データ活用はオンライン、オフライン連携の時代に
顧客データ活用によるマーケティングの未来<前編>

jekiデジタル VOL.8

写真右:重原 洋祐氏(トレジャーデータ株式会社 カスタマーサクセス担当執行役員)
写真左:直井 伸司(jekiメディアマーケティングセンター センター長 兼 株式会社Data Chemistry 取締役)

IoTをはじめとするデジタル技術の進展により、企業のデータ活用は、オンラインとオフラインのさらなる連携というフェーズに入ったといえる。サードパーティCookieの制限などにより、デジタル広告のあり方も変わっていくなかで、企業はいかにして顧客との関係を構築していけばよいか。統合されたデータ基盤「CDP」(Customer Data Platform:カスタマー・データ・プラットフォーム)を提供するトレジャーデータ株式会社 カスタマーサクセス担当執行役員 重原 洋祐氏と、jeki JR東日本グループデジタル推進局 営業推進部 大塚健介、jekiメディアマーケティングセンター長の直井伸司(ファシリテーター)が語り合った。

マーケティングにおける活用に特化した基盤である「CDP」

直井:今回の対談では、トレジャーデータさんとjekiとで、新たなパートナーシップ契約を締結※したことをふまえ、連携して取り組もうとしていることや、今後の可能性などを中心にお話ができればと思っています。

※ニュースリリース「ジェイアール東日本企画は、トレジャーデータと協業しクライアントのデータ活用を推進する体制を構築します

まずは、重原さんのこれまでの経歴や、トレジャーデータでどんなことをしているかを教えていただけますか?

重原:トレジャーデータは、企業のデジタルトランスフォーメーションに必要な顧客理解、顧客体験の最適化をサポートする「CDP」というデータ基盤を提供するビジネスをしています。一昔前は、ソーシャルゲームやスマホアプリ、アドテクノロジーなどの大規模なデータの集計基盤として利用されるケースが多くありました。時代の流れの中で、マーケティングに自社の顧客データを活用するニーズが強まり、CDPという仕組みをサービスとして提供しはじめ、現在に至ります。

私自身は、デジタル専業の広告会社でデジタル畑を歩んできました。その子会社に在籍していたときは、アドネットワークにおける広告配信最適化のためにデータを活用したり、いわゆるサードパーティデータを活用したパブリックDMPの事業開発をしたり、その後独立してデータコンサルティングに関する会社を運営したりしていました。

直井:トレジャーデータとの出合いはどのようなきっかけだったんですか?

重原:独立当時は、十数社のお客様のDMP導入を支援しましたが、そのときに採用した仕組みがTreasure Data CDPでした。その後、2019年1月にトレジャーデータにジョインして、特定のお客様向けのプロフェッショナルサービスを行うチームの立ち上げに携わりました。このチームは、ベンダーとしてSaaSのシステムを提供するだけではなく、お客様がデータ活用を推進していく上で必要なマーケティングの知識や技術的なノウハウを提供するという、従来のサポート業務を超えた、より深いサポートを行うチームでした。

一方で、これまでのカスタマーサクセス部門は、10人くらいのスタッフが350社くらいを担当している現状がありました。ゆくゆくはカスタマーサクセスも、プロフェッショナルサービスのノウハウを持ってサポートしていく必要があると、2020年に両チームを統合したのです。現在は、国内約350社のお客様に対して高度な提案や、データの利活用を支援する動きというのが、ようやく軌道に乗りつつあるかなという状況です。

直井:トレジャーデータが提供するCDPとは、そもそもどういうものかご紹介いただけますでしょうか?

重原:基本的には、契約企業が保有する顧客データを貯める「箱」で、そこには会員データやそれに紐づくPOSデータ、ECデータやオフラインの構造化データなど、基本的に動画、音声以外のあらゆるデータを蓄積しています。

Treasure Data CDPの全体像

直井:DMP(Data Management Platform)とCDPが比較されることが多いかと思いますが、両者の違いはどこにあると考えていらっしゃいますか?

重原:諸説ありますが、一般的にはいわゆる広告側から発展した仕組みがDMPだと思っています。デジタル広告を最適化していくためのツールという側面がDMPの定義としては近いです。これに対しCDPは、広告だけでなく多種多様なデータを取り扱うことができる仕組みという言い方ができます。データを蓄積、統合して、広告だけでなく幅広いマーケティング施策に活用できる特徴があります。

直井:なるほど。では、データを貯める箱という部分で、トレジャーデータならではの価値や強みについて、どのような点があげられますか?

重原:非常に構造がシンプルという点でしょうか。データを貯める、集計処理を行う、あるいはマーケティング施策として機械学習の分析結果に基づき特定のセグメンテーションを行うことなどが可能です。そして、作成したセグメントを、MA(マーケティングオートメーション)ツールなどの施策を行うツールと連携することで、顧客とコミュニケーションを行うことが可能です。さらに、顧客とのコミュニケーションの結果もCDPに戻すことで施策の精度を向上させることができます。

SQLなど一定の知識は必要となりますが、ガチガチに固められた仕組みではないため、あらゆる視点でデータを加工、集計することができ、幅広いマーケティング施策に対して柔軟に対応ができると考えています。

データ活用は「オンライン・オフライン」連携のフェーズに

直井:私がセンター長を務めているメディアマーケティングセンターでは、トレジャーデータさんとのパートナーシップ締結の中で、位置情報データなどの様々なデータを活用しながら、テレビや交通広告、デジタルなどのメディアを連携した、最適なメディアプランニングや効果の可視化などの実現に取り組んでいるところです。一方で、大塚さんの所属するJR東日本グループデジタル推進局は、新しくできた戦略的な部署になりますが、どんなことに取り組んでいこうと考えられているか、ご紹介いただけますか?

大塚:JR東日本グループ全体で様々なデータを保有しているのは強みである一方、その活用という点では各事業単位での分析にとどまっていて、まだ課題があると感じています。

グループ企業には、それぞれ営業担当がついてサポートを行っているものの、デジタルやデータ活用といったテーマについて、専門的に対応できる組織としてJR東日本グループデジタル推進局が位置づけられています。また、DX推進組織といった側面も持ち合わせており、グループ企業のマーケティング上の課題に真摯に向き合い、どちらかというと中長期的な課題へ伴走して取り組みを行う組織だと理解しています。

直井:これから取り組んでいこうとしていることなどありましたら教えてください。

大塚:当推進局の強みである、データの分析にとどまらず、そこで得られた知見に基づく施策、マーケティングやプロモーションまでワンストップで提供できるという価値を訴求すべく、営業活動に注力しているところです。

直井:そこは、jekiとして重点的に取り組んでいくべき領域ですよね。広告会社もそうですが、DXへの取り組みが当たり前と言われているところで、クライアントへどのような価値を提供していけるかは、非常に重要な視点になっているところと思っています。そうした状況の中では、データの活用は最重要課題になっているところだと私は常に感じていますが、重原さんが、最近のDXという文脈の中で、データ活用の取り組みがどう変わっているか、感じているところなどはありますか?

重原:2年くらい前までは施策の中心はオンラインだったものが、最近では「オフラインとの連携」が非常に増えている印象があります。実際の施策であるコミュニケーションの部分でオフライン連携が進んでいるということですね。

たとえば、某メーカーでは、デジタルで取得したデータをリアルの販売店にフィードバックして店舗での接客に活用するといったことを行っています。また、コールセンターが保有するデータとCRMデータを連携させてその顧客の購買履歴などに基づいた最適な接客を行うといったことも、典型的な連携例です。

また、オンラインデータを、オフラインの店舗における需要予測に活用するといったユースケースもあります。そういう意味では、単なるデジタル施策の改善というよりも、オフラインとオンラインの境目が段々なくなってきたというのがこの数年での変化だと思います。

直井:CDP、データ活用というとデジタルやオンラインで完結する印象がありますが、オフラインと連携してトータルなコミュニケーションを行っていくという取り組みや認識が広がっている感じは確かに強く受けますね。そういう意味では、JR東日本グループであるjekiとして、リアルでの施策も含めてデータをどう活用して展開していくか、いろいろな仕掛けができるポジションにあると思っていますので、今後取り組んでいきたいところですね。

顧客データ活用により、広告会社も「より深い」洞察を提供価値にする時代へ

直井:あらためて、広告会社におけるデータ活用や、メディアとの接し方の部分で感じることはありますか?

重原:主要なWebブラウザでは、サードパーティCookieのサポートを廃止する意向を打ち出していて、これまで多くのデジタルメディアで行われてきたユーザーのプロファイリングやオーディエンス分析などが難しくなってきました。

一方で、メディアにはユーザーが多く来訪するという利点があります。これまでは「顔の見えない」アノニマスなデータに立脚していたのを、今後は自社のIDをきちんと確立して、「顔の見える」ユーザーのデータをもとに、よりユーザーに関する深い理解が得られる可能性があります。

その意味で、広告会社の提供価値も、どういうコミュニケーションが最適か、どの広告を配信すべきかについてより深い知見や洞察を提供していけるかという点にシフトしていきます。

直井:広告会社も試行錯誤を続けている一方、広告主側にも、今までよりも顧客のデータとより深く連携して、施策まで一緒にやりたいというニーズが強くなってきていると感じます。

重原:広告効果の評価というときに、これまでサードパーティCookieは異なるWebサイト間で広告露出とユーザーの行動を結びつけてきました。また、いわゆる調査データなどをもとにした「類推」のデータで広告効果を評価してきたと思うのですが、今後はよりアクチュアルなデータを見たいというニーズは、広告主側にも強まっているのではないでしょうか。

直井:やはり、アクチュアルデータをどうやって施策に転換していくかが重要なポイントですね。

重原:ひとつにはやはり、ユーザーデータの獲得動線の設計が大事になるでしょう。マーケティングキャンペーンの動線上できちんとデータを獲得していく必要があります。獲得できるデータは少ないかもしれませんが、地道に継続することで数年後には相当な量になっていきます。そういった取り組みを始めている企業もあります。

大塚:そういう視点は広告会社にとってとても重要ですね。キャンペーンはプロモーションの施策のひとつとして実施はしていますが、ユーザーデータ獲得のために、どのデータを、どのタイミングで獲得、蓄積すると、どんな未来が描けるかという観点で広告主に提案しているかというと、あまりできていない現状がありますね。

重原:今後は、サードパーティデータなどの「大きな」データに突合していくのが難しくなっていくでしょう。広告主、広告会社側で独自に、地道にデータを蓄積していくことが重要になるでしょうね。そして、その取り組みを継続できる仕組みが構築できれば、数年後に他社には追随できない独自資産になると思います。

フォーマットさえできれば、広告会社はクライアントごとに取り組みを継続できるので、その意味で、広告会社には大きなチャンスがあるのではないでしょうか。また、広告主である事業会社側も、オンラインのコミュニティ化というか、オウンドメディアを通じて自社と顧客の関係を強化していく方向にシフトしていく流れはさらに加速していくでしょう。

直井:メディアプランニングという視点で感じることなどはありますか?

重原:マスの効果は今後も確実にあって、マスメディアにもよりアクチュアルなデータが求められていくと思います。ソーシャルゲームやスマホアプリの広告がTVで盛んに流れているのは認知や獲得に効果があるからです。そこにプラスして、きちんとした顧客データを蓄積していく施策、今後は「合わせ技」が求められてくると思います。

私も長年データを見ていますが、実際に取り組んでいる企業には、データ活用に対する知見が蓄積されていきます。試行錯誤をしながら様々な手法を試していくことが、広告会社、広告主である事業会社双方にとって重要だと思います。

直井:机上の空論でいくら語っても、実際にデータを見てみたらまったく違うということもありえますよね。そういう意味では、いろいろな手法を試し、着実に取り組みを進めながら実績を作っていくことが、ノウハウの蓄積という観点からも重要になりますね。

重原 洋祐
トレジャーデータ株式会社 カスタマーサクセス担当執行役員
2019年トレジャーデータ株式会社に入社。データビジネス戦略設計、インプリメント、集計、機械学習、BI構築、施策支援などCDPを活用する上で全てのフェーズのサポートを行う、プロフェッショナルサービスチームを立ち上げる。現在はカスタマーサクセス担当執行役員として日本とAPACの全顧客を統括する。

上記ライター直井 伸司
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