データドリブン時代の“移動情報”活用の可能性(後編)

デジタルマーケティング VOL.3

写真左:株式会社jeki Data-Driven Lab取締役 於保真一朗氏
写真中:株式会社jeki Data-Driven Lab代表取締役社長 兼 株式会社ジェイアール東日本企画 デジタル・ソリューション局長 萩原浩平
写真右:株式会社ジェイアール東日本企画 メディアマーケティングセンター センター長 兼 株式会社Data Chemistry 取締役 直井伸司

企業が顧客と直接つながり、膨大なデータを保持するようになったことで、そのデータ活用を軸としたマーケティング手法が重要視されている。jekiはデータドリブンマーケティングの推進を目的として、クリーク・アンド・リバー社との共同出資により、2019年9月に株式会社jeki Data-Driven Labを設立した。
今回、同社の設立の背景や取り組みの実績、ポストCookie時代のデータ・マーケティングの展望について、同社代表取締役社長でjekiデジタル・ソリューション局長を兼ねる萩原浩平と、同社取締役の於保真一朗氏に、jekiメディアマーケティングセンター長の直井伸司が話を聞いた。<前編はこちら>

独自のデータが価値を持つ時代に向け、ゲームをローンチ

直井:前編ではjeki Data‐Driven Lab(以下JDDL)の設立目的や取り組まれている施策について伺いました。後編は、社会情勢やデジタルマーケティングが大きく変化する中で、新しい取り組みや中長期的な展望についてお聞かせいただければと思っています。

変化といえば、「JR東日本アプリ」では、これまでの使い方に加えて、電車の混雑度を表示して「密」を避けるよう促していますね。どんな目的であっても、人の移動に影響を与える情報を提供するためには、目的に合った「データ」が欠かせないと感じました。

萩原:そうですね。多くの企業では他社から提供されるオープンデータと自社データを組み合わせて分析しており、JDDLもJRをはじめ様々な企業のデータを預かり、分析してきました。また、Cookieの規制や個人情報保護法の改正などでオープンデータの使用が限定され、取得できるデータが変わる可能性も生じてきました。そうなった時、データを取り扱う会社として自身でもデータを持ち、ものを言えるスタンスを確立することが大切です。

そこで位置データを取得するために有効と考えたのが、ゲームのアプリです。もともとJR東日本が出している「トレすご」という人気ゲームがあり、そのスピンアウト版として「トレすごタウン」という街づくりゲームを2020年9月中旬にリリース予定です。

トレすごタウン https://toresugo-town.com
© 2020 JR East Marketing & Communications,Inc Co-Developed by CREEK & RIVER Co., Ltd

直井:具体的にはどのようなゲームなんですか?

萩原:移動距離に応じてガチャを回し、現実に存在する建物・道路・橋・施設・公園などの“アイテム”をゲットし、自分で街をつくるというものであり、ゲームによって取得するデータを通じて、「移動者」についてなど、いろいろ分析していきたいと考えています。

まずは東日本エリアから開始したいと思っていますが、日常的な通勤・通学の移動もさることながら、観光にも活用していきます。もともと、JR東日本アプリにおいて、「トレすご」をデスティネーションキャンペーンでゲームの企画と連動させたところ、かなり面白いデータが取得できました。「トレすごタウン」もそうした地方の観光キャンペーンや他の企業と連携できるとすれば、面白いことができそうです。

直井:なるほど、位置情報と連動した様々な行動などが「移動情報」として取得でき、それを分析して活用するというわけですね。

「情報銀行」で情報の許諾化と有効利用が促進される?

直井:個人データの活用という点では、情報銀行の普及をめざす動きが進んでいますね。

於保:個人情報を安心・安全に預託し、サービス事業者から便益を得ることができる情報銀行の取り組みは加速化しており、個人情報保護の観点でも、情報銀行の認定取得に名乗りを上げる会社が増えてきています。個人にとっては、A社には情報提供するけれども、B社にはしない、またA社に提供していたけれども停止するといった管理制御ができるのが特徴です。企業にとっては、個人情報を大切に扱い、情報提供した個人に対し有益なサービスを提供することが求められてきます。

萩原:これまで、企業は内々で様々なデータを活用してきましたが、今後は個人が自分のデータの使用範囲を許諾して、はじめて使えるようになります。企業の一方的なデータ活用ができなくなり、個人が望んだもの、許諾した情報をより有効に使うための仕掛けが整いつつあるといえるでしょう。

直井:個人が自分のデータを使われる際の主導権を握るということですね。自分のデータを企業などに使われることへの嫌悪感は、情報銀行によって払拭されるのでしょうか。

萩原:払拭される人たちとそうでない人たちに分かれるでしょうね。ただし、Z世代やミレニアル世代といわれるデジタルネイティブ世代は、生まれた時からスマホが近くにあり、 “自分の味方”という感じのデバイスになっています。いわば情報のギブアンドテイクを感覚的に理解している人が非常に多い。たとえば「私生活をYouTubeに売って小遣いを稼ぐ」とか、ちょっと極端ですが、そうした判断を自分で行っているわけです。

直井:データの利活用者や仕組みだけでなく、提供者のマインドや価値観の変化が、今後のデータマーケティングのあり方を大きく左右しそうですね。

法令整備で改めて問われる「データ活用の提供価値」

直井:情報銀行などの仕組みや個人の意識もさることながら、個人情報に関する法律の改正やGDPRなど、法令による統制も進んでいます。データケミストリー社※でもパブリックDMPでサードパーティデータを活用しながらターゲティングやセグメントなどを行っていますが、これまでとは異なるアプローチが必要になるかもしれません。

※データマーケティング領域で共同の取り組みを行うことを目的に、jeki、ADK MS、東急エージェンシー3社の出資により2019年4月に設立

萩原:ターゲティングは“ちゃんと刺されば”、有効な情報を効率的に手に入れられて個人にもメリットがあるはずなんです。でも、「既に買ったものの情報がまだ来る」など、今はまだリコメンドの精度が低いですよね。たとえば、そこに「購入した」という情報が加われば、そういうこともなくなるでしょう。つまり、ターゲティング広告は未熟なだけであり、データ活用が成熟すれば提供できる情報の有効性が上がり、さらに活性化する可能性があります。

直井:サービスを使いたいと思って使うからデータが溜まる。データが溜まるとサービスの利便性が高まる。となると、まずは「サービスを使いたい」と思わせることが重要ですね。必然的にサービスプラットフォーマーが強くなりますが、たとえばJR東日本グループも、リアルでは巨大プラットフォーマーですが、そのような企業がその強みをデジタルやオンラインで活かすとしたらどのような可能性があるとお考えですか。

萩原:私はむしろ「リアルの強みをより強くするために、デジタルをどう使うか」だと考えています。リアルで市場が大きいからといって安易にデジタルへ展開した瞬間、恐らくリアルの強みは大きく損ねられてしまうでしょう。

於保:JR東日本グループの場合は、たとえば最寄り駅に駅ビルや駅ナカがあることが強みですしね。そこで情報を発信する際に、移動者が持つスマホを通じてデジタルをうまく活用するという発想です。データ活用で利便性を高められる余地はまだ大いにありそうですし、他の場所の情報を提供すれば「移動」も生まれて、リアルへ貢献していくでしょう。

直井:「出会い的な消費」のようなものを、誘発できたらいいですよね。

於保:趣味嗜好など自分に合った情報が自然とリコメンドされるサービスなどは、リアルを基本の場としてデジタルを活用する例でしょうね。

横断的なオーケストレーションで「未来マーケティング」を実現

直井:今後、デジタルやデータを活用したマーケティング活動はどうなっていくと思われますか。また、何が必要になっていきますか。

於保:今、3つの方向性があるように考えています。
1つ目はIoTや5Gなど新しいテクノロジーの進化による、実稼働を想定した実証実験の活性化です。どのようなデータを取り出し、どう分析しビジネスにつなげていくか、ユーザーとどのような接点を持っていくかなどの実証実験に、いかに取り組んでいくかが重要だと考えています。

2つ目はデータやAIなどの活用プロセスの最適化です。スピード感をもって実証実験を行うにはガイドラインの活用が必須ですし、実証実験の回転速度を上げ、精度を高めていくには、AIの活用や、多くの人材を束ねるオーケストレーション的な運用が必要不可欠です。例えば、データの収集・統合・整備・可視化・解釈・企画・実行までの各プロセスのタスクに対して、何に気をつけて業務を遂行すべきか、プロセスの間を埋めるためには誰にどのように掛け合ったり、調整すべきかなどをガイドラインとして整備し、ノウハウを体系化することが望ましいと考えています。事業担当者との調整やプロフェッショナル人材を統括するプロジェクトマネジャーの活動、それとメンバー同士が協力しあうための意識のすり合わせがとても大切になりますね。

3つ目は「データガバナンス」です。誰もがデータを扱えるようになる中で、権限管理などの仕組みづくりや一人ひとりの意識やモラルの向上などを念頭においた組織づくりが求められます。

直井:ありがとうございます。最後にJDDLとしての今後の展開についてお聞かせいただけますか。

萩原:jekiと連携して「データをベースに様々な提案ができる会社」になりたいと考えています。データは過去のものですが、重要なのは未来を予測し、「これからどうするのか」を決めることです。いわば「未来マーケティング」とも言えるでしょうか(笑)。「少し先の未来」を予測し、示唆し、提案する。そのためにはデータドリブンであることは不可欠であり、過去のデータ分析にとどまらず、常にデータの更新を繰り返し、ユーザーに新しい選択肢を提示できるような、データを活用できる会社になる必要があると考えています。

直井:共にデータドリブンな「未来マーケティング」を実現させていきましょう。本日はありがとうございました。

トレすごタウン https://toresugo-town.com

直井 伸司
メディアマーケティングセンター センター長 兼 
株式会社Data Chemistry 取締役

1992年jeki入社 。約17年間、人事部門にて、採用、教育、評価、制度など人事全般を担当。
その後、JR局にて、「JR SKISKI」や「大人の休日俱楽部」のキャンペーンなどJR東日本関連の案件を担当した後、第一営業局にて、JR東日本グループの商業施設の担当などを経て、2019年7月、メディアマーケティングセンターのセンター長となり、現在に至る。
なお、現在は、㈱Data Chemistry、㈱JICの取締役を務める。

萩原 浩平
株式会社jeki Data-Driven Lab代表取締役社長 兼 
jekiデジタル・ソリューション局長

1998年jeki入社。マーケティングからデジタル領域全般を担当。幅広い人脈を持ち、メディア・コンテンツ開発や、新規事業開発、データ活用ビジネスなど様々な分野に対応する。現在は㈱jekiインタラクティブ・コミュニケーションズ、㈱MMSマーケティングの取締役、㈱jeki Data-Driven Labの代表取締役を務める。

於保 真一朗(おほ しんいちろう)
株式会社クリーク・アンド・リバー社 データプロデューサー 兼 
株式会社jeki Data-Driven Lab取締役

インターネット広告代理店でネット広告、サイト制作、ウェブ解析のチームリーダーを歴任。株式会社リクルートライフスタイルにて、BIやDMP等のビッグデータ活用推進チームにてプロジェクト推進に従事。株式会社クリーク・アンド・リバー社にて、データ関連専門案件・求人サービス『Symbiorise』の事業発足及び運営に携わる。
自らデータプロデューサーとして、自動車会社、化粧品会社、B2B会社等のデータ活用プロジェクト推進を支援。2019年株式会社jeki Data-Driven Lab取締役就任。主にJR東日本グループの移動者データやデジタルマーケティング活動支援などを担当。
ウェブ解析士協会エキスパート講座講師、データサイエンティスト協会スキル定義委員会会員。セミナー講演、記事執筆多数。「プロが教えるGoogleアナリティクス実践テクニック」共著。

上記ライター萩原 浩平
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