シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」⑩
「複業」で8割東京、2割地域を目指す。長野県佐久市YOBOZE!プロジェクト

地域創生NOW VOL.20

写真左から
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 地域プロデューサー 柳澤 拓道
佐久市 経済部 商工振興課 工業振興・産業立地推進係 上原 大河 氏
大進建設株式会社 取締役営業部長 黒澤 敦史 氏

「会社の成長に大切なものを“ヒト・モノ・カネ”から選んでください」と経営者に尋ねれば、その多くが迷わず「ヒト」と答えます。それはどの業種、どの世界でも同じです。当然、地方で聞いても同じですが、生産年齢人口の減少は都市部より顕著なので、悩みはより切実。

そうした不足する人材を「複業」という形で地域に巻き込もうとしているのが長野県佐久市とジェイアール東日本企画(jeki)が進めている「YOBOZE!(よぼーぜ)プロジェクト」です。今回、jeki側のプロジェクトの中心メンバーである地域プロデューサー柳澤拓道が、佐久市経済部商工振興課の上原大河氏、地元の大進建設取締役営業部長の黒澤敦史氏を迎えて、複業で変わる佐久市の未来について語ります。

立地と気風が佐久市を日本一のテレワークフィールドにした

柳澤:本日は「YOBOZE!」プロジェクトについての対談ですが、その前に地域の課題とベースとなった「佐久市まるっとテレワーク推進事業」についても説明せねばなりませんね。

上原:そうですね。これは地方共通だと思いますが、佐久市には「働き手の減少」という課題があります。2040年に老年人口が人口の4割となることが推計されている一方、特に15歳から24歳までの若年層は、その多くが節目の進路選択で市外に出て行ってしまい、男性については一定数戻ってくるのですが、女性はその多くが戻ってきません。

そこで、戻ってきてもらうために何が必要かと考えた時に、まずは働きやすい環境を整え、“しごと”をつくることが重要だろうと。jekiさんと連携して、遠隔地でも仕事ができるテレワークの環境を整備しようということになりました。そしてまちのいたるところでテレワークが可能なフィールドを整備するため、「佐久市まるっとテレワーク推進事業」が始まりました。

柳澤:今、対談を行っているワークテラス佐久を含め、佐久市全体を「まるっと」テレワークができるようにするという考えのもと、プロジェクトを開始したのが2019年のことです。jekiと佐久市は新幹線が開通した1997年以降、JR東日本グループとしての関係もありますが、佐久市が遊休施設の活用を考えていた時にjekiが運営に携わる他の施設をご覧いただいたことが大きかったと聞いています。それでプロジェクトが動き出したわけですね。

ワークテラス佐久:https://www.3saku.com/

上原:そうです。佐久市で新しい取り組みを検討していた際、JR東日本グループのjekiさんへお声がけさせていただきました。その後、福島県田村市や群馬県みなかみ町でのインキュベーション施設を見学させていただく中で、高い稼働状況を見て佐久市でも同様の事例を生み出したいと思い、19年に包括連携協定を結びました。そして20年4月にワークテラス佐久を開設しましたが、新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが推奨されたこともあり、おかげさまでワークテラス佐久の利用者数は順調に推移しています。

柳澤:スタート時は9名だったワークテラス佐久の会員数も、コロナ禍もあり現在60名にまで増えました。また、施設を利用する仲間が新たなプロジェクトを起こしており、例えば、地域の酒蔵メーカーと組んでスピリッツのジン「YOHAKHU」などを商品化しています。
佐久市への人の呼び込みが上手くいった要因には、移住を抜きにすれば地方に関わりたいという方が意外と多くいらっしゃることがあげられます。その中で佐久は交通費が東京駅から往復で1万円ちょっとなので、大きなアドバンテージになっています。さらに、この地域はオープンマインドな土地柄なので、それも強みになりました。

ワークテラス佐久での協業(コワーキング)の様子

上原:私が感じたのは、こちらでは見慣れた光景や日常に集客力があったことです。「お米」を例にすれば、田植えから収穫まで、米作りの過程を体験するためだけに都会から足を運ばれる方がいる、ということに驚いたというのが正直な感想でした。米作りの例は私個人の主観もありますが、いままでの価値観とは違った価値観や視点を持つ方との交流が生まれることにより、これまで見逃されていたものに価値が発見され、新しい価値が生まれることでさらに新しい交流につながるという好循環が生まれてきています。ワークテラス佐久を拠点にされる方が増えている状況を、黒澤さんはどのようにご覧になられますか。

黒澤:当社がワークテラス佐久の改修工事に関わらせていただいたこともあって、ここには注目していたんです。ただ、正直な話、ここに人が来るのだろうか(笑)と、思っていましたよ。ところが、実際始まってみるといろんな方がここに集まってきたので、一転、凄いなと考えを改めました(笑)。

「副」業でなく、「複」業である理由

柳澤:そして「YOBOZE!」プロジェクトが開始するのですが、「複業」人材の活用に至るきっかけを上原さんから話していただけますか。

上原:ワークテラス佐久が整備され、仕事をする基盤が整ったので、次はもっと人を呼び込もうと考えました。働き手の減少は地域にとっても地元企業にとっても大問題です。そこでjekiさんと考えたのが、いきなり地方移住はハードルが高いので、複業という形でまずは佐久市に関わってもらおうと。そして、複業(仕事)をきっかけに佐久市のことを知ってもらい、関係人口の増加や移住につながれば最高だなと。そういう意味を込め、金銭面だけの「副」業ではなく、「複」業としました。さらには、複業ならば多様なスキルを持つ人が参画しやすいので、これまで地域だけでは解決できなかった課題も解決できるのではないか、という狙いもありました。

柳澤:私たちjekiとしても複業を進めたい理由がありました。ワークテラス佐久の利用者の多くが移住者ですが、皆さんパソコンで仕事をされており、パソコンを通じて東京で働かれているのです。お金の稼ぎ方としては東京の方が単価も高いですから良いと思いますし、そのお金を地域に還元してくださっているのでありがたいのですが、その1割でも2割でもいいからその素晴らしいスキルを地域のために活かしてもらえないか、と思ったのです。

一方で、せっかく移住、あるいはワーケーションで佐久に来たという方にとっても地元との関わりが増えることは良いはずだと考えました。今それを「8割東京、2割地域」という言葉で表現していますが、「YOBOZE!プロジェクト」はその具体的な形として始動し、その第1号が大進建設さんでした。

YOBOZE! プロジェクト特設サイト:https://www.yoboze.jp/

黒澤:「複業」で地域企業の課題を解決するという話を伺いまして、モデル事業者募集に応募させていただきました。現在は、当社に限らずどこも人手不足といわれていますが、特に建設業は顕著です。とはいえ、当社は技術力があると自負していますし、それをきちんと次につなげていかなければ企業としても成り立っていきません。そこで、希望する人材に入ってもらうために、採用プロセスを一から再構築するという仕事を一緒に考えてくれる方を募集しました。

柳澤:大進建設さんとのマッチングを行う上で我々が大事にしたのは、私の他に2人コーディネーターを配して案件を丁寧にフォローすることでした。そこで、まずは大進建設さんにヒアリングを行い、人材採用とブランディングの課題を持たれていることがわかりました。ただ、仕事を受注しても動く人材がいなければ困りますから、優先順位付けを行い、今回は採用に絞って動きました。そして、複業の応募者に対しても企業側との齟齬が生まれないように気を付けました。

黒澤:柳澤さんたちが動いてくださった結果、おかげさまで3週間で24名の応募がありました。関西を含め主に都市部の方からの応募で、皆さんスキルも高く、会社員の方も含めて自分のキャリアを切り拓いていきたいという方が多くいらっしゃいました。応募された半数ほどの方が佐久の出身ないし、ゆかりのある方で、お願いすることになった方も奥さまが隣町の軽井沢にご実家があるとのことで、いずれこの地域に関わりたいという意向があったそうです。

柳澤:応募された皆さんはスキルも高く、人格的にも素敵な方が多かったので4名にまで絞るのも大変で、最後は大進建設さんとの相性でしたね。

黒澤:ありがたいことに大変でしたね(笑)。決定した方との打ち合わせを先日行ったばかりなので、結果についてはまだなんとも言えませんが、私たち社員にとってもいい刺激になっています。市役所さんでも同じ取り組みを始めていますよね。

柳澤:リモート市役所という移住のオンラインサロンでサロンを回していく「課長職」の複業人材を募集していました。今年は事例の構築ということで官民2つの案件ですが、来年度以降は件数を増やしていく予定で、既に問い合わせなどもいただいています。

上原:今年度のモデル事業を丁寧に構築していき、その事例を地域(商工団体や佐久産業支援センターなど)と共有して、広げていければと考えています。多彩な人材に佐久市と関わっていただくことは、佐久市の活性化につながるはずですので、「YOBOZE!」がそのきっかけになればうれしく思います。また、複業で関わる方は、地域に関わる仲間だと思いますので、仕事だけのつながりにならないようにと考えています。お金をモノサシにしてしまうと首都圏にかないませんが、お金ではない何か、例えば豊かな自然や都会ではできないような体験、あるいはまちの魅力を含めたものが対価として見合うようであれば、佐久市での“しごと”、ひいては“くらし”もきっと魅力的に映るのではないかと思っています。

柳澤:そうですね。これからが楽しみです。本日はありがとうございました。

柳澤 拓道
jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部 地域プロデューサー
東京大学文学部(社会学)卒業。政策研究大学院大学修了(公共政策修士)。独立行政法人都市再生機構(UR)及び国土交通省にて、都心のまちづくり事業推進、組織運営等の業務に従事。東京一極集中に限界を感じ、URを自主休職し、祖父の故郷である佐久市に家族で移住。2020年よりjeki地域プロデューサー。「仕事(複業)」「ライフスタイル」「アート」を軸に、地域の可能性に真摯に向き合うプロジェクトの組成を目指している。

上原 大河
佐久市 経済部 商工振興課 工業振興・産業立地推進係
入庁後、環境部環境政策課などを経て、総務部危機管理課在籍時に令和元年東日本台風を経験。令和3年4月より経済部商工振興課にて工業団地整備や企業誘致、テレワーク施設「ワークテラス佐久」の管理などに取り組む。

黒澤 敦史
大進建設株式会社 取締役営業部長
東京理科大学大学院修士課程修了
1級建築施工管理技士、1級建設業経理士、宅地建物取引士
長野県東信地域を中心に官民の土木建築工事に携わる。
「一流のモノづくりで地域社会を豊かにする」の企業理念のもと、社業の発展を目指す。

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日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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