Z世代と語る、商業施設の今と未来(前編)
―産業能率大学 学生の皆様×村井吉昭・石田真理子(ジェイアール東日本企画)―

未来の商業施設ラボ VOL.24

商業施設の「買い物の場」としての価値が揺らぐ中で、生活者の視点に立った「理想の商業施設像」を考える、「未来の商業施設ラボ」。これまでさまざまな分野の有識者の方々と対談を重ねてきましたが、今回は、当ラボのアドバイザーである産業能率大学・加藤肇教授にご協力いただき、同大学の学生4人に話を聞きました。新たな価値観で社会や消費の在り方を変えていくであろうZ世代は、商業施設の今と未来をどのように捉えているのでしょうか。現状の商業施設に対する率直な意見、そしてどうすれば商業施設が人々の暮らしを豊かにしていけるのかを語り合った座談会の模様をお届けします。今回はその前編です。

参加者プロフィール

加藤肇教授:産業能率大学 経営学部 教授、未来の商業施設ラボ アドバイザー
VOL.2「地域と共生する新たな商業施設像」参照

[Z世代参加者]
①年齢・性別 ②同居の家族構成 ③趣味または好きなこと ④よく出かけるエリア

Aさん:①20歳・女性 ②両親と同居 ③ディズニー ④舞浜、渋谷
Bさん:①20歳・女性 ②両親と同居 ③アイドルグループの推し活 ④池袋
Cさん:①20歳・女性 ②一人暮らし ③ファッション(特に洋服) ④横浜
Dさん:①21歳・男性 ②両親と同居 ③友人とのドライブ ④幕張、下北沢

好きなことにはとことん、お金も時間も使うZ世代

石田:まず皆さんのことを知りたいので、普段どんなふうに過ごしているか、また好きなことやハマっていることについて教えてください。

Aさん:大学には今、週3のペースで通っています。バイトを2つ掛け持ちしていて、バイト先の舞浜と渋谷によく出かけます。ディズニーファンなので、欲しいグッズが出たらすぐに購入。好きなことには、お金を惜しみません。舞浜で稼いで舞浜で使ってるので、お金がそこで循環しています(笑)。

Bさん:私はアイドルグループの推し活をしていて、全国ツアーを追いかけて遠征もします。九州など遠いところは新幹線で移動しますが、大阪や宮城だったら、費用を少しでも抑えたいので夜行バスで行って帰って、朝そのまま大学に行くこともあります。ファンクラブの会費も、すごくお金がかかるんですけど、これはもう固定費なので絶対削れません。

石田:自分がハマっていることに、かなりお金をかけているんですね。Z世代の特徴でしょうか。自由になるお金がそちらに使われると、買い物や商業施設に回ってくる分は少なくなってしまいそうです。

Cさん:できるだけ定期区間内で移動するようにしているのですが、横浜駅直結の商業施設にはよく行きます。服を見るのが好きで、気が付いたら週1ぐらいのペースで通っています。ネットショッピングより、実物を見て買う派です。店員さんと話すのも好き。優柔不断なので迷ったときは店員さんに「どっちの色が似合いますか?」とか聞きます。プロの方にアドバイスを聞くのはすごく楽しいので、おしゃべりしに行っているという感覚です。

Dさん:地元の仲のいい友だちが車を持っているので、よく一緒にドライブに行きます。地元が千葉県に近いので、車で南船橋を通って、幕張に行って帰ってくるのが定番ルート。大型インテリアショップにちょっと立ち寄って、安くておいしいホットドッグを食べて休憩。ショッピングセンターを数カ所回るのですが、僕の場合は買い物が目的じゃなくて、友だちとしゃべりながらドライブすることがメインの目的です。

商業施設へは「わざわざ出掛ける」のでなく「ついでに立ち寄る」

石田:皆さん、好きなことは楽しそうに話してくださるので、聞いていて楽しいです。では皆さんがどのように商業施設を利用しているのか教えていただけますか。

Bさん:出かけることが多いのは、池袋です。駅にある商業施設のカフェで、一人で大学の課題に集中することが多いですね。とにかく面倒くさがりで歩くのも嫌いなので、駅の商業施設は便利です(笑)。友だちとは、会ってしゃべれればどこでもOKなので、みんなが集まりやすい駅に集合して、その後、商業施設に入ることが多いです。食事のためだけに施設の外に出るのは面倒だから、すべてを施設の中で済ませます。

村井:買い物というよりご飯やカフェで時間を過ごすことが多いのですね。友だちと利用するときは、駅で待ち合わせたついでに立ち寄って、そのままずっとそこにいるということですか。

Bさん:そうですね。そういうことが多いです。

Cさん:私も、たまに行く渋谷駅の商業施設は、友だちと待ち合わせをするついでに、「ちょっとご飯まで時間があるから見て行こう」みたいな感じで立ち寄ることが多いですね。

石田:駅の商業施設へは、「わざわざ出かける」というより「ついでに立ち寄る」ことが多そうですね。面倒くさくなくて便利だから利用するというのも興味深いです。「面倒くさくない」というのが、Z世代ならではの理由かもしれません。

Cさん:例えば夏だったら、外に出ると暑いじゃないですか。外に出て10分歩いてお店に入るよりも、冷房の効いた駅直結の商業施設で、行列に並んで30分待っている方がいいんです。面倒くさいとか、汗をかいて化粧崩れをするとか、そういうストレスがないように選んでいます。

商業施設での買い物はレジャーではなくなった

石田:では、皆さん、今よく利用している商業施設に不満はありますか?

Aさん:商業施設では、エスカレーターでぐるぐる周回させられるところが多いですよね。そういう仕組みになっているのは仕方ないですが、路面店だと、パッと見てパッと出られるのがいい。商業施設の場合は、ある程度歩かないと出られないというのが不便です。

Bさん:池袋でよく行く商業施設は、フロアがジャンル別に分かれていません。本当は服を見たいだけなのに、雑貨やおもちゃが並ぶ店を通るたび、歩くことが無駄に思えます。

Dさん:僕も、例えば椅子を買いたいと思ってインテリアショップに行ったとして、ぐるぐる回らされながら、椅子以外の商品を見せられるのが嫌です。だったらネットで買う方がいいなと思う。

Bさん:私は店員さんとなるべくしゃべりたくないタイプ。“売られている”という感じがするから。それに、話しかけられたら愛想よく返事しないといけないのも面倒ですね。

村井:不便とか無駄とか面倒というお話が出ましたが、これまでは商業施設でいろんなお店を回遊することや、店員さんとおしゃべりしながら買い物することは、もっと楽しいものだったと感じます。Z世代の皆さんには商業施設での買い物がコスパの視点で捉えられている気がします。商業施設での買い物は、無条件に楽しいレジャーではなくなってしまったのかもしれませんね。

商業施設での買い物は、楽しい時間を過ごすための「準備」

石田:皆さんが好きでハマっているテーマパーク・アイドル・友だちとのドライブなどとのテンションの差を感じますね。改めて、皆さんにとって商業施設での買い物とはどのようなものでしょうか。

Aさん:私にとっての買い物は、友だちとテーマパークに遊びに行くような楽しいお出かけのためにしている、という感じがします。そもそも友だちと遊びに行く目的として「買い物」という考えがなくて……。あとはSNSに上げるために仕入れるという感覚もあります。新しい服を着てテンションを上げるというより、SNSで誰かに認めてもらいたいというのが大きくて、そのために買っていますね。

村井:モノや買い物が、自分の好きなコトや楽しい時間を過ごすための準備のようになっているのでしょうか。さらにSNSを充実させるための手段にもなっている。やはり商業施設での買い物はレジャーとしての地位が下がっていそうです。

買い物体験が「コト化」しているアウトレットと下北沢

村井:ちなみに、商業施設以外で、買い物そのものを楽しむために出かけることはありませんか?

Bさん:友だちと、「商業施設に行こう!」とはならないけれど、「アウトレットに行こう!」というのはありますね。そのときには全員、買う気満々で事前にお金も用意していくし。車に乗って出かける道のりが楽しいし、帰るとき、トランクがショッピングバッグでいっぱいになってイエーイ!みたいな雰囲気も好き。ちなみによく行くのは軽井沢。泊まりで行くのでちょっとした旅行気分も味わえます。

Aさん:下北沢は、古着好きでおしゃれな人の聖地だと思います。だから、街全体がテーマパークというか、行くこと自体が楽しみです。おしゃれな人が多いので、どういう服を着ているのかを見るだけでも勉強になります。下北沢で服を買うのは、すごく楽しいです。

Dさん:僕も、下北沢に知り合いのアパレルのオーナーがいて、その人たちに会いに行って話をするだけで楽しいです。商業施設にそういう人はいないですね。

加藤:面白い。アウトレットと下北沢は相似なんですね。いずれも買い物が「コト化」していて、きちんとレジャーとして成立している。一方で、ショッピングセンターや駅の商業施設は、そうなれていないという中で、今後どのような方向性があるのかを考えなければいけませんね。

前編では、現状の商業施設に対するさまざまなご意見を伺いました。後編では、当ラボが考える未来の商業施設像について話し合っていきます。

〈後編に続く〉
構成・文 松葉紀子

上記ライター村井 吉昭
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未来の商業施設ラボ

社会の環境変化やデジタルシフトを背景に、商業施設の存在価値が問われる現在、未来の商業施設ラボでは、「買い物の場」に代わる商業施設の新たな存在価値を考えていきます。生活者の立場に立ち、未来の暮らしまで俯瞰する。識者へのインタビューや調査の結果などをお届けします。

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  • 村井 吉昭
    村井 吉昭 未来の商業施設ラボ プロジェクトリーダー / シニア ストラテジック プランナー

    2008年jeki入社。家庭用品や人材サービスなどのプランニングに従事した後、2010年より商業施設を担当。幅広い業態・施設のコミュニケーション戦略に携わる。ブランド戦略立案、顧客データ分析、新規開業・リニューアル戦略立案など、様々な業務に取り組んでいる。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/未来の商業施設ラボ メンバー

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab・未来の商業施設ラボ メンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 篠原 りな
    篠原 りな 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー

    2017年jeki入社。営業局で商業施設のプロモーションに従事した後、2年間出向。 若年向けファッションビルでの販促業務や、顧客分析やアプリ運営などのオムニサービス推進を担当した。 現在はコミュニケーション・プランニング局で化粧品などのプランニングに取り込んでいる。

  • 石田 真理子
    石田 真理子 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー

    2019年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。 食品、飲料などの生活関連商材、ホテル、住宅のプロモーション、コンセプトメイキングに携わるなど、プランニング業務に従事。