じています。というのも、篠原さんもおっしゃいましたが、2022年10月のインバウンド解禁で、最初に戻ってこられた方の中心が、台湾や香港、そして韓国に住む日本が大好きなリピーターの方々でした。彼ら、彼女らは、もともとはアニメやドラマを通じて日本に興味を持ち、日本を訪れたことで気候や文化を気に入り、繰り返し訪日するようになるなど、段階を踏んでファン化していった方たちです。さらにいえば、日本が好きになって住まわれている方も多く、その方々の友人や家族が日本を訪れるVFR(Visiting friends and relatives)につながるなど、良いサイクルをつくっているからです。

福島:アニメやゲームなど、クールジャパンのコンテンツの強さを改めて感じます。

篠原:そうですね。ただ、アニメやエンタメはもちろんですが、伝統文化や日本酒を含めた和食、デザインまで、クールジャパンは幅広いものです。さらにアニメといっても、作品の舞台をめぐる聖地巡礼がインバウンドの方にとっても大きなムーブメントになっているなど、広がりを生んでいます。一方で、課題もあります。デジタルデータの利活用ができていないため、まだ市場の持つポテンシャルを最大限に生かし切れていません。インバウンド観光につながる、例えば農水産物の輸出などと連携していくような官民を含めた人の連携が形成されていないことです。

福島:その問題を解決するために、昨年秋には篠原さんが中心になって「クールジャパンデータ&デジマケまつり2022」を催され、人の交流やデータ活用の事例など、アワードの創設をされていましたね。

篠原:そうなんです。同じ方向を向く人たちが業界を超え催すことができました。また、アワードを創設したことで、地域の良い事例を共有する場にもなったと思っています。実際、昨年のグランプリとなった新潟の事例は、新潟に来ていた方のデータ分析を行い、今後の誘客の戦略を立てていくといったシンプルなものでしたが、好事例であったため日本政府観光局のモデル事例となるなど手応えがありました。

写真:「クールジャパンデータ&デジマケまつり2022」表彰式

福島:DXやデジタル化というと、難しいイメージが先行するためか二の足を踏む方も多く、その結果、デジタル化を行うことで満足してしまう場合も多いですよね。

小松﨑:手段の目的化が起こってしまっているんですよね。実際、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を導入したものの活用できていないケースが多いです。目的は、どれだけ良いお客さんに来ていただけるか、地域でいかにお金を使っていただくかで、デジタル化はサポートツールという手段でしかないんですけどね。

篠原:誰がいつ来たか、何を買ったかなどのデータを分析することで、地元がたてた仮説を精度とスピードの両面でサポートできるわけですからね。だから、小松﨑さんや我々のような存在がうまく寄り添ってデジタルの浸透を図っていかなきゃいけないわけです。

小松﨑:そうですね。私たちの会社でもプロモーションをしたい、誘客したいといった相談を多くいただいています。ところが、どんな価格帯の商品がどの国の、どの年齢層の方に売れているのかヒアリングしても、把握されていない方が多いです。商品やサービスをさらに磨くためにも、まずは調査、リサーチの提案を行いデータ活用から寄り添って進めています。

飛躍のチャンスはアクティビティ?

福島:一方で、自分の地域には何もないと思い込んでいる場合もありますね。

篠原:自分が海外に出たときのことを考えてもらうとわかりやすいのですが、海外の方にとっては日本の日常は非日常で、田んぼが一面に広がる日本の原風景をわざわざ見にくるわけです。だから、自分の思い込みをまずは捨てるべきです。その上で、来てもらえるのなら日帰りではなく宿泊してもらい、地元のものを食べてもらって、しっかりとお金を使ってもらえる仕組みをつくることが大事なのです。

小松﨑:思い込みというのは意外に多いですね。例えば、我々は富裕層、特に中華圏のマーケティングに力を入れているのですが、よくあるのが、富裕層は高価なものを求めているという誤解です。実際は金額ではなく、新たな体験、得難い経験をしたいと思っています。例えば、田んぼが広がる風景は海外の富裕層の方にも新鮮に映ります。でも、さらに加えて人との出会いや自分で割った薪で沸かしたお風呂に入るなど、高い付加価値を求めています。ラグジュアリーなものを求めるのであれば、アジアなら日本ではなく香港にいきます。つまり、勝負するのはどこかということ。インバウンドは世界と勝負しているのですから、日本が戦う領域はどこなのか。グローバルな視点で考えることが大事だと思います。

篠原:小松﨑さんの言うとおりで、まずは日本を選んでもらう勝負を勝ち抜き、さらに国内の数ある旅先、数あるアクティビティのなかから選んでもらうためにマーケティングを磨かねばなりません。その助けになるのがデジタル化、DXです。いまや、AIの力を借りれば、傾向から対象者の旅先や求めている体験までがわかります。でも、そこにどんな付加価値をつけるのかは人間の仕事です。例えば、あの酒蔵で日本酒を飲んでみたい、そう思わせるようなストーリーが必要なのです。高付加価値の商品は必ずストーリーがあり、それがプライシングにつながり、リピーターにもつながります。

小松﨑:観光庁の訪日外国人消費動向調査を見ても、23年上半期のひとり当たりの旅行支出額は20万円を超え、コロナ前の同時期と比較して5万円ほど多くなっています。費目別の消費額でも宿泊費や飲食費が伸びる一方で、アクティビティがあまり伸びていませんが、まだ整備されていないだけで、今後はこのアクティビティが差を生むと私は考えています。

篠原:アクティビティこそ企画力とプロモーション力。最近、お寿司を握る体験が人気で、事業者のなかには英語がしゃべれない方もいますが、高いコミュニケーションスキルで予約が取れないほど。デジタルプロモーションも巧みで、チャンスを広げています。

福島:また「クールジャパンDXサミット2023」を行うそうですが、こうした事例を知る機会になりますよね。

篠原:はい。この10月に大阪で開催されます。ご存じのように大阪・関西万博の開催も迫っていますから、世界から注目される地域です。

福島:小松﨑さんはアワードの審査員もされるとお聞きしていますが、どんな期待をお持ちですか。

小松﨑:オーバーツーリズムやガイド不足など、こうした観光課題にどう対応したのか。また、いまは円安で日本も潤っていますが、いつまで続くかはわかりません。その時のために本当の意味で量から質へうまく変化できた成功事例があると嬉しいですし、こうした好事例を皆で共有したいと思っています。

福島:最後に、篠原さんが描く未来像はどのようなものですか。

篠原:かつては内需も旺盛だった日本ですが、人口が減少し高齢化が進んでいるため、海外市場を開拓するしかありません。インバウンド消費というのも将来的に考えれば、日本の農産物やプロダクトを海外で消費してもらうための第一歩です。個人的にはインバウンド、アウトバウンドを含めて50兆円ほどの市場があると思っています。こうした未来を実現していくようなムーブメントをつくっていきたいと思っています。

福島:壮大なプロジェクトですね。本日はありがとうございました。


~クールジャパンDXサミット2023~
開催日時:2023年10月4日(水) 〜2023年10月5日(木)
開催場所:4日(水) オンライン
     5日(木) クールジャパンパーク大阪
主  催:クールジャパンDXサミット実行委員会
事 務 局:Vpon JAPAN株式会社
https://www.cooljapan-dxsummit.com/

福島 正敏
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスソリューション局 第二部長
1991年、東日本旅客鉄道株式会社入社。
駅や列車運行業務、鉄道営業宣伝業務等を担当した後、日本政府観光局(JNTO)では海外事務所勤務や海外プロモーション業務(東北観光復興事業、デジタルマーケティング事業、オリンピック・パラリンピック関連事業)等を担当。日本観光振興協会においては双方向交流事業や観光立国推進協議会の運営等、観光インバウンド業務に従事。
2018年より現職。国内外を問わず、JR東日本、官公庁のプロモーション企画やイベント運営に携わる。

篠原 好孝 氏
Vpon JAPAN株式会社 代表取締役社長
2014年Vpon JAPAN設立。日本政府観光局(JNTO)、大阪観光局、ジェイアール東日本企画など、多くの自治体や企業と戦略的パートナーシップを構築。「ニッポンのヒト・モノ・コトで世界を笑顔に」をビジョンに、クールジャパン戦略をデータ&デジタルの力で推進。2020年9月クールジャパン機構より22億円を調達、クールジャパンDXを推進し、2022年よりクールジャパンDXサミットを企画、オーガナイザーとして活動中。

小松﨑 友子 氏
株式会社イントゥ 代表取締役/観光ブランドプロデューサー
「旅」のマーケティングの専門家。アッパーミドル層の訪日リピーターを主軸においた戦略を得意とし、インバウンド獲得による日本の地方活性および民間企業の収益拡大に従事。観光庁広域周遊観光促進事業専門家。早稲田大学インバウンド・ビジネス戦略研究会メンバー。「ジャパン・ツーリズム・アワード」メディア部門賞受賞。
共著書に『インバウンド・ビジネス戦略』『インバウンド・ルネッサンス 日本再生』

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日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
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