シリーズ  地域ビジネスを「ひらこう。」①
「地域創生を担う人材をどう育てているのか―ふるさとプロデューサー育成支援事業」

地域創生NOW VOL.11

写真左:株式会社honshoku プランニングディレクター 大森愛
写真右:株式会社ジェイアール東日本企画 ソーシャルビジネスプロデュース局 山﨑 卓

地域創生に必要な「ヒト・モノ・カネ」のなかで、もっとも重要とされる「人」。とりわけ地域の核となり様々な分野の人をつなぐプロデューサー的な人材が求められている。ジェイアール東日本企画(以下、jeki)は、2016年から地域人材の育成事業に携わっており、今では巣立った人材の多くが各地で活躍する。

では、地域に求められる人材にはどういった資質が必要なのか、どのような育成方法で行っているのか、事業に携わってきたソーシャルビジネス・地域創生本部の山﨑卓が、「ふるさとプロデューサー育成」事業を受講した大森愛氏を迎えて、事業を振り返り、地域創生に取り組むうえで大事なことや、人がつながることで生まれた新たな地域プロジェクトについて語った。

地域創生を担うふるさとプロデューサーとは

「地域プロデューサー」の育成を目的とする「ふるさとプロデューサー育成支援事業(2014~18年度)」は、15年に経済産業省・中小企業庁の支援事業としてスタート。16年からはjekiも参画し、海外などの域外市場の開拓を目指す「ふるさとグローバルプロデューサー」の育成も行うなど拡大していった。そして19年に、デザイン経営によって商品だけでなく企業自体も強化する「ローカルデザイナー育成支援に関する委託事業」へとつながっていった。いずれも地域の持続的な発展を支えるために商業活動をテーマにした人材育成を行っている。

地域に足りない“まとめてくれる人”

山﨑:大森さんが「ふるさとプロデューサー育成支援事業(以下、ふるプロ)」に参加したのは2018年度でしたね。

大森:そうですね。4期目の後期事業、18年の9月から翌3月までの半年間、ふるプロに参加しました。当時、伝統工芸品の買い付けやPRの仕事をしていまして、工芸品の職人さんたちとの出会いがありました。職人一人一人に寄り添うことはもちろん大切ですが、その活動をしている地域全体に入り込んで伴走していく必要性にも気づきはじめていた時期に、たまたまSNSでふるプロの告知を見つけ、数人の友人が「いいね!」を押していたこともあって興味を覚え、ひとまず話を聞きに行くことにしました。

山﨑:応募説明会に参加されたのですね。それで応募を決めたわけですね。

大森:いや(笑)。最初は地域創生とかよくわからなかったこともあって、参加しようとは思いませんでした。さらに言えば伝統工芸に関わる仕事も辞めることになっていましたので、ぜひとも、とはならなかったですしね。とはいえ、困っていた職人さんたちの役に立ちたいとの思いもありましたし、続けられなかったら、その時はその時かと思い、悩んだ結果参加することに決めました。

山﨑:そうだったとは…(笑)。確かに、ふるさとプロデューサーというのは、ひとつのモノをつくるとか、ひとつのプロジェクトに参加するというわけではなく、地域を俯瞰的に見ることが求められるものですから。なかなか伝わりづらいところがあったかもしれません。

大森:いまではこのプロジェクトの重要性を理解できますが、当時は地域に人をつなぐプロデューサーがいるということ自体に驚きを覚えました。

山﨑:プロジェクトを立ち上げた中小企業庁は、中小企業の一事業者が商品の企画から生産、販路開拓まで行うのは難しいのではと思っていたそうです。実際、うまくいった事例も少なかったようで、うまくいっていても、属人的といえるようなケースばかりだったそうです。

そこで、補完しあえるチーム体制にすればよいのではないかと求められたのが、ふるさとをまとめるプロデューサー的人材だったわけです。全国各地には、ふるさとをプロデュースする先人がいらっしゃいます。街づくり、農業、モノづくりといった得意分野を持つ地域のプロフェッショナルで、その方々の近くでノウハウを学ぶカバン持ちのような研修を採り入れていました。

中小企業庁 ふるさとプロデューサー育成支援事業(2018年9月) 宮城県秋保研修より

自分のやり方を見つけることが“ふるプロ”のゴール

山﨑:研修には20日間プログラムと、60日間プログラムの2コースあり、60日間の方は、第一線のふるさとプロデューサーのもとで現場実習を積みながら学ぶのですが、大森さんは視察と座学が中心の20日間研修でしたよね。

大森:私が参加した20日間プログラムの方は、土日を使って地域活性化を行う地域に1泊2日で入り、初日は現場で地域のキープレーヤーから取り組みや課題のヒアリングを、2日目は課題に対して自分が感じたこと、課題を解決するならばどのようなことができるかを一緒に訪問した仲間たちと、チームをつくってプレゼンテーションを行う研修でした。訪れた地域も熊本の天草や山形の高畠、宮城の秋保、それから埼玉の秩父と各地で学ばせてもらいましたね。

中小企業庁 ふるさとプロデューサー育成支援事業(2018年12月) 山形県高畠町研修より

山﨑:先進的な現場をまわり、地域の問題点や課題を考え、ディスカッションしていく。どちらのプログラムも参加されている方はご自身が地域の課題をお持ちだったので、自分たちが関わる地域をいかにプロデュースしていくかを最終的なゴールとしながら取り組んでいましたね。

ところで、研修でいろんなことを学んだと思いますが、印象的な学びはありましたか。

大森:どこも学びが多かったですね。例えば宮城の秋保は、活性化の動きをチームで行っているところが印象的でした。奥州三名湯のひとつである秋保温泉の温泉街で、エリアの人たちを巻き込んでサイクリング、古民家を改装したカフェなどつくり込んでいく現場にワクワクしました。

山﨑:ふるプロでも、最初はチームづくりを意識していますからね。どうやってチーム化するか、地域を巻き込んでいくかに力点を置いています。秋保は私もワクワクしますよ。

大森:巻き込んでいく力でいえば、山形県高畠町の研修で出会った、「ゆみちゃん」と地域の中で慕われている女性との出会いは印象的でした。

山﨑:どういったところですか。

大森:ゆみちゃんは高畠町の研修の際に料理を作ってくださり、もてなしてくださった地元の方です。お孫さんもいらして私からしたら大先輩なのですが、とてもパワフルで明るくて元気!短い時間ではありましたが、すっかり仲良くなりました。彼女は日々の暮らしを豊かに重ねていて、やりたいと思ったことは即行動。周りにいる人たちをいつの間にか巻き込み、そして次々と笑顔にする力を持っていて、私もすっかりゆみちゃんの魅力に惹きつけられました。

ゆみちゃんに出会ったことで、地域の人たちを巻き込もう!とか、変に意識せず自然体でいいんだな、と思うようになりました。同時に、その人のやりたい気持ちであるとか、思いがきちんと伝われば、周囲も動き出すということに気づけましたね。

山﨑:では、目指すはゆみちゃんですか。

大森:それは難しいなぁ(笑)、でもそれでいいんだと、思わせてくれる方なのです。そういう意味では、ふるプロには決まった型がないですよね。

山﨑:そうです。人と人との関係に正解はないですからね。逆にそれが難しいところでもあるわけです。

中小企業庁 ふるさとプロデューサー育成支援事業(2018年9月) 宮城県秋保研修より

人がつながると、地域がもっと元気になる

山﨑:最近、ふるプロのご縁で地域活性化のプロジェクトを行ったそうですね。

大森:ふるプロ講師だった中川勇志さんの地元である熊本市にある川尻商店街の観光誘客事業に携わりました。
時間が半年と限られていたのでかなりハードではありましたが、エリアの拠点づくりや地域ポイントのシステムの導入などのブランディングをさせていただきました。

川尻を地域みんなで応援する仕組みとしての地域ポイントは、ポイントの一部が精霊流しなど地域文化の継承に使われます。でも、それは売り上げの一部を寄付することでもあり、小さな商店街にとっては協力したい気持ちがあっても大きな負担と感じる方もいらっしゃいます。かなり難易度の高い事業ではありましたが、この事業に関わる地域の方々が「なぜ今、この事業をするべきなのか」について熊本市に対しても説明を行い、地域の方々にも何度も説明会を行いました。さらには決意表明として記者発表を行ったりしたことでその思いが伝わり、賛同者が目に見えて増えていきました。

半年間関わらせていただく中で印象的だったことがあります。それは「商店街は稼ぐだけでなく手を取り合って暮らしていくための大切なコミュニティなんだ」という商店街の会長さんの言葉です。私にとっても何のために稼ぐのか、なぜ、ここに住むのか、といった地域に携わる理由や喜びに気づかせてくれた言葉です。

山﨑:私にとって、ふるプロがもたらした喜びは、人とのつながり、そして、そのつながりが新たなつながりを生み出すことです。そういう意味でもこの事業は嬉しいですし、もっと人がつながり、広がって欲しいです。本日はありがとうございました!

山﨑 卓
jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部
ソーシャルビジネスプロデュース局 第2部
広告会社で官公庁、民間企業のイベントを中心としたプロモーションに携わり、2016年よりソーシャルビジネス開発局に在籍。主に中央省庁の案件に取り組む。地方の人材の育成事業を始めとして、地域と伴走しながら様々な事業に取り組んでいる。

大森愛
株式会社honshoku プランニングディレクター
大学卒業後、広告代理店の企画営業を経て、現在は地域のブランディングや日本の伝統工芸や食に関わる事業に参画し企画・伴走している。食のクリエイティブチームhonshoku所属。食の学び舎foodskole(フードスコーレ)の副校長もつとめる。

【シリーズ  地域ビジネスを「ひらこう。」】
(1) 地域創生を担う人材をどう育てているのか―ふるさとプロデューサー育成支援事業
(2) なぜ、いまjekiは地域創生に力を入れるのか
(3) 地域をつなぐ懸け橋として「TRAIN SUITE 四季島」のブランディングの裏側
(4)住民参加による「郷土愛・魅力創造」のまちづくり 北海道・芽室町の挑戦
(5)インキュベーション施設「わくばにかほ」がひらく、新たな起業の形 ~秋田県にかほ市
(6)「酒蔵ツーリズム」で広がる地域の魅力
(7)札幌駅前にできた×Station01から地域創生は生まれる
(8)食文化を通じて街を元気にする漁師町のプロジェクト ~福井県高浜町
(9)「お金の支援だけじゃない」地元銀行だからできる群馬経済の活性化
(10)「複業」で8割東京、2割地域を目指す。長野県佐久市YOBOZE!プロジェクト
(11)アンテナショップが担う知られざる役割。いしかわ百万石物語 江戸本店
(12)震災から10年、支援への感謝を込めて「東北」からのメッセージ~東北ハウス
(13)我が街の美味しさをもっと知ってほしい。ルミネエスト新宿の「Sweetいちごフェア」@茨城県筑西市
(14)コロナ禍でも地域創生はできる!岩手・青森のGo To Eat事業
(15)環境省「令和3年度地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業」
(16)「インバウンド解禁」も素直に喜べない日本の課題
(17)世界遺産登録を目指す佐渡発。観光からはじまる社会課題解決

地域創生NOW

日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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