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「ビールのまち」の玄関口!JR札幌駅改札内
「BEER STAND SORACHI」はいかに誕生したか!?

地域創生NOW VOL.57

写真左から
jeki ソーシャルビジネスソリューション局 北海道支店 BEER STAND SORACHI 店長 近野 恵佑
サッポロビール株式会社 SORACHI 1984 ブリューイングデザイナー 新井 健司 氏

JR札幌駅の改札内に、北海道生まれのホップ「ソラチエース」を100%使用※した人気ビール「SORACHI 1984」を提供する「BEER STAND SORACHI(ビアスタンドソラチ)」がある。2023年9月から期間限定で誕生したこのビアスタンドは、会社帰りの“お疲れさまの一杯”から、新千歳空港へと向かう出張・観光前後の一杯までと、札幌を代表する“ビールを楽しむ場”として浸透しつつある。このビアスタンドの企画から運営までを担うjeki北海道支店の近野恵佑が、実現に向けて企画の段階から二人三脚で歩んだ「SORACHI 1984」のブリューイングデザイナーでもある、サッポロビールの新井健司氏を迎えて、ビアスタンド誕生の裏話とともに、札幌とビールへの限りない愛情を語る。

※「SORACHI 1984」で使用しているソラチエースは、アメリカ産を多く使用しております。上富良野産は一部使用となります。

ビールの街の玄関口に不可欠なビアスタンド

近野:オープンから半年以上がたちましたが、振り返ってみればあっという間でしたね。新井さんのところに提案に行ったのが昨日のことのように思えます。

新井:2023年の春頃でしたね。近野さんはじめjekiの方々に恵比寿のサッポロビール本社まで来ていただきました。

近野:最初の着想は、2022年9月にJR恵比寿駅改札内にオープンした『TAPS BY YEBISU』からでした。ヱビスビールのブランドショップが恵比寿駅にあるのはお客さまにも受け入れてもらいやすく、とてもよい取り組みだなと思っていましたが、札幌はどうだろうと。サッポロビールの街であり、サッポロビールの故郷でもある札幌ですが、札幌駅の周辺にはサッポロビールらしい場所がありませんでした。そこで、ちょうどJR札幌駅構内のキヨスクが閉店し、その場所を使うことができることになったので、駅構内にサッポロビールのブランドショップを作ろうと企画し、提案しました。

新井:jekiさんの熱い想いを伺い、面白いなとは思いましたが、一方で新たな年度もはじまっていたので、急には難しいとも思いました。

近野:すんなりOKとはいかないものの、個人的には手応えを感じていたので、実現に向けて調整を重ねました。札幌駅周辺では再開発の影響で閉鎖されているお店も多く、仕事帰りの一杯を楽しむ場所が少なくなっていましたし、「ビールのまち」の玄関口である札幌駅周辺にサッポロビールの施設がないことは街の課題だと思っていたので、このチャンスを逃すことは考えられませんでした。最終的には、期間限定での取り組みとしてゴーサインをいただいたのが、忘れもしない2023年6月16日。ちょうど北海道神宮例祭の神輿渡御が行われた日でした。ただ、そこからが大変でしたね。

新井:オープンが9月1日でしたからねぇ。それからの2か月ちょっとは私も社内調整など、やらなくてはいけないことばかりで大変でしたが、jekiさんに店舗運営まで担っていただくことになったので、近野さんがいてくれて助かりましたよ。

近野:こういった飲食事業を行う際、基本的にはサッポロビールさんのグループ会社が運営することが多いですが、今回はjekiが運営まで行うことになりましたからね。広告代理店が新規で飲食事業を行うわけですから、画期的な決断だったと思います。しかも私が店長ですからね(笑)。準備期間は妻を除けば、新井さんと話す時間がいちばん長かった(笑)。

新井:(笑)。運営の準備は大変だったと思いますが、店長就任については、近野さんしかいないと思っていたので驚きはなかったです。札幌の街とビールへの愛情が強いことで、なにより信頼がおけました。ただ、9月からの開店ですから、ビールの季節ではなくなっていくことは心配でしたね。

近野:jeki内でもシーズンを心配する声がありました。ですが、お客さまから「大丈夫だよ、札幌市民のビール好きは気温関係ないから」と明るく言ってもらえたのは心強かったですね。結果的に大きな問題にはなりませんでした。

新井:お客さまが来ていただいている手応えはずっとありましたからね。逆に、夏を経験していない分、これからの夏にお客さまが殺到するのではないかと心配ですね。

近野:確かに夏こそビールの美味しい季節ですからね。オープン後、うれしいことに「混雑していて入れなかった」という声が挙がっていて、1月からおひとりさま2杯までにさせていただきました。場所が広ければ心行くまで飲んでもらえるのでしょうが……10人入ればいっぱいの店ですからね。

新井:何より、ビアスタンドは“軽く一杯”を楽しんでいただく場所ですからね。そして、夏の心配をするくらいになれたのはありがたいことですね。

北海道と縁が深い「SORACHI 1984」

近野:店舗の立地がいいということもありますが、やはり「SORACHI 1984」が飲めることも人気の大きな後押しになったと思っています。改めてこのビールの魅力を教えていただけますか。

新井:「SORACHI 1984」は、まだ発売5周年を迎えたばかりの若いビールです。名前の由来は、使っているホップが「ソラチエース」という北海道空知郡上富良野町原産のホップで、サッポロビールが1984年に開発しました。かなり個性的な味で、誕生した当時は国内では日の目をみませんでした。その魅力に初めて気づいたのも、海外でしたね。

近野:新井さん自身もドイツでソラチエースに出合ったとか。

新井:私もドイツに留学していたときに出会った海外の醸造家から「サッポロビールがつくったソラチエースは良いよ」とほめていただき、はじめてその存在を知りました。ソラチエースは最初、アメリカに渡り、クラフトビールのブームの中で、さまざまな味わいをつくれるということで一気に人気が高まり、その後、欧州をはじめ世界にその面白さを認めさせたのです。

提供:サッポロビール株式会社

近野:そんなソラチエースを100%使ったビールが「SORACHI 1984」というわけですね。100%というのも珍しいですよね。

新井:そうですね。ビール造りでは、いろいろなホップを混ぜることで安定した味を生みますが、その分ホップ本来の個性は薄れてしまいます。一方、「SORACHI 1984」はソラチエースのみを使用しているので、他のビールとの違いが明確で、ソラチエースならではのヒノキやレモングラスのような香りもしっかり感じられます。

近野:ヒノキの香りとは面白いですね。

新井:他にも杉など、ウッディな香りだといわれ、日本酒の升で飲んでいるような気分を味わえるという方もいます。嗅覚や感覚は人それぞれですが、私自身はヒノキのような香りを強く感じています。近野さんはどうですか。

近野:個性的な香りや味わいがとても好きなのですが、お客さまの言葉を借りると「飲んだらクセになる、忘れられなくなる味」だと思います。私にとってはビールとは別のものといった感じです。だからビールを飲みたいときと「SORACHI 1984」を飲みたいときは違いますね。もうひとつ、店長として美味しい理由を申し上げさせていただくと提供の仕方もあると思います。

新井:提供の仕方にもこだわっていただいていますからね。

近野:そうですね。好きな格言に「ビールは醸造家がつくり、注ぎ手が完成させる」というものがあります。工場から出て来る樽の中身は一緒ですが、飲食店の管理の仕方や提供の仕方、注ぎ方でビールの味は全然違ってきます。当店はブランドショップなので樽の予冷から提供機材の洗浄、注ぎ方、ガス圧など、すべてにこだわっています。さらに言えば愛情も詰め込んでいますからね(笑)。お客さまからも「ここで飲んだら他で飲めない」とありがたい言葉をいただいています。

新井:どうすれば美味しく飲めるのかを考えていて、会うたびにいろんな知識を吸収しているのでいつも驚かされます。

近野:自分がいちばん美味しく飲みたいからなんですけどね(笑)。有名な注ぎ手の方に会いにも行きました。広告代理店の社員のなかでは全国でナンバーワンの注ぎ手だと自負しています。

新井:いや、オンリーワンでしょう(笑)。近野さんの注ぐ「SORACHI 1984」は本当に美味しいですよ。そして、魅力をさらに引き上げてくれるのが、こだわりのおつまみですね。

近野:スペースの都合上、お店での調理が難しいので、JR北海道フレッシュキヨスクさんが出している約50種類の道産のおつまみのなかから、新井さんと会議室にこもって厳選しました。新井さんのオススメはなんですか。

新井:すべて、と言いたいですが、個人的には「北海道産 サーモンのひと口とば 黒胡椒」が「SORACHI 1984」と合いますね。

近野:一番人気ですよ。私は「北海道産ツブ貝 やわらか小樽煮」ですかね。

新井:いいですね。一般的に生魚系とビールは合わないといわれますが、「SORACHI 1984」は「魚のハーブ」とも呼ばれ、魚の臭みを消すディルに近い香りがあり、よく合います。ビールにおつまみ、立地も含めて本当に良いお店ができましたよね。

近野:おかげさまで、「こんな店を待っていた」などのさまざまなうれしいお言葉をいただき、駅や街の活性化に貢献できたのではないかと思います。先日は、ビアスタンドを目的に来た海外のお客さまもいましたからね。

新井:それはすごい。期間限定との話でしたが、想定を超える反響をいただけているので、夏以降も何らかの形で続けられたらと思っています。もうひとつ目指しているのが、いずれ国産のソラチエースだけで「SORACHI 1984」を造ることです。海外で人気が出たことで、現在はアメリカでの生産が多く、「SORACHI 1984」にはアメリカ産と国産のソラチエースを使っています。でも、生まれは北海道ですし、世界を驚かせたホップですからね。今、誕生地である空知郡上富良野町をはじめソラチエースの大規模な栽培が始まっています。まだ遠い先の話ですが、その実現が待ち遠しいです。

近野:ソラチエースの故郷である空知をはじめ、札幌には市の名前を冠したビールメーカーがあるなど、ビール文化は道民の誇りです。この文化をもっと地域とともに拡大させていきたいと考えています。引き続き、この街を愛し、もっとビールを愛するためにご協力お願いします。じゃあ、もう一度乾杯しましょう。

2人:乾杯!

近野 恵佑
jeki ソーシャルビジネスソリューション局 北海道支店
BEER STAND SORACHI 店長
北海道生まれ、北海道育ちの道産子。
大学卒業後、人材系プロダクションを経て、道内大手広告代理店にて営業とメディアバイイングを担当。2022年、(株)ジェイアール東日本企画に入社。HOKKAIDO×Station01(自社施設)やJR東日本グループのリソースを活用しながらさまざまな社会課題解決に取り組む。
そして2023年9月には、JR札幌駅改札内に「BEER STAND SORACHI」を企画し開業。店長として自ら運営も行う。

新井 健司
サッポロビール株式会社 SORACHI 1984ブリューイングデザイナー
2007年サッポロビール入社。研究所、工場での醸造経験を経て、ドイツのミュンヘン工科大学に一年間留学。帰国後、マーケティング部門に配属となり、新しい商品を開発する中で、2019年に「SORACHI 1984」を開発・発売。
現在は、「SORACHI 1984」ブリューイングデザイナーとして、「SORACHI 1984」に関する商品開発~ブランドマネジメントまですべてをデザインしている。

上記ライター近野 恵佑
(ソーシャルビジネスソリューション局 北海道支店)の記事

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