膨大な確定データと未来データによる広告配信
―運用型広告「JRE Ads」とJR東日本グループのデジタル戦略とは

jekiデジタル VOL.17

写真左から
JR東日本 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 戦略・CXユニット 川合 秀一 氏
jeki メディアソリューション本部 オンライン媒体局 赤尾 翼
jeki デジタル本部 JR東日本グループデジタル推進局 松本 和起

JR東日本グループが展開する運用型広告「JRE Ads」。「推定データ」にもとづくターゲティングとは異なり、JR東日本グループの利用データである「確定データ」を基にした精度の高い広告配信ができることが大きな特徴だ。今回は「JRE Ads」に計画当初から関わったJR東日本の川合秀一氏と、jekiで「JRE Ads」を担当する赤尾翼、松本和起が「JRE Ads」の現在とJR東日本グループのデータ活用の未来について語り合った。

JRE Adsとは:https://online-soudan.jeki.co.jp/kikukoto-jreads/

まずは皆さんの担当業務を教えていただけますか。

川合:私は「JRE Ads」の計画段階から関わっていて、JR東日本戦略・プラットフォーム部門 戦略・CXユニットに所属しています。戦略・CXユニットでは、今後のグループを横断したビジネスのあり方も検討していますが、交通広告とデジタルとの融合、運用型広告の推進といった課題が、今回の「JRE Ads」の誕生につながっています。

赤尾:オンライン媒体局の赤尾です。「JRE Ads」の商品設計を行い、プランニングから、企画提案・運用まで一気通貫で対応しています。

松本:JR東日本グループ デジタル推進局の松本です。JR東日本が運営するECモール「JRE MALL」の広告運用のカウンターパートになります。元はWEB専業代理店で4年ほど広告運用を経験していましたが、jekiがデジタルに力を入れているという話を聞き入社しました。

JR東日本グループは「JRE Ads」で何をめざしているのか

「JRE Ads」はどのような形で誕生したのでしょうか。

川合:運用型広告が主流となっていくなか、当社の資産で使えるものは何かをまず考えました。サードパーティークッキーが規制されつつあることも踏まえると、これからはファーストパーティーデータの活用だろうという話になりました。
同時に社内では、JRE POINT会員データをベースに、当社が保有する「ビューカード」や「えきねっと」「Suica」「JRE POINT」などのデータを整えて統合管理できるようにする「統合データマート構想」を進めており、データを一気通貫で分析・利用できる環境が整いました。そこに運用型広告の話が合流して、「JRE Ads」が誕生したのです。

JRE Adsは、JRE POINT会員データを軸に、利用規約上可能なデータを分析連携することで、例えば「新宿駅をよく利用するセグメント」のように、効果的なターゲットに当社が広告配信するサービスです。その際、会員個人が識別されないよう、プライバシーには十分に配慮しています。

赤尾:効果的なターゲットにアプローチできることに興味を持ってくださる広告主は多いです。評価をいただいている要素はいくつかありますが、1つ目は精緻なジオターゲティングによるセグメントです。ジオターゲティングは、端末や提携アプリのGPS情報を基にした「推定データ」を活用するのが一般的ですが、「JRE Ads」は、「確定データ」で特定の駅に絞って配信することもできます。生活動線を捉えた配信ができるという点も、「JRE Ads」の強みだと感じています。

2つ目は、JRE POINT会員の利用サービスを軸にした広告配信が可能な点です。ビジネスシーンでの利用が多い「STATION WORK」「えきねっと」や、アクティブシニアの会員を多く抱える「大人の休日倶楽部」の会員データに基づき配信していくことが可能です。この点は、現在タイアップ出稿いただいている、「JRE MALL」物販の出店者からも、その親和性の高さから評価をいただいています。
3つ目は、観光系の施策に強いという点です。移動データにもとづいた配信ができるのは、JR東日本グループだからこその強みです。東京から地方へ、逆に地方から東京への移動について、広告素材の出し分けも可能です。現在、1ヶ月先のえきねっと予約データの活用も検討しており、ますます活用が期待できそうです。

川合:赤尾さんが挙げてくれたのは、まさに「JRE Ads」の特質であり、強みです。予約段階から移動中まで、状況に応じて訴求が可能だと考えます。

赤尾:1週間前から旅行先のレジャー施設の情報を発信できたり、おすすめのお土産品などを訴求できたりすると、旅行の計画の一部に組み込んでもらえる可能性がグッと高まるはずです。広告で興味を持っていただき、態度変容までつなげるという、広告の最も重要な役割を効果的に果たすことができそうです。

川合:松本さんはJR東日本グループのデータ活用について、何か感じていることはありますか?

松本:ビッグデータと言うと、これまでは、「膨大なデータを1ヶ所に格納すると、あとは機械が学習して処理してくれる」といった話が中心でした。ただ、先ほども触れた通り、オンラインの良さというのは「セグメントを切り分けられること」でもあります。より精緻なターゲティングが求められるなか、データが増えればさまざまなセグメントで「しきい値※」をクリアできるようになり、より精緻な広告配信が実現できます。
そうなると、次に考えられるのは、オフラインの出口を切り分けるような施策です。オンラインでアプローチして、店舗へ誘導したり、旅行先で特定の行動を誘引するという、ターゲットに応じたオフラインの行動を促す。これまでオフラインの切り分けはそこまでできていなかったですが、今後はそうしたワントゥワンのコミュニケーションが求められる傾向になっていくのではと考えています。
※データを活用した分析や広告配信が可能となるために最低限必要なデータの量

川合:JR東日本では、2026年度中を目指してSuicaのセンターサーバー化を進めています。これが実現すると、また新たな可能性が生まれると考えています。現状は、改札利用からデータを分析・活用できるようになるまで1ヶ月程度かかっていますが、センターサーバー化によって、よりリアルタイムに活用できるようにすることに加え、柔軟な割引きっぷの提供をしていきたいと考えています。
たとえば、今日、駒込のホテルメッツに空室があるとした場合、東京への急な出張でその日の宿をまだ決めていない人に向けて、東京駅のSuicaのタッチのタイミングで「ホテルまでの交通費分の割引クーポン」の広告配信ができるようになります。これまでホテルやレストランは、自分たちが割り引くクーポンしか発行できませんでしたが、Suicaでのタッチの直後に、交通費をインセンティブにして消費を促すことができるようにすることで、鉄道会社にしかできない価値を生み出し、グループの持続的な成長につなげていきたいと考えています。

潤沢なデータソースを背景に、いかに広告の効率を高めていくか

今後、チャレンジしたい取り組みはありますか。

川合:ターゲットに対して、広告配信するグループとしないグループを作り、行動変容が起きたかどうかを検証したいと考えています。広告配信の有無と「NewDays」での実際の購買データとの相関を見て、そこに差が生まれていれば広告の価値も証明できます。
この考え方を発展させると、購買データをベースに買っていない人にだけ広告を当てようという提案も可能になります。自社商品が含まれるカテゴリー内で既存顧客を除外して広告を配信することができれば、すごく効率的な広告運用となります。

松本:クッキーレス化で生じる問題としては、ターゲティングが曖昧になるという配信面の話と、成果測定が難しくなるという計測面の話があります。「JRE Ads」は、配信面はクリアになっていますし、計測面でもPOSデータやコンバージョンデータを使えばクリアになるはずです。それを担保していくためにも、データボリュームは必要だと考えます。

川合:データボリュームの更なる拡張は、広告主への価値提供につながる話なので、なんとか実現したいですね。

赤尾 翼
jeki メディアソリューション本部 オンライン媒体局
2021年jeki入社。JR第一営業局に配属後、主にJR東日本の企業広告やプロモーション業務を担当。
2023年よりオンライン媒体局に所属し、JRE Adsをはじめとした、Web領域の企画立案・運用を担当。

松本 和起
jeki デジタル本部 JR東日本グループデジタル推進局
インターネット専業広告代理店にてEC、百貨店、衣料品、自動車など様々な業界のWeb広告運用を経験後、オンラインリサーチ会社を経て2023年jeki入社。現在は主にJRE MALLのWeb広告の企画、進行管理を担当し、JRE Adsの活用にも積極的に取り組んでいる。

川合 秀一
JR東日本 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 戦略・CXユニット
2016年東日本旅客鉄道株式会社入社。出向で、小売店の運営・広告代理店営業を経験。JR復職後は、交通広告の媒体開発、新規事業、を担当。現在は、JRE Adsをはじめとしたデジタルコミュニケーション施策の推進を担当している。

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劇的な変化を続けるデジタル領域において、移動や体験、リアルとオンラインなど、jekiの特性をいかした取り組みの紹介や有識者との対談をお送りします。

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  • 直井 伸司
    直井 伸司 jekiメディアマーケティングセンター センター長

    1992年jeki入社 。約17年間、人事部門にて、採用、教育、評価、制度など人事全般を担当。 その後、JR局にて、「JR SKISKI」や「大人の休日俱楽部」のキャンペーンなどJR東日本関連の案件を担当した後、 第一営業局にて、JR東日本グループの商業施設の担当などを経て、 2019年7月、メディアマーケティングセンターのセンター長となり、現在に至る。