シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」⑭
コロナ禍でも地域創生はできる!岩手・青森のGo To Eat事業

地域創生NOW VOL.24

写真左から)
jeki 盛岡支店 青森営業所 部長代理 生江 祐亮
赤い鳥 三宮 和子氏
jeki 盛岡支店 高橋 亮

新型コロナウイルスの感染拡大は、経済活動や人の移動など社会を著しく停滞させたが、地域が抱える課題と向き合う地域創生活動もまた、大きな制限を受けた。しかしコロナ禍ならではの地域支援事業も新たに生まれている。その代表が「Go To トラベル」であり、「Go To Eat」である。特にGo To Eatは飲食店への支援にばかり注目されるが、飲食店で扱う食材を生産する農業、水産業に携わる人たちにとっても大きな支えになる。

そこで、ジェイアール東日本企画(jeki)の各支店・支社・営業所は、宮城、福島、山形、秋田、岩手、青森、石川の各県でそれぞれGo To Eat事業に参画。地域の飲食店、地域の食を担う生産者のサポートを行った。その中で、岩手と青森の現場に携わった盛岡支店の高橋亮と、青森営業所の副所長である生江祐亮が、盛岡市内で飲食店「赤い鳥」盛岡駅前店を営み、Go To Eatにも参加した三宮和子さんを迎え、コロナ禍での地域創生事業について振り返った。

支援したいのは飲食店を含めた食に関わる人たち

高橋:生江さんとはこれまで、同じ支店とはいえ岩手と青森と離れていたこともあり、地域創生活動を含め、仕事をご一緒することがほとんどなかったですね。

生江:そうですね。青森の地域創生だとJR東日本と一緒に観光需要をどうやって盛り上げるかといった活動が多く、復興関連も岩手のように多くはありません。そう考えれば、ご一緒したのは、東京都の東日本大震災復興応援・復興フォーラムくらいですかね。

高橋:そうですね。それと、東北絆まつりですね。岩手ではおっしゃる通り、地域創生活動は震災復興の関連事業が多く、特に三陸地方への誘客がメインでした。でも、新型コロナの感染拡大ですべてがストップしてしまいました。コロナで打撃を受けたといえば、飲食店を営む三宮さんも大変だったのではないですか。

三宮:そうですね。近くの会社の多くがテレワークに変わったこともありますが、駅前なので近くのホテルに泊まられている出張のお客さんが、ぐっと減りましたね。

生江:私の方も新幹線がガラガラになり、お客さんがいなくなったことで、イベントなど、当たり前にあった仕事もなくなりましたからね。そんな時に盛岡支店がGo To Eatに携わると聞いて、我々も2次公募からでしたが参画することになったわけです。こういった事業のノウハウというのは盛岡支店としてもともとあったのですか。

高橋:復興事業と関わりが深かったこともあり、安倍政権時代に地方創生事業として行われた「ふるさと旅行券事業」を行った、そのノウハウ、経験が生きました。Go To Eatに参加しようと考えたのも、農林水産省が行うと聞いたので、飲食店だけでなく地域の一次産業にとっても追い風になると思ったからです。もちろん、飲食店に対してもクラスターが発生して風当たりが強くなっていた時だったのでイメージを払拭するよい機会だと思っていました。

三宮:お店を開けるにしても難しい時期でしたからね。

生江:私も地域の生産者さんたちの苦境を聞いていました。青森県のある漁港は、漁獲高が多くないため、これまでは売り先に困ることはなかったそうですが、コロナで需要が一気に収縮したことで売り先に困るようになったそうです。Go To Eatという事業はそうした一次産業はもとより、二次産業にまで広く恩恵が行き渡るので、青森営業所としても2次公募から参加させていただきました。赤い鳥さんにとってもGo To Eatは助けになりましたか。

三宮:助けになりました。仕組みがわからなくても事務局の高橋さんが近くでランチにもよく来てくださっていたので「どうするの?」って聞けましたしね(笑)。

地域の実情に合った地域創生事業だったGo To Eat

高橋:Go To Eatの事業は、そもそもチケットを何枚発行すればよいかといった事業規模からして、こちらからの提案で決まる設計でした。地域の実情に合った施策が行えるのでよいのですが、例えば事業規模をあんまり大きく設定しても、「あなたたちホントにできるの」と言われてしまいますし、小さくてもダメ。意外と難しかったですね。また、飲食店さんも利用者さんも初めてのことですから、コールセンターなども必要になるため、我々の得意でない分野に関してはパートナーとなる企業と手を組み、一緒になって進めていきました。

生江:青森営業所は逆に、盛岡支店のパートナーだった企業の青森支店から「一緒にやりませんか」と声がけしていただきました。ただ青森チームは、両社ともノウハウが少なく、苦労しました(笑)。そういうわけで、高橋さんたち盛岡チームをはじめ、jekiの東北の支店の中でも秋田や宮城、福島、それから山形も広報分野に携わっていたのでホントに助けてもらいました。

三宮:事務局は大変だったのですね。ウチのお店でも多くの方が食事券を使っていましたし、いい制度だったと思いますね。ただ、その使用された食事券がすべて事務局に送られてくると考えれば、その精算は大変だったでしょう。

高橋:精算“も”大変でした(笑)。何しろ、立ち上げ時は「Go To Eatとはなんぞや」という問い合わせがコールセンターにじゃんじゃん架かってきましたし、1ヶ月も経てば、今度は利用した食事券の精算業務がはじまります。段ボールで食事券が送られてきますからね。

生江:しかも食事券は1枚でも合わなければ数え直し。でも、飲食店の多くが現金収入を必要としていた時期で、それを食事券で立て替えしている状況なのでミスがあってはいけないと慎重に進めたことを思い出します。

高橋:そうでしたね。我々のように地方にいると、国の給付に関する事業に関わることはほとんどないのですが、Go To Eatは各県ごとの事業ですから地元に貢献している実感があったんですよね。

生江:私もそれは感じました。Go To トラベルは、全国一律で、還元されている場所が見えづらかったのですが、Go To Eatは生産者、飲食店含めて地元が見えましたからね。それがモチベーションになりましたね。

高橋:県民性を感じるところもあって、岩手はコロナの感染が広がると一気に食事券が売れなくなり、利用もなくなるわけです。でも、ちょっと状況が良くなると今度は急に売れだす。また、首都圏だとSNSなどデジタルの利用が多いのですが、地方は高齢者も多いので食事券は紙のほうがよいわけです。

生江:我々も高齢者が多いという理由から紙ベースで進めましたし、500円券にしたこともよかったと思います。例えばこれが1000円券をつくったとしたら、おつりが出ない仕組みですからランチでは使えません。青森のランチ代は高くないですから1000円券でいけば、売れなかったと思います。

GoToEatキャンペーンで発行された岩手県のプレミアム付き食事券。本券を使用することで、消費者はお得に飲食ができ、同時に飲食店・生産者の支援ができる仕組み。

高橋:私も500円券は正解だったと思います。でも、数える枚数は倍になりますけどね(笑)。

生江:印刷などコストも2倍(笑)。でも、こちらの手間が倍になっても地域のためにはよかったと思っています。

コロナ転じて福となす 新たな事業とは⁉

高橋:Go To Eat事業は、当初21年6月で終わりだったのですが、コロナ対策を行っている店舗の認証制度と紐づけたいという岩手県の意向もあり、県庁の各部署や商工会関係者などと協議を重ね、調整を行うことで、第2弾を2ヶ月で準備し延長しました。うまくいくか心配していましたが、結果的には、第1弾よりも参加店が増え、岩手県の飲食店認証制度は成功しています。jekiは調整役として参加し、赤い鳥さんも認証をとっていただきました。

三宮:そうですね。おかげでお客さまには安心して飲んで食べていただけますし、認証の導入時もわからないことは高橋さんに聞けばよかったですからね(笑)。

生江:岩手県は、Go To Eatというインセンティブを追い風に凄くうまくされていますよね。一方の青森県はコロナ対策としての側面が強く、Go To Eatとは別のタイミングで認証事業をはじめました。ただ、まん延防止等重点措置が一部の街で延長になったことで、認証があれば、20時までですがお酒が出せますから取得される飲食店さんが増えだしています。
こうして振り返ると、感染拡大でいろんな制約ができましたが、一方でこれまで以上に支店間や他企業とのコミュニケーションは深まり、地域に対しても新たな活動ができるのではないかと思いはじめています。そう感じませんか。

GoToEatキャンペーンをきっかけとして、北東北の更なる連携へ。

高橋:私は、今回の支店間をはじめとする連携の深化を移住、定住の取組にも生かしたいと考えています。例えば、移住したい県を挙げてくださいと言っても、Uターンを別にすればなかなか出てきません。でも、東北に移住したいとおっしゃる方は結構多いので、例えば岩手と青森、秋田が組んで北東北としておススメできれば、もっと多くの提案ができると思います。その他のことでも県を超えて挑戦したいですね。Go To Eatによってそんな土壌ができたのではないでしょうか。

生江:青森と岩手は人口もほぼ一緒ですし、人口構成比も似ています。社会課題も一緒なのでいろいろとできる気がしますね。ちなみに、三宮さんが、Go To Eatのように新たな支援を受けられるとすればどんな支援がいいですか。

三宮:そうですねぇ。もう一度Go To Eatでもいいですし、お店の前の人通りがもっとにぎやかになるといいですね(笑)。

生江:それは高橋さんが足繁くお店に通うところからはじめるしかないですね(笑)。

【シリーズ  地域創生ビジネスを「ひらこう。」】
(1) 地域創生を担う人材をどう育てているのか―ふるさとプロデューサー育成支援事業
(2) なぜ、いまjekiは地域創生に力を入れるのか
(3) 地域をつなぐ懸け橋として「TRAIN SUITE 四季島」のブランディングの裏側
(4)住民参加による「郷土愛・魅力創造」のまちづくり 北海道・芽室町の挑戦
(5)インキュベーション施設「わくばにかほ」がひらく、新たな起業の形 ~秋田県にかほ市
(6)「酒蔵ツーリズム」で広がる地域の魅力
(7)札幌駅前にできた×Station01から地域創生は生まれる
(8)食文化を通じて街を元気にする漁師町のプロジェクト ~福井県高浜町
(9)「お金の支援だけじゃない」地元銀行だからできる群馬経済の活性化
(10)「複業」で8割東京、2割地域を目指す 長野県佐久市YOBOZE!プロジェクト
(11)アンテナショップが担う知られざる役割。いしかわ百万石物語 江戸本店
(12)震災から10年、支援への感謝を込めて「東北」からのメッセージ~東北ハウス 
(13)我が街の美味しさをもっと知ってほしい。ルミネエスト新宿の「Sweetいちごフェア」@茨城県筑西市
(14)コロナ禍でも地域創生はできる!岩手・青森のGo To Eat事業
(15)環境省「令和3年度地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業」
(16)「インバウンド解禁」も素直に喜べない日本の課題
(17)世界遺産登録を目指す佐渡発。観光からはじまる社会課題解決

高橋 亮
jeki盛岡支店 営業二部
音楽業界で雑誌編集、広報宣伝、イベント企画制作等の業務を経験し、震災後、Uターンを機に広告業界に転職。新聞社系広告会社を経て、2017年3月jeki入社。これまでに、岩手県自治体の食農流通、地域産業振興、震災復興に関わる情報発信事業等に従事。

生江 祐亮
jeki盛岡支店 青森営業所 部長代理
2014年jeki入社。主にJR東日本、青森県内の自治体等を担当。2019年より現職。

三宮 和子
赤い鳥
震災復興の関わりから生まれた縁で、愛知県の株式会社 鳥重商店の支援を受けて、2014年7月、盛岡市駅前北通に焼き鳥店「赤い鳥」を開店。岩手県洋野町産の銘柄鶏「純和鶏(たつの)」を丸のまま仕入れ、職人が厨房で手さばきする鮮度抜群の鶏料理と岩手の地酒を、夫婦二人三脚で日々提供している。

上記ライター生江 祐亮
(盛岡支店 青森営業所)の記事

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