『新たな価値を提供するサブスクサービス』 オイシックス 〜ユーザーとつながることで、豊かな食卓を実現〜

PICKUP駅消費研究センター VOL.27

近年、食品、ファッション、車、動画・音楽、飲食店など、さまざまな分野において、急速に導入事例が増加してきたサブスクリプションサービス。そんな中でも、単純な定額制や定期宅配ではなく、顧客に新たな価値を提供し続けているサービスを2回にわたって取りあげ、その概念や今後の展望を伺いました。今回は、有機野菜などの食品定期宅配サービス「オイシックス」を運営するオイシックス・ラ・大地株式会社でCMT(Chief Marketing Technologist)を務める西井敏恭さんにお話を伺いました。

オイシックス・ラ・大地株式会社
執行役員CMT(Chief Marketing Technologist)
西井 敏恭さん

<オイシックス・ラ・大地株式会社>
2000年、「豊かな食生活を、できるだけ多くの人に」という理念の下に、オイシックス株式会社として設立。ECサイト「Oisix」を立ち上げ、生鮮食品20品目からスタートした。2017年「大地を守る会」と経営統合し、オイシックスドット大地株式会社に商号変更。2018年「らでぃっしゅぼーや」との経営統合によりオイシックス・ラ・大地株式会社に商号変更。

需要と供給のマッチングで、今までできなかったことを実現

 有機野菜など安心・安全にこだわった食材の定期宅配サービスを行う「オイシックス」。スタートは2000年で、インターネット通販の草分け的存在でもあります。目指したのは単に野菜を売るということではなく、“豊かな食卓の提供”でした。
 「サブスクリプションサービスは、今はまだ実現できていないことを、サブスクリプションという手法によって実現することが重要です」と執行役員CMT(Chief Marketing Technologist)を務める西井敏恭さんは言います。
 サブスクリプションサービスは大きく3つのタイプに分けられると西井さんは考えます。①動画や音楽などを定額で楽しめるようなクラウド型、②洋服や車などモノのシェアリング型、③購入することを前提として会員契約を結ぶプレオーダー型。オイシックスは、3つ目のプレオーダー型です。有機野菜は手間やコストがかかるため、売れなければ生産者にとっては大きな負担になります。しかし、事前に注文が約束されていて需要が予測できるサブスクリプションならば安心して生産することができるようになり、会員のニーズにも確実に応えることができます。
 「お客さまが“食卓で使うものをすべて有機野菜にしたい”と願っても、近くのスーパーでは手に入りにくく種類も限られていて難しかった。プレオーダー型のサブスクリプションにすることによって需要と供給をマッチングさせ、豊かな食卓が実現できたのです。モノを定期的に届けるだけなら、単なる定期販売モデルでしかありません。“今までできなかったことができる”という価値をお客さまに提供できなければ継続してはもらえないでしょう」

オイシックスでは、旬の野菜はもちろん、「かぼっコリー」「足長なめこ」といった、一般的なスーパーには並ばない珍しい野菜も多く取り扱う

ユーザーとの直接のつながりが、サブスクの大きな価値

 オイシックスの会員になると、毎週数千円相当の食材があらかじめサイト内のお買い物カゴに用意されます。自分の好みに合わせてボックスの食材を追加したり減らしたりするなど、自由にカスタマイズして注文します。お買い物カゴの食材をどのようにカスタマイズしたか、どんな食材がどんなタイミングで買われるかなど、オイシックスには膨大なデータが蓄積されていきます。
 例えば、LTV(Life Time Value)の差で利用の仕方に違いがあるかどうかをデータで探ると、「入会後数週間以内にある特定の商品を買っている会員はLTVが高い」ということが分かる。すると、入会後数週間以内にその商品を買ってもらえるような売り場づくりができます。このように定量データの分析は、仮説を検証するような場合、非常に有効だといいます。
 しかし、オイシックスが重視しているのはむしろ定性データです。定量データだけでは何を買ったかは分かっても、それをどう使ったか、何に困っているかなどは分かりません。そのため、電話やメール、あるいは直接会うなどして会員に対するインタビューをとても頻繁に行っているそうです。
 「うちの社長は、毎月お客さまのご自宅を訪問して話を聞いています。分からないことは考えるより直接聞いた方が早い、というカルチャーがある。お客さまと直接つながっているということが、サブスクリプションの大きな価値でもありますから」
 実際、インタビューから得た会員の声によって、さまざまな改善や新商品の開発がされてきました。例えば、小さな子どものいる会員から「料理中に子どもの相手をしなければいけないので大変」という話が出たことがあるそうです。直接的に解決を望んで出た話ではありませんでしたが、そこからは会員の暮らしぶりがよく見えてきた。そこで、食材に付けているレシピカードの最初の手順に「材料のチーズを、まず子どもに一口あげる」と書くようにしたそうです。子どもが食べている間に、スムーズに料理ができるようにとの配慮でした。
 「そんなことの積み重ねによって、お客さまにオイシックスは自分のことをよく分かっていると思っていただける。お客さまとのつながりを大切にして、オイシックスを自分のブランドだと思ってもらえることが大事です。そうすれば、お客さまからも協力したい、応援したいと思ってもらえます」
 オイシックスの人気商品であるミールキットも会員の声から生まれました。退会する会員に話を聞いた際、「野菜はおいしいので本当は退会したくないが、忙しくて使い切れない」という声があったそうです。その解決策として開発したのが、20分で主菜と副菜が作れる食材セット。今では、「これがないと生活ができない」という会員も多いといいます。定量データだけを見ていたら、生まれなかった商品です。

「Kit Oisix」は、調味料やレシピも付いて20分以内で主菜と副菜が作れるミールキット。献立を考える必要がないので、多忙な共働き家庭に人気が高い

ユーザーの変化を細かく捉え、サービスをアップデートし続ける

 インターネット通販などのデジタルマーケティングでは、購入履歴を継続的に見られることが強みです。特にサブスクリプションサービスでは、1回の購入データではなく何年もの継続的なデータから、会員の生活の変化を捉えて対応していくことが欠かせません。例えば、入会直後と数カ月後や1年後でサービスの使い方が変わればそれに応じて売り場を変えていく必要がある。
 また、もっと長期的に見れば、結婚、出産、子育てなどライフスタイルも大きく変化していくでしょう。オイシックスのサービスには、4つのコースがあります。旬の野菜が中心の「おいしいものセレクトコース」、野菜とレシピ付の晩ご飯食材セットが中心の「ちゃんとOisixコース」、ミールキット中心の「Kit Oisix献立コース」、そして妊娠時期や離乳食、乳幼児食期の子どもの成長に合わせた食材とレシピが届く「プレママ&ママコース」です。これらは、ライフスタイルの変化に合わせてコースを変えながら継続していくことができるよう工夫されています。中でも、「プレママ&ママコース」は、「出産前後は、何を食べたらいいのか分からない」「子どもの離乳食が難しい」などの声から生まれたといいます。
 「継続的なデータを見ながら売り場を変えることも大事ですが、お客さまが今どういうことで困っているのか、それをどう改善できるのかを考えていくことは、さらに大事です。それによって、お客さまの生活に本当にフィットしたものにしていく。サービスに、これで完成というものはありません」

取材・文 初瀬川ひろみ
撮影(人物) 片山貴博

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.43掲載の記事を一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2019年12月)のものです。

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駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。