Z世代と語る、商業施設の今と未来(後編)
―産業能率大学 学生の皆様×村井吉昭・石田真理子(ジェイアール東日本企画)―

未来の商業施設ラボ VOL.25

商業施設の「買い物の場」としての価値が揺らぐ中で、生活者の視点に立った「理想の商業施設像」を考える、「未来の商業施設ラボ」。これまでさまざまな分野の有識者の方々と対談を重ねてきましたが、今回は、当ラボのアドバイザーである産業能率大学・加藤肇教授にご協力いただき、同大学の大学生4人に話を聞きました。新たな価値観で社会や消費の在り方を変えていくであろうZ世代は、商業施設の今と未来をどのように捉えているのでしょうか。現状の商業施設に対する率直な意見、そしてどうすれば商業施設が人々の暮らしを豊かにしていけるのかを語り合った座談会の模様をお届けします。今回はその後編です。
前編はこちら

参加者プロフィール

加藤肇教授:産業能率大学 経営学部 教授、未来の商業施設ラボ アドバイザー
VOL.2「地域と共生する新たな商業施設像」

[Z世代参加者]
①年齢・性別 ②同居の家族構成 ③趣味または好きなこと ④よく出かけるエリア

Aさん:①20歳・女性 ②両親と同居 ③ディズニー ④舞浜、渋谷
Bさん:①20歳・女性 ②両親と同居 ③アイドルグループの推し活 ④池袋
Cさん:①20歳・女性 ②一人暮らし ③ファッション(特に洋服) ④横浜
Dさん:①21歳・男性 ②両親と同居 ③友人とのドライブ ④幕張、下北沢

商業施設に「生活のあらゆる時間」に寄り添う機能があったとしたら

村井:当ラボでは、商業施設の「買い物の場」としての存在価値が問われる中で、未来の商業施設が「買い物の時間」だけでなく「生活のあらゆる時間」に寄り添い、クオリティ・オブ・ライフを向上できないかと考えています。仕事や家事や趣味など生活のあらゆる時間に寄り添って、生活の質の向上そのものを実現していくのです。

既に、先進的な商業施設はさまざまな生活の時間に寄り添っていると感じます。例えば「食品スーパーと飲食スペースが一体化したフードホール」では、「ダイニングキッチンで過ごす時間」に寄り添い、毎日料理をする手間や同じメニューになりがちなマンネリを解消してくれます。「ファッションに関する多彩なパーソナルサービスを提供する店舗」などもあり、「ワードローブで過ごす時間」に寄り添い、ファッションのコーディネートやメンテナンスの悩みを解消してくれます。その他にも、商業施設の芝生広場が、「公園で子どもと遊ぶ時間」に寄り添ったり、ブックカフェが「図書館で読書する時間」に寄り添ったり……。

こうした、生活のあらゆる時間に寄り添う商業施設について、率直なご意見を聞かせていただけますか。

Cさん:私は一人暮らしなので、このダイニングキッチンで過ごす時間に寄り添うフードホールは魅力的ですね。外食ばかりだと味が濃くて胃が疲れてしまうこともあるし。でもこういうところで、体に優しい食材を使った料理が食べられるなら、うれしいです。だる過ぎて自炊も何もしたくないというときにはふらっと立ち寄ってしまうかも。

それに、一人で食べていると料理が味気ないと感じることもあるので、一緒に食べるわけではないですけど、周りに人がいるだけで安心。知らない人でも誰かが一緒にいるというだけで不思議と心地いいこともあるから、そういう点でも良さそうです。

石田:料理をしなくていいという手軽さだけでなく、健康に気を使える点にも付加価値を感じるというのが興味深いですね。また、商業施設だと周りに人がいるからそれだけで安心というのは、面白いですね。「地域での共食」なども言われていますが、家族や友人のような親しい関係ではなくても、地元の商業施設にいる人というだけで、無意識下で仲間意識があるのかもしれません。これから単身世帯が増加していくにあたり、Cさんがおっしゃったような価値を向上していくことが必要かもしれません。

Cさん:ワードローブの時間に寄り添った、パーソナルサービスを提供する店舗もいいですね。私は服がすごく好きなんですけど、一人暮らしなのでクローゼットがめちゃくちゃ狭いのが悩みです。もし服を管理して、クリーニングにも自動で出して回収してくれるようなサービスがあるとうれしいです。私はスタイリストのアドバイスは要らないんですけど、服の保管や手入れをお願いしたいという人は結構いると思うので、サブスクリプションでいろいろなプランがあると、ユーザー側も入りやすいかもしれません。

石田:なるほど。例えば、Cさん専用のクローゼットが商業施設にあって、何も持たずに服を着替えに行くような生活ができるとすれば、利用したいですか。そこにはいろいろな服があって、一週間のコーディネートを自分で考えられたりするような……。

Cさん:どの服を着るか、その日の気分にもよるので、当日行って考えたいです。そこにはクローゼットだけでなく鏡も置いてあって、服も髪もメイクも、全部に対応できたら、もっと利用したくなると思いました。

村井:それはまさに、自宅以外に商業施設内にもう一つ部屋があるようなものですね。朝、手ぶらですっぴんの状態で行って、そこで身支度をすませる。さらに服に合うバッグや靴も合わせて出かけられたら理想的かもしれませんね。

大学生の学びの時間に寄り添うためには

村井:商業施設が生活のあらゆる時間に寄り添う場所になるとして、大学生ならではの要望やアイデアはありますか? 例えば、皆さん、課題や勉強に使っている時間が多いと思いますが。

Bさん:私の場合、大学の課題に集中したいときに、商業施設にあるカフェによく行きます。お金はかかるけれど、家よりカフェの方が集中できます。イヤホンをして、あとはWi-Fiとコンセントさえあれば勉強ができるので助かっています。そういう機能が充実しているといいのかも。

石田:これまでに実施した調査でも、家よりカフェの方が集中できるという人は多かったです。家だとダラダラしてしまうので気分を乗せるためにカフェに勉強しに行く、という声もありました。

Bさん:コロナ禍で、私たち大学生もオンラインで話し合いをしたり、オンラインで就職活動したりする機会が増えました。通信環境が悪くなったり、家の雑音が入ったりするのが嫌でネットカフェに行く人も多いので、できれば、商業施設でオンラインミーティングができるような場所があると、とても便利で助かります。今は、大学以外だとカラオケボックスでやっているので。

石田:カラオケボックスでやるときもあるんですね。そういった大学生の皆さんの日常の中での不便や不満に、商業施設が寄り添っていけたらいいですね。商業施設にはカフェや、最近ではコワーキングスペースもありますし、ネット環境も整っている。買い物だけではなく学びの時間にも寄り添って、その質を高めていけたらいいなと感じました。

加藤:そのような機能が、特に駅などにあるといいかもしれませんね。いずれ、そういうコワーキングスペースみたいなものが、不動産賃貸料とセットになったものが登場すると言われています。月の家賃に、コワーキングスペースの利用料とか、さらには交通費・定期代まで含めるというアイデアも出てきています。月額でいろんなものが使い放題。これまで見てきたような商業施設のサービスも使い放題。そういうサービスが出てくれば、とっても便利ですよね。皆さん、いい時代に生まれましたね(笑)。

Cさん:そうですね。加藤先生がおっしゃるようなサービスが出てきたら、かなりうれしいです。

村井:ここまでZ世代の皆さんにお話を伺ってきましたが、商業施設が「生活のあらゆる時間」に寄り添って、クオリティ・オブ・ライフを向上させられる可能性は少なくないと感じました。

石田:商業施設には幅広いモノとサービスが揃っている強みがありますが、この強みを買い物だけでなく「生活のあらゆる時間」に寄り添うためにも活用していければよいですね。本日は貴重なご意見をありがとうございました。

次回以降も、さまざまな人たちとの意見交換を通じて、商業施設の未来を考えていきます。「未来の商業施設ラボ」は生活者の視点に立ち、未来の暮らしまで俯瞰していきます。今後の情報発信にご期待ください。

〈完〉

構成・文 松葉紀子

上記ライター村井 吉昭
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社会の環境変化やデジタルシフトを背景に、商業施設の存在価値が問われる現在、未来の商業施設ラボでは、「買い物の場」に代わる商業施設の新たな存在価値を考えていきます。生活者の立場に立ち、未来の暮らしまで俯瞰する。識者へのインタビューや調査の結果などをお届けします。

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  • 村井 吉昭
    村井 吉昭 未来の商業施設ラボ プロジェクトリーダー / シニア ストラテジック プランナー

    2008年jeki入社。家庭用品や人材サービスなどのプランニングに従事した後、2010年より商業施設を担当。幅広い業態・施設のコミュニケーション戦略に携わる。ブランド戦略立案、顧客データ分析、新規開業・リニューアル戦略立案など、様々な業務に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 篠原 りな
    篠原 りな 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー

    2017年jeki入社。営業局で商業施設のプロモーションに従事した後、2年間出向。 若年向けファッションビルでの販促業務や、顧客分析やアプリ運営などのオムニサービス推進を担当した。 現在はコミュニケーション・プランニング局で化粧品などのプランニングに取り込んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。

  • 渡邊 怜奈
    渡邊 怜奈 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー

    2021年jeki入社。仙台支社にて営業職に従事。自治体案件を中心に、若年層向けコミュニケーションの企画提案から進行まで、幅広く業務を遂行。2023年よりコミュニケーション・プランニング局で、官公庁、人材サービス、化粧品、電気機器メーカーなどを担当する。

  • 宮﨑 郁也
    宮﨑 郁也 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーションプランナー

    2022年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。 食品、飲料、人材などのプランニングを担当する。