シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」⑱
おかえり只見線! 11年ぶりの全線運転再開

地域創生NOW VOL.28

写真右より
福島県只見線管理事務所主査 伊藤 太史 氏
只見線地域コーディネーター 酒井 治子 氏
jeki仙台支社福島支店 小田嶋 宏幸

2011年の福島県は、3月に東日本大震災とそれに伴う原発事故に、7月には追い打ちをかけるように新潟・福島豪雨災害に襲われた。豪雨は福島県会津若松市の会津若松駅から新潟県魚沼市の小出駅を結ぶ全長135.2キロメートルの只見線にも甚大な被害をもたらした。その後、懸命な復旧作業によって路線の大部分は運行再開されたが、複数の鉄橋が流されるなど、特に被害の大きかった会津川口駅と只見駅の間だけは不通のままであった。

それから幾多の困難を乗り越え、気付けば災害から11年。只見線は10月1日に全線運転再開する。地域の大動脈であり、シンボルでもある只見線が一本の線となったことで奥会津地域には何が起こるのか。これまで沿線市町村のプロモーション事業を担当してきたジェイアール東日本企画(jeki)仙台支社福島支店の小田嶋宏幸が、福島県只見線管理事務所主査の伊藤太史氏と只見線地域コーディネーターの酒井治子氏を迎えて、只見線と地域がともにつくっていく未来を語った。

※取材は2022年9月13日に実施しました。

困難を極めた復旧、全線運転再開にかける強い思い

小田嶋:10月1日、いよいよ只見線が全線運転再開となります。11年振りということでお2人とも感慨深いものがあるのではないですか。

伊藤:そうですね。11年前の2011年のことは東日本大震災も夏の豪雨災害も鮮明な記憶として残っています。そうしたなかで再び全線運転再開を迎えられたことは感慨深いものがあります。先日、首都圏でのイベントの際にも多くの方に「ニュースで見たよ」「もうすぐだね」「良かったね」とおっしゃっていただき、地域外の人にも関心を持たれていることを知り、改めて只見線がこの地域のシンボルなのだと感じました。

酒井:沿線の人たちは、特に全線復旧が決まってから「工事がはじまったね」、「試運転をしていたよ」と復旧までの道のりを話される方が多く、その推移を見守っていらっしゃったので、皆さん感慨深いのではないでしょうか。私個人としては、水害の3週間前に2人目の子どもが誕生しており、その子が今や、小学5年生とやんちゃ盛りになっていることを考えれば、月日の流れを感じるのですが、一方で、この11年の間に地域のために「もっと何かできたのではないか」というもどかしい気持ちもあるので、あっという間だったという気もしています。だから、私は10月1日を再スタートとしてとらえ、気持ちを新たに地域のためにできることを積み上げていきたいと思っています。

小田嶋:複数の鉄橋が流されるなど路線の復旧は困難を極めましたが、それを乗り越えたというのは、この地域における只見線の存在の大きさを物語っていますね。

只見線復旧工事

酒井:そうですね。只見線が結ぶ福島県会津若松市と新潟県魚沼市の間は国道252号線が通っていますが、冬場は県境の六十里峠が積雪で通行止めになるので鉄路が唯一の交通手段になります。文化的にも会津と新潟の交流の道でして、古くは只見から魚沼へ稲刈りの手伝いに行っていたそうです。同じく只見町と新潟を結ぶ八十里峠は、幕末の戊辰戦争時には長岡藩家老の河井継之助が会津に向かう途中、只見で亡くなるなど歴史の舞台にもなっています。こうした文化や歴史の通り道だったことも只見線を一本の線として残したいという思いにつながったのではないでしょうか。

伊藤:酒井さんの言うとおり、冬場の唯一の交通手段であり、文化の行き交う路線でもあるので、時間はかかりましたが関係者の話し合いの結果、2017年に全線復旧が決定しました。運営方法も、運行はJR東日本さんが担い、県や地域自治体が路線の維持管理を担う上下分離方式で行うなどJRさんと地域で協力し合って運営していくことになっています。まずはJRさんのご協力を得ながらやっていくことになりますが、我々も鉄道施設の維持管理を行っていきますので、その責任の重さを感じているところです。

小田嶋:私の関わりも全線復旧が決まった2017年からで、jekiが沿線の広報、PR活動を行わせていただくことになったことがきっかけでした。以来5年間、観光パンフレットや列車のラッピングなど、プロモーションを通じて地元の方々と関係を築いてきまして、いまや会津は第二の故郷といえます。酒井さんとも県主催のイベント列車の運行時に、ガイドと車内販売をお願いするなどご一緒する機会が増えたんですよね。とはいえ、今思えば無茶振りも多かったですよね、すみません(笑)。

酒井:いやいや、仕事だからこそ地域のことに深く関わっていけたので小田嶋さんには感謝しています。その後もいろいろとご一緒しましたが、伊藤さんを含めた3人の思い出となると思い出深いのはマルシェイベント【只見線マルシェ】ですね。

小田嶋:イベント列車の停車時間を30分設定し、会津宮下駅前でマルシェを開いたのですが、列車の乗客は買い物をしてくださったものの、それ以外の一般のお客さんをどう取り込むのか、集客の難しさを痛感したイベントでしたね。

マルシェイベント

伊藤:反省も多かったですが、よかったところもありましたよ。三島町の伝統工芸品である山ブドウやマタタビのツルでつくった、数万円する編み組細工のカゴを買っていかれた方もいましたからね。

酒井:いま小田嶋さんの着けているネクタイピンも三島町の桐細工でしょ。編み組細工や柳津町のあわまんじゅうもそうですが、良いものは売れますからね。

小田嶋:よく気付きましたね。このピン気に入っているんです。マルシェは今年も三島町から業務委託を受けたので、jekiでも微力ながら奥会津の魅力発信を続けていきたいと考えています。依然として集客は課題ですが、昨年の県内からの集客キャンペーンに続き、今年は、県主催で各旅行会社と連携して首都圏からの誘客ツアーを実施するなど、さまざまな業務と連携していきたいです。

絶景だけじゃない、縄文から続く文化も魅力

酒井:10月1日に再スタートを切るので多くの方に来てもらいたいのですが、鉄道ファンなら誰もが知っている只見線とはいえ、鉄道ファン以外の方に知ってもらうのは難しいところがありますね。

小田嶋:やはり絶景が目玉になるでしょうね。鉄道を降りて外から見る景色も良いのですが、我々としては車窓から見る眺めをいちばんPRしたいところです。

伊藤:撮影ポイントであれば柵を整備するなど対応できますが、車窓の場合ですとどういう伝え方がありますかね。

小田嶋:かっこよく編集された車窓動画をネットで配信するであるとか、数年前に只見町と只見線車窓ガイドブックをつくらせていただいたので、全線開通のタイミングで完全版をつくるなど、いろいろやってみたいと思っています。

車窓ガイドブック

酒井:絶景の秘境路線といわれるだけあって車窓の風景も季節ごと、時間ごとにまったく違った姿を見せますから大変ですよね。

小田嶋:それが只見線の最大の魅力ですね。新緑・紅葉・雪景色など、それぞれの絶景を車窓から堪能いただきたいですね。

酒井:地元としては景色も良いですが、地域の文化をもっと知ってもらいたいですね。例えば柳津町は赤べこ伝説の発祥地ですが意外と知られていません。約400年前の地震で被災した圓藏寺の虚空藏堂再建時に赤い牛がぬっと現れて木材を運んでくれたという伝承がもとになっているのです。先ほど出た三島町の編み組細工にしても縄文時代の遺跡から出土するなど文化の古さに驚くはずです。一方で、柳津町のあわまんじゅうにはヒーローの「あわまんじゅうマン」がいます。手作り感たっぷりの親しみやすいキャラなんです。こういった人や歴史を知ってもらえれば、また来ようと思ってくださるはずです。

小田嶋:それにはやはり観光列車の導入など、期待が高まるのかと思いますが、県としても考えられているのですか。

伊藤:なかなかハッキリとは言い切れませんが、やりたい思いは当然あります。昨年からはじめた「お座トロ展望列車」も好評で、この秋の予約も完売だそうです。これまで興味を示さなかった私の家族も乗ってみたくなったようで、車内で食べるお弁当を含めてビックリするぐらい子どもたちが喜んでいました。只見線はダイヤが少ないので、団体臨時列車も観光に適したお昼に運行できますし、何より子どもの頃に乗ってもらうことで鉄道に愛着を持ってもらえますからね。

小田嶋:最後に、10月1日の再スタートの日に向けて意気込みを。

酒井:只見町出身者としては、やっと自分の町に只見線が帰ってくるという思いです。そして、遠方からお客さんを呼ぶことと同じくらい、11年間只見線に乗れなかった地元の人たちに「乗ってみっか」と思ってもらいたいですね。そのためにも隣の町に列車で行けばこんなに良いことがあるよ、ここに住んで乗らない、知らないはもったいない、といった気持ちになって欲しいので各市町村と競い合いながら、只見線の魅力を伝えていきたいと思っています。

伊藤:10月1日にはセレモニーがあります。その日を夜空に広がる打ち上げ花火のように華やかなものにしたいところもあるのですが、一瞬で終わってしまうものではなく、長く心に残るような門出の一日にしたいと思います。

小田嶋:多くのお客さんを乗せた只見線が待ち遠しいですね。本日はありがとうございました。

小田嶋 宏幸
jeki仙台支社福島支店
大手旅行会社グループの広告会社での勤務を経て、2016年jeki入社。
仙台勤務を経て2017年より現職。地方創生に関する業務領域を中心に、
主に福島県内の自治体等を担当。

伊藤 太史
福島県只見線管理事務所主査
福島県本宮町(現・本宮市)生まれ。2003年福島県入庁。
県立学校、福島県立医科大学、県教育庁や生活環境部での勤務を経て、
2021年より只見線利活用事業に携わる。

酒井 治子
只見線地域コーディネーター
只見町生まれ。
2003年大学卒業後只見町に帰郷。
只見川電源流域振興協会、一般社団法人只見町観光まちづくり協会に勤務後、
現在合同会社メーデルリーフ代表社員。NPO法人そらとぶ教室副代表。
2018年より只見線地域コーディネーターとして活動中。

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