公民連携や顧客との関係づくり
商環境創造の株式会社船場と語る、これからの商業施設 (前編)
―丸山朋子氏・小西龍人氏(船場)×村井吉昭・松本阿礼(ジェイアール東日本企画)―

未来の商業施設ラボ VOL.15

商業施設の「買い物の場」としての価値が揺らぐ中で、生活者の視点に立った「理想の商業施設像」を考える、「未来の商業施設ラボ」。今回は商空間づくりのプロフェッショナルである、船場の丸山朋子さんと小西龍人さんをゲストにお迎えしました。船場は「TOKYOテレワークアワード」の⼤賞受賞や「GOOD ETHICAL OFFICE」としての本社リニューアルなど、未来志向の取り組みを進める企業でもあります。その船場のお二人と、これからの商業施設について語り合います。話題は空間づくりにとどまらず公民連携、店舗スタッフと顧客の関係性、マネタイズなど様々な方向に展開していきました。今回は、その前編です。

公民連携による地域活性化へ

村井:御社は商業施設や専門店やカフェ・レストランなど、幅広い分野の商空間づくりをされていますが、丸山様・小西様はどのようなお仕事をされていますか。

丸山:船場の生活者研究所である「レゾナンス・ラボ」に所属しています。レゾナンスとは共振・共鳴のことで、世の中でムーブメントが始まる時の小さな波に共振・共鳴して、その変化に気づき、汲みとり、商空間づくりに繋ぐことを目指しています。社会環境や生活者の価値観の変化と照らし合わせながら、これからの買い物がどう変わっていくかを研究しています。調査研究をもとに未来の商空間のアイデアを考えることもありますが、それには前例もないので、自分たちのアイデアを形にし、絵にして伝えることもありますね。

小西:商空間の企画開発のコンサルティングがベースで、もともとは民間企業の商業をやってきましたが、現在は自ら手を挙げて公民連携に関わる業務も担当しています。「公と民の双方をお手伝いして連携させる」という信念を持って、自治体で発生した案件を民間に繋ぐことなどもあります。豊島区の南池袋公園整備事業や木更津市のパークベイプロジェクトなど、まちづくりの観点からの自治体のコンサルティングも行っています。

松本:公民連携は、これからの商業施設にとって重要な課題だと思いますが、小西様は最近どんな点に注目されていますか。

小西:私が今、気になっているのが公共施設再配置というテーマです。全国の自治体で昭和40年代~50年代につくられた公共施設に寿命がきており、建て替えるのか、廃止するのか、転用や複合化するのかなどが検討されています。多くの自治体が一定数を削減する方向性に動いていて、何にお金を投資するかの取捨選択をしている状況です。存続自体が危惧される消滅可能性都市の問題もありますが、地域活性化は社会的な命題です。民間の力をどう活用していくかが課題だと思っています。

“商業施設ならでは”の魅力ある公共サービスとは

松本:公共施設再配置ということですが、コンパクトシティとしてまちの機能を集約する考え方については、どのように思われますか。

小西:本当の意味で、全ての機能をコンパクトに集約することはできないと思っています。確かに人が多く住んでいる所に公共機能があるべきですが、一箇所だけにまとめると不便に思う人が必ず出てきます。程良い分散をどうつくれるかが重要ですね。また、木更津市でも市役所を二箇所に分散させて、一箇所は駅前、もう一箇所はショッピングセンター内にテナントとして入っています。藤沢市でも複数ある図書館の一つが藤沢駅前の商業施設に移転で入りました。日常動線上にある商業施設に入ることで、広く市民との接点を増やすことができていると思います。税金を納めているのに公共サービスを利用していない人も意外といるので、有意義な取り組みだと感じます。

松本:商業施設の集客力の強みが、公共サービスの利用拡大に寄与するということですね。

丸山:商業施設が公共サービスの場を兼ねる時に重視したいのは、商業施設ならではのワクワク感や楽しさといった、気持ちが上がる空間づくりです。まちの公民館でも、心地の良い空間とそうでない所とでは、気持ちが全然変わってきます。たとえ商業施設に公共機能が入ってきたとしても、「ただ機能があるだけ」ではなく、「付加価値のある空間づくり」をすることが求められると思います。

イオンモールつがる柏の中に出店したつがる市立図書館(船場にて基本計画、設計、監理を担当)。図書館を単に「本を選んで借りる場所」ではなく、「本をきっかけに集える場」と捉え、快適で利用し易い空間のあり方が考えられている

併設したカフェで買った飲み物を持ち込んで楽しむことも可能

松本:商業施設だからこそ公共サービスの体験価値を高められるということですね。

小西:空間づくりだけでなく、サービスにおいても民間の力が使えるかもしれません。商業施設はもちろんホテルや航空会社の社員のホスピタリティを公共サービスに活用したり……。ハードの空間+ソフトのサービスで、クオリティの高い公共サービスを提供するイメージです。

村井:商業施設には物販・飲食・サービスといった、幅広いジャンルの店舗スタッフさんがいるので、その方々の力を借りた公共サービスというのも面白そうですね。

小西:店舗スタッフさんが商業施設で副業もしくは複業をできないかと思いますね。店舗のスタッフさんが、共用部のコロナ対策の消毒作業を複業で対応しているのをニュースで見ました。共用部の運営はテナントの共益費で維持しますが、店舗スタッフさんを巻き込んでやれることがあるもしれません。例えば、商業施設のパブリックコートで、自分の得意分野を活かし、地域のためになるようなイベントの講師役をしてもらったり、商業施設の外に出て地域に関わる仕事をしてもらったり……。某ホテルでは、都市観光を売りにしているので、まち歩きを楽しめるようスタッフが地域の飲食店を訪問リサーチし、ホテル内に手づくりの飲食店分布マップを置いて、地域とも連携するまちづくりで社会にも貢献しようとしています。

松本:今、若い方は社会課題への関心が高いので、自分の店舗の仕事だけでなく、地域のためになる活動にも関わることで、新しい楽しさややりがいを感じてくれるかもしれませんね。

商業施設の新たなマネタイズの可能性

小西:このように商業施設や民間運営者が公共サービスを担うことにより、従来よりも付加価値の高いサービスの提供に繋がるかと思います。ただし、公共サービスは、民間が真似したくても手間が掛かったり、収益性が低く、事業継続には財源(スポンサー)が必要です。そこで、国や地方自治体の「業務委託」や「指定管理者制度」を活用して、先ずは赤字にならないような仕組みとしていくのはどうでしょうか。そして民間側の経験ノウハウで、収益性の改善や向上にも繋がればと思います。一方、自治体側は、一定の財源を民間側に充当するものの、自治体職員を別の仕事にシフトさせることができます。

村井:私たちは、未来の商業施設は、「買い物の場」でなく「暮らしの場」として、地域住民の生活の質を高める場になっていくべきだと考えていましたが、マネタイズについては様々な方向を検討中でした。今後、公民連携の視点でも考える必要がありそうですね。

松本:公共サービスの質が上がれば、税金を納める市民の納得感も高まると思います。商業施設が介在することによって、地域と市民の信頼関係が強化される構造になっているとも言えるかもしれません。

丸山:もう一つ新しいマネタイズの方向性として、ビッグデータビジネスというのも考えられます。商業施設は多数の人が集まる場所であり、どんな人が何に興味を持ったかを把握できる場所でもあります。商業施設が公共空間化していくと、さらにその特徴が強まります。現在だと各テナントがそれぞれの自社アプリで購買データを取っていますが、これからは商業施設が購買データに限らず、その空間に来ている人の様々なデータを集めて、さらに地域の情報と掛け合わせてデータを企業に販売していくとよいと思います。単なるデータ提供ではなく、企業活動に有効な情報に転換して提供していくといったことです。例えば商業施設が、明日は蒸し暑く汗をかくだろうという気象予報の湿度から紐づく情報と、近隣の学校ではスポーツ大会が開催されるという情報、さらに個人の体調情報と連携した情報を企業に渡せば、企業は制汗剤や熱中症対策、栄養価の高いお弁当などを特集したポップアップをすぐに展開でき、個人のスマホそれぞれにおススメの情報が届くといったことが考えられます。

村井:これからはIoTやウェアラブルデバイスによって、リアル空間でセンシングできるデータが増えていくと思います。時間消費型の施設であれば、“買い物のデータ”だけでなく、様々な行動や心理状況といった“生活のデータ”も集められるかもしれませんね。

丸山:このようなビッグデータビジネスは、商業施設単独で運営するのではなく、デジタル・テクノロジー系の企業や、データを購入・活用する企業との連携が必要になります。これまでとは違う組織や運営体制をつくる必要があるかもしれません。

小西:公民連携でも、商業施設と自治体だけではなく、様々な地域関係者との連携が必要になります。例えば道路を活用してテラスカフェやワゴンショップを実施する場合でも、警察署の許可が必要です。エリアマネジメントにおいても、自治体を含めた様々な団体が連携してまちづくりを推進すれば、法規制などの点で安心安全が担保できます。

丸山:これからは商業施設単独ではなく、自治体などの地域関係者と向き合い、地域一体となって考えていく必要がありますね。商業施設だけのことではなく、地域全体を俯瞰して、例えばまちに必要な機能を商店街にも分散させましょうといった話し合いを商業施設がコーディネートしたり……。むしろ商業施設側から地域のためになることを積極的に提案することで、その地域は本当に活性化していくのではないでしょうか。

前編では、公民連携による地域活性化、商業施設の強みを活かした公共サービスや新たなマネタイズの可能性について、伺いました。後編では、私たちが考える、未来の商業施設の店舗スタッフと顧客との関係性、個人・生活データの活用などについて、丸山さん・小西さんと共に語り合います。

株式会社船場は、商空間全般の調査から企画、デザイン、設計、監理、施工、運営支援に至るまで、商業施設づくりのプロセスをトータルサポートする。“サクセスパートナー”を企業理念に、暮らしを豊かにする空間を“具現化させる”「構想力」、人・街・自然を“親和させる”「設計力(デザインワーク)」、コストパフォーマンスに優れた品質を“実現させる”「施工力」を強みに空間創造に取り組んでいる。
また、2021年度より「DX(デジタル・トランスフォーメーション)とエシカル」を重点テーマと定め、「働き⽅と考え⽅をTransformする」を基本戦略に内装業界におけるデジタル・トランスフォーメーションの推進や、サスティナブル社会に求められる空間設計の新たなテーマとして循環型の内装設計“エシカルデザイン”の推進を行っている。

・ハブオフィスの新たな価値を追求する「GOOD ETHICAL OFFICE」に本社をリニューアル
・第1回「TOKYOテレワークアワード」大企業部門大賞
・「DX認定事業者」認定

上記ライター村井 吉昭
(未来の商業施設ラボ プロジェクトリーダー / シニア ストラテジック プランナー)の記事

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村井吉昭(未来の商業施設ラボ プロジェクトリーダー / シニア ストラテジック プランナー)

石田真理子(未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー)

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上記ライター松本 阿礼
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未来の商業施設ラボ

社会の環境変化やデジタルシフトを背景に、商業施設の存在価値が問われる現在、未来の商業施設ラボでは、「買い物の場」に代わる商業施設の新たな存在価値を考えていきます。生活者の立場に立ち、未来の暮らしまで俯瞰する。識者へのインタビューや調査の結果などをお届けします。

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  • 村井 吉昭
    村井 吉昭 未来の商業施設ラボ プロジェクトリーダー / シニア ストラテジック プランナー

    2008年jeki入社。家庭用品や人材サービスなどのプランニングに従事した後、2010年より商業施設を担当。幅広い業態・施設のコミュニケーション戦略に携わる。ブランド戦略立案、顧客データ分析、新規開業・リニューアル戦略立案など、様々な業務に取り組んでいる。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/未来の商業施設ラボ メンバー

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab・未来の商業施設ラボ メンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 篠原 りな
    篠原 りな 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー

    2017年jeki入社。営業局で商業施設のプロモーションに従事した後、2年間出向。 若年向けファッションビルでの販促業務や、顧客分析やアプリ運営などのオムニサービス推進を担当した。 現在はコミュニケーション・プランニング局で化粧品などのプランニングに取り込んでいる。

  • 石田 真理子
    石田 真理子 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー

    2019年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。 食品、飲料などの生活関連商材、ホテル、住宅のプロモーション、コンセプトメイキングに携わるなど、プランニング業務に従事。