シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」㉓
札幌が変わる!
50年振りの「大“札”新(だいさっしん)」
官民一体のシティプロモーション

地域創生NOW VOL.33

写真右より
jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスソリューション局 札幌営業所 近野 恵佑
札幌市経済観光局 経済戦略推進部 産業立地・戦略推進課 立地促進係長 大道 巧氏
札幌市まちづくり政策局 政策企画部都心まちづくり推進室 都心まちづくり課 プロジェクト担当係長 磯尾 かおる氏
※撮影時のみ、マスクを外しています。

今から50年前の1972年、札幌市で第11回冬季オリンピックが開催された。世界中から選手や関係者、そして多くの観光客を迎えるために札幌の街は整備され、その時できた美しい街並みは、今も北の観光都市として世界に知られている。あれから50年、オリンピックによって生まれ変わった街は、再び大きく変わろうとしている。
そして、市はこの大規模再開発と連動して行われる企業誘致を「大札新(だいさっしん)」と命名し、首都圏でPRを行いはじめた。このプロモーションの一端を担うジェイアール東日本企画(jeki)札幌営業所の近野恵佑が、札幌市経済観光局で立地促進係長を務める大道巧氏と札幌市まちづくり政策局でプロジェクト担当係長を務める磯尾かおる氏を迎えて、新しく生まれ変わる街の変化とその魅力について語りあった。

札幌が企業誘致に熱心な理由

近野:本日の対談は、jekiの地域事業インキュベーション施設「HOKKAIDO×Station01」におふたりをお迎えしてお話を伺いたいと思います。磯尾さんは、この施設は初めてですか。

磯尾:はい。初めて訪れましたが、札幌駅もすぐですし、仕事をしながら列車も見えて素敵な場所ですね。ドロップイン(一時利用)もできると聞いたので、今度、使わせていただきます。大道さんは何度か来られているとか。

大道:そうですね。開設時に関わらせていただいたこともあり、最近も部署のイベントで使わせてもらったりするなど活用させていただいています。

近野:この施設は2021年の6月に開設したのですが、当時、大道さんがいらっしゃった部署が管掌する札幌市のイノベーション拠点推進の補助金を活用させていただいてつくられています。そうした経緯もあってここを鼎談場所にさせていただきました。札幌市では近年、こうしたインキュベーション施設の開設や企業誘致などに積極的に取り組んでおられますが、どういった理由があるのでしょうか。

大道:大きなものとしては街の変化です。例えば、2030年度には北海道新幹線が札幌駅まで延伸、開通の予定など、これまで以上に札幌に多くの方が訪れることが予想されています。そうしたことが引き金となり、現在、中心市街地の再開発が進められており、オフィス面積も増えることから企業誘致や起業を促す仕掛けを積極的に行っています。

新幹線札幌駅イメージ図。※JR北海道のプレス資料から引用。デザインはイメージで変更の可能性あり

磯尾:中心部の街並みは50年前のオリンピックにあわせて整備されたので、老朽化が進んでいたことも大規模再開発のきっかけになりました。

大道:オフィスに関しては、空室率が2%台と東京の6%台に比べても需給がひっ迫していましたから、喫緊の課題だったんですよね。

近野:確かに、道内の企業も引っ越ししようと思っても、入るオフィスが無く、そもそも札幌のオフィスは狭くて、古いと言われていましたからね。ちなみに、企業誘致を行うにあたり、こんな業種に来て欲しいといった希望はあるのですか。

大道:もともとこの街は支店経済ですので、大企業も多く支店を構えていますが、札幌を本社にしている大企業は少ないので、ぜひ札幌に本社を構えてくれる大企業を誘致したいと考えています。また、「サッポロバレー」と言われるなど、昔からITベンチャーを育んできた街ですので、IT開発やコンテンツなどの情報通信企業に来てもらえると嬉しいですね。札幌には北海道大学をはじめとする優秀な学生が多いのですが、就職を機に北海道から出ていってしまっている問題もありますので、その解決にもつながればと考えています。

近野:北海道の人材が首都圏を中心に流失していますよね。

大道:さらに言うと、2021年の人口動態で札幌市が人口減少都市になってしまいました。近年は出生数と死亡数の差である自然減を北海道内からの転入超過による社会増で補っていましたが、減少数は流入をも上回ってしまいました。だからこそ魅力的な企業に来てもらい、優秀な若者にぜひ札幌で就職してもらいたいです。

近野:なるほど。それでは、オフィスの増床や企業誘致は、札幌の新たな街づくりとどのように関わっていくのでしょうか。

磯尾:例えば、札幌はご存じのように地下街や地下鉄コンコース、更にはチ・カ・ホ(札幌駅前通地下歩行空間)と建物の接続によって地下の歩行環境やオープンスペースが充実しています。こうした良さを活かして、新たにビルを建て替える時にも、地下部分をオープンスペースにして地下歩行空間とつなぎ、緊急時の一時避難場所としても市民が活用できるようにしています。
市にとっては防災面で役立ちますし、開発する民間の事業者側にもビルの容積率を緩和されるなどメリットがあります。容積率の緩和については、低炭素の取り組みなど環境に配慮するビルを建設する際にも認められています。街づくりでは、他にもエリアごとに特色を出していこうと考えていますし、市内に少ないハイグレードなホテルを誘致し、これまで訪れなかった富裕層を呼び込もうとするなど取り組みは多岐にわたっています。

近野:エリアごととおっしゃいましたが、具体的にはどのような違いが生まれるのですか。

磯尾:例えば、札幌駅のエリアと大通りエリアの違いについては、札幌駅の方は新幹線の延伸で道内の玄関口といった性格がさらに増しますし、旭川や十勝など、道内の他地域との結節点でもありますから、駅を中心とした効率的な街づくりを考えています。一方で大通りエリアについては、狸小路商店街やすすきのなど、古くからの商業地が多いですからエリアを回遊することを楽しんでもらえるような街づくりを行う予定です。

近野:街の未来を考えるというのは楽しそうな仕事ですね。

磯尾:そうですね! 自分の住む街の変貌を丁寧に見ることができるので、おかげさまで楽しく仕事をさせていただいています(笑)。

西の「天神ビッグバン」、東の「大札新」

近野:今回、街づくりとそれに伴う企業誘致を「変貌する札幌」としてアピールしていくのが、大札新プロモーションです。こうしたシティプロモーションを行おうと思ったきっかけは何だったんですか。

大道:昨年末、磯尾さんたちとワーキンググループを立ち上げ議論した結果、再開発の動きが首都圏、本州には伝わっていないという課題に行きつきました。そこで、まずはスローガンとロゴをつくろうとしたのがきっかけです。

磯尾:当初、ベンチマークにしたのが福岡の「天神ビッグバン」でしたね。

近野:我々もプロモーションの公募を聞きつけ、首都圏にメディアを持つjekiがやらなければ!という使命感を感じましたし、何と言っても札幌が好きな私も一緒にこのプロモーションを大きく育てていきたい!と思って公募に参加。結果的にうまくいきました。

大道:候補作の中で、jekiさんの「大札新」は、言葉に力強さとインパクトがありましたからね。

「大札新」プロモーションのロゴ。

近野:ありがとうございます。街が末広がりに大きく飛躍して、どんどん生まれ変わる様子を表現できたと自負しています。官民連携で、それこそ福岡の「天神ビッグバン」のように、「大札新」という言葉が当たり前になればと思っています。

大道:今では、官民連携で盛り上げる大札新パートナーズという組織もでき、少しずつですが広まっています。

近野:そうですね。首都圏で行われた企業誘致セミナーのお手伝いもさせていただきましたし、広報、PRも継続させていただいています。今後、やってみたいPRなどはありますか。

磯尾:北海道の広告というと観光の分野の印象が強いので、近野さんが提案してくださった首都圏駅でのサイネージ広告を大札新のロゴでジャックして、企業誘致の視点もアピールすることができれば嬉しいですね。

大道:それは圧巻でしょうね。大札新のラッピング電車も良いですね(笑)。

近野:ラッピング電車はともかく(笑)、インパクトあるPRを行うことになっています。首都圏駅のサイネージ広告に関しては今年度中にできればと考えており、インパクトも十分にあるのでご期待ください。最後に、企業誘致をする上で札幌の魅力を改めて教えてください。

札幌駅前の再開発イメージ図。 ※画像提供:札幌駅交流拠点北5西1・西2地区市街地再開発準備組合

大道:札幌のイメージとして住みやすさとか、街に緑が多いという点が挙げられると思うのですが、それは、住む人だけでなく、企業にとっても大事なことだと思います。札幌市は環境都市を標榜しており、SDGsモデル都市でもあるなど、先進的な取り組みを行っているので、そういった想いに共鳴してもらえる企業に来ていただき、一緒に街づくりをしたいと思っています。何より、環境のいいところなので仕事もはかどると思います。

磯尾:札幌の街の地下には冷熱と温熱の管が走る地域熱供給が行われているのですが、これもかつて各々のビルが暖房として石炭を焚いたりしたことで空が汚れていたのを50年前の冬季オリンピックの際に整備し、青い空を取り戻した歴史です。ずっと先駆的な取り組みを行う街ですので、もっと多くの方に来てもらえればと思っていますし、先ほども申しましたようにエリアごとに魅力が違うので、多彩な街を満喫していただきたいです。

近野:私も札幌市民のひとりとして、生活のしやすさ、自然環境はもちろん、ご飯もお酒も美味しいのがこの街の魅力だと思っています。ぜひ、こうした魅力をもっと「大札新」とともに発信していきたいです。本日はありがとうございました。

近野 恵佑
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部
ソーシャルビジネスソリューション局 札幌営業所
HOKKAIDO×Station01 ディレクター
北海道生まれ、北海道育ちの道産子。
大学卒業後、人材系プロダクションを経て、大手広告代理店にて営業とメディアバイイングを担当。
「魅力ある北海道にもっと貢献するには?」と考えていた時に、jekiに縁があり入社。
現在は、HOKKAIDO×Station01やJR東日本グループのリソースを活用しながらさまざまな北海道の社会課題解決に取り組んでいる。
趣味は、サウナ、旅行、アウトドア、すすきの。 北海道で飲むビールが世界で一番美味しいと思っている。

大道 巧
札幌市経済観光局 経済戦略推進部
産業立地・戦略推進課 立地促進係長

名前は、大札新の「大」に北海道の「道」で「大道」。
現在の企業誘致の仕事は3年目。
髪型は、北海道・札幌のスター・大泉洋さんと天神ビッグバンの「ビッグバン」をオマージュしている。

磯尾 かおる
札幌市まちづくり政策局 政策企画部 都心まちづくり推進室
都心まちづくり課 プロジェクト担当係長
都心まちづくり推進室在籍5年目。事務職ながら、まちづくりや開発計画に関わる機会に恵まれ、日々楽しく働いている。将来、自分の携わったビルを巡り、散歩コースにするのが夢。

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日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
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