シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㉙
待ちに待った旅を“やまなし”で!  
山梨県×JR東日本八王子支社の観光キャンペーン

地域創生NOW VOL.39

写真左から
jeki 首都圏統括支社 営業第二部(自治体担当) 尼ヶ崎豊
jeki 首都圏統括支社 営業第一部(JR支社担当) 二田光
山梨県観光文化部 観光振興課 観光プロモーション担当 主任 斉藤隆太氏
JR東日本 八王子支社 地域共創部 地域連携ユニット 久高秀斗氏

街を歩けば外国人を含め観光客の姿をよく見かける。未知のウイルスが生活を一変させてから3年以上が経ち、気を抜くことはできないものの日常生活は戻り、旅もまた当たり前のものになりつつある。コロナ禍で旅行を控えていた人たちにとっては、久し振りの旅は待ちに待ったものであろうし、観光客を迎える側にとってもようやくの思いであるはずだ。
そんな空気のなかで、先んじて観光キャンペーンを行ったのが山梨県とJR東日本八王子支社。2022年の夏に、「あなたに、特別な夏。-the Speciality 山梨-」を行い、旅への渇きを訴える人々を潤した。このキャンペーンに携わったジェイアール東日本企画(jeki)首都圏統括支社の尼ヶ崎豊と二田光が、山梨県観光文化部の斉藤隆太氏、JR東日本八王子支社の久高秀斗氏を招き、キャンペーンを振り返りながら、魅力あふれる山梨県を語った。

忘れられない夏を“あなた”に届けたい

尼ヶ崎:2022年の7月~9月に行った夏のキャンペーンですが、企画段階ではまだ新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時期ですよね。

斉藤:そうです。企画段階ではコロナ禍のまっただなかでしたが、ワクチンの接種も進み、経済活動を含め日常を取り戻そうとしていましたから、観光の再スタートは近いだろうと久高さんらと話していました。そこで、旅行に行きたくても行けなかった方々に22年の夏休みこそは、これまでの抑圧された気持ちを解放するような、忘れられない夏を山梨で過ごしてほしいと準備を始めたのです。ターゲットには主に30代から40代の女性を据え、「あなたに、特別な夏。」というコンセプトで、「グルメ」「アクティビティ」「癒し」の3つの柱で特別感のあるコンテンツをつくりました。故郷に帰ってきたような気持ちでゆったりと、でも特別感のある高付加価値な旅というわけです。

尼ヶ崎:コンテンツ力で満足度を上げ、滞在時間の延長につなげて、消費額を増やしていこうという施策ですね。JRさんはどのような施策を行ったのですか。

久高:JR側は、JR東日本の広告媒体を使ってプロモーションする他、旅行商品をつくり送客を増やす重点販売地域に指定しました。具体的な動きとしてはJR東日本管内の各駅でポスターやチラシを掲出し山梨県の広報宣伝に努めるとともに、列車の施策では新宿、大宮、千葉、水戸、高崎、小田原方面などの関東一円から直通で山梨県へ向かう臨時列車を仕立てました。我々は、地域に伴走しながらその土地の魅力を発掘し、その発信にも力を入れていますので、今回は、列車内で山梨県の誇るワインを楽しめるお座敷列車を企画するなど、地元と一緒になって取り組みました。

斉藤:広告といえば甲府駅や八王子駅に掲げられた巨大ポスターは圧巻でしたね。その他にも、小さな駅は独自のポスターやチラシをつくってくださって、その手づくり感やあたたかみが、全社一丸となって山梨県を応援していただいているようで嬉しかったですね。

久高:ありがとうございます。私自身、駅での勤務が長かったので身についているのですが、重点販売地域に指定されると、県外の駅は集中して該当地域の宣伝をしますし、県内の駅はおもてなしをする側として、どうやってお迎えするかを考えるので、インパクトのあるキャンペーンができるんですよね。

尼ヶ崎:コンテンツはどういったものがあったのですか。

斉藤:先ほどの3本柱でいうと、グルメでは定番のワインやフルーツだけでなく、土地の恵みを生かした美食と美酒の高級路線を設定しました。また、アクティビティでは自然を生かして、ポスターにもなった湖の上でのSUP体験や、私も知らなかったのですが、ラフティングボートで、大月市にある日本三大奇橋の猿橋の下を行く体験を、癒しでは、山梨の豊かな自然環境を生かした温泉やアウトドアサウナでほっこりしてもらうなど、特別感のあるラインナップが揃いました。海こそありませんが、山梨県にも素晴らしいウォータースポーツがあるんだと、地元の私にとっても県の魅力を再発見する良い機会でした。

二田:私は、今回のキャンペーンで使用するポスターや動画の撮影に立ち会ったのですが、事業者の皆さんが協力的で情熱的だったことが印象に残っています。そのおかげで、地方の良さや人のあたたかさにも触れられ、故郷の秋田に帰ったような気がしていました(笑)。携わったコンテンツはどれも思い出深いのですが、なかでも湖上に浮かべたSUPから見上げた富士山の美しさはまさに「忘れられない」景色ですね。事業をきっかけに生まれたコンテンツも多くあるので、ぜひ、多くの人に楽しんでもらいたいですね。

斉藤:そうですね。改めてコンテンツを深掘りする機会になりましたし、お客さんだけでなく、JRさんやバス、ホテルなど観光に携わる県内の関係者に新たなコンテンツを知ってもらう良い機会にもなったと思います。

リアルで興味をひき、デジタルで回収する山梨DX戦略

尼ヶ崎:今回、性別や年齢層といったセグメントごとに広告を打つなど積極的にデジタルを活用したことで広告効率を上げることができました。また、コンテンツに横串を通すためのAI導入のスタンプラリーも行いました。デジタル分野に関しての感想などはありますか。

斉藤:スタンプラリーは、AIが利用者のタイプに合ったコースを選んでくれるということでユニークな試みでしたね。久高さんは体験されましたか?

久高:もちろん。私の場合、食べることが多いコースだったのですが、これは私の好みが反映されたってことですよね(笑)。

尼ヶ崎:データが増えれば増えるほど、AIがより自分好みのルートを選んでくれますからね。結果としては内発的動機付けの効果もあり離脱率は低く、到達率が高いという結果がでたのは良かったです。また、デジタル面で今回、感じたのは、リアルの交通広告とデジタルの相性の良さでした。事業のポスターを都内でもよく見かけましたし、SNS上では、「この場所どこだ?」「このモデルさんは誰だ?」と盛り上がっていました。生活の導線上で頻繁に見かけると、気になって検索しますよね。デジタルに受け皿があることで、我々の狙いも伝わり、山梨を訪ねるという行動に結びつく。こういった流れを上手くつくりだせたのかなと思っています。

斉藤:正直に言うと、最初はポスターが効果測定の難しいメディアということで、懐疑的に思うところもありました。でも、いざキャンペーンがはじまると、駅に行けば「あなたに、特別な夏。」というポスターが目に入ってきます。夏の期間中、長きにわたって掲出されることで「今年の夏=やまなし」がPRできたんだと思います。実際、関東圏のJR管内において、7、8月の乗車伸び率は山梨県が連続で1位を獲得しましたからね。あまりに嬉しかったので、二田さんに電話をしましたよ。

二田:斉藤さんから電話をもらい、私も熱いものが込み上げていました(笑)。旅を渇望していた皆さんの心に訴えかけるものがあったのだと思います。交通広告に関してはクライアントから費用対効果を聞かれることが多いのですが、今回、デジタルとの相乗効果も生まれるなど、期待以上の数値をだせたので、この交通広告とデジタルのメディアミックスは、今後の他の事例でも有効だと思っています。

久高:駅で電車を待っているときに目にした広告を、スマートフォンのなかでも見かける効果を実感したケースでした。ひとつ加えさせてもらうならば、JRがこの期間、この場所を推すという重点販売を徹底したこと、それぞれの駅で駅社員が、独自の宣伝を行ったことも、良い結果に結びついたと思っています。

斉藤:そうなんですよ、駅職員の皆さんの手づくりというところは心ひかれましたね。

尼ヶ崎:親しみやすさと高い信頼性ですよね。今回の交通広告とデジタルのメディアミックスも成功しましたが、山梨県さんとJR東日本さんとの組み合わせも良かったように思います。さて、今後ですが何かやってみたいことはありますか。

斉藤:プロモーション担当としては、今回、リアルとデジタルの相性の良さも再認識しました。ツイッターやオウンドメディアなどデジタル媒体だけでなく、ポスターなどのリアルなメディアを用いることで、情報を掛け合わせるPRも良いと感じました。

久高:私も交通広告の価値を改めて感じたので、もっと活用していきたいと思いました。また、先ほども言いましたが、JR東日本として「伴走型地域づくり」に力を入れているので、地域の課題や伸ばしていきたい分野をJR東日本のアセットを使って解決、もしくは価値の創造につなげていければと考えています。山梨県内の観光についても、今後も地域の皆さまや斉藤さんたちと一緒に考えて、もっと広めていきたいですね。

二田:jekiとしても、プロモーションの目標を超えることができて喜んでいます。また、JR東日本さん、山梨県さんと一緒に何か仕掛けられればと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

尼ヶ崎:本日はありがとうございました。

尼ヶ崎 豊
株式会社ジェイアール東日本企画 首都圏統括支社 営業第二部
旅行会社で商品企画・マネジメントを経て2016年jekiソーシャルビジネス開発局に入社(北陸営業所、宇都宮・伊豆駐在所兼務)。20年から首都圏統括支社に配属。自治体(首都圏)を対象に地域課題の解決に向け、知識と経験を生かしたマネジメントと営業を中心にエリアマネージャーを担当。

二田 光
ジェイアール東日本企画 首都圏統括支社 営業第一部
デザイン制作会社の企画編集・ライターを経て2016年jeki秋田支社入社。20年から首都圏統括支社に配属。JR東日本各支社のPRを担当しつつ沿線自治体の地域課題にも目を向けJR東日本の地域連携施策に携わる。

斉藤 隆太
山梨県観光文化部 観光振興課 観光プロモ―ション担当 主任
2015年度入庁。21年4月より現職。
JRキャンペーン他、やまなし自然サウナととのいプロジェクトや樹海イメージアップ事業など、県の観光振興やプロモーション業務に携わる。

久高 秀斗
JR東日本 八王子支社 地域共創部 地域連携ユニット
2012年入社。駅の改札業務、旅行カウンター業務、案内業務を経て、18年より現職。山梨エリアの観光開発やえきねっと商品の販売促進を担当している。

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