シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」⑬
我が街の美味しさをもっと知ってほしい。
ルミネエスト新宿の「Sweetいちごフェア」@茨城県筑西市

地域創生NOW VOL.23

茨城県筑西市とルミネ本社でのリモート対談

■左写真 写真左から
協和園芸開発株式会社(KEK) 谷畑 尚吾氏/筑西市経済部農政課 販売戦略グループ 主任 鶴見 武史氏/jeki水戸支店営業第二部 枝川 秀樹
■右写真 写真左から
株式会社ルミネ ルミネエスト新宿店 営業部 販売促進グループ フロアマスター(現 株式会社ルミネ 営業本部 海外事業部) 隅田 朝子氏/jeki JR第二営業局第一部 安川 真樹

日本の農産物は総じて美味しいが、だからといって、この地域のこの作物といった、いわゆるブランド化された農産物はさほど多くない。そのため生産者や自治体はプロモーションに躍起になるのだが、県単位の後押しがあるとか、大きな話題性がない限りは、なかなか成功しない現実がある。

そんななか、2022年2月の1ケ月間、新宿駅に隣接する商業施設「ルミネエスト新宿」で、茨城県筑西市のイチゴを使った「Sweetいちごフェア」が行われている。若い女性をターゲットにしたルミネエスト新宿で、なぜ、人口10万人ほどの地方都市である筑西市とのコラボレーションが実現したのか。

このフェア開催に関わったジェイアール東日本企画(jeki)の安川真樹と枝川秀樹が、筑西市経済部農政課の鶴見武史氏、イチゴの生産・販売を行う協和園芸開発株式会社(KEK)の谷畑尚吾氏、ルミネエスト新宿の隅田朝子氏を迎え、筑西市役所とルミネエスト新宿をオンラインで結んで、フェアの裏側を語り合った。

筑西市のイチゴをふんだんに使ったフェア限定メニュー(一部)

コロナ疲れを癒す 美味しくて、映える筑西市のイチゴ

安川:現在、ルミネエスト新宿で開催されている「Sweetいちごフェア」ですが、このフェアのきっかけになったのは隅田さんからの一本のお電話でしたね。

隅田:そうですね。ルミネエスト新宿は駅に隣接したショッピングセンター(SC)で、これまで多くのお客さまにお越しいただいてきたのですが、新型コロナウイルス感染症の影響で、特にレストランフロアが打撃を受けました。長引く感染拡大の影響で、飲食フロアで働く皆さんのモチベーションも下がっていましたし、楽しいキャンペーンも行えませんでしたから、感染状況が落ち着いた昨年の秋くらいに、飲食店の方にもお客さまにも喜んでもらう企画を打ちたいと思い、安川さんに相談したのです。以前、私が大宮店にいたときに自治体とコラボをした経験があったので、そういったことは可能なのかということを安川さんにお聞きしましたね。

左から jeki 安川 真樹、ルミネ 隅田 朝子氏

安川:隅田さんから連絡を受けて、自治体にとっても新宿でプロモーションを行えるのは魅力的な話だと思いましたので、さっそくjekiの地域創生に携わる部署や各支店に連絡を入れて、ルミネエストさんにマッチするような案件を探しました。その後いくつか提案をもらい、そのうちのひとつが筑西市のイチゴでした。

枝川:じつはjekiと筑西市は2016年から筑西市の農産物ブランド化推進事業を進めていまして、ちょうど実際に食べていただくようなイベントはないものかと考えていたのです。それで安川さんからのメールに、すぐに反応しました。筑西市はいろんな作物が採れますが、小玉スイカ、梨、イチゴの3種を重点的に推していたこと、時期的にイチゴがぴったりということもあり、真っ先に筑西市役所の鶴見さんに連絡したわけです。

鶴見:枝川さんから御連絡いただき、すぐに立候補をお願いしました。迷いがなかったのは、我々にとっては知名度向上がとても重要な課題だったからです。今や店舗だけでなくECでも農産物を買えるようになっていますから、消費者が生産地を指名できる時代です。我々としては「名もなき産地」のままではいずれ選んでもらえなくなるという危機感がありましたから、ルミネエスト新宿で名前が出るというのは大きなチャンスと捉えました。それですぐに、これまでも農産物PRにご協力いただいていたKEKさんにお声がけしました。もちろん、谷畑さんもこの話に飛びついてくれると思ったのも理由のひとつです(笑)。

筑西市経済部農政課 鶴見 武史氏

谷畑:もちろん飛びつきました(笑)。生産者は一生懸命美味しいイチゴをつくるのですが、出荷した後は、どんな風に消費されているのかがわかりません。しかし、今回のフェアならば「おらげのいちごが、新宿に行ってるぞ」って感じで見えますし、感想もフィードバックできます。これは生産者の意欲向上にとってもよい話だと思ったのです。しかし、他にも候補があったと聞いていますが、筑西を選ばれた決め手はどういったところだったのですか。

隅田:ルミネエスト新宿のターゲットは10代後半~20代前半の女性と、ルミネの中でも最も若い層です。イチゴは、味はもちろん、見栄えのよさがその層に人気で、飲食店へのヒアリングでも高い人気だったというのが大きな理由です。加えて、これは私の個人的な意見ですが、私自身、北関東の出身でして、都道府県の魅力度ランキングで北関東の順位はあまり高くないじゃないですか。それで、少しでも魅力を発信するお手伝いができないかと考え選ばせていただきました(笑)。

枝川 鶴見 谷畑:ありがとうございます(笑)。

小規模産地だから生きる細かな対応力

安川:お客さまのフェアに対する反応はいかがですか?

隅田:同じタイミングでまん延防止等重点措置が出てしまい客数こそ伸び悩んでいるのですが、メニューの金額の割にイチゴがたくさん乗っていると、お客さまの満足度は高いようです。スタッフからの反応は特によく、最初にイチゴを試食したときには「こんなに大粒で甘いんだ」と驚かれるほどでした。それで、当初10店舗くらいの参加の予定が17店舗にまで拡大しました。イチゴは今、単価も高く米国産を使用しているショップもありますが、筑西市産のイチゴは甘くて濃厚で味がよいので、そういう意味でも、この企画は喜ばれましたね。

谷畑:美味しいと言っていただけて光栄ですが、その理由は完熟で新鮮だからです。完熟させると甘く、味が濃くなりますが、一方で傷みやすくなってしまうので、通常は完熟する前に収穫してしまいます。更に、流通しているものですと店頭で販売するまでに3日くらいかかってしまいます。でも、今回は完熟したイチゴを朝収穫し、そのまま送って、翌日にはデザートになるのですから、完熟の美味しいイチゴを食べてもらえるわけです。イチゴはもぎたてがいちばん美味しいですからね。

鶴見:これはKEKさんの小規模ならではの機動力が発揮されたからだと思います。大きな産地であれば、完熟したものだけを摘もうとしても広すぎて難しく、箱詰めにも時間が取られます。でもKEKさんは選果機の導入によって選別が機械化されており、生産と選別、箱詰めが完全に分業化されているので、生産者は生産管理と収穫だけに注力できる動きやすい環境だったからでしょうね。

jeki 枝川 秀樹

枝川:もうひとつ、我々が嬉しかったのは、筑西市ノベルティ配布の協力をいただけたことでした。食べていただくにしても、ただ美味しいと思ってもらうだけでなく、筑西市産のイチゴなんだと認識してもらうことが大事だったのでありがたかったですね。

隅田:地域のご紹介のなかでイチゴのコースターですとか筑西市のステッカーなどを使わせていただいたのですが、とてもかわいいと好評でした。正直、データでいただいた時には大丈夫かなぁと思っていたのですが(笑)、実物が納品されると、20代前半の若い社員がかわいいと言い出し、コースターを切り抜いてスマートフォンの裏に貼るスタッフもいましたよ。

鶴見:自分も隅田さんと同じことを思っていたので、受け入れていただけてほっとしています(笑)。

隅田:ちなみにこのポスターに載っているご当地キャラのちっくんも好評でした!

筑西市のご当地キャラ「ちっくん」

鶴見:ありがとうございます! 無難にかわいい「ちっくん」ですね。正直言いますと、当初からポスターに「ちっくん」はぜひ入れたいと思っていたのですが、ちっくんが入ることでルミネエストさんのイメージを崩してしまうのではないかと思い迷っていました。しかし、枝川さんが「入れるべきです!」と背中を押してくださったので入れることにしました。結果として、入れて正解でしたね。

隅田:確かにデザインについては、ルミネでは一定のブランドイメージ基準をもうけているのですが、自治体とのコラボということもあり、しっかりと筑西市産のイチゴであることを伝えたかったので文字だけでなく、今回はちっくんを使うことでさらに魅力を伝えられたと思います。

安川:最後に、今回のフェアを改めて振り返っていかがですか。

鶴見:本来、こうしたフェアは、北海道や九州、あるいは都道府県規模で行うものだと思うのですが、筑西市という小さな市でトライしていただけたのは嬉しく、大きなチャンスとなりました。今回、市場を経由せずに生産団体から直接お届けしたことで完熟の美味しさをお届けできたので、小規模産地ならではの強みが発揮できたと思います。消費者の方々にも、筑西市という初めて聞く街の名前だったかもしれませんが、新たな発見になったと思います。筑西市には他にも、梨や小玉スイカ、フルーツトマトなど魅力的な作物がたくさんあるので、また取り上げていただければ、小さな地方自治体にとって大きなチャンスになります。また、消費者の皆さまには新たな発見を提供できるのではないかと思います。

協和園芸開発株式会社(KEK) 谷畑 尚吾氏

谷畑:今回のフェアに携わらせてもらってよかったのは、我々は「美味しいものを食べてもらいたい」、ルミネエストさんは「お客さまに喜んでもらいたい」と、まったく同じベクトルで仕事をしていたのだなと感じられたことでした。ぜひ、またご一緒させていただきたいと思います。その時にはスーパーフルーツトマト「てるて姫」を推したいと思います。大玉なのに糖度が9度以上と、全国でも他に類を見ない希少なトマトです。3~5月が旬のシーズンなので隅田さん、いかがでしょうか(笑)。

隅田:売り込みありがとうございます(笑)。我々としても、こうした自治体さんとのコラボは会社としてもよかったと思いますし、筑西市さんのイチゴが第一弾でよかったです。イチゴはもちろんですが、鶴見さんや谷畑さんの人柄にふれたことで、筑西市のよさが伝わりました。今後もいろんな形で自治体さんとのコラボを行っていけたらと思っています。

枝川:こうした人のつながりにJRグループのアセットを加えれば地域の課題ももっと解決していけるので、安川さんも私もお手伝いができるような提案をしていきたいですね。

安川:そうですね。私としてもこうしたフェアを起点に、人を地方へ誘導するような取り組みにまで広げていければと思っています。皆さま、本日はありがとうございました。

【シリーズ  地域創生ビジネスを「ひらこう。」】
(1) 地域創生を担う人材をどう育てているのか―ふるさとプロデューサー育成支援事業
(2) なぜ、いまjekiは地域創生に力を入れるのか
(3) 地域をつなぐ懸け橋として「TRAIN SUITE 四季島」のブランディングの裏側
(4)住民参加による「郷土愛・魅力創造」のまちづくり 北海道・芽室町の挑戦
(5)インキュベーション施設「わくばにかほ」がひらく、新たな起業の形 ~秋田県にかほ市
(6)「酒蔵ツーリズム」で広がる地域の魅力
(7)札幌駅前にできた×Station01から地域創生は生まれる
(8)食文化を通じて街を元気にする漁師町のプロジェクト ~福井県高浜町
(9)「お金の支援だけじゃない」地元銀行だからできる群馬経済の活性化
(10)「複業」で8割東京、2割地域を目指す 長野県佐久市YOBOZE!プロジェクト
(11)アンテナショップが担う知られざる役割。いしかわ百万石物語 江戸本店
(12)震災から10年、支援への感謝を込めて「東北」からのメッセージ~東北ハウス 
(13)我が街の美味しさをもっと知ってほしい。ルミネエスト新宿の「Sweetいちごフェア」@茨城県筑西市
(14)コロナ禍でも地域創生はできる!岩手・青森のGo To Eat事業
(15)環境省「令和3年度地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業」
(16)「インバウンド解禁」も素直に喜べない日本の課題
(17)世界遺産登録を目指す佐渡発。観光からはじまる社会課題解決

枝川 秀樹
jeki水戸支店 営業第二部 部長代理
広告代理店を経て2016年jeki入社。同年より筑西市農産物ブランド化推進事業に従事。茨城県内各自治体の地方創生や地域活性化などシティプロモーションに携わる他、一般クライアントも担当。官民含めた地域の魅力発信に取り組む。

安川 真樹
jeki JR第二営業局第一部
大手広告会社で外食企業、精密機器メーカーなどのプロモーションを担当、SPからマスメディアまで幅広く経験。2016年12月にjeki入社後、駅ビル商業施設のプロモーションに携わりつつ、一般クライアントの課題解決にも取り組む。

鶴見 武史
筑西市経済部農政課 販売戦略グループ 主任
大学卒業後、民間企業での営業職を経て、筑西市職員となる。
医療保険関係部署、米の生産調整関係部署、茨城県庁農林水産部への出向後、現在、農政課で市内産農産物のブランド化推進、PR事業を中心に取り組む。

谷畑 尚吾
協和園芸開発株式会社(KEK)
大学院修了後、ベトナムでの教育支援、東京での営業職を経て地元茨城へUターン。
2019年KEK入社。野菜ソムリエの資格を取得し、イチゴなど自社で扱う作物の企画・販売・PRを担当するほか、グループ会社NKKアグリドリーム主任を兼任し、スーパーフルーツトマトの市場出荷に従事。生産者と消費者の距離が近づく企画・販売に取り組む。

隅田 朝子
株式会社ルミネ ルミネエスト新宿店 営業部 販売促進グループ フロアマスター(現 株式会社ルミネ 営業本部 海外事業部)
大学では地域・観光政策を専攻し、2015年株式会社ルミネに入社。
フロアマスターとしてファッション/レストランショップの運営サポートを行いつつ、販売促進グループとして来館促進を目的としたイベントやキャンペーンの企画運営を幅広く実施。

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日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
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