JR埼京線 居住者視点で沿線の魅力を探ってみよう

わたしの沿線プレイリスト VOL.1

ジェイアール東日本企画 駅消費研究センターでは近年、駅ビル・エキナカから「沿線」へフィールドを広げ、研究を行っています。単駅ごとでは分からなかった沿線全体を通しての魅力を明らかにすべく、今後ひとつずつ沿線を取り上げ、研究員やjekiの社員たちの独断と偏見を交えながら本連載をお届けします。

沿線利用者の解像度を高める
本連載の初回となる今回は、沿線に居住している(あるいは居住経験がある)研究員のエピソードを聴取し、現地調査を実施したうえで、それらを基に沿線の楽しみ方「沿線プレイリスト」をまとめる試みを行いました。これにより、定量データのみでは見えてこない沿線における行動とその心理について、より高い解像度で明らかにすることを目的としています。

沿線を捉えるための「6つの志向性」
当センターでは、2022~2023年度にかけて「利用者視点での鉄道沿線像に関する基礎的調査」を実施。利用者視点の6つの志向性について発表しました。本連載は、これをひとつの評価軸として沿線を深堀りしていきます。特に着目したいのが、居住者の沿線における経験やエピソードです。他者から得た知識よりも、自らの経験を重視して沿線の生活を捉えるなかに、沿線活性化へのヒントが得られると考えています。

第1回となる今回は、当センターのメンバーともなじみの深い「JR埼京線」を取り上げ、同じ沿線でも異なるエピソードを比較することで、“生活情緒”の中身を探っていくことにします。

【JR埼京線】
1985 年開業、大宮(埼玉)~大崎(東京)を、荒川を渡ってつなぐ路線。東京エリアでは、板橋・十条など昔ながらの下町風情が残る街を通過する。東北新幹線と同時に開発が行われたために、埼玉県エリアの埼京線は高架化しており、主要ターミナル駅以外でも、埼玉県エリアの駅商業施設はビーンズ、エキュートなど幅広く充実している。

【乗り換え】
武蔵野線(武蔵浦和)、京浜東北線(赤羽)、
湘南新宿ライン(赤羽以南)、山手線(池袋以南)ほか

都営三田線(新板橋駅)、東京メトロ南北線(赤羽岩淵駅)は別駅だが事実上乗り換えも可能

対象者はこちらの2名。

町野 公彦
駅消費研究センター センター長
1960年代生まれ、男性。板橋区生まれ。1995年から2019年頃まで北赤羽に在住(在住中に一度引っ越し経験アリ)。
長年、マーケティングや戦略プランニングに従事。趣味は映画観賞、読書など。コーヒーが好き。

和田 桃乃
1990年代生まれ、女性。2022年より埼京線ユーザー。実家の帰省には大宮経由で新幹線を使っている。
気になるニュースがあれば積極的に現地に赴いたり、調べたりするタイプ。街で面白い看板や景色を見かけると写真を撮ってほそぼそと記録中。

それぞれの「沿線像」を比較

まず初めに、両者の現在の「沿線像」を書き出してみました。

町野は、1995年から2019年頃まで北赤羽に在住し、JR埼京線を20年以上利用しました。板橋区生まれで、地下鉄(都営三田線)を日常的に利用していたため、地上を走る電車にあまりなじみがなかったとのこと。北赤羽在住時代は、JR埼京線は会社通勤で二十数年間利用しましたが、沿線のイメージが時間を経て変わっていった、ということはないと語りました。スポーツジムを利用しており、定休日や混雑具合を見て複数店舗から選んで利用する、といった沿線上での移動が見られました。戸田以北は大宮以外あまり降りたことがなく、イメージが乏しいようです。
沿線のなかでは、赤羽の印象が特に強いようで、下記のエピソードを語ってくれました。

町野:赤羽には下町の風情が残り、自身の体験からも国籍、年齢など…多種多様な人がいる印象があります。近年は飲み屋街のエリアで再開発計画が持ち上がっていますし、2029年には駅前に大きな複合商業ビルが開業する、といったニュースもあります。下町に集う人々や雰囲気がどのように残っていくのか、興味深く思っています。

一方、和田はさいたま市寄りのエリアがプライベート生活圏となっています。JR埼京線のイメージはTVやSNSなどのメディアから最初に形成されたのち、SNSで気になるインフルエンサーなどをフォローするなどして、積極的に情報収集を始めました。
気持ちのON/OFFの切り替えとして、「荒川の壁」を強く感じており、戸田市や東京エリアはメディアで見た情報や、車窓から見える景色が中心となってイメージを構成しています。車窓から見える富士山や新幹線の景色も印象が強いようです。

和田の特徴的な行動は、図書館利用についてです。

和田:気分によってさまざまな図書館を使い分けています。さいたま市は市町村合併の歴史から、市立図書館が複数個所にあります。好きな図書館で本を借りられ、どこで返却しても良いというルールがあるので、沿線上で楽しく利用しています。

いざ、現地調査へ

お互いの沿線像を把握したうえで、5月のある晴れた日、実際にJR埼京線沿線の現地調査へ乗り出しました。今回は各々の印象的なエピソードである「赤羽」と「さいたま市図書館」を中心に、いくつかの駅に降り立ち約半日をかけて沿線を探訪しました。

赤羽ではまず東口側の商店街を複数歩きました。町野が住んでいた頃、スーパーマーケットは夜になると値引きが始まり、年齢や人種もさまざまな人がスーパーに押し寄せる景色が印象的だったとか。今はこのスーパーはなくなってしまったものの、商店街全体は平日日中にもかかわらず、かなりにぎわっていました。お昼から角打ちの姿も多く、まさに「せんべろの街」といったところです。有名なお店から自分好みのお店まで、赤羽の街で多種多様な食を楽しむことが町野の楽しみ方だとか。

町野:赤羽と言えば、お酒のイメージが強く、私自身がそんなにお酒を飲む方ではないため、赤羽に来た当初は、午前中から飲んでいる街の光景に戸惑う部分もありました。しかしながら、以前TVのドキュメンタリーで、赤羽は工場勤務などの夜勤の方が多く、その方々が仕事終わりに(帰宅後に寝るために)飲みに来ていることを知り、赤羽の印象が変わりました。街の営みを知ったうえで改めてこの景色を見ると、まさに人々が生きている場所であると納得します。

高架をくぐり、赤羽の西口側には有名なフルーツサンド屋さんがあります(調査当日は残念ながら定休日)。東口側の商店街のにぎわいとは裏腹に、こちらは落ち着いた雰囲気。駅から少し距離があるものの、連日多くのお客さんでにぎわっているそう。

和田:赤羽に商店街が多いこと、駅の東西でこんなにも雰囲気が違うこと、今回初めて知りました。駅を出てすぐのビーンズ テラスも商店街のような建物の構造で、街の特徴に合わせている印象を受けます。「せんべろ」の風景については私も縁遠い印象があったのですが、こだわりの専門店なども多く、興味を惹かれますね。

続いて調査はさいたま市エリアへ移動し、武蔵浦和からスタート。2階が改札口で、駅を出るとペデストリアンデッキで近くのビルやマンションにアクセスできる、特徴的な風景が広がっていました。駅すぐの武蔵浦和図書館は駅前すぐのビル内に位置しアクセス抜群のため、和田もたびたび利用しています。館内に入ると2~3階が吹き抜けになっており、館内が一望できます。

町野:平日の日中ですが、閲覧デスクを多くの方が利用しているのに驚きました。読書専用の席、PC利用が可能な席、学生専用などさまざまな用途で席が区分けされていますね。社会人の方はテレワークなど仕事での滞在なのか、気になります。

その後は南与野に移動し、与野南図書館へ。こちらは閉館間際ということもあり、武蔵浦和図書館よりは利用者が少なく落ち着いた雰囲気が広がっていました。

和田:私は与野南図書館を特に気に入っています。さいたま市図書館のなかでは比較的小規模な図書館ですが、小中学校に隣接していることもあり、お子さんの利用が多く、児童館のようなアットホームな雰囲気があるんです。静かにしなければいけない、という緊張感が少し和らぎ、本そのものだけでなく、雰囲気込みで図書館での時間を満喫できます。

わたしの「沿線プレイリスト」作成

現地調査を終え、改めてJR埼京線の「沿線プレイリスト」をそれぞれに作成してみることに。
沿線プレイリストとは、その人の沿線の楽しみ方・使いこなし方を可視化したものです。音楽のプレイリストのように、単駅ごとではなく沿線上で複数のスポットが選定されてひとまとまりになり、その人の感性が詰まったオリジナル性の高いものになっているため、これまで見えてこなかった沿線全体の魅力を掘り起こす、他者のプレイリストから新しい沿線全体の楽しみ方に気づく、などの効果が期待されます。今回は2人も沿線内のエリアごとに過ごし方の特徴が異なることがわかり、「チャプター」としてタイトルをつけてみました。

町野:JR埼京線は引き続き東京寄りのエリアがメインの利用ですが、ここも「ライフ&ワークハイブリッド圏」「ホームモード圏」と細分化できることに今回気づきました。前者は仕事とプライベートの境界が良い意味で曖昧で、こだわりの書店やカフェ、映画館などから仕事へのヒントにもなるようなさまざまな刺激を得られていると再認識しました。埼玉寄りのエリアについては、今回大宮だけでなく降りたことがなかった駅にも降り立つことができ、同じ沿線のなかでも多様な雰囲気があるのだと気づかされました。

和田:埼京線では都心エリア(池袋以南)に出ずともさまざまな魅力にアクセスできると発見したことが、今回の大きな収穫です。特に赤羽から東京西部へのバスネットワークの充実度、商店街の個性にも驚き、これからの沿線での過ごし方がぐっと広がりました。ルーティンの図書館訪問も今後他の駅まで拡大していくと、埼京線沿線全体に「HOME」が拡大していきそうです。

まとめ

居住者視点のエピソード・経験に眼差しを向けると、ひとつの沿線でも多種多様な沿線プレイリストが出来上がりました。これらは世間一般に言われる単駅ごとのイメージよりもさらに深い、沿線全体のより多面的な魅力にあふれたものです。今後も様々な沿線を取り上げながら、これまでの物差しにとらわれない新しい沿線活性化へのヒントを探っていきたいと思います。

イラスト:大崎メグミ

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。