シリーズ  地域ビジネスを「ひらこう。」④
住民参加による「郷土愛・魅力創造」のまちづくり
北海道・芽室町の挑戦

地域創生NOW VOL.14

「地域創生は“人”で決まる」とはよく聞く話だが、これには少し補足が必要だ。地域を導くリーダーが必要なのはいうまでもないが、リーダーだけでなく、フォロワーとなる地域住民の参加が欠かせない。さらに、その間をつなぎ、地域住民誰もが自分事として考えられるようにする地域のプロデューサーがいれば、その地域はすでに新たな一歩を踏み出しているといってもいい。

北海道の十勝にある芽室町(めむろちょう)では、地域を導くリーダーである町長と町民、地域プロデューサーの3者が有機的につながり、2020年に住民自らがまちの「ビジョンマップ(地域の未来のあるべき姿)」をつくりあげた。さらにビジョンマップを具現化するための、まちづくりの核となる「魅力創造課」も誕生している。この芽室町の動きをソーシャルビジネス・地域創生本部の植田有美が聞き手となり、芽室町長の手島旭氏、芽室町で活動する地域プロデューサーの中村真也氏を迎えて、住民参加型のまちづくりについて語ってもらった。

提供:芽室町

芽室町について
芽室町は北海道・十勝平野の中央部に位置し、雄大な日高山脈を見上げる人口1万8千人ほどの町。町名はアイヌ語の「メム・オロ・ペツ(泉のわくところの川)」から来ており、その豊かな水が肥沃な大地を潤し、気候にも恵まれていることから農業が基幹産業になっている。なかでも小麦やてん菜、ばれいしょ、豆類、スイートコーンは道内有数の生産量を誇り、十勝地方の中心地である帯広市へも車で20分ほどと近いことから、食料品製造業が盛んである。現在、第5期芽室町総合計画で掲げた未来像「みんなで創り みんなでつなぐ ずっと輝くまち めむろ」に向けて、住民参加型のまちづくりを行っている。

「住民の満足」「応援者の増加」がまちの未来を拓いていく

植田:芽室町と私たちジェイアール東日本企画(以下、jeki)とのつながりは、2019年度の「ふるさとデザインアカデミー(注*)」事業に職員の方が参加されたのがきっかけでした。

手島町長:そうですね。研修といえば机上で専門家からのアドバイスをもらうのが一般的ですが、私は、現場に出て学ぶ必要性を感じていましたので、ふるさとデザインアカデミーの現場を中心に研修を行うスタイルと、地域プロデューサーを務めた中村さんとの関係がよかったこともあり、よい研修になったと思います。また、成果発表会にも出席させていただきましたが、全国の取り組みを見て刺激を受けました。なかでも、「ビジョンマップ」をつくる取り組みは、地域の未来のあるべき姿の可視化と、それを町民と共有する重要性を強く感じました。ビジョンマップを具現化するためには行政サービスの強化、組織化をしっかり考えなきゃいけない、と思ったことを覚えています。ところで、今更ですが中村さんはなぜ芽室を選んでくださったのですか。

「ふるさとデザインアカデミー」成果発表会東京大会での手島町長によるプレゼンの様子

中村:以前、芽室町の名所である新嵐山の麓で屋外会議を行ったのですが、そこで町の職員の方からコーヒーを振舞っていただき、この雄大な自然の中で飲むコーヒーが美味しくて(笑)、よいまちだなぁと思ったのがきっかけです。さらに、その数か月後に新嵐山でのイベントに裏方として参加したのですが、今度は役場の方はもちろん、農家の方など芽室の人たちの人柄に惹かれました。そこで、一緒に何かできないかなと思ったのです。

今回の取材はZOOMで実施した

植田:そして、芽室町の事業でビジョンマップをつくることになったのですよね。

中村:芽室の魅力、強み、売りを発見しようと町民を中心に「芽室魅力発見隊」を結成して、芽室のありたい姿をつくるワークショップをjekiの山本聖さんの力を借り、2020年の8月から4回にわたって行いました。その最終的なアウトプットとしてビジョンマップができました。

植田:芽室魅力発見隊とはどんなメンバー構成だったのですか。

中村:町民の方は公募で12人、うち3人は高校生でした。そこに町の若手職員10人と地域おこし協力隊の6人が加わり、計28人が参加しました。当初はビジョンマップをつくる予定はなかったのですが、考えをまとめあげる上で必要になりました。逆に、最初の段階では予算がないことの方が大変で、どうしようかと(笑)。それで町の研修という形で進めさせてもらいました。ワークショップのはじめの頃はセミナー的な雰囲気もありましたが、後半は町民の方が自ら進んで未来図を描かれていたので、こちらはただ応援するだけになりました。

植田:完成したビジョンマップを町長はどうご覧になりましたか。

モノクロのビジョンマップは、町民それぞれの想いで彩り完成となる

手島町長:町民の皆さんが幅広く参加してくださったこともあり、ビジョンマップから強い芽室愛を感じました。実はビジョンマップができる前に芽室町地域・行政経営システム(行政政策)を図で整理していました。この図を基に職員へ我々が目指すまちづくりの姿や目的の理解、共有をしていきたいと考えていましたが、このビジョンマップでは行政政策の中のひとつであるシティープロモーションを絵で表現してもらえて、職員だけでなく地域住民にも伝わりやすいまちづくりの姿を見ることができたと思っています。

私は「住んでいる人がいきいきと暮らす」「応援してくださる人を増やしていく」、この2つの目的を実現させていくことが、人口減少社会では大切なことだと思います。そのために4つのことを実行しています。そのひとつが、地域コミュニティと郷土愛の醸成。2つ目が町民に対する人材育成で、3つ目が町の職員に対する人材育成です。最後に「チーム芽室」と名付けて交流人口、関係人口を増やしていこうと考えています。ビジョンマップは、先ほど述べた目的へ到達するための地図なのです。同時に、これらは片手間にはできないと考え、新たに魅力創造課を創設しました。

シティープロモーションで課題解決

植田:最後におっしゃった魅力創造課ですが、どのような部署ですか。

手島町長:2021年4月にスタートした新しい部署で、魅力創造係、魅力発信係の2つの係構成で、課全体で10人体制の部署です。まず魅力創造係のミッションは、まちに住んでいる人がいきいきと暮らすために、地域コミュニティ構築や町民活動の促進、まちの魅力の創造、郷土愛の醸成といったシティープロモーション活動を行う部署で、具体的には町内会の活性化や、国内外の地域との交流などを行います。最近では大人の学びの場である「とかち熱中小学校」、中高生を対象とした「芽室ジモト大学」という郷土愛を育てる取り組みもはじまっています。

植田:郷土愛を育てるとは、どんなことを行っているのですか。

手島町長:実は昨日も、小学生を対象とした食農教育を行ってきました。播種から管理作業、刈り入れまで12コマ、12時間かけて芽室のよいところを、食を通じて触れてもらう授業です。芽室は農業王国といわれていますが、意外と畑に入ったことのない子どもも多く、はじめて畑に入る子が楽しそうに農作業を行っているのを見ると、芽室を知るよいきっかけになったなと思います。今後も、農業だけでなく、芽室を誇りに思えるような仕掛けをつくっていきたいと思います。

芽室町職員による野外ミーティングの様子

植田:では、もうひとつの魅力発信係について教えてください。

手島町長:魅力発信係のミッションは、関係人口、交流人口そして定住人口を増やしていくなど、町外の方向けの活動です。観光事業やふるさと納税など町外向けの活動を担います。具体的には、観光・まちづくりの拠点となる新嵐山スカイパークの魅力再構築等、サテライトオフィスでのワーケーション、サイクルツーリズムの振興などです。魅力創造係、魅力発信係のいずれもシティープロモーションを担当しますが、これはシティープロモーションが、「まちの課題を解決すること」「まちの可能性を高めること」につながるからです。その中心となるセクションが魅力創造課なのです。

中村:魅力創造課ができた話は、他の自治体の方との話の中にも出てきます。皆さん一様に「芽室町さんらしい」といいまして、「自分たちにはできないが、どのような活動をしていくのか注目している」というのです。もともと町長は、部署のネーミングでも都市経営課や生涯学習課など、ユニークですからね。

手島町長:そうですか(笑)。都市経営課は、都市計画はもちろん、公共施設の整備や配置などは経営的要素もありますから、一緒にして都市経営と名付けています。教育委員会も通常であれば「学校教育課」「社会教育課」に分けるのでしょうが、芽室では目的、ミッションに沿って「教育推進課」「生涯学習課」という名前にしているのです。

今回の取材はZOOMで実施した

植田:素晴らしいですね。私たちjekiも芽室町のような事例を他の地域にも活かしてもらうため、jekiの支援メニュー、中村さんのような地域プロデューサー、商流のネットワークをまとめ、それらのノウハウを展開する地域創生のプラットフォーム「チーム・iCHi」を立ちあげる予定です。6月15日に開業予定の北海道札幌駅前に地方創生伴走型支援スペース「HOKKAIDO × Station01」でも、「チーム・iCHi」として芽室町の活動を紹介したいと思います。

手島町長:私たちとしても魅力創造課の向き合う課題は長期的なもので、難解、さらに量も多いですから、10人の職員だけでは到底足りません。ですから、jekiの皆さんのような信頼関係が構築できている人たちや、そのネットワークの力が必要になるはずです。中村さんをはじめ皆さんと今後も一緒にやっていければいいですね。

注*「ふるさとデザインアカデミー」とは、経済産業省・中小企業庁が主催した「令和元年度ローカルデザイナー育成支援に関する委託授業」のことで、地域の抱える課題をデザイン経営の観点から解決していくプロジェクト

植田 有美
jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部
ソーシャルビジネスプロデュース局 第2部
国の中小企業政策の実施機関にて中小企業支援に携わり、2021年よりソーシャルビジネスプロデュース局に在籍。主に中央省庁の震災復興案件に取り組む。全国各地の地域プロデューサーと連携した地域課題解決支援プラットフォーム「チーム iCHi」の中心的推進メンバー。

手島 旭
芽室町長
昭和60年に芽室町役場に奉職。企画財政課長、産業振興課長、農林課長を歴任し、平成30年7月に町長初当選。北海道 十勝 農業王国 芽室町をけん引する若きリーダー。自ら地域・行政経営システムをスーパーフロー化するとともに、町民と職員による魅力発見隊結成により、まちの未来像をイラスト化(ビジョンマップ化)したバイタリティーあふれる行動力で、対話と信頼を基軸に、芽室町の未来を指揮する。

中村 真也/ふるさとプロデューサー
㈱バンダイにて国内、上海、香港、台湾でセールスマーケティング、マネージメント業務遂行。北海道十勝の価値に気づきU-ターン。現在は、障害者就労6次化支援、アジア各国への販売(地域商社nakaichi asia business代表)、自治体、地域事業者支援(一般社団法人 北海道プロデュース代表理事)等、「地域」を軸に各方面の人柱となって、北海道を世界一の感動創造地域にすべき奮闘中。

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日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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