
「未来の商業施設ラボ」は、商業施設の「買い物の場」としての価値が揺らぐ中で、これからの商業施設の理想像を“生活者視点”で考えてきました。私たちの考え方は、商業施設が「買い物の場」ではなく「生活の場」として、生活のあらゆる時間に寄り添い「生活の質の向上」そのものを目指していくというものです。このたび、これまでの研究成果をまとめ、未来の商業施設のコンセプトを「生活者とウェルビーイングを共創する地域拠点」としました。未来の商業施設についてはさまざまな考え方がある中で、モノからコトへという時代の変化の先を見据えた、ひとつの考え方です。コンセプトの詳しい内容は<こちら>からご覧いただけます。
商業施設の「買い物の場」としての価値が揺らいでいる
社会の環境変化やデジタルシフトを背景に、商業施設の「買い物の場」としての価値が揺らいでいます。Z世代からは、「商業施設へは“わざわざ出掛ける”のでなく“ついでに立ち寄る”」 「遊びに行くときの目的として買い物という発想がない」といった声が聞かれます。買い物がかつてのように、それ自体を楽しむレジャーではなくなってきています。ECの進化も著しく、必要なモノは毎回注文しなくても自動的に宅配される「補充型経済」の到来が言われます。好きなモノもブランド直営のEC・D2C・P2Cなどで直接購入されます。最寄品・買回品ともに、リアルを経ずに買い物できる時代に入りつつあります。
商業施設で暮らす?
「生活の場」として「生活のあらゆる時間」に寄り添う
「買い物の場」に代わる新たな価値とはどのようなものでしょうか? モノからコトへという時代の変化の中で「時間消費」が注目されてきましたが、私たちは、商業施設が「生活者のあらゆる時間」、極論すれば、24時間に寄り添えないかと考えています。これまでのように「買い物の時間」だけでなく、仕事や家事や趣味など「生活のあらゆる時間」に寄り添っていく。すでに生活者は商業施設の〈芝生広場で子どもと外遊びを満喫する〉 〈カフェでリラックスしながら働く〉 〈フードホールで家のダイニングのようにくつろいで食事をする〉といった過ごし方をしています。商業施設が「買い物の場」ではなく、商業施設で暮らすように、「生活の場」になる未来を発想してみました。
未来の商業施設は「生活者とウェルビーイングを共創する地域拠点」に

未来の商業施設は「生活の場」として、「生活の質の向上」そのものを買い物に代わる本質的な価値として提供していきます。コンセプトは「生活者とウェルビーイングを共創する地域拠点」です。これからの生活者にとって価値が高まるウェルビーイングを、商業施設が生活者と地域一体となって共創していきます。
コンセプトを実現するポイントは3つあります。

1つめは「商業施設と顧客による生活価値の共創」です。商業施設が顧客に買い物の価値を一方的に提供するのでなく、顧客も自分の生活価値向上のために能動的に関与します。“生活の場”となる商業施設として、顧客の生活価値を高めたい気持ちを受け止め、伴走して実現します。
2つめは「一人ひとりの顧客の潜在ニーズの充足」です。共通した顧客の顕在ニーズに対応するのではなく、顧客自身も自覚できていない潜在ニーズまでも充足します。リアルな商業施設として、“人との対話”や“実際の体験”を通して、新たな気付き・発見・出会いを提供します。
3つめは「テナント&地域連携によるリソースの統合・編集」です。施設のテナントだけでなく、地域のリソースも統合・編集してソリューションを提供します。地域と共生する商業施設として、地域活性も視野に入れ、テナント&地域連携によるトータルサービスを提供します。
このような商業施設で、生活者はどのようにウェルビーイングを実現するのでしょうか。生活者の利用ストーリーも考案したので、詳しくは<こちら>をご覧ください。

商業施設が顧客と主体的に、直接関わることで、収益を上げるモデルへ
生活者のウェルビーイングに向き合うことは、ビジネスモデルを変革することにもつながります。私たちは、これまでのテナントの賃料収入だけでなく、生活者のサービス利用料でマネタイズできないかと考えています。顧客のウェルビーイング実現のために、商業施設が顧客と主体的に関わり、テナントや地域リソースを連携させた魅力あるサービスを提供し、それを実感して納得した顧客から直接収益を得ていきます。企業にとってのライフタイムバリューの重要性が高まる中、優良顧客向けのサブスクリプションモデルなどが想定されます。
以上のように、未来の商業施設のコンセプトを考えました。次回は、その実現に向けたヒントを探るべく、ディー・フォー・ディー・アール株式会社代表取締役社長の藤元健太郎さんと、パートナーコンサルタントを務める坂野泰士さんをゲストに迎えて、お話を伺う予定です。どうぞご期待ください。
村井 吉昭 未来の商業施設ラボ プロジェクトリーダー / シニア ストラテジック プランナー
2008年jeki入社。家庭用品や人材サービスなどのプランニングに従事した後、2010年より商業施設を担当。幅広い業態・施設のコミュニケーション戦略に携わる。ブランド戦略立案、顧客データ分析、新規開業・リニューアル戦略立案など、様々な業務に取り組んでいる。