利用者視点の鉄道沿線像とは?<前編>
利用者の沿線に対するイメージの6つの志向性

PICK UP 駅消費研究センター VOL.72

鉄道業界においては、「沿線活性化」「沿線まちづくり」が進められ、近年、ますます鉄道起点でのまちづくりが注目されています。しかし、当たり前のように使われてきた「沿線」は本当に自明なものなのでしょうか。特に、利用者にとって「沿線」とはどのようなものなのでしょうか。
そこで、ジェイアール東日本企画 駅消費研究センターでは利用者視点での鉄道沿線像に関する基礎的調査を実施。JR中央線、東急東横線を対象に居住者に対し「沿線」の利用実態・意識アンケート調査、「沿線」の認知・生活像インタビュー調査(「沿線」認知マップ描画調査含む)を行って、多角的に沿線像を捉えました。今回はその前編です。

利用者の「沿線」に対するイメージは6つに類型化できる

利用者の持つ沿線に対するイメージにはどういったものがあるのでしょうか。アンケート調査で、中央線もしくは東横線と聞いた際に連想することを自由記述で聴取したものに、インタビュー調査の結果も踏まえて類型化しました。そこから見えてきたのは、下記の6つの志向性です。
地価・家賃が高いというイメージの「資産価値志向」、都心駅への接続、電車の混雑や通勤というイメージの「交通手段志向」、「住みたい地域No.1」や「テレビによく出る」というイメージの「メディア情報志向」、「人気」「おしゃれ」というイメージの「他者評価志向」、便利や発展しているというイメージの「生活利便志向」、ホーム感や安心感を得られる「生活情緒志向」の6つに類型化がされました。

多くの人に共通する沿線イメージは少なく、個々が持つイメージが多岐にわたる

アンケート調査で、中央線もしくは東横線と聞いた際に連想することを自由記述で聴取し、テキストマイニング(※)で分析しました。その結果、利用者の「沿線」に対するイメージは、多くの人に共通するものが少なく、ひとり一人が持つイメージが多岐にわたることがわかりました。中央線、東横線ともに、イメージワードを出現率順に並べると裾野が広がっているのが見てとれます。
※テキストマイニングとは、コンピュータを利用し大量のテキストを解析・数量化すること。

利用者は沿線の範囲を必ずしも起点駅から終着駅とは捉えていない

インタビュー調査で、対象者19人に自身が認識する「沿線」の範囲を聴取したところ、起点駅から終着駅までを「沿線」と捉えている人は、中央線利用者で11人中3人、東横線利用者で8人中4人という結果でした。最も短い範囲は中央線で「新宿~吉祥寺」、東横線で「武蔵小杉~菊名」となり、東横線では8人中2人が、みなとみらい線の区間である「新高島~元町・中華街」を東横線だと認識していました。実際の路線の範囲と、利用者が実感している「沿線」の範囲とに乖離があることがわかりました。

“団子”のようにいくつかのまとまったイメージで捉えられる沿線

インタビュー調査で、対象者19人に、沿線をいくつかのまとまりに分けられるかどうか、また、そのまとまりごとのイメージを聴取しました。その結果、「沿線」の中でいくつかのまとまりで捉えられ、まとまりに対しそれぞれのイメージを持っていることがわかりました。中央線に比べると、東横線は、まとまりが共通しており、イメージも共通していました。

前編では、沿線イメージの6つの志向性(「資産価値志向」「交通手段志向」「メディア情報志向」「他者評価志向」「生活利便志向」「生活情緒志向」)などの、利用者の沿線像を見てきました。後編では、インタビュー調査から、沿線イメージの6つの志向性を表す典型的な人物像を紹介します。

〈後編に続く〉

<調査概要>STEP1「沿線」の利用実態・意識アンケート調査

  • 調査対象 : 20~59歳、JR中央線または東急東横線居住者、居住地決定関与者
  • 調査日時 : 2022年11月24日~11月30日
  • 調査手法 : 調査会社のモニターを使用したインターネットによるアンケート
  • 有効回答数 : JR中央線居住者147人、東急東横線居住者102人
  • 質問項目 : 沿線から連想するワード、ブランドエンゲージメントや愛着に関する指標、プロフィールなど

<調査概要>STEP2「沿線」の認知・生活像インタビュー調査(「沿線」認知マップ描画調査含む)

  • 調査対象 : STEP1の回答者の中から、沿線の累積居住歴1年以上5年未満の人を選出
  • 調査日時 : 2023年1月14日~2月9日
  • 調査手法 : 対面でのデプスインタビュー
  • 回答数 : JR中央線居住者11人、東急東横線居住者8人
  • 質問項目 : 沿線認知マップ、沿線での生活エピソード、自認する沿線の範囲、沿線の中でのイメージのまとまりなど

上記ライター松本 阿礼
(駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー)の記事

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駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。