データドリブン時代の“移動情報”活用の可能性(前編)

jekiデジタル VOL.2

写真左:株式会社jeki Data-Driven Lab取締役 於保真一朗氏
写真中:株式会社jeki Data-Driven Lab代表取締役社長 兼 株式会社ジェイアール東日本企画 デジタル・ソリューション局長 萩原浩平
写真右:株式会社ジェイアール東日本企画 メディアマーケティングセンター センター長 兼 株式会社Data Chemistry 取締役 直井伸司

企業が顧客と直接つながり、膨大なデータを保持するようになったことで、そのデータ活用を軸としたマーケティング手法が重要視されている。jekiはデータドリブンマーケティングの推進を目的として、クリーク・アンド・リバー社との共同出資により、2019年9月に株式会社jeki Data-Driven Labを設立した。
今回、同社の設立の背景や取り組みの実績、ポストCookie時代のデータ・マーケティングの展望について、同社代表取締役社長でjekiデジタル・ソリューション局長を兼ねる萩原浩平と、同社取締役の於保真一朗氏に、jekiメディアマーケティングセンター長の直井伸司が話を聞いた。

データドリブンの専門組織として設立したJDDL

直井:まずはお二人の経歴からお伺いしてもよろしいでしょうか。

萩原:jekiに勤めてずいぶん経ちますが、ここ5年程、いくつかのデジタル会社の設立に関わり、現在はデジタル・ソリューション(以下DS)局長を務めながら、2019年9月に設立したjeki Data‐Driven Lab(以下JDDL)の社長、MMSマーケティングの取締役をしています。

於保:私はJDDLで取締役をしています。もとはクリーク・アンド・リバー社にて、顧客企業向けにデータの活用支援を担当していたのですが、「jeki移動者DMP」の立ち上げをお手伝いした際に萩原さんにお会いする機会があり、後に「JR東日本グループにもデータドリブンの専門組織を作りたい」というお話をいただいて合弁会社の立ち上げに参画させていただきました。

於保:以前はインターネット広告の代理店でデジタルマーケティングの施策やデータ分析の専門部隊を立ち上げたり、事業会社で分析実務に加え、BIダッシュボードの運用保守や分析人材の育成、DMPなどに関わったり、デジタルデータ周りの様々な業務を経験してきました。

直井:JDDL設立の目的や経緯についてお伺いできますか。

萩原:5年ほど前に、約500万ダウンロードされている「JR東日本アプリ」の分析をjekiのDS局で担当し、移動情報と消費との関係性分析や「jeki移動者DMP」の立ち上げなどをクリーク・アンド・リバー社にお手伝いいただきました。施策が成熟するにつれ、共同で得られた知見やノウハウを内部に蓄積する必要性を感じるようになり、グループ内に「データをきっちり読み取れる会社」を設立しようという構想が生まれました。クリーク・アンド・リバー社との合弁会社としたのは、専門性が高い領域につき、既に施策を通じて信頼関係にあった同社の知見やノウハウを活用させていただこうと考えたからです。

於保:クリーク・アンド・リバー社としても、データアナリストなど専門分野に関する人材事業を行っていたこともあり、グループでビッグデータを保有し多くの顧客企業とのお付き合いがあるjekiさんと協力し合うことで、高いシナジーを発揮できるのではないかと考えました。

萩原:こうした両社の協業に基づき、現在、JDDLではJR東日本グループ関連のデータ分析業務に加え、人材派遣の資格も取得し、他企業へのデータサイエンティストの派遣や業務委託による人材と知見の提供などを行っています。

また、社名にデータドリブンラボとあるように、今後は蓄積した知見やノウハウをもとに研究・成果発表を行うなど、ラボとしての機能も持たせていきます。後ほど詳しくご紹介しますが、直近においては移動をテーマにしたゲームアプリを立ち上げ、移動者への情報提供による行動変容について研究・分析を行い、定期的に発表することを予定しています。

於保:ゆくゆくは移動者データ活用のリーディングカンパニーになりたいですね。通勤や通学のような“日常的な移動”、そして旅行などの“特別な移動”について、どんな情報を提供すれば行動変容を促せるのか、分析・研究を進化させていきます。

「移動情報」を分析・活用し、移動を喚起する取り組みにつなげる

直井:具体的には、どのような施策に取り組まれているのですか。

於保:たとえば「観光型MaaS」として、自治体や鉄道事業者、地元事業者と連携した実証実験を行っています。スタンプラリーなどによる集客やガイドブックなどの作成・提供など、観光を目的とする移動者のメリットとなる情報提供で移動を促進し、自治体・地方の活性化につなげることが目的です。移動データの分析によって効果的なアプローチを見出し、メソッド開発にも着手していきます。

また、「jeki移動者DMP」では、日常的な通勤・通学などの移動について、移動者にどのような刺激を与えることで行動喚起・変容が可能なのか効果測定を行っています。たとえば、「JR東日本アプリ」内での割引クーポンが当たるキャンペーン施策では、クーポンの取得による行動変容で生じる「移動」を統計的に分析しました。個人が特定されないよう集合体としてデータを取得し、性別や年代などの属性データやクーポンの割引率などによる変化を測定します。クーポンによって女子大生が初めてそば屋に入ったり、「ふらり来店」していた人がクーポンを手に「計画的に来店」したり、興味深い傾向がいろいろと見られました。このまとめはAdvertising Week Asiaでも発表しました。

萩原:「観光型『移動者DMP』」の実証実験も行いました。鉄道会社連携で実施している静岡デスティネーションキャンペーンでは、これまでは宿などの施設の方々の実感から効果を定性的に見ていたものを、定量化・可視化できる取り組みを行いました。今まで手薄だった20代・30代の女性を増やしたいという狙いに対し、下田海中水族館で170%、伊豆高原ぐらんぱるで150%の増加が得られ、属性や“どこから来たか”の分析、さらにはTwitterでの「浴衣」「イルミネーション」「コンテスト」などの言葉から、“どのように楽しんだか”まで細かい分析ができました。

分析をもとに効果的な施策を横展開したり、地域や年別で比較したり、戦略的に施策に活かせることも高くご評価いただきました。2020年もある自治体よりDMO(Destination Management/Marketing Organization)の取り組みの一環として分析を依頼され、取り組んでいます。

直井:今までアナログでしか知り得なかった施策の効果をデータで検証して、可視化できるようになったというわけですね。その次には、どのような展開をお考えなのでしょうか。

萩原:一般に「位置情報」と言われる情報を、我々はあえてこだわって「移動情報」と呼んでいます。確かに移動位置を知るツールは多数ありますが、移動の理由までは明らかにはできません。一方、jekiは長年にわたって「移動者マーケティング」を標榜し、人々が移動する動機の分析に取り組んできました。たとえばJRのパンフレットにあるキーワードがどれくらい響いているかSNSで検証し、パンフレットで響く言葉を提言したり、有効なイベントの企画を導いたり、移動の未来予測までできればと考えています。「花火大会」というイベントが人の移動を創発するとして、花火大会の前には、美味しいものを食べたいと思うのではないか、そして、花火大会の後には、こんなお土産を買って帰るのではないか、という、イベント前後の人々の行動まで予測し、マーケティング企画を組み立てていくイメージです。

直井:設立されて1年に満たない間にも、いろいろと興味深い施策に取り組まれたのですね。直近では位置情報を活用したゲームのローンチが話題になりました。後編では、話題のゲーム「トレすごタウン」について、そして、ポストCookie時代の展望について伺いたいと思います。
<後編に続く>
株式会社jeki Data-Driven Lab https://www.jeki-ddl.co.jp/

萩原 浩平
株式会社jeki Data-Driven Lab代表取締役社長 兼 
jekiデジタル・ソリューション局長

1998年jeki入社。マーケティングからデジタル領域全般を担当。幅広い人脈を持ち、メディア・コンテンツ開発や、新規事業開発、データ活用ビジネスなど様々な分野に対応する。現在は㈱jekiインタラクティブ・コミュニケーションズ、㈱MMSマーケティングの取締役、㈱jeki Data-Driven Labの代表取締役を務める。

於保 真一朗(おほ しんいちろう)
株式会社クリーク・アンド・リバー社 データプロデューサー 兼 
株式会社jeki Data-Driven Lab取締役

インターネット広告代理店でネット広告、サイト制作、ウェブ解析のチームリーダーを歴任。株式会社リクルートライフスタイルにて、BIやDMP等のビッグデータ活用推進チームにてプロジェクト推進に従事。株式会社クリーク・アンド・リバー社にて、データ関連専門案件・求人サービス『Symbiorise』の事業発足及び運営に携わる。
自らデータプロデューサーとして、自動車会社、化粧品会社、B2B会社等のデータ活用プロジェクト推進を支援。2019年株式会社jeki Data-Driven Lab取締役就任。主にJR東日本グループの移動者データやデジタルマーケティング活動支援などを担当。
ウェブ解析士協会エキスパート講座講師、データサイエンティスト協会スキル定義委員会会員。セミナー講演、記事執筆多数。「プロが教えるGoogleアナリティクス実践テクニック」共著。

上記ライター萩原 浩平
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jekiデジタル VOL.3

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劇的な変化を続けるデジタル領域において、移動や体験、リアルとオンラインなど、jekiの特性をいかした取り組みの紹介や有識者との対談をお送りします。

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  • 直井 伸司
    直井 伸司 jekiメディアマーケティングセンター センター長 兼 株式会社Data Chemistry 取締役

    1992年jeki入社 。約17年間、人事部門にて、採用、教育、評価、制度など人事全般を担当。 その後、JR局にて、「JR SKISKI」や「大人の休日俱楽部」のキャンペーンなどJR東日本関連の案件を担当した後、 第一営業局にて、JR東日本グループの商業施設の担当などを経て、 2019年7月、メディアマーケティングセンターのセンター長となり、現在に至る。 なお、現在は、㈱Data Chemistry、㈱JICの取締役を務める。