
写真右:重原 洋祐氏(トレジャーデータ株式会社 カスタマーサクセス担当執行役員)
写真左:直井 伸司(jekiメディアマーケティングセンター センター長 兼 株式会社Data Chemistry 取締役)
データを活用したマーケティングのカギを握るのは「データ統合」だ。統合されたデータ基盤によってマーケティング、広告施策を適切に組み合わせ、顧客との関係を構築していく必要がある。前編に続き、後編では、オンラインとオフラインのデータ連携に関するユースケースや今後の広告の可能性などについてトレジャーデータ株式会社 カスタマーサクセス担当執行役員 重原 洋祐氏と、jeki JR東日本グループデジタル推進局 営業推進部 大塚健介、jekiメディアマーケティングセンター長の直井伸司(ファシリテーター)が語り合った。
<前編はこちら>
データ利活用のための体制、基盤構築のポイント
直井:オンラインとオフラインのデータ連携という視点で、取り組み事例などがありましたらお伺いしたいです。

重原:あるお客様では、デジタル上で店舗の予約を可能にする取り組みを行っていて、POSデータに紐づく大量のIDを保有していました。
このデータをもとに、機械学習を用いて需要予測モデルを開発。従来は「経験」で行われていた需要予測を、データによる裏付けによって行い、オペレーションを最適化しようとしています。あわせて、来店促進のマーケティングにも活用して、どのタイミングでどのお客様にどのメッセージが響くかというマーケティング施策の検証にも取り組んでいるところです。
直井:マーケティング施策だけでなく、店舗オペレーションにもデータを活用していくという取り組みは、大量のIDを保有しているからこそ可能になる話だと思います。そういう意味では、JR東日本グループにおけるデータ活用などの取り組みは、まだまだいろいろな可能性を秘めていると感じます。
大塚:データは組織横断的に連携させていく必要があるので、データ活用を進めるためには組織体制面の整備も課題になってくると思います。
重原:ただ、組織が縦割りになっていても、どこかでデータを突合するチャンスはあると思います。いずれにせよ、利活用しやすいデータ蓄積の仕組みや構造を作っていくことがまずはスタートラインになるのではないでしょうか。
大塚:プロジェクトを推進する際のチーム組成についてはどんなことがポイントなりますか? たとえば上述したようなケースでは、テクノロジーと企業経営の両方に通じた人材というのが必要だと思うのですが。
重原:企業におけるプロジェクトはトップダウンで進む場合もありますし、ボトムアップで進むケースもあります。いずれのケースでも、推進組織は横断的に連携していることが、成功につながりやすいポイントになります。
そうでないと、特定の部門、たとえば、広告部門であれば広告の最適化だけに目的が偏ってしまい、費用対効果が合わないと思われるケースも出てきます。全社横断で見て、別の部門の業績や売上にどう波及したかまできちんと効果を見ていかないと、プロジェクトの成否が評価しにくい側面があると思います。
直井:では、事業会社側にしっかりした目標設定ができていれば、専門的な知見を備えた人材がそれほどいなくてもプロジェクトなどは推進できるということでしょうか?
重原:事業会社側にも人材、体制面で難しい面があるのは確かです。ですから、トレジャーデータとしてお客様のサクセスを支援する意味がそこにあると思っています。一方で、我々も基本的にはSaaSビジネスを提供する企業であって、コンサルティング会社を指向しているわけではありません。そこで重要になってくるのが広くお客様をサポートしていくためのパートナー戦略ということになります。
もちろん、優秀な人材は事業会社にもいらっしゃると思いますが、すべての会社で体制づくりできるかというと難しいことも多く、その意味では、jekiさんをはじめパートナー企業に対する期待は大きいものがあります。
「データを外に出したくない」時代だからこそ高まるハウスエージェンシーの存在
直井:では、jekiがこれからいろいろなところで存在感を出していく上で、広告会社の経験がある重原さんとしては、jekiが持つ可能性についてどう見ていますか?
重原:昨今、事業会社の中には、個人情報保護法の観点からも、むやみやたらと外部にデータを出したくないというニーズがあります。そのためハウスエージェンシーの存在感は、強くなっていると思っていて、その点でJR東日本グループにおけるjekiさんに対する期待値の高さもあると思いますし、色々面白いことができるのではないかと思っています。
直井:従来、ハウスエージェンシーを作る目的のひとつに、グループ外へのキャッシュアウトを防ぐということもあったと思いますが、これからの時代はインハウスでデータをきちんと利活用していくという、従来とは異なる価値をもたらす可能性があるように感じます。大塚さんはどのように感じていますか?

大塚:私は現部署に来る前は、オフラインメディアも多く活用する営業をやっていて、そのときは広告施策ひとつとっても、データの裏付けに基づいた施策実行というのはなかなかできていませんでした。その点、広告プランニングにデータが活用できれば、裏付けのある広告配信、プロモーション提案ができるようになります。
そして、クライアントが自らデータを分析して、効果検証するプロセスを回していくことは、まだまだハードルが高いことだと思うので、jekiが一緒にプロセスの構築、自走を支援していくのが今後の役割なのかなと改めて思いを強くしました。
重原:広告主である事業会社が広告を打つのはなぜかといえば、当然ながら何らかの効果を期待しているからです。自分たちで今すぐ本格的にデータを取得して、効果検証まで行う体制を作るのは難しいと思いますが、データを見ることによって、広告やマーケティング施策の効果が最大化されるのであれば、やるべきだというのが私の持論です。
ですから、ハウスエージェンシーのチャンスというのは今後ますます大きくなっていく可能性があるし、jekiさんでいえば、JR東日本グループだけにとどまらず、ある程度幅広い範囲でデータ連携を行っていけるような、そんな可能性も感じます。
今後の広告にはLTVやカスタマーサクセスといった視点が求められる
直井:広告会社としての重要な視点のひとつに、ユーザー体験の向上があり、そのためにはデータをいかに活用するかということが重要なポイントだと思っています。重原さんは今後の広告の方向性について感じることはありますか?
重原:広告主はオウンドメディアで顧客とコミュニケーションを行うことに取り組んでいますし、広告体験という意味では、お客様視点でのカスタマーサクセス、LTV(Life Time Value)向上という視点はより強くなっていくと考えています。
一般的にも「カスタマーサクセス」という言葉はよく聞かれるようになりました。売るだけでなくて、売った後のアフターケアという意味でカスタマーサクセスにきちんと取り組んでいこうという意識は業種を問わず強くなってきています。今後はカスタマーサクセス にも広告を活用していくことも考えられますし、従来よりも広告の定義が広がっていく気がしています。
データがつながることで最適なコミュニケーションが図れる場所を提供できるようになると思います。適切にお客様に伝える手段や場所は広がっていくのではないでしょうか。
直井:LTVやカスタマーサクセスという視点は、これから非常に重要な視点になっていきますよね。
大塚:確かに、これまでは競合を見るというか、他社と同じ予算でいかに多く認知を取れるか、リーチできるかといったところが重要視されてきたように思います。今後は、統合されたデータ基盤であるCDPを用いて、よりIDベースで、それぞれの個人に対してどれだけ付加価値を与えられるかという視点でコミュニケーションすることが大事なのだと思いました。
重原:広告を出す主な目的は新規をどれだけ獲得できるかというケースが多いと思います。一方で、本質的には事業会社は自社の顧客と継続的なコミュニケーションを図りたいんですよね。そのためにオウンドメディアを構築しユーザーの会員化(ID化)を狙っていることが多いと思います。
ところが、今の広告キャンペーンというのはどうしても、メアドを登録してもらう、あるいはLINEのIDを登録してもらうというところが目的となっていて、その後はメールやLINEで個々のプラットフォームでコミュニケーションする形で終わってしまっているケースが多いと思います。もっと、顧客データを統合する仕組みや活動が広がっていけば、ユーザー一人ひとりを理解し、ユーザーに適したチャネルでコミュニケーションを行うことが可能となります。ですので、今後は新規獲得だけでなく既存ユーザーへのコミュニケーションチャネルとして、広告媒体を効果的に使うというやり方がもっと増えていく可能性があると思っています。
直井:最後に、データやデジタルを日々仕事として取り組むお二人に、今後こんなことやっていきたいという展望や抱負などお伺いできればと思います。

重原:今、カスタマーサクセスという仕事をしていますが、今日、話したこともすべて完璧に実現できているかというとそうではありません。ある意味“理想的な”ユースケースが今後、契約企業のデータ活用の取り組みの中で実現できていくように、ベンダーのカスタマーサクセスとしての役割を果たしていきたいです。
契約していただいたお客様が実現したい世界をサポートできるよう、寄り添っていくのが直近で私がやりたいことですね。
大塚:トレジャーデータさんとパートナーシップを結ばせていただいて、我々もCDPをどんどん活用していくわけですが、これまでも観光型MaaSや移動者DMPといった領域でデータ活用の取り組みを行ってきました。今後は、ハウスエージェンシーの強みを発揮して、JR東日本グループとしてのアクチュアルのデータも加味した上で、グループ全体に価値を還元していくとともに、jeki独自のソリューションとしてCDPを活用した価値提供を、グループ外にも行っていけたらという展望を描いています。
グループとしての売上や収益にコミットしていくとともに、グループ外のお客様の事業成長に向きあって伴走していくことが大事だと思いを新たにしました。

直井:地道に知見を蓄積していくことが大事だということを強く感じました。とにかく取り組みを始めていかないことにはデータも蓄積されません。その意味では、jekiとしてもデータを蓄積していくこと、知見をためていくことを強く意識しながら、いろいろな案件に取り組んでいきたいと感じました。本日はありがとうございました。
(了)

重原 洋祐
トレジャーデータ株式会社 カスタマーサクセス担当執行役員
2019年トレジャーデータ株式会社に入社。データビジネス戦略設計、インプリメント、集計、機械学習、BI構築、施策支援などCDPを活用する上で全てのフェーズのサポートを行う、プロフェッショナルサービスチームを立ち上げる。現在はカスタマーサクセス担当執行役員として日本とAPACの全顧客を統括する。