シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㉕
すべては地域のために!銚子電鉄が真剣にふざける理由

地域創生NOW VOL.35

写真右より
jeki千葉支社 営業第一部 部長 山崎久典
銚子電気鉄道株式会社 常務取締役 柏木亮氏
銚子市 観光商工課 産業振興室 商工労政班 主査 池田紀之氏

千葉県の東端、利根川が太平洋に注ぎ込む河口に位置する銚子市は、漁業と醤油醸造業で有名だが、犬吠埼や屏風ケ浦などの絶景で知られる県内有数の観光地でもある。その観光の中心的役割を担うのが、わずか6.4キロメートルの距離ながらユニークな取り組みで高い人気を誇る銚子電気鉄道(銚子電鉄)だ。ジェイアール東日本企画(jeki)も2022年初頭に銚子電鉄や銚子市と一緒に観光PRキャンペーンを行って以来、ともにこの地を盛り上げている。今回、キャンペーンに携わったjeki千葉支社の山崎久典が、銚子市観光商工課主査の池田紀之氏、銚子電鉄常務の柏木亮氏を迎えて、銚子市と銚子電鉄の取り組みや、地域を元気にするためにローカル線が担うべき役割について語り合った。

伝統工芸品を求めて若者が集まってくる

山崎:2022年の銚子市を舞台にした2つの観光庁事業「犬吠埼温泉郷のPR」と、「鉄道を使った旅行促進」で池田さん、柏木さんとご一緒させていただきましたが、銚子市には多くの魅力がありますね。

犬吠埼温泉郷PRポスター(左) 鉄道を使った旅行促進ポスター(右)

池田:ありがとうございます。東京駅で行ったイベントでもそのひとつである犬吠埼温泉郷の化石海水温泉を足湯で楽しんでいただきました。

山崎:化石海水温泉は白亜紀の地層から湧き出ていて、地元のご協力でお湯を運んでいただき、楽しんでもらいましたね。コロナ禍とはいえ、たくさんの方に来てもらい、皆さんが旅を求めているなと感じたイベントになりました。コロナ禍で銚子市の観光業も大きなダメージを受けたのではないですか。

池田:観光客は減少していましたし、積極的に呼び込めませんから、もどかしさがありました。とはいえPRは必要ですから、さまざまなメディアに露出されている銚子電鉄(以下、銚電)さんと一緒に取り組ませていただくことが多かったですね。銚電さんは大変な時期もありましたが、今や一番頼りになる存在。ちょくちょく相談に行っています。

柏木:以前から市との連携を行っており犬吠埼温泉郷のPRだけでなく、来てもらってからの着地型の観光にも力を入れた種まきに取り組んでいました。それがここに来て徐々に開花しているんじゃないでしょうか。

池田:そうですね。宿泊者も増えてきており、実を結んできましたね。

柏木:2022年のゴールデンウィークは、コロナ禍前も含めて過去最高の売上を記録しました。久しぶりに行動制限のない大型連休だったこともありますが、今、この対談を行っているきゃりーぱみゅぱみゅさんのきゃりー電車が4月29日からの運行だったことも大きかったですね。

山崎:きゃりー電車もそうですが、奥の車両は岩下食品とアイドルマスター SideMがコラボした「ニュー315ピンクニュージンジャー号」と、個性的な車両が多いのですが、これはどういった顧客層を狙ってのことですか。

岩下食品とアイドルマスター SideMとコラボした「ニュー315ピンクニュージンジャー号」。

柏木:銚電の魅力は、もともとはレトロ、言い方を変えるとボロさ(笑)。このレトロさを目当てに集う中高年のファンをメインターゲットにしていました。しかしながら、売上高をさらに上げるために、別の戦略が必要だと考え、新たな層をどう呼び込むかと考えるようになりました。変化のきっかけとなったのが、4年前(2018年)の8月3日18時18分(破産、イヤイヤ)に売り出した、味はうまいが経営状況がマズイお菓子「まずい棒」でした。これで一気に若い層の認知度が高まりました。従来の主力商品は「ぬれ煎餅」。これを「沁みてるねえ」って言う小学生はいませんからね(笑)。その後は、異業種コラボを中心に、少しでも銚電に興味を持ってもらえるような仕掛けを続けています。特に地域経済の活性化に寄与できたと思っているのが、バンダイナムコエンターテインメントのソーシャルゲーム「アイドルマスター SideM」とコラボしたことです。男性アイドルをプロデュースするゲームで、多くのゲームユーザーの方(プロデューサー)に銚子市にお越しいただいています。

山崎:アイドルマスター SideMは、先ほどの化石海水温泉のイベントを行った際にも、キャラクターが来場するとSNSで発信しただけで多くのプロデューサーの皆様が来場し、写真を撮って発信していただきました。今ではそのコラボが銚子市にまで広がっているのが驚きです。

池田:市長も積極的に関わっていますし、柏木“プロデューサー”が銚電をハブに地元のお店とコラボレーションすることで、プロデューサーの皆様に市内を楽しんでもらい、その結果、アイドルたちが銚子市をPRしてくれています。

柏木:私はプロデューサーでなく、多くのプロデューサーの皆様に来ていただくために動くAP、アシスタントプロデューサーですね。アイドルマスター SideMとのコラボは、 2021年の10月からスタートしましたが、はじめるにあたり実際のゲームでもコラボすることになりました。プロデューサーの皆様がスマートフォン上でポスターを制作するのですが、アイドルの背景を銚子の街並みや屏風ケ浦など、市から提供してもらった観光素材を使えるようにしたのです。すると、たった2ヶ月で1万2千枚ものポスターがつくられました。もちろん、銚電に乗って観光スポットをまわってもらい、なおかつ地元にお金を落としていただける仕組みも考えています。

きゃりー電車内で和やかに語り合う3人。

山崎:具体的には、どのような仕組みですか。

柏木:例えば、老舗の大漁旗をつくる工場にアイドルマスター SideMオリジナルのミニ大漁旗をつくってもらうなど、伝統工芸品のニーズをつくる仕組みです。銚子市の知られざる魅力を知ってもらうことで、事業承継などの地方が抱える課題を解決する一助になるのではと、はじめたものです。

山崎:凄く良いアイデアですね。我々が担当した犬吠埼温泉郷のキャンペーンでもアイドルマスター SideMのキャラクター「カエール」を「犬吠埼温泉郷で生きカエール」として呼んではどうかと柏木さんから提案していただき、半信半疑で呼んだのですが(笑)、多くのプロデューサーの皆様に集まっていただきました。観光PRに異業種コラボというエッセンスを加えるだけで全く違う客層にも訴えることができる、集客できるということに驚かされました。

柏木:今回の銚子市とのコラボに感謝の気持ちをお持ちになっているプロデューサーの皆様に、お越しいただくにあたり、私たちがしっかりお応えできるよう、コラボ対象となっているPRスポットで、ポスターやアイドルパネル、PRスポットとのコラボ商品やカードなどのノベルティを、地域の皆様と一緒に深慮して設定しました。結果として、多くのプロデューサーの皆様にお越しいただき、コラボ商品を多くご購入頂いております。 

山崎:こういった仕掛けを続けるモチベーションはどこにあるのですか。

柏木:我々がこうしたことに注力し、「日本一のエンタメ鉄道」を標榜しているのも、ひとえに鉄路を残すためであり、この街に銚電があってよかったと地域住民の方から思ってもらうためです。 

すべてのローカル鉄道が「ありがとうの向きを変える」べき

柏木:当社は、収入の8割がせんべいなどの運輸外収入で、運輸収入はわずか2割です。鉄道事業の経費はどうあがいても収入以上にかかり、普通に考えれば維持できません。でも、通学に使う高校生も、運転免許証を自主返納して銚電をご利用いただいている方もいらっしゃる。だから我々は鉄路の維持を目的に、あらゆる手を使って観光に来られる方にお金を使ってもらわねばならないのです。鉄道会社が地域に与える影響、世の中に与える影響は大きく、経済では測れない部分も多いと思います。一度、鉄路をなくしてしまえば取り戻すことはできません。だから、我々は真剣にふざけているのです。その結果、銚電に興味を持ってもらい、銚子市に来てもらって地元に良い影響を与えることもできるのです。普通は、ご乗車ありがとうございますとこちらが感謝を述べるのですが、我々は「銚電があってよかった、ありがとう」といってもらえる銚電でありたいのです。つまり、「ありがとうの向きを変えていく」。そこに存在意義を感じているのです。

池田:銚電をきっかけに銚子市を知る方も多く、実際、関西出身の地域おこし協力隊の方がいるのですが、彼は銚電のYouTubeを見て興味を持ち、移住しました。若い女性が銚子市の伝統工芸品である大漁旗を買うなんて考えもしなかったですが、コラボをきっかけに買ってくださり、さらには発信までしてくれています。市としては、銚電さんはありがたい存在になっていますよ。

柏木:銚子ちぢみや大漁旗などの伝統工芸品も買うきっかけがないだけで、手段はあるはずです。人が来られないのであれば、オンラインショップをしっかりさせるとかね。我々は地域産品を販売する地域商社としての役割もあると思っています。それが銚電にもプラスになりますしね。おかれている状況は地域さまざまだとは思いますが、これがローカル鉄道会社の在り方じゃないですかね。

山崎:都市部と地方の人の流れをつくるのが地域創生には大事なことだと言われますが、それをまさに担っているというわけですね。

柏木:地域が残っていくためには当たり前ですよ。地域創生なんて言葉はおこがましい。要は銚電が儲かることではなく、地域の人たちを助けて、喜んでもらうことが価値。そして、それが「ありがとうの向きを変える」ことであり、すると自ずと銚電も儲かっているはずですから。今年100周年を迎えますが、まだまだやることはいっぱいあります。

池田:市としても銚電さんには地域の広告塔として、地域商社として期待していますし、今後も一緒に活動を行っていければと思っています。

山崎:jekiとしてもJRはもちろん、他の鉄道会社や地域と連携して銚子市のみならず千葉県を盛り上げて、銚電の100周年を祝いたいと思っています。本日は、ありがとうございました。

山崎 久典
株式会社ジェイアール東日本企画 千葉支社 営業第一部 部長
一般営業担当、JR担当、駅ビル販促担当を経て、2021年2月より千葉支社。管内の自治体の地域創生、地域活性化事業、補助事業案件に従事。

柏木 亮
銚子電気鉄道株式会社 常務取締役
沖縄ツーリストに在籍していた2015年、銚子電鉄が募集した駅名ネーミングライツを通じて、アドバイザーとして経営に参画。2020年に常務取締役に就任、銚子電鉄のブランディングを担う。

池田 紀之
銚子市 観光商工課 産業振興室 商工労政班 主査
2003年4月銚子市役所に入庁。中小事業者の支援や銚子産品のPR、地域振興事業に携わりながら、地域の一大イベント「銚子みなとまつり花火大会」も担当している。

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