送迎バスを走らせる「スーパーモールラッキー」
総合スーパーが担う地域のハブとしての役割とは<後編>

PICK UP 駅消費研究センター VOL.66

約1万500㎡の広大な売り場にあらゆる商品が並ぶ、秋田県横手市のスーパーモールラッキー。運営する株式会社マルシメの代表取締役、遠藤さんは、送迎バスを運行したり、困りごとの相談に乗ったりと、人口減少が進む地域の変化とともに、お店の在り方も変えてきました。「地域の困りごとは地域のニーズ」という遠藤さんのユニークな取り組みについて、お話を伺ってきました。今回はその後編です。
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遠藤宗一郎さん
株式会社マルシメ 代表取締役
1981年秋田県横手市生まれ。大学入学のため上京し、大手小売業で地方勤務を経験したのち、25歳の時に家業を継ぐためUターン移住。創業1950年の株式会社マルシメの代表取締役となり、当時赤字だった経営を立て直した。横手青年会議所の第38代理事長。趣味はアウトドア。

楽しんで発掘した価値を地域みんなで享受したい

高齢者へのサービスが充実している一方で、地元の食材にこだわったデリカテッセン併設のレストランや個性ある品ぞろえの酒店、人気のアウトドアブランドなど、若い世代にとっても魅力的なテナント・商品がそろっています。テナントや扱う商品は、どのように選んでいるのですか。

遠藤:僕自身が、料理やアウトドア、食べることが好きなんです。周囲からは、趣味がそのまま店になっていると言われます。自分が住んでいる場所ですから、まず自分が楽しめる場所にしたいですよね。それをみんなで享受できたらいいと思っています。独善的だとしても、考えて行動する人間がいないと何も変わりません。お客様がついてきてくれる限り、その考え方でやっていきたいです。

なるほど、店内を歩いているとその楽しさが伝わってきます。地域ならではの食材や商品が充実しているのもいいですね。

遠藤:地元の人は「田舎で何もない」と悲観しますが、田舎だからこそできることもたくさんあります。例えば、この辺りでは気候のいい時季になると毎週どこかの庭先でバーベキューをやっています。バーベキュー文化やアウトドア文化など、まさにそういうものこそ、うちの店で提案していきたい。今人気のアウトドアブランドのスノーピークは、僕の父親の代から既に取引があり、長くお付き合いただいています。それが強みになり、東北では本当に少ないスノーピークの優良専門店である「Shop in Shop」に認定されていて、県外からもお客様がいらっしゃいます。

また、店内にデリカテッセンを併設した自社運営のレストラン「デリ&キッチン コメールプラス」を作ったのも、地域の農家の野菜をもっと知ってほしいからです。地元の基幹産業である第一次産業とタッグを組んで、価値ある商品を生み出していきたい。そして、地元にもこういういいものがあると、内外に一緒に発信していきたいのです。おかげさまで、無添加のオーガニック食材やナチュールワインなどを目当てにいらっしゃる若いお客様、特に小さなお子さんを持つ30〜40代の方が、ここ数年で増えています。

地産野菜を使ったお総菜やコーヒーなどを提供するコメールプラス。無料休憩スペースも併設しており、気軽に立ち寄る人も多い。写るのは毎日決まった時間にここへ集まるという、地元住民のみなさん。

テナントや商品のセレクトには、ご自身の感性と選択眼が生かされているということですが、情報はどのようにキャッチしているのですか。

遠藤:定期的に県内外を出歩くようにしています。テナントの酒店も、秋田市内の本当に小さな民家でひっそりやっていたお店で、ネットで見つけたんです。実際に行ってみたら、国産ワインや日本酒などの品ぞろえが素晴らしくて、その日のうちにオーナーに会ってすぐうちに入りませんかと声をかけました。みなさん、この地域になかなか目を向けないですが、僕は地元に価値あるものがたくさん眠っていると思っています。世界的に見ても、すごいものだってある。それをどう発掘して、どうつなげるかです。

そのようなお考えは、遠藤さんが一度この地域から出て、外から客観的に地元を見た経験も影響していますか。

遠藤:そうですね。2年間ほどでしたが、会社員として働いて転々と地方都市を回った経験があります。そのときに、地方はどこも変わらないなと感じました。横手市よりずっと大きな都市でも、同じようにみんな悲観している。だったら、横手でやってやろうと思いましたね。

地方都市の郊外にチェーン店が乱立する街並みはどこもよく似ていて、恐らく画一的になってしまっている。でも、本当の日本は文化的に深くて豊かなはずです。秋田県でも、車で1時間くらいの距離なのに横手市と秋田市では食文化が全然違います。県をまたぐと、またさらに違う。それぞれ独自の文化があるのに、全国どこでも均質化されてしまうのはもったいないです。そういう文化を壊してしまったら、国としての豊かさも失ってしまうと思います。

店内には秋田県の醸造所で作られた醤油や味噌などが何種類も並ぶ。「お祭りや食文化は影響し合っている。土地特有のものを生かし、町を盛り上げたい」と遠藤さんは話す。

地域を良くすることは会社を良くすることでもある

テナントや商品が魅力的なだけでなく、働いているスタッフのみなさんも楽しんで仕事をしているようで、活気を感じます。働き方にも、何か工夫をしているのでしょうか。

遠藤:このあたりは、工場勤務やチェーン店のサービス業に従事する人が多い地域です。でもそれが、若い人にとって必ずしも魅力的な仕事かどうかはわかりません。ですから、うちは自分で何かを生み出す創造的な仕事や、新しいことにチャレンジできる仕事を提供する会社でありたいと思っています。ファーマーズマーケットのような新規事業やアウトドアショップ部門などでは、求人を募集するとすぐに人が集まります。東京で働いていたけれど、地元に帰ろうかと考えている人たちの受け皿にもなっているようです。実際に、面接で僕と話してUターンしてきてくれた人もいます。そういうことも、行ってきた取り組みの成果のひとつと言えると思います。

また、元々うちのお客様だった方が、スタッフに応募するケースもあります。今は、インスタグラムでの求人募集を見たフォロワーの方が入社するパターンも増えています。いろいろなことにチャレンジしたいと思っている若い人たちが、うちで働きたいと言ってくれます。

若くてやる気のある人たちに、夢を与える役割も担っているのですね。それによって、人々の地域への愛着も高まりそうです。

遠藤:そうなってくれると嬉しいです。マルシメで身につけたスキルは、たとえ離職したとしても地域で生かしてほしい。そうすれば、地域の人材を育てることになりますし、人口の流出を防ぐことにもつながるかもしれないと思っています。

人口は年々減る一方です。うちのような小売は、地域が沈めば会社も沈んでしまいます。ですから、地域にプラスになることは、同じく会社にもプラスになることだと考えています。地域が盛り上がることで、会社も持続していけるのです。

聞き手 松本阿礼/聞き手・文 初瀬川ひろみ
写真 徳山喜行

〈完〉

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』VOL.55掲載のためのインタビューを基に再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2023年3月)のものです。

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。