シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㉟
女性がつくる日本酒のミライ

地域創生NOW VOL.45

jeki ソーシャルビジネスプロデュース局 池原 沙都実
一般社団法人日本のSAKEとWINEを愛する女性の会 代表理事 友田 晶子氏
jeki ソーシャルビジネスプロデュース局 部長 木村 ともえ
jeki スペースプロデュースセンター 営業企画部長 村山 香苗

日本には1000を超える酒蔵があり、いまもそれぞれの地域で愛されている。ところが近年、人口減少もあり日本酒の消費量も減少、さらにコロナ禍が業界に追い打ちをかけた。しかし、ようやくインバウンドも戻り、経済にも再び活気が戻りつつある今、地域を代表する特産品である日本酒は、地域活性化の起爆剤のひとつとして期待が高まっている。そこで、ジェイアール東日本企画(jeki)の村山香苗が、国税庁の事業である「酒蔵ツーリズム」や「Enjoy SAKE!プロジェクト」に携わった木村ともえ、池原沙都実とともに、一般社団法人日本のSAKEとWINEを愛する女性の会の友田晶子代表を迎えて、日本酒を通じた地域活性化とその主役となることを期待される女性の活躍について話を聞いた。

日本酒が抱える「どれを選べばいいの?」問題

村山:日本酒の国内需要が減っているとはよく聞く話ですが、コロナ禍でさらに大きな打撃を受けたのではないですか。

池原:飲食店がコロナ禍で大打撃を受けたのはニュースなどでご存じだと思いますが、第三次産業の活動状況を指数で表したデータを見ると、2023年に入ってから、実は居酒屋やパブといったお酒を提供する店は、コロナ前を凌ぐほどの盛況ぶりなのです。

出典:経済産業省「第3次産業活動指数(パブレストラン、居酒屋)業種別李調済指数の推移」

村山:それは驚きですね。コロナ禍で何か取り組みを行っていたのですか。

池原:コロナ禍で伸びたものといえば海外への輸出があります。それも量ではなく単価の上昇。急拡大というわけではないですが、海外で好調というニュースは関係者も見ていますから、昨年、携わった国税庁事業への参加者も期待していました。

木村:事業というのは、「Enjoy SAKE!プロジェクト」で、需要を奪い合うのではなく、イベントを通じて直接、消費者に訴えかけ、新たなファンを開拓していこうという取り組みです。全国から33の事業者が参加しましたが、コロナ禍でしんどいながらも、先を見据えて挑戦される事業者さんばかりでした。

友田:輸出が伸び、国内事業者も頑張っておられるのは心強いのですが、日本酒に関していえば国内消費の先行きはまだ不安です。ですから、長年の課題である「選ぶ指標がない」部分を解決したいと考えています。例えばラベルを見ても、日本語だけど読めなかったりしますし、味も見えてこない。純米大吟醸といっても味はさまざまですからね。つまり、指標がないのです。

村山:確かにワインであればソムリエなどの説明を聞けますし、ラベルからも情報がわかると言いますよね。日本酒との違いはどこにあるのですか。

友田:ワインであれば赤と白、そしてロゼがあり、ブドウの品種からもなんとなくですが味が想像つきます。地域差もあるので香味の幅が広い。一方、日本酒は香味の幅が狭いのです。だから日本酒は、ワイン以上に説明の必要な商品で、情報や推薦してくれる方が大切なわけです。

池原:そう考えると、職業として成立しているソムリエはすごいですね。日本酒もそうした資格が必要ということですか。

友田:そこは温泉旅館の仲居さんであるとか、必ずしも専門性は必要ないと思います。資格があればよりいいのでしょうが、資格がなくても自分のところで扱っている商品の概要や適温、相性のいい料理などが説明できれば十分です。

木村:私もとある温泉郷で日本酒を楽しんでもらうプロジェクトを担当した時に、旅館のサービス担当者に飲酒習慣や飲むお酒についてのアンケートを行いました。ところが、6割が日本酒以外、2割はアルコール自体を飲まない方で、日本酒派はわずか2割という結果で、日本酒をお客さんにおススメしてもらいたくても伝えることができなかったのです。そこで、ワインのように味の傾向を伝えてお客さんに選んでいただくように変えました。さらに、地域の酒蔵さんと一緒になって、郷土料理とのマッチングを研究し、おススメとして旅館のメニューに反映したところ、これも想定以上の効果がありました。友田さんの言う通り、おススメって効果的なんですよね。

友田:そうなんです。今ありましたように、お酒が苦手な方もいるのですが、「お酒があまり飲めないのですが、実は、ひとつだけ飲めるお酒があるんですよ、コレなんですが」などというセリフが効果的であるなど、言い方でオススメできるんですよ。

村山:地元の方のセールストークは強いですね。郷土料理や地元の滋味とのマッチングも、例えば「夏の岩ガキには何をあわせますか?」という質問には、通常だと「辛口の白だ、シャンパンだ」となりますが、すかさず、地酒銘柄で答えられるといいですね。

池原:成分的にも、日本酒との組み合わせでは魚介類の臭みが感じられにくいというデータがあり、白ワインよりも相性はいいようです。なにしろ、カキ専門の日本酒があるくらいですからね。

友田:「生ガキといえばシャブリ」というのは、世界中が知っている常識ですからね。こういうことを私たちがやらなきゃいけないことだと思っています。

日本酒の需要拡大のカギは女性!?

村山:ワインと比べて、日本酒と料理とのペアリングに難しさはありますか。

友田:香味の幅が狭いことが、日本酒と料理をピンポイントであわせる難しさです。ただ、これは厳密に味のプロ向けの話であって、日常では、季節感を楽しむ新酒と山菜や、鍋料理とお燗酒など、おいしくいただける工夫はいろいろとあります。

村山:せっかくなのでプロ向けのお酒と料理のおいしい組み合わせも聞かせていただけますか。

友田:4つの黄金ルールがありまして、ひとつは「ハーモニー」。同調や相乗効果といえるもので、スパイスが効いた仔羊のローストならスパイシーな赤ワインなど、同じような香りや味わい、後味、食感があるものを選びます。2つ目が「マリアージュ」。フランス語で結婚を意味しますが、これは相反するものを一緒に食べると第3の味が生まれるといった意味で使われます。フォアグラのテリーヌと貴腐ワインを合わせると、口の中になんとも言えぬ味わいが生まれる感じです。3つ目は「料理がおいしくなる」組み合わせ。淡麗辛口、水の如しといわれるお酒で口を洗い、料理を引き立てるお酒で、割烹や寿司屋さんの「うちのお酒は料理の邪魔をしないもの」がまさにこれです。そして最後が、「酒がうまくなる組み合わせ」です。味わいが凝縮した旨味や塩味のある、例えば珍味などと一緒に日本酒を飲むと、お酒がぐっとおいしく感じます。このうち、「ハーモニー」「マリアージュ」は、ワイン世界でのお話で、「料理がおいしくなる」「酒がうまくなる」が、日本人的な日本酒世界の楽しみ方といえます。もちろん日本酒でも前者の楽しみ方はできるのですが、個人的には最近、後者の方が楽しめるのではないかと感じています。

池原:確かに、日本酒には珍味が最高かもしれませんね。

友田:その他にペアリング体験などで私が用意するのは、まずフルーツやドライフルーツ。次に、おひたしのような淡い味のもの。そして、味の濃いチーズやお肉の味噌漬。最後にチョコレートなど、いずれも一口でつまめるもので、そこに味の違うお酒を合わせます。

村山:女性ならではのセレクトですね。改めて考えると、お酒の世界も友田さんのように女性の活躍が目立ってきました。

木村:友田さんたちの活躍もそうですが、女性に飲んでもらいたいというイベントが増えたということもあるのではないでしょうか。

池原:それに、女性が日本酒にはまっていく要因の一つに、アイドル的な人気を誇る杜氏さんが増えてきたのも大きいですよ。サインをくださいとか、一緒に写真を撮ってくださいなど人気ですからね。

木村:確かにすごいですよね。トレンドをけん引する女性の人気が高まれば、男性市場も引っ張られていきますからね。まずは女性に日本酒のおいしさと微発泡や濁りなど、バラエティ豊かなこの世界を知ってもらいたいですね。

村山:今後は、それをいかに伝えていくかでしょうね。それには、どういったことが必要だと思いますか。

池原:「酒蔵ツーリズム」の調査で判明したことの中に、年収とワインの消費量には相関関係があるということ、逆に焼酎や日本酒は相関がみられないということがあります。そう考えれば、ワインのように日本酒も健康的で、ステータスを感じられるようなイメージが生まれれば面白いんじゃないかと思います。例えば、ハイボールのイメージ向上には国民的女優が貢献したので、日本酒にもそういう方が出てきてほしいですね。

友田:私もなんとか力になりたいと考えて、今年、初めて女性審査員による日本酒コンクールを開催予定です。先ほどから話が出ていますが、日本酒には選ぶ指標がないので、そこを変えていこうと、出品部門を純米大吟醸や本醸造といった特定名称ではなく、「フルーティ」「ライト&ドライ」「リッチ&ウマミ」「エイジド(熟成)」「スパークリング」「ロウ・アルコール(低アルコール)」と、6つの部門を設けました。指標が生まれればワインと同様、伝わりやすくなり、それが日本の文化として日本酒の再発見にもなります。また、東京大会の次は、北陸をメインとした福井大会、さらにその次は、大阪・関西万博会場で関西大会などと全国に展開し、お酒を通じた地域活性化につなげたいと考えています。もちろん、女性審査員ということで、女性の活躍の場にもなります。いずれにせよ、このコンクールをさまざまな日本酒PRができるプラットフォームとして育てていきたいと考えています。

村山:とても素敵ですね。その時は何かお酒に合うものも出されますか。

友田:コンクールの場ではお酒だけですが、その後の試飲会などでは、プロもうなるほどのピンポイントのペアリングをお見せできればと思っています。

三人:その時はぜひ(笑)。 本日はありがとうございました。

Japan Women’s SAKE Award~美酒コンクール~(通称:美酒コン)とは「日本の伝統文化の継承」「地域経済の活性化」「女性が活躍する社会の実現」を基本理念とし、日本の國酒である日本酒を、酒類資格を保有する十分にテイスティング能力のある女性が厳正に審査を行う、日本国内初のコンクールです。

日程:2023年9月28日(木)
入選酒発表:2023年10月上旬
表彰式&大試飲会日程:2023年10月27日(金)
URL:https://bishucon.com/

村山 香苗
株式会社ジェイアール東日本企画 ソーシャルビジネス・地域創生本部 スペースプロデュースセンター 営業企画部長
広告代理店、金融系シンクタンク、JR東日本を経て、2011年よりjekiにて列車プロデュースや列車ブランディング業務を担当。
2015年から「TRAIN SUITE四季島」のブランディング・プロモーションを担当。2021年4月からスペースプロデュースセンターに在席。主にJR東日本の「のってたのしい列車」や「グランクラス」のブランディングを通じて、東日本エリアの食や手仕事、知られざる上質な観光素材の提案に取り組んでいる。

木村 ともえ
株式会社ジェイアール東日本企画 ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 部長
大手旅行代理店にて地域交流事業を担当。ブランディング、商品造成など観光に関係する事業を歴任。熱海市観光ブランドプロモーションプロデュース、富山観光推進機構マーケティング部長、鶴岡市における観光戦略策定などを歴任し観光目線でソーシャルビジネスを推進し、19年jeki入社。

池原 沙都実
株式会社ジェイアール東日本企画 ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局
株式会社日本政策投資銀行(東北支店企画調査課)、株式会社日本経済研究所を経て、現職。
酒と花火と温泉などを主なテーマに掲げ、地域産業や地域資源を活かしたツーリズムなどの調査・研究を行っている。

友田 晶子
一般社団法人 日本のSAKEとWINEを愛する女性の会 代表理事
酒類業界キャリアは30年以上。2006年より日本料飲ビジネス研究会代表として、全国観光地の宿泊施設・飲食店・酒販店などプロ向けに飲料部門売上支援を行っている。国内初となる女性審査員による日本酒コンクール「Japan Women’s SAKE Award~美酒コンクール~(通称:美酒コン)」を主催する。近著に「美しい女は呑んでいる~美人をつくる美酒指南~」(主婦と生活社)。

上記ライター木村 ともえ
(ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 部長)の記事

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