シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」⑳
再び訪れたインバウンドブーム
浮沈のカギは「デジタルマーケティング」

地域創生NOW VOL.30

写真右より
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 ソーシャルビジネスソリューション局次長 塚本 勝政
Vpon JAPAN株式会社 代表取締役社長 篠原 好孝氏
WAmazing株式会社 代表取締役CEO 加藤 史子氏
(撮影場所:JAPAN RAIL CAFE TOKYO)

入国者の上限撤廃、個人旅行の解禁に円安も加わり、街を見渡せば外国人観光客の姿を見かけるようになった。インバウンドは再び日本経済の推進力になろうとしている。
ところが、世界経済フォーラムの「旅行・観光開発力指数 2021年度版」で初めて日本が世界1位となる一方、「世界デジタル競争力ランキング(スイスIMD調べ)」によると、日本のデジタル競争力は過去最低の29位と弱点も浮き彫りになっており、収益の面で足かせとなっている。この弱みを克服するためにデジタルと、どう向き合えばよいのか。
ジェイアール東日本企画(jeki)ソーシャルビジネス・地域創生本部局次長の塚本勝政が、WAmazing株式会社 代表取締役CEOの加藤史子氏と、11月に「クールジャパンデータ&デジマケまつり2022」を開催するVpon JAPAN株式会社 代表取締役社長の篠原好孝氏を迎えて、日本の今後を左右するデジタルマーケティングについて話を聞いた。

「知らなければ、存在しないと同じ」情報発信の大切さ

塚本:街を見渡すとずいぶん外国人観光客が増えてきましたね。先日の「ツーリズムEXPOジャパン」を見ても国内の旅行熱も上がっているように感じます。

篠原:私もEXPOに行ったのですが、本当に盛況で、皆さんの「待っていました!」という感じが伝わってきて、旅への強い思いに圧倒されました。

加藤:香港も日本と同様でして、入境者には3日間の強制隔離と4日間の健康観察が課せられていたのですが、9月26日から3日間の健康観察だけになったことで、航空会社のサイトへのアクセスが集中してサーバーがダウンしてしまったそうです。インバウンドを考える場合、訪問国に隔離がなくても、自国に戻ってから隔離があると、どうしても生活に支障が出るので、気軽に海外旅行はできません。今後を考えた場合、日本だけでなく来訪者の国の隔離政策を知ることも大切なポイントになりますね。

塚本:コロナ禍の状況でいえば、今も多くの日本人がマスクをしていますが、これを外国の方はどう見ているのでしょうか。

加藤:実は香港と台湾は日本より厳しかったんです。台湾の方からは「日本は意外とゆるいね」と言われました。一方で、欧米の方は「なんでマスクしているの」という感じで、国によって全く違います。

篠原:欧米のスポーツ観戦では、もう大声で応援していますしね。日本も岸田首相が外ではマスクは原則不要とおっしゃっているんですが、未だにマスクなしだとジロジロ見られますからね。

塚本:マスクの例もそうですが、コロナ禍でインバウンドなどの受け入れを慎重に考えている地域があるようです。その裏で日本のライバルである台湾やシンガポールといった国々は誘客に向けて動き出しています。出遅れたようにも感じるのですが、政府は何か策を考えているのですか。

篠原:日本政府も課題を把握していますが、今はしっかりとインバウンドで稼ぐために日本をもっと知ってもらう、正しい情報を伝えることに注力しています。例えば、この山口県産のシャインマスカットも、どこの発祥で、どこが栽培地かという情報を知ってもらわなければ、美味しさに感動したとしても山口県につながらないからです。情報発信をおろそかにしたままで、やれ地方周遊だ、サステナブルツーリズムだと叫んでも、地域に人は来ない。だから地域が自ら情報を発信し、データやデジタルマーケティングを活用して受け入れ体制をつくることが、急がば回れじゃないですが、いま必要なこととして進めているのです。

加藤:情報発信はとても大事です。知らないところには、行こうと思っても行けませんし、興味を持ちようがないですからね。訪日旅行は「まず知って、興味を持って、行き方を調べて、行こうと決めて、実際に行く」という流れです。だから、何はともあれ、最初の発信が肝心なんですよね。

塚本:それをデジタルで変えていこうとすると、具体的にはどんなことから始めればよいでしょうか。

篠原:例えばjekiさんとは、東北に来て周遊してもらうために過去のデータ分析を行いました。行動履歴や属性をスマートフォンのデータから推定し、台湾であれば30代から40代の高所得者層といったターゲット像が浮かび上がってきたので、その層に対するアプローチを行いました。

Vponとjekiが行った「訪日検証マップ分析」。海外で施策を行った後、実際に日本を訪れた観光客の位置データや足跡を検証できる。

加藤:日本にいない人に東京駅に貼ってある素敵な風景のポスターを見てもらうことはできませんし、観光案内所でパンフレットや地図を渡すこともできません。つまり、マーケティングはデジタルが有効だということです。先ほどの東北を例にとれば、圧倒的にデジタルでの情報発信が少ないのです。一方で、北海道は情報量も多く中国でも知られています。違いを生んだのは情報量。だからこそ、県ごとのプロモーションでなく、地域が一体となって情報発信を行うことが必要だと思っています。

塚本:日本にいても東北の情報は少なく感じますね。もうひとつ私が感じているのが、システム化やDXを導入すれば観光の問題が解決すると思われる方が多いというところなんですが、いかがでしょうか。

篠原:おっしゃるとおりで、僕らはそういったツールを提供する立場なので、ビジネスとしては成立しますが、それではサステナブルにならない。ツールはあくまでツールで、データは活用して初めて役に立つものです。ただデータ活用という言葉が小難しく見えるのも事実なので、わかりやすく可視化し伝えるように、コンサルティングに力を入れています。さらにもうひとつ。地域の方が登りたい山の頂上、つまり目標や目的が見えていない場合が多いと思います。

加藤:せっかくDXやデジタルツールなど装備は充実していても、「どの山に登るんだったっけ」では、いつまでたってもゴールにたどり着けませんからね。

「ハイコンテクスト」な日本の強みをデジタルが補う

塚本:JR東日本グループとしては、「wallabee」といったMaaS(Mobility as a Service)も含めた交通機関のデジタル化を進めることで、観光だけでなく人口減少が進む地域住民の足を守れるのではないかと期待しているんです。

店舗やイベント等におけるチケッティングを実現するデジタルプラットフォーム「wallabee」(ワラビー)

篠原:それがデジタルの力ですからね。それには移動だけでなく消費のデータが加わるとさらにいろんなことが見えてきますよ。

加藤:デジタルデバイドって言葉がありますが、こうした動きは格差をなくすことができる傍ら、意欲がなければ格差が生まれてしまいます。今回のコロナ禍でも、デジタル化が一気に進んだ地域もあれば、差が開いてしまった地域もあるはずなので、インバウンドの再拡大というせっかくのタイミングですから、ベストな事例をみんなで共有して、全体が底上げされるといいなと思います。

塚本:取り残される地域を生まないためにも、自治体、事業者の方々にアレルギーなく取り入れてほしいですね。

篠原:そのためにも、実は難しいことではないんですよということを、声を大にして伝えたい。何しろ、発信しないと日本を知ってももらえませんから。世界中が旅行者獲得合戦を行っている中で、国内で戦っている場合ではないのです。韓国やタイ、台湾などのライバルは強敵ですからね。

加藤:日本はずっと内需の国でしたからね。それに引き換え、韓国は国内市場が小さいこともあり、クールコリアはびっくりするぐらいアグレッシブです。最初からグローバル展開を考えてアイドルも英語、日本語、中国語で歌っています。そうじゃなければBTSもあそこまで成功していないですよね。

篠原:国策ですからね、韓流ドラマもKPOPも。

加藤:話題となった韓国ドラマ「イカゲーム」も、わかりやすさを追求していて、敵はすべて仮面など、ローコンテクストなつくりを徹底しています。一方で、日本のコンテンツは素晴らしくて奥深いけどハイコンテクストで、わかりにくい。例えば、日本人は飲食店に“のれん”が出ていると営業しているとわかるけれども、外国人にはカーテンがかかっているから閉まっていると思われています。立ち食いソバでも「キツネ」とか「タヌキ」とか、メニューに動物が登場して外国人は混乱する上に、店員さんにさらに「そば?うどん?」って聞かれてうろたえていますよ。自販機でチケット買って渡しても、「まだ何か?」と、このハイコンテクストさが、素晴らしいけれども、伝わりにくさでもあるんです。

篠原:このハイコンテクストな日本の文化は大事だしウリでもあるのですが、バランスをとって、したたかに稼ぐことに、つないでいくべきだと思うのです。お寺の拝観料も200円だったものを1000円にしてもいいじゃないですか。大事なことは、「分析したデータをもとにどう考えて、いかに稼ぎにつなげるか」。そんな事例を共有したくて、11月21日~24日に「クールジャパンデータ&デジマケまつり2022」を開催します。まだマーケティングや情報発信でデジタルを活用し切れていない自治体や事業者さんに対し、インバウンドの課題から、農産物などの魅力をどんな媒体で、どう発信していくかといったアウトバウンドの課題まで、皆さんの悩みに対する答えとなる良い事例を集めています。オンラインとリアルの両方で開催しますし、加藤さんにもjekiの高橋敦司常務にも登壇していただきますから、ぜひ楽しみにしていただければと思います。

塚本:これからまだまだインバウンドも盛り上がりそうですし、同時にアウトバウンドも強化しなければなりません。絶好のタイミングにイベント開催が決まったので、この機会にデジマケ強化につなげていただきたいですね。本日はありがとうございました。

【「クールジャパンデータ&デジマケまつり2022」開催概要】 

●開催目的
クールジャパンとは、世界から「クール(かっこいい)」と捉えられる(可能性のあるものを含む)「日本の魅力」です。また、内閣府が掲げる「クールジャパン戦略」とは、世界の「共感」を得ることを通じ、日本のブランド力を高めるとともに、日本への愛情を有する外国人(日本ファン)を増やすことで、日本のソフトパワーを強化するものです。
日本のデジタル競争力は諸外国と比較して低い水準にあり、クールジャパン戦略をさらに推進するためには、データ&デジタルを活用した的確なデジタルマーケティングを、官民がタッグを組んで推進していく必要があります。
そこで、クールジャパン戦略のデジタルシフト機運を高めるため、「クールジャパンデータ&デジマケまつり」実行委員会がVpon JAPAN株式会社を事務局として設立されました。海外に日本のコンテンツを発信し、ファンになってもらい、日本に来てもらい、日本の素晴らしい文化・プロダクト・観光資源を世界中に届ける「クールジャパン」というムーブメントを促進するため、当実行委員会はデータ&デジタルの側面から強力に支援いたします。

●開催日時
2022年11月21日(月)〜24日(木)

●開催方法
オンラインによるトークセッション(11月21日〜23日)
オフライン開催によるトークセッション&ライブ配信(11月24日)

●開催地(11月24日のみ・招待者のみ)
ところざわサクラタウン(埼玉県所沢市東所沢和田三丁目31番地3)

●オンライン参加申込方法
公式HP 右上の「オンライン参加申し込み」ボタンより申し込み(当日まで申し込み可)

●参加費用
無料

●対象
クールジャパンを推進する行政・自治体・団体、民間事業者

●主催
クールジャパンデジマケまつり実行委員会

●事務局
Vpon JAPAN株式会社内

●後援(順不同)
クールジャパン機構、日本政府観光局(JNTO)、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)、全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会、日本青果物輸出促進協議会、日本畜産物輸出促進協議会、水産物・水産加工品輸出拡大協議会、大阪観光局、沖縄県、沖縄ITイノベーション戦略センター、横浜市立大学、ほか

●協賛(順不同)
株式会社ジェイアール東日本企画、オタフクソース株式会社、株式会社テレシー、エバラ食品工業株式会社、BEENOS株式会社、MarkeZine(株式会社翔泳社)、Vpon JAPAN株式会社、ほか

●テーマ別セッション
Day4:11月24日(木)13:25-14:15 「インバウンド観光振興のこれまでとこれから」にjeki常務取締役ソーシャルビジネス・地域創生本部長 高橋敦司が登壇

●「クールジャパンデータ&デジマケアワード2022」ファイナル&表彰式
Day4:11月24日(木)16:00-17:00にjeki常務取締役ソーシャルビジネス・地域創生本部長 高橋敦司が審査員として登壇

・公式HP:https://www.cooljapan-digitalmktg-festival.com/
・公式Twitter:https://twitter.com/cj_dgmk_fes
・公式Facebook:https://www.facebook.com/110103645181928
・公式Instagram:https://www.instagram.com/cooljapan_dejimk_fes_committee/

塚本 勝政
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部
ソーシャルビジネスソリューション局次長 兼 地域DX推進部長
兼 デジタル本部 JR東日本グループデジタル推進局

1992年、東日本旅客鉄道株式会社入社。
2010年、公益財団法人東日本鉄道文化財団 鉄道博物館 副館長・営業部長
2013年、株式会社びゅうトラベルサービス(現・JR東日本びゅうツーリズム&セールス)クルーズトレイン事業部長(TRAIN SUITE四季島事業)
2018年、JR東日本 品川・大規模開発部 課長 品川イノベーショングループリーダー
2021年より現職。JR東日本グループと連携した地域創生事業やDX推進に携わる。

篠原 好孝
Vpon JAPAN株式会社 代表取締役社長
学習院大学卒、Louis Vuittonを経て株式会社Simplenaを創業。
2014年、Vpon JAPAN株式会社を創業、代表取締役社長に就任。アジアのビッグデータを活用したソリューションを手掛ける。
2019年、Vpon Holdings株式会社を立ち上げ代表取締役就任。クールジャパン戦略をデータ&デジタルの力で推進中。

加藤 史子
WAmazing株式会社 代表取締役CEO
1998年、株式会社リクルート入社。インターネットでの新規事業立ち上げに携わった後、観光産業と地域活性のR&D部門じゃらんリサーチセンターに異動。主席研究員として調査研究・事業開発に携わる。
2016年、WAmazing株式会社を創業。

地域創生NOW

日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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