シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㉗
これまでも、これからも当たり前の存在でいるために!
名古屋市交通局の100年祭イベント

地域創生NOW VOL.37

<写真左から>
名古屋市交通局 営業本部 営業統括部 乗客誘致推進課 企画係 主事 加藤 宣尚氏
名古屋市交通局 営業本部 営業統括部 乗客誘致推進課 企画係長 近藤 寛之氏
jeki 中部支社 営業部 部長代理 柴田 賢史
jeki 中部支社 営業部 青木 孝嗣

バスや電車が少し遅れたりするだけで、何かあったのかと思ってしまうほど、多くの人にとって、公共交通機関が正確に機能することは当たり前のこと。しかし、ちょっと考えれば、それが多くの積み重ねの上に成り立っていることに気づくはず。中部地方随一の大都市、名古屋市の公共交通を担う名古屋市交通局(以下、交通局)もその一つ。しかも交通局は、2022年8月1日に100周年を迎えており、路面電車から地下鉄、バスへと時代は変われど、1世紀の間、市民の足として人々の生活を支えてきた。同年11月12日には節目の年を記念して「市営交通100年祭メインイベント100YEARS FESTIVAL‼」を開催し、お仕事体験やグッズの販売のほか、市営交通の歴史を学べる展示などを行った。イベントに携わったジェイアール東日本企画(jeki)中部支社の柴田賢史と青木孝嗣、名古屋市交通局 営業本部 営業統括部 乗客誘致推進課の近藤寛之氏と加藤宣尚氏が、イベントを振り返りながら、これまでとこれから、そして公共のインフラを守る矜持などを語り合った。

100年の感謝と、日常の裏側

柴田:2022年8月1日に創立100周年を迎え、「市営交通100年祭」を行いました。我々も関わらせていただいているのですが、イベントに込めた思いや狙いを教えてください。

近藤:交通局には、地下鉄と市バスの事業があり、直近の周年事業では地下鉄が60周年、市バスだと90周年を迎えています。しかし、両事業の合同となるとやはり重みが違います。加えて、100周年は文字通り100年に一度のこと。ひとくちに100年と言っても、一朝一夕に100周年を迎えられたわけではなく、多くのお客さまに支えていただいたからこそ続けてこられたのです。だから、まずはきちんと感謝を伝える場をつくろうと考えました。そして、普段は何げなく乗っていただいている地下鉄や市バスにも多くの職員が関わっている、というところを知っていただき、より愛着を持っていただく狙いがありました。そこでイベントを「過去」「現在」そして「未来」の時間軸で分け、祖父母、親、子どもの3つの世代が一緒に楽しんでいただけるものを用意し、交通局がより身近な存在になればと、コロナ禍ではありましたが実行しました。

柴田:記念事業は21年度から取り組み、メインイベント以外にも多くの取り組みがありましたね。

加藤:交通局にとっては大きな節目ですから、21年の8月から23年の7月まで3年にわたって「市営交通100年祭」を行っています。オンラインでも、かつての路面電車やバスのデザインを復刻したレトロカラーバスのスペシャルムービーや市バスや地下鉄の現場職員の仕事風景を紹介する「オンライン仕事見学」など、交通局の徽(き)章で、尾張徳川家にちなんだ「八の物語」として公開。普段、お客さまがなかなか目にされない車両整備や保守といった職員にスポットを当てています。その他にも、記念グッズの発売など鉄道ファンはもちろん幅広い層に喜んでいただけるものを用意しました。

青木:記念グッズに関してもほとんどが完売しましたね。私の子どもが電車やバスが好きなので欲しいグッズがあって応募したのですが、残念ながら落選してしまいました(笑)。

加藤:それは失礼しました。

青木:いえいえ、それだけ人気が高いということなのでありがたいことです。

近藤:メインイベントについては、他の鉄道、バスの事業者から、コロナ禍でイベントを行っても、なかなか人が集まらない、うまくいかないと聞いていましたので、不安はありました。でも実際、ふたを開けてみると、大人の方から小さなお子さんまで多くの方に来ていただき、楽しいイベントになりました。会場で配布されたサンバイザーをかぶって楽しそうに歩いている姿は会場に一体感を生み、やってよかったという思いが込み上げましたし、職員にとっても次の100年に向かうきっかけになったと思います。

青木:職業体験で配ったサンバイザーですね。運転士や車掌、整備士など6つの職業体験コーナーは、ファミリー層に特に喜ばれていましたね。職員の方も丁寧に説明してくださり、お子さんたちも運転士の帽子、整備士の帽子をつけながら体験して笑顔で帰っていく。あったかいイベントだなぁと思いました。本音を言えばもっと多くの方に楽しんでいただけると良かったのですが、それはコロナ禍なのでしかたがないですね。

「市営交通100年祭メインイベント100YEARS FESTIVAL‼」イベント会場内の様子。

柴田:私はバスの展示がよかったです。懐かしいデザインや昔よく見たパレード用の花バスや花電車のデザインを模した復刻バスが多く展示されていて子どもの頃を思い出しました。

加藤:当時を知らないお子さん方も興味深そうに眺めて、周囲をまわりながら写真を撮っていましたよ。あのレトロカラーバスは会場には7台しか来ませんでしたが、実際は12台ありまして、いまも市内を走っています。

青木:当日の朝に、会場にバスが集結したのですが、その駐車する運転技術がすごかったです。撤収時も1台ずつ出ていくのですが、コンサートの出待ちじゃないですが、写真を撮ろうとする方が集まっていました。すごく夕暮れがきれいな日だったので良い写真が撮れたんじゃないかと思います。

近藤:そうだったのですね。撤収の時は疲れ切って、魂が抜けていたので見られませんでしたよ(笑)。

安全性はマジメさから!?

柴田:他のイベントでは、「夜間トンネルウォーク~真夜中の地下鉄トンネル探検隊!~」が、定員80名のところ3,600名の応募と、ものすごく人気のイベントになったのですが、夜間トンネルウォークは初めての開催だったそうですね。

近藤:夜間トンネルウォークは、はじめての取り組みでした。担当した部署も自分たちが保守、整備しているトンネルにお客さまをお呼びしてその中を歩いてもらうなんて考えもしなかったでしょうからね。でも、実際行ってみると職員とお客さまの距離も近く、「あの設備はなんですか」「これはどんな役目があるのですか」と、気軽に質問され、それに職員が一生懸命応えていたのが印象的でした。職員にとっては当たり前のものも、お客さまにとっては興味深いものなんだといった新鮮な驚きがあったようです。普段、お客さまとじかに触れ合うことがない職員も多いですから、彼らにとってこの経験は安全への責任感にもつながったのではないでしょうか。

トンネル内を探索するイベント「夜間トンネルウォーク」の様子。

青木:当日は、台風接近や悪天候の影響もありましたが、現場に出てこられた職員の方の数も多くて、もてなす側の熱量を感じました。真夜中にヘルメットをかぶり、ヘッドライトをつけてトンネルを一駅歩き、次の駅には地下鉄の整備車両が停まっていて、さらに、その車両に乗って一駅区間を乗って戻ってくるという貴重な体験でした。普段行けないところなので、お客さまからの質問も多く、それを職員の方が一つひとつ丁寧に説明されていたので、スケジュールを管理する我々にとっては予定の時間が押していたのでヒヤヒヤしましたね(笑)。

加藤:そうでしたね。真面目な職員ばかりですし、細部にこだわりをもつので、どうしても時間をかけた丁寧な説明になってしまうんですよ。我々の仕事は少し遅れても、少し不具合があってもいけない仕事ですから、こういった生真面目さが正確性を支えているのだと思いますし、それが、お客さまにも伝わったんじゃないでしょうか。

柴田:きっと皆さんもそう思われたと思いますよ。今回、多くの取り組みを行いましたが、一番大変だったことはなんでしたか。

加藤:やはり、コロナ禍での感染対策ですかね。人数制限も行いましたし、どのように入場していただくかなど最後まで悩みました。

近藤:イベントでの人数制限は初めての経験でしたからね。ただ、マスクの着用などお客さまにご協力いただいたうえでの感染対策でしたから、我々だけではなしえないことでした。最終的にトラブルもなく、けが人も出さずに終われたのは、お客さまあってのことだと思っています。

柴田:新たに制定したロゴマークにも「人のつながりが街を支える」という想いが込められていますが、これからの100年、交通局はどのような姿をめざしますか。

100周年を機に制定した新たなロゴマーク。

近藤:100周年を機に制定した新たなロゴマークには市バス・地下鉄の運行は職員のみならず、お客さま、そして地域の皆さまといった多くの人に支えられているという意味を込めて、3つの「人」という字で、交通の「交」の字をつくっています。こうした意味からもわかるように我々はこれまでも、これからも利用する人たちの身近な存在として、市民の暮らしを支える都市基盤として日々の運行を行い続ける使命があります。経営環境をみればコロナ禍で生活スタイルが変わり、厳しい状況が続きますし、コロナ後も以前の乗車人員には戻らないといわれてもいます。でも、どんな時代でも、その時代に合わせて、市民や利用者の皆さまに感謝の気持ちを持ちながら走り続けていきたいと思っています。

柴田:これからも名古屋市内を結ぶ存在として応援しています。本日はありがとうございました。

柴田 賢史
株式会社ジェイアール東日本企画 中部支社 営業部 部長代理
広告会社で民間企業のプロモーションに携わり2017年jeki入社。中部支社営業部に配属。愛知県・名古屋市等自治体の事業に取り組み、東海エリアの一般広告主も担当している。

青木 孝嗣
株式会社ジェイアール東日本企画 中部支社 営業部
2018年jeki入社。ソーシャルビジネス開発局(現:ソーシャルビジネス・地域創生本部ソーシャルビジネスプロデュース局)に在籍し、主に中央省庁の震災復興・特許庁案件に取り組む。22年中部支社営業部に配属。愛知県・三重県・名古屋市等自治体を中心に担当している。

近藤 寛之
名古屋市交通局 営業本部 営業統括部 乗客誘致推進課 企画係長
2005年名古屋市職員に採用、交通局に入局。総務部総務課に配属され、対外折衝や災害対応施策に取り組む。市バス路線の運行計画などの業務を経て、18年に営業統括部乗客誘致推進課に配属。周年事業をはじめとした各種イベントの実施など、総括的な利用促進施策を担当している。

加藤 宣尚
名古屋市交通局 営業本部 営業統括部 乗客誘致推進課 企画係 主事
1985年名古屋市職員に採用、交通局に入局。主に営業部門で乗車券の発行、企画財務部門では補助金や契約業務に従事。2021年より営業統括部乗客誘致推進課に配属され、22年に市営交通100周年記念イベントを担当。

上記ライター柴田 賢史
(jeki中部支社 営業部 部長代理)の記事

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