シリーズ 地域ビジネスを「ひらこう。」⑧
食文化を通じて街を元気にする漁師町のプロジェクト ~福井県高浜町

地域創生NOW VOL.18

左から
株式会社うみから 代表取締役社長 松本 俊雄 氏
株式会社うみから 専務取締役 高田 明 氏
株式会社まちから 代表取締役 名里 裕介 氏
株式会社うみから 常務取締役  河合 徹 氏
jeki北陸支社 営業部 福井オフィス 秋場 健一

若狭の海が目の前に広がる、魚と旅するマーケット「UMIKARA」は、2021年7月7日に福井県高浜町に誕生した“海の6次化”施設。目の前の海で獲れた魚介類の生産から加工、販売を通じて多くの人と関係をつくり、町全体ににぎわいを広げていく、漁師町の新たなモデルをつくる事業です。経済産業省・資源エネルギー庁の事業である「地域のちからプロジェクト」もこの取り組みを応援しており、事務局を務めるジェイアール東日本企画(以下、jeki)も深く関わっています。

今回、jekiの高浜町事業の担当推進メンバーの秋場健一が、UMIKARAを運営する株式会社うみから社長の松本俊雄氏、専務の高田明氏、常務の河合徹氏、そして地域商社である株式会社まちから社長の名里裕介氏の4名を迎えて、UMIKARA誕生の経緯とこれからの漁師町について語りました。

「魚の価値をあげる」とファンも増える

秋場:新たな漁師町をつくる拠点としてUMIKARAが誕生しましたが、なぜ、新しい漁師町を目指したのでしょうか。

高田:高浜の漁業は、漁獲高の減少に加え、後継者不足や漁港の老朽化など多くの問題を抱えています。しかし、それは他の地域も同様で、漁業の中心である漁協の多くが赤字経営に苦しんでいます。高浜も近隣の漁協と合併するか、あるいは立て直すために6次産業化(*)を進めるしか道はありませんでした。私も、ここにいる皆もそうですが、高浜に生まれ、ここの魚で育ち、この町から漁業がなくなるのはあまりにも寂しい。そこで、なんとかしたいと漁業再生のプロジェクトを立ち上げ、その中心施設が6次産業化施設UMIKARAだったのです。

Photo by©Yohei Sasakura

松本:漁業を再生するには、6次産業化もそうですが、何より魚の価値をあげることが大事です。私は仲買人です。魚は鮮度が重要なので新鮮で生食できる時が、一番高値がつきます。それを地元高浜で提供することができたら、船から荷揚げされた魚を新鮮なまま食することができ、輸送のコストもかからず、魚の価値をあげることができるのではないかと考え、2012年から動き出しました。まずは、近郊の人たちが、何を求めているかということを調べました。気楽に立ち寄れて新鮮な魚が食べられ、魚を購入できて、さばいてもくれる、こうした需要がありましたので、この地域でスーパーを経営されている高田さんにUMIKARAにも出店してもらい、安い価格での販売体制が実現したのです。

高田:UMIKARAのスーパーでは、例えば水槽で泳いでいる活鯛を購入し、それをその場で刺身にして、施設内のレストラン「うみから食堂」で食べることができます。重要なコンセプトである魚の価値をあげるためにも、これ以上のシステムはないですからね。同時に、jekiさんに早い段階から入ってもらって、いろいろとサポートしてもらいました。

秋場:jeki側は、6次産業化施設が決まった時に、地域創生の専門家(プロデューサー)の指導のもと、事業構想~事業(財務)計画の進め方やファンドなどのお金に関すること、マーケティングなどをアドバイスさせていただき、うみから食堂が具体化してからはメニューの構成などを、東京のシェフに来てもらって一緒に考えてもらうなど、後方支援をさせていただきました。私も2014年ぐらいからのお付き合いになりますから、オープンした日は感慨深いものがありました。オープンから、ちょうど1か月ほどですが、お客さんの入りや反応はいかがですか。

左から
株式会社うみから 代表取締役社長 松本 俊雄 氏
株式会社うみから 専務取締役 高田 明 氏

松本:もともと、この地域にこのような施設がなかったことと、週末は情報を聞きつけられた京阪神のお客さんが来られるので、けっこう混雑しています。地元の人もとりあえず一度行ってみよう、まずは食べてみようということで来られていましたが、こちらの方は、ようやく落ち着いてきたかなという感じです。

高田:高浜町は京阪神の方にとっては、昔小中学校の臨海学校で来られた方も多く、なじみ深い場所です。かつては、高速道路も通じていなかったので一泊する場所でしたが、今は日帰り圏になったことで気軽に来られるのだと思います。かつては海水浴のお客さんがひと夏で120万人も押し寄せ、それに伴い水産物の需要も多かったですからね。そうしたにぎわいも取り戻したいですね。

秋場:6次産業化はどうすすめたのですか。

河合:マーケットや“海の6次化”の話を聞いた時、私は町の産業振興課の課長で水産振興も担当していました。その時すでに、うみから食堂の話が出ていて、そこに食材を供給する加工所の必要性を感じておりました。もともと干物はつくられていましたが量が多くありませんでした。そこで、干物を含め加工品がつくれて、食堂のセントラルキッチンとしての役割を担えるような加工場(はもと加工販売所)を運営する㈱まちからができました。UMIKARAに卸すだけでなく、広く外部へ販売していくことで、経営を成り立たせる構想でスタートしたのですが、当初は、それを誰がやるのか、という問題がありました。でも、この名里君が手をあげてくれてスタートし、町役場の職員だった私も今はすっかり水産振興に従事する海の人間です。

株式会社まちから 代表取締役 名里 裕介 氏

名里:私はもともと子どもを育てる環境は高浜が良いと、Uターンで帰ってきて、まちおこしの仕事を行っていました。ですから、魚をさばくことも目利きもまったくできなかったのですが、誰かがやらなければならないということで手をあげ、皆さんからの厳しくも(笑)、優しい指導でなんとかやってきました。

河合:“海の6次化”を通じて考えたのは、これまで獲れる量が少なかったり、美味しいのに足が早く流通にまわせなかったりして価値がないとされてきた、いわゆる未利用魚を加工することで商品価値をあげることでした。骨があるからとか、生臭いからとか、そういった声を解消して食べやすくするなど、魚食の普及みたいなところからはじめて、試行錯誤しながら商品をつくっています。また、真ん中にゴマを散らしているのが花びらのようで、薄い桜色に仕上がる「桜干し」といわれる干物は、地元でも消えかけていた製法でしたが、再ブランディングしようとはじめたところ、深みのある味で人気の商品になりました。一方で、トマトや麹に漬けた商品や串に刺した新しい商品も食べやすいと好評です。こうした伝統と新規の両輪で魚の良さを広めていきたいと思っています。

名里:基本は地元で水揚げされたものの加工が中心ですが、最近では高浜で獲れない種類のものでも買い付けて加工し、このUMIKARAブランドでEC(通販)サイトなどを通じて販売する地域商社的な役割も拡大しています。都会のお客さんへの贈答品になるようなものを意識してつくっていますので、UMIKARAだけでなく、ECサイトでも買ってもらう仕組みがようやく整ったので、まずは知名度を高めていきたいと考えています。

UMIKARA(うみから)オンラインショップ

食材が集まり、食文化が生まれる新たな漁師町

秋場:今後は、どのような漁師町をつくっていかれますか。最近では、納税型のクラウドファンディングを行うということですが。

左から
株式会社うみから 常務取締役 河合 徹 氏
jeki北陸支社 営業部 福井オフィス 秋場 健一

河合:県の協力で㈱まちからが行うのですが、ふるさと納税型のクラウドファンディングです。先ほども言いましたが、魚価をアップさせるために未利用魚の有効活用は欠かせません。シイラやツバス(ブリの子)、サゴシ(サワラの子)、エソといった価格の安い魚で商品開発を行うことを目的としていて、最近では、旨味を閉じ込めたまま保存できるコンフィなどが面白いのではと期待しています。

松本:UMIKARAの方は、2023年に漁港が隣に移ってきます。完成すれば、食堂から漁師さんが水揚げしているところ、競りを行うところを見ることができますし、体験イベントとして子どもに競りの疑似体験をしてもらうことも考えています。もちろん普段は、衛生的な観点から誰でも入れるという施設ではありませんが、間近に漁港が見えて、獲れたての魚が食べられる施設はなかなかないと思います。

高田:魚離れとはいうものの、UMIKARAができて感じるのは、意外に若い人が新鮮な魚を求めている事実です。つまり、魚離れではなく、美味しい魚を食べていないのではないかと思うのです。今、いいものを食べたい人と、安いものを食べたい人に二極化しています。メディアが「安い」が正義、といったふうに取り上げるのも問題ですが、我々としては魚の良さを知ってもらう努力が必要で、いうなればこうした㈱うみから、㈱まちからの役目が産業を守るだけでなく、食文化を育てていくことにつながると思うのです。

河合:おっしゃる通りで、月に1回「昼市」というイベントも予定していまして、海のものだけでなく、山のものも生産者から直に買えるようなこともできればと考えています。さらに、これを町全体に、さらには近隣地域に広げていき、UMIKARAブランドで日本各地に売っていけたら、この若狭の食文化をはじめ、食に対する考え方を広めることができ、漁師町が食の発信地になる姿が見えてくるはずです。

松本:もうひとつ付け加えると、我々の事業が、地域で起業する見本になればと思っています。地域創生といいますが、一番大変なのはプレイヤー探し。私らには名里君がおりましたが、普通はみんな尻込みするんです。だから、我々がうまくいくことで他に勇気を与えたいと思っています。そう考えると、2年後の漁港オープンに向けてやるべきことはいっぱいありますね。

秋場:そうですね。これからもUMIKARAを盛り上げていきましょう。本日はありがとうございました。

*「6次産業」は、農林漁業の1次産業だけでなく、工場や製造業の2次産業、販売やサービス業の3次産業をすべて一つに取り込むことです。それぞれの数字を掛けて「1×2×3=6次産業」になります。

【シリーズ  地域ビジネスを「ひらこう。」】
(1) 地域創生を担う人材をどう育てているのか―ふるさとプロデューサー育成支援事業
(2) なぜ、いまjekiは地域創生に力を入れるのか
(3) 地域をつなぐ懸け橋として「TRAIN SUITE 四季島」のブランディングの裏側
(4)住民参加による「郷土愛・魅力創造」のまちづくり 北海道・芽室町の挑戦
(5)インキュベーション施設「わくばにかほ」がひらく、新たな起業の形 ~秋田県にかほ市
(6)「酒蔵ツーリズム」で広がる地域の魅力
(7)札幌駅前にできた×Station01から地域創生は生まれる
(8)食文化を通じて街を元気にする漁師町のプロジェクト ~福井県高浜町
(9)「お金の支援だけじゃない」地元銀行だからできる群馬経済の活性化
(10)「複業」で8割東京、2割地域を目指す。長野県佐久市YOBOZE!プロジェクト
(11)アンテナショップが担う知られざる役割。いしかわ百万石物語 江戸本店
(12)震災から10年、支援への感謝を込めて「東北」からのメッセージ~東北ハウス
(13)我が街の美味しさをもっと知ってほしい。ルミネエスト新宿の「Sweetいちごフェア」@茨城県筑西市
(14)コロナ禍でも地域創生はできる!岩手・青森のGo To Eat事業
(15)環境省「令和3年度地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業」
(16)「インバウンド解禁」も素直に喜べない日本の課題
(17)世界遺産登録を目指す佐渡発。観光からはじまる社会課題解決

秋場 健一
jeki北陸支社 営業部 福井オフィス 地域プロデューサー
2013年より、福島県の復興支援事業に事業推進メンバーとして参画。以降全国の様々な原子力発電所立地地域の地域創生・経済振興の事業「地域のちからプロジェクト」の推進メンバーとして、地域の将来を見据えた課題解決に向き合う。現在は福井県高浜町の6次産業化施設UMIKARAの開業支援、開業以降の施設運営支援を担当。

松本 俊雄
株式会社うみから 代表取締役社長
有限会社 松本魚問屋 代表取締役
高浜町魚商組合 組合長
明治20年代創業の魚問屋5代目主。衰退する高浜漁業振興のため本事業を構想、実運営の牽引役。魚の卸売りが本業であるが、若い頃の飲食店での勤務経験からサカナを活用した飲食サービスに関して独特の持論を持つ。それが“付加価値を持った商品としてのサカナ売るUMIKARAビジネス”のベースとなっている。

高田 明
株式会社うみから 専務取締役
サニーマート株式会社 代表取締役
高浜町魚商組合 役員
地域密着のスーパー経営者。本事業でもマーケット部門の運営を担う。
本事業の構想段階から松本社長とのタッグにより、長年の“客から愛されるスーパー商売”の経験を活かし「地域住民客への対応」と「外来客へのサービス」を融合させたUMIKARA施設独特のビジネスの根幹を構築した。

河合 徹
株式会社うみから 常務取締役
株式会社まちから 常務取締役
高浜町行政職員
公務員として地域振興事業(まちづくり、観光振興etc)に従事する経験を活かし、本事業立ち上げ時から関わり、施設計画のプロジェクトマネージャーを担当。事業の主体となる行政、地元民間コミュニティ、外部支援者(外部専門家、クリエーター)の意向・助言を掌握し計画に反映。施設完成に向けて構想の大きな枠組みから運営の詳細事項に至るまで全体を管理する中心的な役割を担う。

名里 裕介
株式会社まちから 代表取締役
大学卒業後、民間企業での営業職を経て、東京からUターンし高浜町に戻る。
2017年より、高浜町の海の6次産業化プロジェクトに参画。漁師をはじめとする漁業従事者と消費者のハブ的な存在となるべく、「はもと加工販売所(水産加工場)」を立ち上げる。伝統干物の製造や未利用魚を活用した商品開発など生産者から消費者までを「おいしい循環」でつなげる事業の道筋を追求している。UMIKARAに供給する水産一次加工品製造という当事業の屋台骨を支える縁の下の力持ち的存在。
漁師町で生まれ育ち、祖父も漁師。

地域創生NOW

日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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