シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㊳
「地熱や森林資源」村の財産でゼロカーボンへ
赤井川村が描くサスティナブルな未来

地域創生NOW VOL.48

写真左から
jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 地域プロデューサー 齋藤 友伸
北海道赤井川村長 馬場 希氏
jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 部長 西島 昭久

札幌市から車で1時間半、人口1千人ちょっとの赤井川村は、その大部分がカルデラ盆地のなかにある。風光明媚なこの村の産業は農業と観光で、2005年に設立された「日本で最も美しい村」連合にも設立当初から加盟している。農業では、このカルデラ盆地が織りなす昼夜の寒暖差の大きさから、スイカやメロンなどの甘みが強い果菜類が知られており、観光では北海道有数のスノーリゾートとして知られるキロロリゾートがあるなど、小規模ながら元気な自治体である。しかし、一方で、多くの自治体同様に少子高齢化と人口減少が問題になっており、将来的な村の活力低下が懸念されている。そのため赤井川村は、2022年5月にジェイアール東日本企画(jeki)と包括連携協定を結び、人口減少社会における持続可能な村づくりを共同で行っている。今回、その担当である西島昭久と齋藤友伸が、赤井川村の馬場希村長を迎えて、村の魅力と実現したい未来の姿を聞いた。

地域産品の開発から、アウトドアのアクティビティを主軸に!

西島:やっぱり赤井川村は、空気が澄んでいて心が落ち着きますね。

馬場:そうですか、それは嬉しいですね。早いもので、jekiさんと包括連携協定を結んでもう1年が経ちましたね。

西島:jekiとしても北海道の自治体とは初の包括連携協定締結でした。あらためて、包括連携協定締結に至った、いきさつなどお聞かせいただけますか。

馬場:前任の村長時代に地熱発電の開発調査が進められ、その調査を機に東京の企業との関係ができました。時間が経つごとに村に関心を持ってくださる仲間が増えて、そうした流れのなかでjekiさんと知り合い、ゼロカーボンの推進や地域人材育成など新たなことを一緒にやっていこうと協定締結に至りました。

西島:そうでしたか。包括連携協定のなかには「地域産品の消費拡大及び地域情報の発信」といった項目もあり、齋藤さんは、地域の農産物を使用した新たな商品開発を行いました。振り返って、いかがでしたか。

齋藤:赤井川村の農産物で何かできないかという話し合いから、かぼちゃのスープ、カレー、それからアイスクリームといった商品が誕生しました。手短に申し上げましたが、そう簡単にことが運ぶわけもなく(笑)、農家の方、役場の方たちと何をつくるか話し合いを重ね、「できた!」と思ってからも札幌のホテルを中心に試食をしてもらい、そのフィードバックから改良を行うなどの試行錯誤の末、ようやく商品化に至りました。

マダムの休日(美味しいかぼちゃをふんだんに使ったレトルトカレー)
赤井川村のカルデラ パンプキンカレー
赤井川村のカルデラ パンプキンスープ
赤井川村メープルアイスクリーム

馬場:赤井川村の名産であるかぼちゃをスープやカレーにしてもらったのですが、この村は盆地で寒暖の差が激しいですから、作物の甘みが強いんですよね。

齋藤:農産物の美味しさは間違いないです。こうした地形が育んだ甘みの魅力から商品が生まれまして、今日の会場でもある道の駅やカルデラ温泉、キロロリゾートなどで販売して人気を博しています。

西島:ふるさと納税の寄付額も好調と聞いていますが、いかがでしょうか。

馬場:コロナ禍での巣籠もり需要で寄付額は、一度4億円超えを達成しましたが、その後は3億円を超えたくらいで推移しています。順調でしたが、齋藤さんの言う通り、そう簡単にはいかないものです(笑)。とはいえ、寄付額もこの水準のまま推移してもらえれば良いと考えています。

西島:3億円超の高い水準を守っていくためにも魅力の発信を続けていかないといけないと思います。新たな商品展開などは考えておられますか。

馬場:農産物の加工品も良いのですが、日本国内どの地域も力を入れていますから差別化は難しいです。たとえ、一時的に売れても加工品のラインを増やせるかといえば難しいですし、欠品ばかりでは商品価値が落ちてしまいます。農業の村ですから、食を中心にした商品にするのは大事ですが、偏るわけにはいきません。これからは、地域産品だけでなく、アウトドアのアクティビティに注目しているのです。実際に村に来ていただき、村の良さを実感してもらえればファンになってもらえますからね。

齋藤:キロロリゾートで使えるふるさと納税の返礼品が東京の方に人気だったと聞いていますから、アクティビティは十分可能性があると思います。村を体験できる商品がつくられれば、もっと域外の方との交流も増やすことができますしね。

馬場:そうなんですよ。十数年前までは札幌などの都市圏から農業体験として多くの子どもたちが来ていましたが、いまでは農家さんの高齢化と核家族化で受け入れが難しくなってしまいました。ただ、農家さん側も何か取り組まなければという気持ちはあるようで、農業者、観光事業者が連携し農泊推進協議会が設立され、新たな取り組みが少しずつですがスタートしたところです。期待しています。

齋藤:市民農園や家庭菜園など小さな畑を借りる方が札幌などでも多いですから、農業体験への興味は高いと思いますよ。何より赤井川村は札幌から近く、1時間半で来られるのも大きなアドバンテージになりそうですね。

馬場:意外に近いですからね。それに、都市部の家庭菜園よりももっと大きな土地で農業体験ができると思いますよ。

ゼロカーボンで世界レベルのリゾート地に!

西島:「赤井川村エネルギービジョン」や「ゼロカーボンビレッジAKAIGAWA推進戦略」を掲げるなど、村が力を入れているのが地域のゼロカーボン化ですが、具体的にはどういうことを行っているのですか。

馬場:自然に優しい再生可能エネルギーを活用して、いまの主力電源である化石燃料由来の電力使用を減らしていこうと考えています。温泉熱の活用や地熱、太陽光などを使った創エネ事業に加え、村には1800ヘクタールの山林があるので、森林などを有効活用してCO2の吸収源を創出し、カーボンニュートラルを進める計画です。言うなれば、村内の財産をSDGsの時代にあわせて活用しようということです。

西島:行政がカーボンニュートラルやSDGsといった旗振りを行うものの、住民の意識が追い付かないといった問題がありますが、赤井川村はいかがですか。

馬場:確かに村民の皆さんに、「この村のCO2の排出量が2万5000トンです」と言っても、その数値がどういう意味を持つのか、それが多いのか少ないのかなど、わからないと思います。それに、村民に我慢を強いてカーボンニュートラルを行ってもうまくいきません。だからまずは、先んじて行政が再生可能エネルギーを使ってエネルギー転換を進め、それを村民にも見てもらい、知ってもらうことからはじめようとしています。

齋藤:どういった分野からはじめるのですか。

馬場:北海道大学やjekiさんとの連携により、現在、村の中でのCO2排出量の推量がわかっているので、カルデラ温泉施設における温泉熱を活用したエネルギー転換と温泉施設からの排湯熱を利用した指定避難所である体育館の補助暖房設備を導入することで、どれくらいCO2とエネルギー費用が削減できているのかなどを、例えば体育館の入り口にメーターを取り付けるなどして目に見える形で伝えていきたいと考えています。

西島:「見える化」は大事ですよね。言葉や数値だけじゃなかなか伝わらないですからね。

馬場:政治家は説明責任がありますから(笑)。後は、2050年までに日本は排出実質ゼロをめざしていますから、急激な変革を求めるよりも、あと27年あると考えて、いまはしっかりとした礎を築き、世代が変わるなかで理解、浸透を図っていきます。もちろん、我々が歩みを止め、伝えることを止めたりすることがないようにしなければいけませんがね。

西島:観光の中心地であるキロロリゾートでもカーボンニュートラル化は行うのですか。

馬場:全村のCO2排出量の40%強はリゾートエリアから排出されると推計で出ています。すでに運営会社とは情報の共有はしており、リフトのかけ替えを行う場合は省エネモーターを、ホテルのリニューアル時には断熱効果の高い資材を使うなどの取り組みを行うことを予定していただいています。

齋藤:キロロリゾートは、欧米豪をはじめ世界からお客さんが来ます。彼らは、再エネについても関心が高いですからね。

馬場:お客さんの意識が高いことは運営企業も理解しているので、国際リゾート地として村も一緒になって取り組んでいきたいと考えています。現在、宿泊税の導入も考えており、その財源で、まずはできるところからはじめるつもりです。地熱や太陽光などさまざまな地域資源を活かして身の丈に合った形で進めていくので、もっともっと知恵をくださいね(笑)。

西島:はい(笑)。我々の世代だけでは終わらない話なので、若い人たちに向けたビジョンを描くことが大事で、そのビジョンに向けてバトンをつないでいくお手伝いができればと思っています。

西島:地域を訪問して思うのが、首長の皆さまが素敵な未来を描いても、言葉だけで伝えようとするから地域の人たちや外から来る訪問者の皆さまに伝わっておらず、ずっと勿体ないと思っていました。赤井川村では、ぜひ村のグランドデザインのビジュアル化を実現したいですね。齋藤も私もクリエイティブは本業でもあるので、村長の考える村の将来像をぜひとも具現化しましょう。

齋藤:そして村長に紙芝居形式で村を説明しながらまわっていただきましょう(笑)。

馬場:イラストに少し言葉を添えて皆に見てもらえれば、誰でも理解できるし、小さな子どもたちにも伝わりますからね。村内、巡りますよ。

西島:これからも村の財産を活用しながら、豊かな景観を守っていくお手伝いをしたいと思っています。本日はありがとうございました。

西島 昭久
株式会社ジェイアール東日本企画 ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 部長
大手広告代理店(パブリックアカウント部門)を経て、2009年、jekiに入社。
2013年、ソーシャルビジネス部門の立ち上げに携わり、以降、全国各地の地域課題を解決するためのさまざまな伴走型支援プログラムを開発。
2000年から現在に至り、経済産業省、資源エネルギー庁、中小企業庁、環境省が推進する地域産品開発や販路開拓、原発立地地域のまちづくり、中小企業の人材育成および広報戦略、地域の特定課題に関するスペシャリストの育成等、多くの地域創生プロジェクトを担当し、一貫してソーシャルビジネスに従事する。

齋藤 友伸
株式会社ジェイアール東日本企画 ソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスプロデュース局 地域プロデューサー
大手広告代理店を経て、2021年株式会社yoikaを設立。
札幌、および後志地方の地域課題に取り組む。
令和4年度赤井川村ふるさと納税事業および公共観光施設を核とした
関係人口構築業務である、ファンミーティングイベントや商品開発事業に携わる。

馬場 希
北海道赤井川村長
1961年赤井川村生まれ。北星学園大学卒業後、1984年赤井川村役場奉職。産業課長、産業建設課長、社会課長を経て、2012年10月より赤井川村教育委員会教育長。2019年4月より赤井川村長に就任し、現在2期目。

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