“年貢”を納めて村民に。新たな発想で地域を支える〈シェアビレッジ〉の仕組みとは?(恵比寿発、×コロカル共同取材)

地域創生NOW VOL.5

今回は、「恵比寿発、」と、マガジンハウスが発行する日本の“地域”をテーマとしたWebマガジン「コロカル」が、ローカルで活躍するソーシャルビジネスのキープレイヤーに共同取材を行いました。

失われていく古民家を維持する仕組みづくりを

集落の過疎化が進み、次第に失われつつある日本の原風景。そこで各地域でさまざまな地方創生への取り組みがなされているが、とりわけ近年話題を集めているのが、秋田県の辺境、五城目(ごじょうめ)から始まった〈シェアビレッジ〉プロジェクトだ。

消滅の危機に瀕する古民家を再生し、地域に新しい“村民”を呼び込もうというこのプロジェクトは、「村があるから村民がいるのではなく、村民がいるから村ができる」という考えに基づき、集った人々でひとつの家を支える仕組みを創出したもの。従来の“村”の概念を覆す取り組みの全容を追った。

シェアビレッジ・プロジェクトの中核を担う、村長・武田昌大さん(右)と御意見番・丑田俊輔さん。ふたりは五城目(ごじょうめ)のまちで偶然の出会いを得て、プロジェクトを実現させる。

「高校卒業と同時に故郷の秋田を出て、大学を卒業した後は東京のゲーム会社で働いていました。もともとゲームが大好きでしたし、何より都会での暮らしに強い憧れを持っていたので、ようやく念願を叶えた思いでいました。
ところが、ある年に帰省した際、見慣れた地元の商店が軒並みシャッターを下ろしている様子を見て愕然としたんです。子どもの頃から当たり前のように存在していた風景が失われていくのを、ただ傍観していていいのだろうかと、居ても立っても居られない気持ちになりました」

そう語るのは、シェアビレッジ・プロジェクトで「村長」を務める、〈kedama inc.〉代表取締役の武田昌大さんだ。

あれほど“早く出ていきたい”と思っていた秋田のまちを、“どうにかして救いたい”と願って止まなくなった武田さんは、会社を退職し、秋田へ帰る決意をする。今、自分が本当にやるべきことはゲームづくりではない。故郷のために何かやれることがあるはずだと、ひたすらアイデアを絞る日々が始まる。

そこで最初に始めたのが、農家とお客さんを直接つなぎ、単一農家100%の米をオンラインで販売する〈トラ男〉というサービスだった。

秋田県鷹巣町(現・北秋田市)出身の〈kedama inc.〉代表取締役・武田昌大さん。2010年、秋田の米をネット販売するサービス〈トラ男〉をスタートさせた。現在はシェアビレッジ・プロジェクトの「村長」も兼任。

農家にとって、自分が丹精込めて育てた米がほかの米と混ぜて売られる現在の流通網には、大きな不満がある。いくら努力を重ねて旨い米を育てても、これではモチベーションは維持できない。ただでさえ後継者不足の課題を抱える日本の農業は、ますます衰退の一途をたどることになる。そこで武田さんは、単一農家の米を直接売るサービスを思い立ったのだった。

果たして、トラ男のコンセプトは農家からも消費者からも絶大な支持を得て、事業は順調に成長していった。

「しかし、トラ男のイベントで秋田の田舎にお客さんを大勢呼んだ際、泊まる場所がないことに気がつきました。これでは何を企画しても、継続的に人が訪れる場所にはなれません。そこで宿泊施設として使える物件がないかと周囲に聞いてまわったところ、すでに取り壊しが決まっている当時築133年だったこの古民家に出合ったんです」

ぼろぼろの古民家を前に……

「家」を「村」に見立てるという発想

屋根は茅葺き。玄関をくぐると広い土間があり、その奥には竈も囲炉裏もある。間取りはなんと8LDK。日本の古き良き家屋が、今まさに取り壊されようとしている現実に、武田さんは大きなショックを受けた。

「家屋というのは住む人がいないとどんどん荒れ果ててしまいます。この古民家も、僕らが見つけた時点では屋根が壊れ、ブルーシートで補修されているような状態でした。茅葺き屋根を完全に修繕しようと思えば1000万円単位のコストが必要になりますが、所有者からすればそんなお金をかける余裕もなければ必要もありません。同様の古民家が日本全国にたくさんあるはずで、知らない間にどんどん失われているでしょう。そこで、こうした古民家を維持する仕組みがつくれないかと考えるようになりました」

そんなタイミングで武田さんは、現在のビジネスパートナーでありシェアビレッジの「御意見番」を務める、丑田俊輔さんと出会うことになる。

秋田県・五城目町にある築138年の古民家「町村(まちむら)」。500年以上も続く五城目朝市へのアクセスも良好だ。

「武田君との出会いは、僕がちょうど東京から五城目に引っ越してきたばかりの頃でした。ある日、田んぼで田植えをしていたら、見慣れない怪しい男がやってきて(笑)。一緒に田植えをしながら話をするうちに、気づいたら自然と親交が深まっていた感じです。これが2014年の春でした」(丑田さん)

東京でコンサル会社に勤めた後、世界各国で学習環境デザインを構築しようと〈ハバタク〉を設立した丑田さん。この年、五城目町に新たな拠点を設けて、日本のローカルから学び方、働き方のモデルを発信していこうと動き始めた矢先だった。

ハバタクの代表取締役丑田俊輔さん。学生時代から千代田区の公共施設のリノベーション事業に携わり、大学卒業後は〈IBMビジネスコンサルティングサービス〉(現・日本IBM)を経て、2010年に独立。

トラ男の武田さんと、ハバタクの丑田さん。若きふたりの実業家が秋田の辺境で邂逅したことで、シェアビレッジの構想は一気に加速していくことになる。

「目先の問題は、この古民家をどう維持するか。ふたりであれこれ議論したところ、所有者がひとりで家屋を維持するのが難しいのであれば、複数の人間が維持費を出し合う、いわばコミュニティで家を支える発想を持つべきだという考えに至りました。ただし、単なる宿ではなく、この家に地域の人も外の人も集まってくる、村のような場所にできないかと考えたんです」(武田さん)

日本の原風景を100年後に残したい。そんな目的意識からスタートしたシェアビレッジの取り組みは、今では全国的に注目されている。右はプロジェクトの詳細に耳を傾ける、ジェイアール東日本企画の與田雅晴。

家が「村」なら、そこに来るのは「村民」だ。ならば会費は「年貢」であり、年に1度は「一揆」と題したお祭りを催そう……。知恵と知恵の相乗効果で、シェアビレッジの世界観は一気に具体化していく。

「そこで古民家の所有者の方に、iPadを片手にプレゼンに行ったのですが、いくらウェブを使ってどうしたいと説明したところで、やっぱり横文字は伝わりません。
それでも自分たちの本気度を理解してもらうために、しばらくは一緒にコーヒーを飲んだり、この古民家の庭を眺めたり、半年は関係づくりに徹しました」(丑田さん)

「町村」内はキレイに手入れされ、築年数を感じさせない。これも村民ひとりひとりの心がけと、家守(やもり)と呼ばれる管理人の努力の賜物だ。

クリエイティブに成らざるを得ない武田さんの環境とは

シェアビレッジのビジネススキーム

かくして、秋田・五城目町からシェアビレッジがスタートしたのは2015年のこと。翌2016年には早くも、香川県三豊市の仁尾地区にふたつめの村がオープンした(※現在は改修中)。村民は1年に1度、年貢(3000円〜)を納めれば好きなときに村に泊まることができる仕組みだ。

それにしても、実行力も去ることながら、こうしたアイデアの源泉はどこから生まれてきたのか?jeki ソーシャルビジネス開発局で、地域の課題解決に取り組んでいるソーシャルビジネスデザイナーの與田雅晴は、率直な疑問を武田さんに投げかけた。

シェアビレッジをつくりだした武田さんの思考回路に興味津々の與田。

「僕が何もない秋田のド田舎で育ったことが、大きく影響しているような気がします。本当に遊び場も情報も刺激も、まったく何もない環境で幼少期を過ごしたので、楽しいことは自分でつくり出すしかなかったんです。否が応でもクリエイティブにならざるを得ない状況でしたから(笑)」(武田さん)

「なるほど。建物も然り、システム面も然り、おもしろいものをつくりだそうという武田さんの意識が表れているからこそ、多くの人がこのプロジェクトに巻き込まれていくんでしょうね」(與田)

おもしろいものを生み出したい。トラ男もシェアビレッジも、すべての発想はそうした純粋な思いから始まっている。

「真面目に発信しても、人はあまり巻き込まれてくれないじゃないですか。おもしろかったり格好良かったり、何かフックになるものがなければ興味を持ってもらえません。これからのローカルに必要なのは、まさにそういう要素なのではないでしょうか」(武田さん)

ここで気になるのが、彼らのビジネススキームだ。2棟の家屋を維持し、今後も全国に増やしていく計画を持つシェアビレッジ構想だが、赤字を垂れ流し続けるようでは存続できない。

「その点、僕らの場合は民宿のように宿泊費だけで運営を成り立たせるのではなく、村民からの年貢や都市部で行われる『寄合』という飲み会、年に一度のお祭り『一揆』からの収益もあります。東京都内には村民が集まるおむすびスタンド〈ANDON〉もオープンさせました。当初から秋田以外の地域を含めた多店舗展開を想定していましたし、経営的には十分イケる手応えを感じていました」(丑田さん)

「町村」には現在、年間およそ1000組が宿泊しているという。高い稼働率だが、武田さん・丑田さんは「まだまだ、もっと集客できるはず」と口をそろえる。

なお、初期投資はクラウドファンディングで資金を募った。目標設定は100万円、必要な予算は300万円だったが、蓋を開けてみれば862人から617万円が集まったというから、反響と期待値の大きさがうかがえる。

求めるものは地域のストーリー

全国の古民家から多くの逆オファーが

「スタートから4年、収益はすべて家屋の補修にあてていますが、黒字といえば黒字です。何より、こうして使い続けていれば家は長持ちしますから。茅葺き屋根にしても、定期的に竈に火がくべられていれば、燻されてメンテナンスされるんですよ」(丑田さん)

シェアビレッジはこれから全国に増やしていく方針で、すでに具体的な引き合いが複数舞い込んでいるという。しかし、何でもかんでも受け入れればいいというものでもない。

「重視しているのは、その地域ならではの文化や暮らしが残っているかどうか。『町村』でいえば茅葺き屋根や囲炉裏ですね。その土地ならではのストーリーが肌身で感じられるのが理想で、それこそが僕らが求める原風景なんです」(武田さん)

さらに、「各地域が自走できる仕組みを強化するために必要なことは?」と與田。

「いろいろありますが、今感じているのは家守の問題ですね。村が増えればそれだけ家守が必要で、そこに常駐し、古民家をメンテナンスしたり、村民とコミュニケーションできる人材を確保しなければなりません。今後は家守が家守を育てるような仕組みづくりも必要かもしれませんね」(武田さん)

次第に失われつつある、囲炉裏のある古民家。「町村」にはこのほか、かつての馬小屋を改装したキッチンスペースなど、往時の暮らしを偲ばせる要素が多数ある。

なお、五城目町の「町村」にしても、三豊市の「仁尾」にしても、実は秋田や香川といった地域名を全面に打ち出すことはしていない。これもそれぞれの村を自走させる工夫のひとつだという。

「地方創生というとこれまで、いかにその地域の名前を売るかが大切と思われてきた節がありますが、僕らの考えは真逆。たとえばこの『町村』を、“秋田の古民家を救おう”という題目で売り出してしまうと、秋田に地縁のない人にとっては、ほぼ無関係の企画だと思われてしまいますからね」

シェアビレッジの最大のポイントは、地域の人々との関係づくりにある。地域と信頼関係を築き、いかに巻き込むかが大切だという。

現在、シェアビレッジの村民は約2300人。今後、村も村民もさらに増えていくだろう。

それでも本来の目的である、“コミュニティで地域を支える”ことに立ち返れば、何よりも大切なのは地域の人々との関係づくりであるという。

「僕がたまたま彼(武田さん)と出会い、波長が合うのを感じてこうして一緒にプロジェクトを進めることになったように、人と人の関係性がすべての土台。村民それぞれが地域との関係を紡いでいくことで、外と中の多様な人の関わりが無数に生まれていき、初めて村は自走できます」(丑田さん)

最近では全国の自治体からの視察も増えているというシェアビレッジ。それもコミュニティで地域を支えるこの取り組みが、消えゆく日本の原風景を100年後に残す有効な手法として、評価されているからこそだろう。今後の展開に要注目だ。



(記事) 友清 哲   (写真) ただ



[information]
日本の地域をテーマにしたwebマガジン「コロカル」
https://colocal.jp/

[information]
シェアビレッジ(町村)
秋田県南秋田郡五城目町馬場目字町村49
https://sharevillage.jp/

上記ライター與田 雅晴
(ソーシャルビジネスデザイナー)の記事

地域創生NOW

日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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  • 與田 雅晴
    與田 雅晴 ソーシャルビジネス開発局 ソーシャルビジネスデザイナー

    自身でソーシャルイノベーション領域の法人を設立し、様々な社会課題に取り組んだ後、2015年jeki入社。以来、行政事業における新分野の開拓、行政との協業・共創による地域課題の解決を行う。