シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」⑰
世界遺産登録を目指す佐渡発
観光からはじまる社会課題解決

地域創生NOW VOL.27

写真右より
佐渡市企画財政部総合政策課課長 笠井 貴弘氏
佐渡市地域振興部移住交流推進課課長 渡邉 一哉氏
佐渡市観光振興部観光振興課観光戦略室室長 齋藤 博文氏
jeki新潟支社営業第二部 月岡 真史

人口減少は日本全体の問題であるが、とくに離島は交通の利便性が低いことから深刻化しがちである。北方領土を除けば沖縄本島に次ぐ大きさの新潟県佐渡島も同じ問題を抱えるが、「観光」から「移住・定住」そして「持続可能な島づくり」とつなげていくことで、この問題を解決していこうとしている。佐渡の玄関口である両津港に直結し、6月11日にオープンしたばかりのワークスペース「SADO PORT LOUNGE(以下、ポートラウンジ)」で、ジェイアール東日本企画(jeki)新潟支社の月岡真史が、佐渡市観光振興課観光戦略室の齋藤博文室長、移住交流推進課の渡邉一哉課長、総合政策課の笠井貴弘課長を迎えて、佐渡の魅力とその未来を語った。

「暮らすように旅する」ことで佐渡の魅力は倍増する

月岡:世界遺産登録をめざす「佐渡島の金山」の国内推薦が決まりました。この良い流れをどのように島の振興や人口問題の解決につなげていきますか。

齋藤:世界遺産登録は島民の悲願です。登録までのこの1年が観光をはじめとするあらゆる面で非常に重要な年になります。そこで、まずは「佐渡島の金山」についての情報発信に努めています。同時に世界遺産に登録されると1、2割ほど観光客が増えるというデータもありますのでコロナ前、年間50万人の方が訪れていた佐渡の受け入れ体制づくりも進めています。今後は、オーバーツーリズムの問題が起こらないように持続可能な島づくりを行いながら、観光を移住・定住へとつなぎ、島の最大の課題である人口問題の解決を図っていかなければならないと考えています。

佐渡金山と薪能

月岡:観光が移住・定住や持続可能な島につながるとのことですが、どう結びつきますか。

渡邉:交流人口から関係人口、そして定住人口といいますが、観光から移住がまさにこの形です。ただ、移住を決めた方に聞くと、決め手は島に住んでいる各地域の方と親しくなったことを挙げられる方が多く、やはり、人が最大の魅力なのだと感じています。

笠井:確かに、地域ごとにユニークな方がいらっしゃいますからね。さて、持続可能な島づくりも観光とつながります。今年度、佐渡市は「SDGs未来都市」に選定されましたが、それ以前から環境、経済、社会の三方良しに文化を掛け合わせた取り組みが定着しています。例えば、国の特別天然記念物のトキを野生復帰させるときに、農薬、化学肥料を減らし、餌場の確保を行うといった生物多様性を考えた米づくりがはじまりました。この取り組みは「朱鷺と暮らす郷づくり」というブランド米を生むとともに、トキと共生する里山として世界農業遺産にも認定されています。

朱鷺と暮らす郷 認証米

月岡:私も佐渡に来るようになって、ほんとうに先進的なことを行っているのに驚かされました。ただ、あまり知られておらず、もったいないと感じることがあります。

齋藤:残念ながらPRがあまり得意ではないんですよ。ですから、今回の世界遺産登録の流れはチャンスです。観光もこれまでの物見遊山から「暮らすように旅する」ことにシフトし、地域住民との触れ合いを増やして、滞在時間を伸ばしていただこうと考えています。
また、佐渡には金山によって育まれた能や鬼太鼓などの豊富な文化が伝統としてあり、同じく金山によって増えた人口を養うためにつくられた美しい棚田が絶景をつくっています。こうした金山とつながるストーリーをしっかりと伝えることで、もっと佐渡を好きになってもらえると思っています。

渡邉:「暮らすように旅する」というのは地域の人との交流を生み、ここに住んでみたいという気持ちを醸成すると思います。そこで、移住交流推進課では、気軽に佐渡暮らしが体験できる仕組みとして移住希望の方へのお試し住宅を用意しています。「さど暮らし体験住宅」として、1Kから4DKの7地区4棟を用意して、1ヶ月以上半年以内での滞在の仕組みです。今年度も新たに江戸時代の島のメインストリートである相川の京町通りに1棟用意しましたので、世界遺産に選ばれるような場所に住むチャンスとなっています。

さど暮らし体験住宅

月岡:申し込みの状況はいかがですか。

渡邉:ありがたいことに、各住宅とも夏までご予約はいっぱいの状態で、相川京町通りの物件は近日中に入居していただく予定です。またある住宅では島留学をされたご家族が住まわれるなど、ずっと人気があります。部屋の広さにもよりますが、家賃は光熱費込みで2万円から5万円。田舎暮らしといっても地域の方と交流することができ、買い物の不便がないような場所を選んでいます。

月岡:京町通りは魅力的ですし、何より家賃に驚きます。ただ、お仕事がネックになると思うのですが、いかがでしょうか。

渡邉:ハローワークだけでなく佐渡UIターンサポートセンターでもお仕事の紹介を行ってはいますが、働く場所は未だ大きな問題です。そこで、働く場所づくりも同時に考えています。例えば、離島ならではの交付金があるので起業しやすい環境を生かし新しいビジネスアイデアをご提案いただく「佐渡ビジネスコンテスト」をはじめました。そのおかげか「起業の島」として少しずつ知られるようになってきましたし、オフィスの問題も空き家を活用することで解決しています。さらに、本日の対談場所となったポートラウンジもこの6月にオープンしたばかりです。出張で佐渡に来られてもレンタカーの中で仕事をする方がいると聞いていたので、両津港から直結と立地もよく、海を眺めながら仕事ができるこのワークスペースができたことで、働く環境がよりよくなったと感じています。

月岡:実際、我々も車で仕事をしていましたからね。ポートラウンジができたことで助かる方は多いはずです。コワーキングスペースとシェアオフィスの機能があるこの施設を私たちjekiが運営していくにあたって、お客さん同士、あるいは地元の方との交流の拠点にするとともに、広告代理店としての強みを活かして、佐渡のものを外へ、外のものを佐渡へとつなぐ拠点にもしたいですし、セミナーや勉強会も行いたいですね。

渡邉:行政としても、運営を誰が行うかが悩みのタネでしたから感謝しています。

月岡:こちらこそありがとうございます。jekiに決めてくださった理由は何ですか。

渡邉:月岡さんとは地域振興の分野で特産品の紹介や拡販といった仕事をご一緒していたので安心感がありましたし、こうした施設運営も他地域で実施されており、そのノウハウも持たれていましたからね。どれだけ活用提案がいただけるかを重視しました。

月岡:光栄です(笑)。

齋藤:観光の視点でいえばレンタカープランも用意され、自転車のレンタルも予定されているとのことですので滞在中にご家族が遊びに来られた時の拠点としても期待できますね。

SADO PORT LOUNGE

「脱プラ」のはるか前から環境にやさしい島だった

月岡:拠点ができて点を線に、線を面に広げていきたいと考えていますが、未来の佐渡をどのように描いていますか。

笠井:島での起業も増えていますし、社会課題に対する実証実験なども多く行われているので、全国に先んじた事例がどんどん生まれる島になることを期待しています。先行事例としては、日本酒特区の第一号案件である尾畑酒造が、廃校を利用した学校蔵で酒造りを行っています。おもしろいのは自前で酒米を育て、肥料には牡蠣殻を使い、エネルギーは100%再生可能と、オール佐渡産で進めているところです。サスティナブルブリュワリーとして、今後はカフェや宿泊場所の整備も行っていくと聞いていますから、こうした持続可能な取り組みが島全体に広がることを我々もサポートしていきたいと思っています。

渡邉:佐渡はレジ袋の有料化もずいぶん前にはじめましたし、エコバッグも2007年からはじめています。環境問題への取り組みは早いんですよ。ただ、エネルギーは課題ですね。

笠井:そうですね。現在、島の電力は本土と切り離なされ、総需要の90%以上を火力発電でまかなっています。化石燃料は輸送や価格上昇、環境のリスクもあるので、なるべく早く再生可能エネルギーの割合を増やし、自立分散型の電源確保に努めたいと思っています。いまは太陽光がメインですが、島の7割を森林が占めるので木質バイオマス発電や熱利用なども期待できます。これも、脱炭素先行地域として実現していきたいテーマです。

学校蔵を使用した酒づくり

月岡:そう考えると、やっぱり多くの方に佐渡を訪れてほしいですね。改めて佐渡の魅力をお願いします。

笠井:気候を心配されるかもしれませんが、暖流と寒流がぶつかるところなので、夏は涼しくて冬はあったかいところは、あまり知られていない気がします。

渡邉:そのおかげで四季がはっきりしていますし、島の北側ではりんごが、南ではみかんの生産が行われるなど島の場所によって気候も異なります。少量多品目と言われますが、ブドウや梨、いちじく、レモンも採れるので、その豊富な種類によく驚かれます。

齋藤:アクティビティではトレッキングがおススメです。例えば、本土だと標高の高いところにしか分布しない高山植物シラネアオイが佐渡では標高300メートルくらいから見られますし、尾根を歩くと両側に青く透き通った海を見下ろすことができます。あの絶景は全国でもなかなか見られないと思います。

笠井:しかも佐渡にはクマがいませんからね。おまけにサルもシカもいません。タヌキはいますが、獣害被害が少ないので、花も農産物も食べられず咲き誇っています。花を摘む人間がいちばん危険な動物かもしれません(笑)。

渡邉:課題といえば、インバウンドの方におみやげが重いと言われました。自慢のお米や日本酒は確かに重い(笑)。軽いおみやげの開発は必須ですね。

月岡:では、今度は軽いおみやげを考えるために集まりましょう。本日はありがとうございました。

【シリーズ  地域創生ビジネスを「ひらこう。」】
(1) 地域創生を担う人材をどう育てているのか―ふるさとプロデューサー育成支援事業
(2) なぜ、いまjekiは地域創生に力を入れるのか
(3) 地域をつなぐ懸け橋として「TRAIN SUITE 四季島」のブランディングの裏側
(4)住民参加による「郷土愛・魅力創造」のまちづくり 北海道・芽室町の挑戦
(5)インキュベーション施設「わくばにかほ」がひらく、新たな起業の形 ~秋田県にかほ市
(6)「酒蔵ツーリズム」で広がる地域の魅力
(7)札幌駅前にできた×Station01から地域創生は生まれる
(8)食文化を通じて街を元気にする漁師町のプロジェクト ~福井県高浜町
(9)「お金の支援だけじゃない」地元銀行だからできる群馬経済の活性化
(10)「複業」で8割東京、2割地域を目指す 長野県佐久市YOBOZE!プロジェクト
(11)アンテナショップが担う知られざる役割。いしかわ百万石物語 江戸本店
(12)震災から10年、支援への感謝を込めて「東北」からのメッセージ~東北ハウス 
(13)我が街の美味しさをもっと知ってほしい。ルミネエスト新宿の「Sweetいちごフェア」@茨城県筑西市
(14)コロナ禍でも地域創生はできる!岩手・青森のGo To Eat事業
(15)環境省「令和3年度地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業」
(16)「インバウンド解禁」も素直に喜べない日本の課題
(17)世界遺産登録を目指す佐渡発。観光からはじまる社会課題解決

月岡 真史
jeki新潟支社営業第二部
地元ラジオ局の営業を経て、平成27年株式会社ジェイアール東日本企画入社。同年より佐渡市担当として、旅行商品造成事業や佐渡産品広域プロモーション業務などに携わりつつ、地元商業施設の対外営業主務として従事。

齋藤 博文
佐渡市観光振興部観光振興課観光戦略室室長
アメリカ合衆国ワシントン州の大学卒業後、住宅メーカーでの営業経験を経て佐渡市(旧両津市)職員となる。平成16年3月の市町村合併以降、企画振興課での姉妹都市交流・国際交流・外国籍住民支援担当、観光振興課でのインバウンド担当、教育委員会でのALT担当など主に国際関連業務に従事し、平成29年度より観光振興課で国内・国外問わず佐渡市の観光振興事業全般に従事している。

渡邉 一哉
佐渡市地域振興部移住交流推進課課長
昭和43年佐渡島生まれ。首都圏の大学に進学するも通勤ラッシュが耐えられないと帰郷を決断、卒業後、平成4年から佐渡市(旧佐和田町)職員となる。平成16年3月の市町村合併以後、防災管財課では自主防災組織の立ち上げに力を入れるとともに、教育委員会では市子ども連絡協議会や市美術展覧会の事務局として地域の取り組みを支援してきた。令和3年4月に新設された現課においても、人と人のつながりを意識しながら佐渡暮らしの魅力を広げている。

笠井 貴弘
佐渡市企画財政部総合政策課課長
専門学校卒業後、佐渡市(旧相川町)職員となる。平成16年3月の市町村合併以降、財政課、行政改革課、内閣官房(地域活性化)への出向、総合政策課での勤務後、ふるさと納税や集落支援などの地域づくり部門を担当、その後財政課を経て昨年度から企画部門で総合計画やSDGs未来都市の策定、地域脱炭素化の推進などに関わっている。

地域創生NOW

日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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