
「制約がアイデアを生む」とよくいわれる。身近な事例でいえば夕飯の献立決め。なかなか献立が決まらないときに、ふと冷蔵庫の中をのぞくことで「肉とジャガイモと人参がある。今日はカレーにしよう」と考えがまとまる。これも制約(冷蔵庫にあるもの)とアイデア(カレー)の一例だ。
行動制限という制約が生んだ新しい旅
私たちMove Design Lab(MDL)の研究テーマである「移動」は、この2年間続くコロナ禍によって「行動制限」という大きな制約を受けました。調査を実施した8月初旬も「3年ぶりの行動制限がない夏休み」と報道される一方で、コロナ第7波に関する情報も散見され、まだ自由気ままに旅行を楽しむ夏休みとはいえない次元でした。
しかしこの行動制限という制約があったことで生まれた新しい旅の形もあります。たとえばマイクロツーリズム。移動や密をできる限り避けながら旅を楽しむ手段として注目されました。かくいう筆者も好きな鉄道旅ができない期間は、電車からレンタルサイクルに乗り換えて近隣地域の周遊へ。普段とは違う経路、視点、スピードで見て回ることで、今まで知らなかった店や場所に気付かされる良い機会となりました。

調査では「行動制限を意識したあなたならではの旅行スタイル」をヒアリング。観光主体の人がアウトドアにチャレンジする機会になったり、普段は話題の場所を選びがちな旅先を、あえて避ける選択をしてみたり…生活者一人ひとりが工夫して、行動制限を意識しながらも新しい旅を楽しんでいたようです。
いつもの旅もいいけれど、これはこれであり
調査ではコロナ禍の行動制限を意識した人に「コロナ禍以前の旅行と比べて、どちらが楽しかったか」という質問をしてみました。結果は「コロナ禍以前の旅」を評価する声が多数派。そんな中でも注目したのは3割の人が行動制限を意識しながら行った新しい旅のスタイルをアリと評価した点です。

評価した理由は「ゆっくりする旅の良さを知れたから」「ちょっと良いホテルで上質な空間やおもてなしを受けるのも楽しかった」「流行ってなさそうな場所にあえて行くのも楽しい」など。これはこれであり。そんな新しい楽しみに気付けたことが評価につながったようです。
「これがいい」ではなく「これはこれであり」。制約下だからこそ断定ではなく、選択肢を拡げる思考で、私も新しい旅にチャレンジしていきたい。
<調査概要>
- 調査手法 : インターネット調査
- 調査対象 : 全国18~79歳の男女 1,200人に実施
- 調査期間 : 2022年8月6日~7日
五明 泉 Move Design Lab代表/恵比寿発、編集長
1991年jeki入社。営業局配属後、通信、精密機器、加工食品、菓子のAEを歴任、「ポケットモンスター」アニメ化プロジェクトにも参画。2014年営業局長を経て2016年よりコミュニケーション・プランニング局長。