シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㉝
岩手スポーツ快進撃の裏にある「復興と感謝」

地域創生NOW VOL.43

写真左から
岩手日報社 東京支社 営業部 専任部長 髙橋 敬弘 氏
岩手日報社東京支社 次長 兼 営業部長 柏山 弦 氏
岩手県 文化スポーツ部 スポーツ振興課 菊池 太介 氏
jeki 盛岡支社 営業第二部 大湯 篤志
岩手日報広告社 営業部 営業推進部長 梅田 直哉 氏
IBC岩手放送 営業局 企画事業部長 中村 聖一 氏

大谷翔平や菊池雄星、佐々木朗希など優れた野球選手だけでなく、北京オリンピックの金メダリストであるスキージャンプの小林陵侑、スポーツクライミングの新鋭、伊藤ふたばなど、岩手県は近年、世界で活躍するアスリートを輩出している。では、なぜ岩手県から多くの世界的なアスリートが生み出されるのか。
岩手県のスポーツ支援や県民の情熱といった観点から考えてみるべく、長年、岩手県内で行われるスポーツイベントに携わってきたジェイアール東日本企画(jeki)盛岡支社の大湯篤志が、同じくイベントを通じて県内スポーツ振興に携わる岩手県文化スポーツ部スポーツ振興課の菊池太介氏、岩手日報社東京支社の柏山弦・髙橋敬弘の両氏、IBC岩手放送の中村聖一氏、岩手日報広告社の梅田直哉氏を迎え、岩手県民とスポーツの関係性を解き明かす。

岩手のスポーツを支える地元の一体感

大湯:本日、岩手県のスポーツイベントに関わる皆さまに県スポーツのこれまでとこれからを語ってもらおうと、この4月に開場した新球場である「きたぎんボールパーク」に集まっていただきました。さっそくですが、2016年の希望郷いわて国体・大会以来、19年のラグビーワールドカップ2019岩手・釜石開催、コロナ禍を挟み22年9月の日本スポーツマスターズ2022岩手大会、翌10月のIFSCクライミングワールドカップとビッグイベントが続いていますが、積極的に誘致されているのでしょうか。

菊池:17年に県庁に設置された文化スポーツ部が大会誘致に動いています。19年に釜石で開催されたラグビーワールドカップが、想像以上に県民に勇気を与えたんです。その影響も大きいのではないでしょうか。そして、今日集まった我々のような地元の官民一体チームも、その当時に生まれて、以来、世界大会といった大規模イベントから県内のスポーツ交流イベントまでを運営側として一緒に盛り上げているんですよね。

柏山:そうでしたね。振り返ってみると東日本大震災後の岩手県のスポーツイベントというのはすべてが復興の文脈で行われていますね。16年の国体に関しても、11年の震災で一度は返上しようという意見が出ていたものを、目標があった方がいいとの県民からの声で復興国体として行われました。ラグビーのワールドカップも同じです。開催が決定した当時、会場になった釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムはまだなかったですからね。

中村:我々がチームのようになった裏にも震災が関係しています。復興支援がはじまった時、国だけでなく民間からも被災地支援をしたいといった声をいただいたのですが、地元企業も被災していたので受け皿になれず、結局、東京の大企業が復興支援を行うことになりました。それが、復興も進み地元企業も落ち着きを取り戻し受け皿になっていき、我々もようやく18年の岩手で開催された東北絆まつりから深く関りはじめました。だから、このように官と民合同でジョイントベンチャー(JV)みたいな形でイベントを行う地域は岩手以外ではあまり聞いたことがないです。ただ、JVじゃなければワールドカップみたいな大きなイベントをまわすことはできなかったでしょうけどね。

大湯:確かにそうですね。情報発信と復興コンテンツを岩手日報さん、イベント演出などをIBCさんが担い、岩手日報広告社さんと我々で広報を行うなど役割分担ができていましたからね。

髙橋:震災という背景があったからこそ、我々の役割も新聞というメディアを通じて、復興の現状を伝えること、復興の協力への感謝を伝えることの2点に注力してきたんです。ただ、他の地域もこういうJVのような形で行っているのかと思っていましたよ。

中村:おもしろいのは、我々のようなメディアの連合だけでなく、被災地でも6次産業の連携が生まれていました。だから震災が、それぞれの強みを活かしてひとつにするといった風土をつくりあげたと言えるんじゃないですかね。それこそ、震災前は顔をあわせてもほとんど話さなかったでしょ。

柏山:だって中村さん怖かったから。あっ、お互い様か(笑)。

全員:(笑)

スポーツの喜びを教えてくれたラグビーワールドカップ

大湯:さて、岩手のスポーツ振興と世界的な選手が生まれている関係ですが、これは県外の人からも良く質問されるんですがいつも答えに窮してしまいます(笑)。皆さんどう答えていらっしゃいますか。

梅田:そういえば、小林陵侑選手はスーパーキッズ出身ですよね。

菊池:県内の優れた小中学生を発掘、育成するいわてスーパーキッズの一期生です。これは、体育の先生たちが長い間、地道にやられているすごく良い取り組みです。

柏山:自信が生まれたんだと思いますよ。それまでの岩手県勢は甲子園に出ても一回戦で負けることも多かったじゃないですか。それが菊池雄星投手を擁する花巻東高校が春の選抜で準優勝し、夏もベスト4入りしたくらいから「岩手でも全国を狙える」と思いはじめたんじゃないですかね。

菊池:確かに最近、全国レベル・世界レベルのアスリートが増えましたからね。スポーツクライマーの伊藤ふたば選手とか、スノーボーダーの岩渕麗楽選手とか、有望選手がどんどん出てきていますよね。

大湯:震災当時にスポーツ教室を行った時に有名な選手がよく来てくれたことも刺激になったかもしれませんね。その文化は今も続いていて、日本スポーツマスターズと国体の機運醸成イベント「いわてスポレクフェスタ2022」でも小林陵侑・潤志郎兄弟や複合銅メダリストの永井秀昭選手など多くのアスリートが来てくださり、小中高生を中心に130人もの子どもたちと話し、一緒に体を動かしてくれました。そういうこともまた岩手スポーツの底力になっていると思いますね。

菊池:そうですね。スポレクでは車いすバスケやボッチャなど障がい者スポーツの体験なんかもやりましたが、これもスポーツを通じた学びですからね。こうしたスポーツを通じた学びは、ラグビーワールドカップの影響がもっとも大きかったのではないかと思っています。

「車いすバスケ体験の様子」

梅田:当時はまだ沿岸の方は瓦礫が山積みでしたからね。ワールドカップという大イベントをよく開催しましたよね。

柏山:開催して良かったですよね。本当にあの大会はスポーツの力が見直されるきっかけでしたから。

髙橋:子どもたちも社会とつながったと思うんですよ。例えば、9月のフィジー対ウルグアイ戦で釜石の全小中学校の生徒が「ありがとうの手紙」という歌を歌ったんです。ご存じのように支援への感謝を歌ったものですが、秋篠宮妃紀子さまが忘れがたい思い出になっているとのことで、この話を聞いた子どもたちも喜んでいました。

梅田:釜石で試合を行う意味は、選手を含めてあの場にいた誰もが良くわかっていましたからね。それに、ラグビーをきっかけに釜石に来たけれど、震災復興がどこまで進んでいるかを見に来たという方も多かったですよね。

菊池:もうひとつ、ワールドカップが変えたのがスポーツ観戦のスタイル。もともとスポーツは競技をじっくりだけど静かに見ていたのが、19年にファンゾーンでビールを飲みながら楽しむスタイルが広がって、それが浸透しています。例えば、クライミングのワールドカップでは冷麺や寿司、蕎麦など県産のグルメのキッチンカーが勢ぞろいし、海外の選手もわざわざ食べに来ていましたからね。23年2月のいわて八幡平白銀国体でも中村さんに協力してもらって、入場時には甘酒を、退場時には八幡平の鍋が振る舞われて、多くの選手・関係者の皆さんもすごく喜んでいましたね。

中村:ファンゾーン文化は大きかったですね。今では、Jリーグのいわてグルージャ盛岡、Bリーグの岩手ビッグブルズでも試合時にはキッチンカーが並んでいます。

大湯:ファンゾーンは30日間やりましたからね。そんなところは日本でここだけかもしれませんね。釜石では2試合しかやらなかったのに試合がない日も開催していましたもんね。

中村:実際は台風で1試合は中止でしたからね。最初は盛り上がっていなかったファンゾーンも、日本の快進撃と一緒にどんどん盛り上がりましたよ。

柏山:釜石のファンゾーンのすごいところは、日本コールも出るんですが、最後は釜石コールで終わるところ(笑)。

菊池:ラグビーワールドカップを開催した影響は大きいですね。特に子どもたちにいい影響があったんじゃないですか。「ありがとうの手紙」を歌った子どもたちは今いくつくらいになりましたか。

髙橋:最上級生が中学3年生ですから、4年経ったことを考えれば働いている子もいるでしょうね。

菊池:スタジアムで見た景色をどう思ったか聞いてみたいですね。16年後、20年後でしょうが、またワールドカップを日本で開催する話も出ていると聞きます。皆さん、次もまた一緒に仕事できますよね?

全員:(笑)

大湯:まだまだ頑張らなくてはいけなくなりましたが、今後も岩手のスポーツ文化のためによろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

大湯 篤志
株式会社ジェイアール東日本企画 盛岡支社 営業第二部
2017年にジェイアール東日本企画入社。
盛岡市在住。岩手県庁・岩手県内各自治体及び民間企業のプロモーション業務を担当。
地方創生領域における観光関連のプロモーション業務、スポーツ関連イベント開催運営などに携わる。

髙橋 敬弘
株式会社岩手日報社 東京支社 営業部 専任部長
東京都在住。2017年から5年間、本社広告事業局企画推進部で民間企業や自治体の広告事業・広告企画業務に従事。岩手県内の民間企業のプロモーション、自治体の地方創生の取り組みの企画業務を担当。2022年10月より東京支社。

柏山 弦
株式会社岩手日報社 東京支社 次長 兼 営業部長
東京都在住。1997年岩手日報社入社。本社広告部、釜石支局などを経て広告事業局企画推進部で民間企業や自治体の広告事業・広告企画業務に従事。東日本大震災以降、多数の復興関連事業を担当。2019年より東京支社。広告電通賞、日本新聞協会新聞広告賞、全広連鈴木三郎助地域キャンペーン大賞、カンヌライオンズ金賞等受賞。1974年奥州市生まれ。

菊池 太介
岩手県 文化スポーツ部 スポーツ振興課
盛岡市在住。釜石市役所を経て2016年岩手県庁入庁。文化スポーツ部スポーツ振興課配属。ラグビーワールドカップ2019岩手・釜石開催、東京オリンピック・パラリンピック、日本スポーツマスターズ2023岩手大会、いわて八幡平白銀国体など岩手県内のスポーツ関連事業を歴任。

梅田 直哉
株式会社岩手日報広告社 営業部 営業推進部長
盛岡市在住。1991年入社。民間企業の販売促進・ブランディング・広報等プロモーション業務と並行して、2016年希望郷いわて国体・大会開催以降、岩手県のスポーツ関連事業にて広報業務に携わる。

中村 聖一
株式会社IBC岩手放送 営業局 企画事業部長
盛岡市在住。IBC岩手放送入社後 テレビ・ラジオ営業を経て、企画事業部にて多くのリアルイベントプロモーションの企画・プロデュースの実績を重ねる。行政案件にて、岩手県内の社会課題のソリューション事業を多数担当。

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日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
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