日本最大級・最新の360度3Dシアターに全面リニューアル 青森県の地域活性を目指し、デジタルが実現する「本物の観光体験」

地域創生NOW VOL.4

(写真中) 公益社団法人青森県観光連盟 専務理事 高坂 幹氏
(写真左) ジェイアール東日本企画 盛岡支店 青森営業所 生江 祐亮
(写真右) ジェイアール東日本企画 エクスペリエンシャル・プロモーション局 プロモーショナル・デザイン部 浅川 真

青森県の観光情報発信の場として毎日多くの観光客が訪れている青森県観光物産館アスパム。2019年3月15日、同館2階にある「青い森ホール」が、日本最大級の360度3Dデジタル映像シアターとしてリニューアルオープンし、間もなくグランドオープンを迎える予定です。このリニューアルは青森県の観光のみならず、地域活性への足掛かりとして大きな期待が寄せられたプロジェクトです。jekiはこのリニューアルプロジェクトに参画。映像機器のリニューアルをはじめ、映像コンテンツの制作などに全面的に携わっています。

そこで、リニューアルを機にデジタル化へ移行した目的や、今後のホールの展望について、jeki青森営業所の生江と、エクスペリエンシャル・プロモーション局プロモーショナル・デザイン部の浅川が青森県観光連盟の高坂幹専務理事にお聞きしました。

※記事は7月16日時点。2019年7月27日グランドオープン


観光紹介映像を流すだけのホールから、最新鋭の機材で多面的な使い方ができるホールへ

生江:今回「青い森ホール」をリニューアルしようと思われたのはどのような理由からでしたか。

高坂:ホールができたのは今から 33年前です。リニューアル前のホールはアナログの映写機9台をぐるっと円形に配置して正面に映像を流すという方式で上映していました。古いフィルムの映写機でしたから、1回上映が終わったらフィルムを巻き直すということを繰り返しながら運営していましたが、機材も古くなり、人件費もかかっていました。また、ホールも映像を流す以外に利用できず、とてももったいない空間になっていました。

そこで、リニューアルではまず最新のデジタル機器に一新したかった。デジタル機器により、映像の物理的制約もなくなり、角度補正もしやすい。またほとんどの壁面をスクリーンにしたら、大きな画面で没入感のある映像をお客様に提供できるのではと考えたんです。

「青い森ホール」エントランス

「青い森ホール」内

高坂:さらに映像上映以外の使い方、それはjekiさんからもご提案いただきましたけれども、複合的な使い方ができるような施設にしたかった。例えば郷土芸能と映像のコラボレーションだとか、シンポジウムとかプレゼンテーションなどもできるようにしたかったし、今だったら人気のeスポーツのパブリックビューイングだとか、そういったこともいろいろできるなと。

もちろん観光情報の発信拠点としても機能しますけれども、もっと多面的な使い方をして、県民をはじめ、観光客の皆さんに楽しんでいただく、そんな機能強化をしたいということで、全面リニューアルに踏み切りました。



収容人数を増やすため、新たな投影「反射方式」にチャレンジ

浅川:専務は一級建築士でもいらっしゃるので、スクリーンの大きさを1.5倍にしよう、消防設備ならこうしたらいいのではと、施設に対しての希望が具体的で、やはり建築士ならではのお考えがあるという感じがしました。その点では私どもも、非常に仕事が進めやすかったです。

高坂:今回、リニューアルを進めるにあたって、どんな施設にするか、全国のいろいろな施設を見てきたほか、技術体験もしてきました。

国内でも大きな360度シアターは北海道や愛知県などにもありますが、規模ではうちのほうが大きさも勝ってるし、リニューアルしたら日本一になれるだろうなって思いましたね。

また、ほかのところは、リニューアル前のうちがやっていたような対面から向かい側に映す方式か、天井に機材を放射状に吊って、そこから映すような感じでした。でもこれらの方式だと角度が浅く、お客様の頭で映像に影が出てしまうので、どうしても中心部分に座ってもらわないといけない。そうすると、収用人数も限られ、あの空間の大きさを活かしきれないと思ったんですよ。

リニューアルで実現した反射方式は、jekiさんともいろいろ相談して空間の大きさを活かしきることができたと思います。

プロジェクターから投影された映像を鏡で反射しスクリーンに映す「反射方式」を採用

高坂:どこもやったことがないチャレンジングなものでしたが、プロジェクターを上に向け、設置された鏡に映像を投影し、反射させてスクリーンに映すので、人が座れる範囲が広がる。角度が付いても先に言いました角度補正という技術がありますので、真正面から投影しているように映せるし、曲面補正もしてるので、映像が歪まず平らに見える。あれはすごい技術ですよね。

おかげで、リニューアルしたホールは日本最大級の直経18m、最大定員250名収容できるホールになりました。

青森の四季、祭りのベスト5を凝縮。来場者の記憶に残る映像にする

浅川:今回、映像は県内各地の四季を2Dで、お祭りを3Dで制作しました。青森のことを熟知している現地のプロカメラマンに撮影していただいたんですが、自然相手の撮影ですから天候次第のところもあり、最新鋭の360度8Kカメラに加え、重い機器やドローンなどを持って、冬の八甲田や白神のブナの森に何度も行ってもらうなど、1年を通して大変な作業となりました。専務はこれらのコンテンツ制作に対してどんな思い入れがあったのでしょうか。

高坂:県の観光プロモーションはどうしても総花的になりがちです。県内各所、みんなできれば自分のところを紹介して欲しいわけです。以前の映像もそのようなつくりだったんですが、アンケートを見ると「見終わったあと何を見たか思い出せない」という回答があるなど、お客様目線で考えられてなかったという思いがありました。

そこで今回は思い切って、春夏秋冬を分け、なおかつある程度の地域バランスは考えるけれども「青森の『春』といえば、ベスト5はこれ」という割り切りをしました。

高坂:映像の時間も考慮しました。アンケートでは20分は長いという回答もあったんです。当館の1階が土産物売り場ですが、20分だと買い物する時間がないと言われて。なので四季の映像は約6分、3Dのお祭りは約7分、合わせて約13分と短くしました。

生江:なるほど。例えば団体だとバスで来て、おそらく30~40分の滞在時間しかないでしょうから、20分取られたら確かに買い物の時間がない。

3D映像なら青森の祭り!まるでそこにいるかのような臨場感を提供

高坂:そうなんです。それで短くコンパクトに、春夏秋冬一押しのコンテンツを中心に訴えかけたかったんです。

あとは3Dの最新技術を使うこと。それならばまずは祭りをやろうと。ここは青森観光のゲートウェイです。例えば観光ツアーのお客様たちは、まずうちに来ますので、おいでになったお客様にまず青森の魅力をお伝えし、県内各地に関心を持って出向いていただく。そういう役目をシアターが果たしたいというのがありました。だからお祭りも「青森のねぶた祭」だけではなく、主要なお祭りは全部入れたわけですね。

もうひとつ3Dにこだわったというのは、臨場感と没入感。特にお祭りの場合は、そこにいるかのような体験はやっぱり必要と思いましたので、3Dにこだわったんですよ。当館の隣には本物のねぶたを展示する「ねぶたの家ワ・ラッセ」がありますがそれは動かないんです。そこはうちがちょっと補完して、ねぶたが動くところを見せ、「五所川原立佞武多(たちねぷた)」やほかのお祭りも同じように、そこにいるかのように見えることにこだわらせてもらいました。jekiさんには3D撮影でとても苦労をかけましたが(笑)。

生江:専務も撮影には同行していただきましたが、360度カメラなので、ボヤボヤしていると我々が映ってしまうので、しゃがみながら移動するなど汗だくの撮影でしたね。

高坂:そうやって皆さんのお力で、迫力のある映像をつくっていただいて、今のところリニューアル前の3倍くらいの方に入場いただいていますよ。

中高年層から若い世代の観光客を増やすためさまざまなイベントを開催

生江:専務は、どんな方々に見ていただきたい、来ていただきたいと思われていますか?

高坂:現在、青森県に観光に来られる方は中高年のお客様が大半を占めています。ということは、将来を見据えて、若い世代に青森に足を運んでいただかないといけない。そのために、若い方にも楽しんでいただくことは必須です。

以前は、ターゲットを明確にしてプロモーションや宣伝をするといった戦略的なことはしていなかったんですが、私が着任してからはそこをしっかりやろうと切り替えました。去年はクリスマスのイベントを行い、今年4月にカフェのイベントを行ったことで、ファミリー層とかカップルの方に来ていただきました。今、40代以下の人たちをターゲットにしたイベントを開催する方向に切り替えていっています。

あとは外国人観光客。青森は昨年1年間のインバウンドの伸び率が全国1位なんです。

浅川:すごく多くの可能性があるような気がします。次はどんな未来を描いていらっしゃるんでしょうか。

高坂:一番はやはり観光強化ですね。魅力的なコンテンツをつくりリピート客を増やす。数字的に日本一とはなりましたが、今や何人来たかじゃなくて、どれだけの人に支持され、リピーターになってもらい、お金を落としてもらうか、長期滞在してもらうかということが勝負の時代になっているので、そこに特化すべきだと思います。

私は常々、ある程度のプロモーションは必要ですが、本物のコンテンツをちゃんとつくり込む作業に人とお金をかけたほうがいいと思っています。そうした私たちの思いや心意気が、青森に関心を持っている人に通じれば、今よりもっと青森のことを評価してくれるでしょう。1回限りの旅行じゃなく、「毎年行きたい」と思っていただけるようなコンテンツをつくることが、今後、青森が目指す観光の姿だと思います。

eスポーツ国体予選を開催。観光施設にとどまらない利用を進めていく

生江:その中で、この施設が果たす役割はどんどん大きくなりそうですね。

高坂:そうですね。ですからこのアスパムも「観光物産館」という役割から次の段階を目指さないといけないんじゃないかと思っています。

青森県観光物産館アスパム外観

高坂:旅行ツアーのようなパック商品では、必ずお土産を買う時間が用意され、お土産屋さんに立ち寄ったりするものですが、みんながそうしたいわけではない。また県民の方から見るとアスパムは単に観光客がお土産を買うところ、と思われているだけで、それでは誰からも支持されない。

まして今は「コト消費」の時代です。そこで何かの体験だとか交流だとか発見が得られる、自分が何かパフォーマンスができる、そういう場所だったら人は行くんです。だからこそ、青い森ホールの役割は大きいと思います。ここが突破口になって、さまざまな体験ができる空間にする。まさにコト消費の現場へ、その核になる場所にしたいのです。

浅川:青い森ホールでは茨城国体のeスポーツ青森県予選が開かれたとか。あのスクリーンで見るとすごい迫力があるでしょうね。

生江:今回の事業提案の段階ではシアターの二次使用を検討することも要件にあり、弊社でもどういうことができるのか話していたんですが、青森営業所のスタッフが「eスポーツなんかいいんじゃないですか」っていうことを言ってたんです。そして、弊社で受託できたというその日の初回打ち合わせで専務が「あそこでeスポーツやりたいんだよね」とおっしゃられて、びっくりしました(笑)。

高坂:私自身はいっさいゲームをしないんですが(笑)。

観光とはデジタル社会を具体的に形にできる一番わかりやすいフィールド

生江:そのほかにも専務は率先してSNSを活用されるなど、デジタルをうまく活用しようという思いが非常に強くていらっしゃいますね。

高坂:さまざまなプロモーション手段として、またコミュニケーションのツールとして、やはり今はデジタルが不可欠です。でも最終的には、eスポーツもシアターの技術もそうですが、青森県の若い人たちがこういうことを目にし、参加し、体験して「もうこれが当たり前の世の中になってるんだ」ということを実感し、自分がプレイヤーになってデジタル社会を切り開くような仕事に就くなど、そういう人材が育ってくればいいなとも思っているんです。

小学校も今度プログラミング授業が必須になりますよね。でもプログラミングの基礎を勉強しただけでは意味がない。こういう技術が世の中をどう変えようとしているのか、自分たちの生活にどう影響してくるのか、デジタル化によってどう変わるのか、その面白さに気づくことも大切だと思うんですよ。

浅川:お話を聞いていて、観光連盟の方なのに、青森の若い人たちのためという、自分の職責以上のことまで考えていらっしゃいます。そのモチベーションがどこにあるのか非常に興味があるんですが。

高坂:以前、情報産業を育てる仕事も担当していましたが、なかなかうまくいかなかった。ITベンチャーを育てたいと思っても、取っ掛かりがないんです。

その点、観光はいろんな可能性を秘めていると思います。観光っていろいろな形でこちらの良さをお伝えできる仕事じゃないですか。そこに今の新しいデジタル技術だとか、マーケティングだとか、デジタル社会を具体的に形にできる一番わかりやすいフィールドかなって思います。

そういう意味では、観光をやりながらそういうデジタル時代を支えるような、例えばITを使いこなせるような人たちを育てていくことにも、うまくつながるような気がするんですよね。

浅川:「青い森ホール」のリニューアルの話から、観光、人材育成の話まで非常に大きな話をお聞かせいただきました。
私どもも、機器の設置から映像制作とこれだけの規模のものに携わることができて非常にチャレンジではありましたが、仕事の幅を広げる良い機会になりました。

生江:今回は専務をはじめ観光連盟の皆さんとまさにチーム一丸となって進められたと思います。これからも県の観光、そして県民の方々の一助になれればと思います。
今回はありがとうございました。

上記ライター生江 祐亮
(盛岡支店 青森営業所)の記事

地域創生NOW

日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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  • 生江 祐亮
    生江 祐亮 盛岡支店 青森営業所

    2014年jeki入社。主にJR東日本、青森県内の自治体等を担当。2019年より現職。

  • 浅川 真
    浅川 真 エクスペリエンシャル・プロモーション局 スペースプロデューサー/一級建築士

    2004年jeki入社。前職より企業博物館、企業ショールーム、企業直営ショップなど、一貫して空間を活用した企業のプロモーション開発に従事。2019年、青森アスパムの360度3Dシアターをプロデュース。一級建築士。