これからの商業施設は、地域の小規模事業者を巻き込んだ“共同体”へ(後編)
―籾山真人氏(リライト)×村井吉昭・松本阿礼(ジェイアール東日本企画)―

未来の商業施設ラボ VOL.19

商業施設の「買い物の場」としての価値が揺らぐ中で、生活者の視点に立った「理想の商業施設像」を考える、「未来の商業施設ラボ」。今回は、「建築」と「仕掛け」を融合させた場づくりを通じて、賑わいやコミュニティづくりを目指している株式会社リライトの籾山真人さんとこれからの商業施設について語り合います。これからの時代、いかにして地域や人を巻き込みながら持続可能性を保つのか、商業施設はどのような役割を果たすべきかについて対談しました。今回はその後編です。<前編はこちら>
※写真提供:リライト

地域の個人・小規模事業者をキュレーションする

村井:最近ECプラットフォームが発展して、個人が自分で作ったものを自分で販売する動きが広がっています。会社や組織に縛られない自由な働き方だと感じますが、そういう方が御社のプロジェクトに参加されることも増えていますか。

籾山:増えていると思います。我々の強みは、そういった「小商い」をされている方たちを束ね、地域の中に一つのコミュニティをつくり上げていくことです。こうした仕事が成り立つようになったのも、リーマンショックや東日本大震災を経て、人々の価値観が大きく変わってきたからだと思っています。

松本:今、コロナ禍でも働き方の価値観に変化が生まれています。近い未来、会社に属さずプロジェクトベースで人々が働くような「個」の時代が来ると思うのですが、そういう意味でも、やりたいことに主体的に取り組んでいる人たちをコミュニティに取り込むのは、今の時代的ですよね。

籾山:地域の個人や小規模事業者を巻き込む際にも、我々はキュレーションを大事にしています。消費者も、寄せ集められた“素人作品”が欲しいわけではないので、そこをうまくクライアント目線でキュレーションすることが欠かせません。

松本:キュレーションによって、地域の事業者たちが輝けるプラットフォームを用意しているとも言えそうです。商業施設と地域の事業者は、場合によっては競合関係になることもありますが、そこでは協力関係になるのですね。

これからの商業施設と顧客は、共同体になるべき

松本:鉄道系事業者関連のプロジェクトを多く手掛けておられますね。

籾山:リライトの仕事の7割が鉄道系事業者関連で、鉄道系以外も含めると商業デベロッパーさんのお仕事がほとんどです。
これは特に、駅の商業施設が日本の未来における“広場”だと考えていて、そこに注目しているからなんです。海外では、広場は街の中心にあって、共同体の中心であり、市民同士のコミュニケーションが生まれる場となっています。一方で、日本には西洋における広場的な場所はなく、かつての街道筋や橋のたもとにある盛り場など、人の往来の結節点がその役割を果たしてきたといわれます。そして現代日本においては、交通の要所である駅の商業施設が持つ立地の優位性や機能性が、広場としてのポテンシャルを持つのではないかと考えています。

松本:なぜ、広場的なものや共同体に注目されているのですか。

籾山:経済活動を、プライベート(私)とパブリック(公)、そしてそれ以外の、共同性・共同体から生まれる諸活動のコモン(共)として、3つに分けると、かつてはパブリックやコモンが占める割合が大きかったと考えられます。ところが、近代化の過程で、あらゆる共的な活動が公共事業になり、公的な機能も私企業により”商品化”されていきました。
こうして、かつて社会の中で人々が当たり前に携えていた、パブリックマインドのようなものが希薄になってしまった。一方で、高齢化・人口減少の現代日本において今後、公共施設の設置だけではなく、維持管理も難しくなっていきます。そういった意味で、我々は民間の立場でしかできない、パブリックスペースの在り方みたいなものを模索しているわけです。

村井:私たちは、これからの商業施設は、地域との連携・一体化を目指すことで、地域自体の価値を高める存在になるのが理想だと考えています。地域が活性化すれば行政や市民もうれしいし、商圏が活性化すれば商業施設もうれしい。そういうWin-Winの構造をつくれればと考えていますが、それに近いかもしれませんね。

松本:今後、商業施設で働く人と顧客との関係は変化していくでしょうか。

籾山:「モノが売れない時代」と言われて久しいですが、実は売れる場所が変わってきただけだと僕は考えています。どこでも買える商品なら、ECも含め安くて便利な場所で買えばいいわけで、商業施設には“そこで買う理由”が重要になってきます。
そこで商業施設とお客さんの関係性に着目してみると、これまで商業施設は、商品またはサービスと貨幣を交換する場にすぎませんでした。そのため、売り手と顧客は「ホストとゲスト」という対立した関係性でしたが、これからは同じ方向を見た地域の共同体になるべきだと思います。その施設のことを“自分事”として捉えてもらえるような関係性をつくれば、応援したい場所になる。これまでのホストとゲストの関係を超えて、いかにエンゲージメントを高めていくのかという視点を持つべきだと思います。

村井:お話を伺い、地域の個人や小規模事業者を巻き込む視点が興味深いと感じます。これまでの識者対談では、テナント従業員による地域貢献プロジェクトなどのアイデアがありましたが、既に地域で活躍されている事業者を巻き込むということですね。テナント従業員も地域の事業者も顧客も一体となって、共同体になれたら理想的ですね。

“三方一両損”の健全な関係を築く

村井:商業施設、テナント、リライトの三者でプロジェクトを進める際、それぞれの役割をどのように考えていますか。

籾山:プロジェクト自体の持続可能性を高めるため、施設のオープン後は、できるだけリライトが関わらずテナントさん中心で運営していく方法を模索しています。もちろんコストを下げるためそうせざるを得ないという事情もありますが、テナントさんが中心となって、施設に関わるさまざまな人たちが主体的に場を盛り上げてくれるようになって初めて、持続可能な共同体になれるのではないかと考えています。

松本:テナントさんに「商業施設には販促費や共益費をたくさん払っているのだから何かやってほしい」と思わせる関係になってしまうと、共同体にはなりづらいですよね。

籾山:そうですね。我々がJR熊谷駅の商業施設で手掛けた「クマガヤプレイス」は良い事例だと思います。それぞれの役割が明確で、商業施設は賃料の減免などの優遇をしつつ場所を提供する、テナントさんをはじめ地域の人たちはその場を活用して地域を盛り上げる、我々リライトはコミュニティマネージャー(※1)として後方支援をする、という形です。
三者とも少しずつ損やリスクを負うという意味で“三方一両損”の関係と呼んでいますが、お互いができることを持ち寄りながら、リスクも背負う。そういう関係が一番健全で、場を盛り上げ続けるためには欠かせないと感じています。

(※1)リライトがクマガヤプレイスの一部をマスターリースし、施設内のカフェ(プレイスコーヒー)運営を通じて施設全体のコミュニティマネジメントを行うというスキーム。業務委託ではなく店舗運営を通じて施設運営に関わることで、地元事業者同様にリスクを負う。

「クマガヤプレイス」は、2017年、JR熊谷駅直結商業施設「アズ熊谷」6階に開業。施設の中核となるコミュニティカフェのほか、ホールやキッズスペースを併設した情報発信スペースとなっている。中心市街地の空洞化が進む中、かつての駅周辺の賑わいを取り戻すべく、地域事業者はじめ地域の人たちとDIT(Do It Together)することで、“自立的“で“吸引力“ある場づくりを実践した
※写真提供:リライト

松本:クマガヤプレイスの現状はいかがですか。

籾山:ホールが併設されていることも功を奏して、施設に関わる地域のさまざまな人が、毎日のようにイベントを自発的に持ち込んでくれるようになり、賑わいにもつながっています。
健全かつ持続可能な関係を考えると、二者でなく三者が関わることでバランスが取れるのだと思います。二者ではすぐに対立構造が生まれ、互いに良かれと思ってもうまくいかなくなる。我々のように、客観的に“場”を見られる存在がいることも大事なのではないでしょうか。

村井:今までの商業施設は、提供することばかりを考えてきたのかもしれません。共同体として、あるいは協働体として地域の人の力を引き出す関係の方が、持続可能ではないかと感じました。
本日はありがとうございました。

次回以降も、さまざまな識者や実務家の方へのインタビューをお届けします。「未来の商業施設ラボ」は生活者の視点に立ち、未来の暮らしまで俯瞰していきます。今後の情報発信にご期待ください。

<完>
構成・文 松葉紀子

籾山真人(もみやままさと)
1976年、東京都生まれ。博士(工学)。2000年東京工業大学社会工学科卒業、2002年同大学院修了。2002年アクセンチュア株式会社入社。経営コンサルティング業務に従事。マネージャーとしてクライアント企業の新規事業立上げ、マーケティング戦略の立案などに携わる。2008年株式会社リライトを設立、同代表取締役就任。コミュニティバリューに着目し、賑わい創出に向けた仕掛けづくりに強みを持ち、さまざまな商業施設及び公共施設のプロデュースを行う。大規模商業施設や商業デベロッパー等をメインクライアントに、商業施設の企画や、周辺コミュニティを巻き込んだエリアマネジメントなどを手掛ける。2015年JCDインターナショナルデザインアワード金賞受賞(コミュニティステーション東小金井)、2016年グッドデザイン賞ベスト100及び特別賞[地域づくり]受賞(コミュニティステーション東小金井)、2019年グッドデザイン賞受賞(クマガヤプレイス)、グッドデザイン・ベスト100(コトニアガーデン新川崎)。

上記ライター村井 吉昭
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社会の環境変化やデジタルシフトを背景に、商業施設の存在価値が問われる現在、未来の商業施設ラボでは、「買い物の場」に代わる商業施設の新たな存在価値を考えていきます。生活者の立場に立ち、未来の暮らしまで俯瞰する。識者へのインタビューや調査の結果などをお届けします。

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  • 村井 吉昭
    村井 吉昭 未来の商業施設ラボ プロジェクトリーダー / シニア ストラテジック プランナー

    2008年jeki入社。家庭用品や人材サービスなどのプランニングに従事した後、2010年より商業施設を担当。幅広い業態・施設のコミュニケーション戦略に携わる。ブランド戦略立案、顧客データ分析、新規開業・リニューアル戦略立案など、様々な業務に取り組んでいる。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/未来の商業施設ラボ メンバー

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab・未来の商業施設ラボ メンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 篠原 りな
    篠原 りな 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー

    2017年jeki入社。営業局で商業施設のプロモーションに従事した後、2年間出向。 若年向けファッションビルでの販促業務や、顧客分析やアプリ運営などのオムニサービス推進を担当した。 現在はコミュニケーション・プランニング局で化粧品などのプランニングに取り込んでいる。

  • 石田 真理子
    石田 真理子 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー

    2019年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。 食品、飲料などの生活関連商材、ホテル、住宅のプロモーション、コンセプトメイキングに携わるなど、プランニング業務に従事。