言葉は、イメージを変えます。かつては「車中泊」というと仕方なくするものという印象でしたが、近年、同じ車で泊まるという行為が「バンライフ」と呼ばれ、選択的に行われるライフスタイルになってきています。
今回は、新たな生活や旅行のあり方である「バンライフ」を取り上げます。まだまだ萌芽事例ですが、実践するエクストリーム層の声からは何が見えてくるのでしょうか。
バンライフとは。その動向は
バンライフとは、車の「VAN」と生活「LIFE」を組み合わせた造語で、車を使ったライフスタイルを指します。アメリカのファッションブランドであるラルフ ローレンのデザイナーをしていたフォスター・ハンティントン氏が、2011年に車での旅の様子を配信したことがきっかけで世界中に広まったと言われます。日本でも近年注目されており(下図参照)、車上生活だけでなくバンを使った旅も含むなど、広い意味で使われる概念となってきました。
2019年には「つくばVAN泊2019」が開催され、2020年と2023年には日本最大級のバンライフ実践者のためのイベント「VANTERTAINMENT FES(バンタメフェス)」が行われるなど、イベントも開かれています。2022年3月には、YADOKARI株式会社、JR東日本スタートアップ株式会社、東日本旅客鉄道株式会社横浜支社が連携し、期間限定でカスタムVANで地域を巡る旅の実証実験を行うなど、企業の取り組みも見られます。
バンライフの実施率はサイクリング旅と同率
それでは、そんなバンライフはどれくらい実践されているのでしょうか。私たちの調べでは、全国でみるとバンライフの実施率は6.2%という結果です(バンライフを「車中泊、バンでの旅行(※やむを得ない理由ではなく、車中泊を楽しんだ場合)」で聴取した際の実施率)。少ないようにも思えますが、鉄道関連旅は13.2%、サイクリング旅は同率の6.2%、アウトドアでのサウナは4.0%というスコアと比較すると、実はある程度の実施率といえるのではないでしょうか。
属性別では大きな差はありませんでした。都市部の人が自然を求めて、あるいは逆に自然に近い地方部の人が気軽に楽しむといった行動が見られると予想しましたが、地域差も特に見られませんでした。
自由を求めた先にあるバンライフ
では、バンライフに何を求めているのでしょうか。バンライフを実施する理由を、調査の自由回答から見てみたいと思います。
安い、お金の節約になるといった経済面での理由も多いのではと予想しましたが、実はそうした回答はあまり見られませんでした。
また、ある研究者は、バンライフについて「困窮ではなく、豊かさの再編という動機と結びつく。経済的・社会的不安の高まりとともに、大量生産・消費型経済の限界が意識される中、人々は場所や時間やお金やモノに縛られない新基準の豊かさを求め※」ていると指摘しています。
場所・時間が自由になることや、他者の目を気にせず自由になれること、解放感を感じられることが、バンライフ選択の理由になっているようです。
※出典:左地亮子: モバイルハウスの民族誌: 動く住まいとノマドの共生成をめぐる日米仏の事例から, 日本文化人類学会研究大会発表要旨集, 日本文化人類学会第57回研究大会, p. F03, 2023
近年、若い方の旅離れが指摘されます。旅行業界の方から、その一因として、旅行計画を立てることへの苦手意識や面倒くささが少なからずあるとお聞きしました(※参照:EKISUMER VOL.44インタビュー)。さらに食事やチェックアウトの時間など、宿泊施設のルールに従う煩わしさが、旅のハードルになっている面もあるといいます。日々忙しい若い方だからこそ、旅行ではあらゆる制約を忘れて思いっきり自由を楽しみたいという意識もあるのではないかとのことですが、バンライフはそうした人々のニーズを受け止めているのではないでしょうか。
そんな新しく豊かな生活や旅行をかなえるバンライフが、今後どのように普及・浸透していくのか、引き続き注視していければと思います。
<調査概要>
- 調査手法 : インターネット調査
- 調査対象 : 全国18~79歳の男女 1,200人に実施
- 調査期間 : 2024年1月6日~7日
五明 泉 Move Design Lab代表/恵比寿発、編集長
1991年jeki入社。営業局配属後、通信、精密機器、加工食品、菓子のAEを歴任、「ポケットモンスター」アニメ化プロジェクトにも参画。2014年営業局長を経て2016年よりコミュニケーション・プランニング局長。