秋葉原駅からはじまる「体験価値の融合」
Virtual AKIBA Worldによる“リアル×メタバース”への挑戦

jekiデジタル VOL.14

<写真右より>
JR東日本 事業創造本部 グループ経営推進部門 次⻑ 市原 康史
jekiメディアマーケティングセンター センター長  直井 伸司

ジェイアール東日本企画(jeki)と、JR東日本は、「Beyond Stations 構想」のもと、オリジナルのバーチャル空間 “Virtual AKIBA World”(バーチャルアキバワールド。以下VAW)を、2022年3月25日にオープンした。世界初の「メタバース・ステーション」として、また山手線31番目の駅として登場したVAWは、秋葉原の駅と街をバーチャル上に再現、スマホから手軽に体験可能な空間だ。多くの企業が仮想空間(VR)テクノロジーを活用したメタバースに参画する中、JR東日本グループは何をめざしているのか。JR東日本 事業創造本部 グループ経営推進部門 次⻑ 市原 康史と、jekiメディアマーケティングセンター センター長 直井 伸司が語り合った。

Virtual AKIBA World バーチャル アキバ ワールド (vketcloud.com)

駅や車両がリアルとバーチャルを「つなぐ」

──3月25日にVAWが開業しましたが、この背景について教えてください。

市原:開業の背景にあるのがJR東日本「Beyond Stations構想」です。これまでJR東日本では、駅を“人々が集う場所”と位置付け、2005年に大宮、品川駅に「エキュート」をオープンさせたのを皮切りに、駅ナカビジネスを発展させてきました。「Beyond Stations構想」は、“人々が集う場所”という概念をさらに進化させ、駅を“つながる”くらしのプラットフォームへと転換させていこう、駅を新たなビジネスの発信拠点へと変革していこうという構想です。

VAWも、 “つながる”が一つのコンセプトになっています。オンラインとオフラインを融合させるOMO(Online Merges with Offline)の一環で、駅や街(リアル)とバーチャルでつなげようという取り組みです。空間全体の統括をJR東日本が、プロモーション企画や出展クライアント募集をjekiが、空間構築をHIKKYが担当しました。

「細部にわたる精細な作り込み」「参加ハードルの低さ」が特徴

──昨年展開した「バーチャル秋葉原駅」は大変話題となりました。

市原:「バーチャル秋葉原駅」の反響が高かった要因の一つが、細部にわたる作り込みにあったと思います。駅のプラットフォームに上がっていったときに見えるエヴァンゲリオン、そのパーツや背景など、一つ一つにわたる精細なリアリティの作り込みが、見る人の興味を引きました。

直井:コロナ禍で移動にも制約がでてくるなか、「大好きなアキバにリアルでは行けないけど、お陰でアキバを満喫できた」というエモい投稿をSNSにアップしてくれたファンもいましたね。

市原:この「バーチャル秋葉原駅」の反響が高かったことを受け、VAWでは、バーチャル上に秋葉原駅およびその周辺を再現しました。リアルさながらに再現された駅空間で、改札を通過したり電車に乗ったり、秋葉原駅周辺を歩くなどさまざまな体験ができます。

写真上:Virtual AKIBA World内空間
写真下:バーチャル空間をリアル空間と同じビジュアルで展開した実績例

直井:アクセスするのに特別なアプリやデバイスが不要というのもVAWの大きな特徴の一つです。PC、スマホ、タブレット端末であればOKで、QRコードを読み取ればそのまま入場できることもあり、多くの方に体験機会を創出することができると考えています。移動中の電車や駅といったリアル空間からバーチャルへと自由に移動できるわけです。

市原:今回、VAWの開業にあわせて、実際の秋葉原駅に「メタバースへの入口」の象徴である、巨大なモニュメントを設置しました。多いときには1日数千人近くの方が、モニュメントに記載されたQRコードからVAWに来訪してくれました。リアルの持つ力の大きさを実感しているところです。

リアル秋葉原駅に「メタバースへの入口」の象徴である、巨大なモニュメントを設置。
キューブ型のQRコードからVAWへアクセス可能としたところ、他の流入導線と比べ圧倒的に多くのアクセスがあった。

仲間が集って楽しむ、人が集まることで新たなビジネス機会が生まれる

──オンラインゲームでは、『フォートナイト』のようにプレーヤー同士がコミュニケーションしながらゲームを進める点が利用者に支持されていますが、VAWはいかがでしょうか。

直井:去年展開した「バーチャル秋葉原駅」で、利用者が何をしていたか見てみると、アバター同士で集まって自撮りをしたり、撮影した集合写真をツイートしていたりして、「これって観光地に行って写真を撮る体験と似ているな」と思い至りました。

やはり、仲間同士が集まっておしゃべりしたり、ふざけあったりするのが楽しいんだなと再認識したところです。そのため、利用のハードルを下げることが活性化につながるのでは?と思っています。

市原:VAWの中には、入場者同士でのコミュニケーションができる空間「オフ会ルーム」も実装しています。アバターが入場して、ボイスチャットやテキストチャットを行いながら共通の話題で盛り上がるといったことが可能です。今後は、壁などに動画やスライドを投影できる機能拡張も予定されており、ビジネス用途の使い方も想定しています。

アバター同士で、ファンミーティングや会議などが出来るオフ会ルームを設置。無料で利用可能。

──他にも、VAWならではのリアル×メタバース活性化の仕掛けはありますか?

市原:JRAさんと連携した『走れ!トレインケイバ』、これはVAW内に制作した「YAMANOTE競馬場」で、JR東日本の鉄道車両が共演する夢のレースが行われるものです。

また、「BEAMS」や「アトレ」とコラボレーションしたコンテンツをリアル・バーチャル双方で展開したりもしています。将来的にはVAWの中でお買い物ができることを視野に入れています。

BEAMSとのコラボ実績。「シン・秋葉原駅」ビジュアルのオリジナル限定Tシャツを、VAW・リアル連動して販売。

市原:交通広告もリアルとバーチャルの融合で新たな表現を追求しています。たとえば、日本テレビのドラマ『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』の放映開始にあわせて、VAW内のバーチャルの山手線の車内をドラマの広告がジャックするなどのキャンペーンを実施しました。

日本テレビのドラマ『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』との連携展開実績。

直井:今後は、リアルの秋葉原駅に広告を出し、その広告とメタバースがQRコードでシームレスに連携するとか、リアルの秋葉原が持つ様々なアセットを生かして、利用者の体験を高めていく。そして、それを企業に利用してもらうことで、我々にとっての新たな収益の柱を作っていくことなどに取り組んでいければと思っています。

リアルとバーチャルの「体験価値の融合」が世界に負けない独自資産になっていく

──今後のVAWの展開について教えてください。

市原:JR東日本としては、「リアル×メタバース」、つまり両者の融合が独自の強みだと考えています。バーチャルだけでなく、リアルの駅空間への展開を併せて行うことで、お客様の反応の可視化にもつながりますし、新たなビジネス展開につながると考えます。リアルとメタバースの距離が縮まる、「駅や車両にいながら、○○ができる」という体験価値を提供することで、広告価値や、購買拠点としての価値を更に高めることを狙っています。

この世界はテクノロジーの変化のスピードがとても速いと感じています。ですので、新しい施策を矢継ぎ早にリリースしていくのが大切です。生き残りの厳しい世界ではあるものの、チャレンジングする価値があると、この取り組みに期待しています。

直井:今までの歴史をふりかえっても、映画からテレビ、テレビからネットというように、テクノロジーの進化が既存の市場の破壊(ディスラプション)を起こしてきました。

その意味で、メタバース空間は、コミュニケーションツールや生活の場として当たり前のインフラになっていくと考えています。その中で、私たちがやるべきことは、VAWを軸に、JR東日本グループが持つ、移動(鉄道)、生活・体験(駅・施設)などのアセット・強みを生かしながら、「リアルとバーチャルの体験価値をうまく組み合わせる」ことで、「メタバースの可視化」を具現化していくことです。

新しい生活の場・新しい体験の場を創出することができれば、JR東日本グループの大きな価値、世界に負けない資産になっていくのではないかと考えています。

(了)

直井 伸司
jekiメディアマーケティングセンター センター長 兼 株式会社Data Chemistry 取締役
1992年jeki入社 。約17年間、人事部門にて、採用、教育、評価、制度など人事全般を担当。 その後、JR局にて、「JR SKISKI」や「大人の休日俱楽部」のキャンペーンなどJR東日本関連の案件を担当した後、 第一営業局にて、JR東日本グループの商業施設の担当などを経て、 2019年7月、メディアマーケティングセンターのセンター長となり、現在に至る。 なお、現在は、㈱Data Chemistry、㈱JICの取締役を務める。

市原 康史
JR東日本 事業創造本部 グループ経営推進部門 次⻑
1995年、東日本旅客鉄道株式会社に入社。駅員や乗務員に従事したのち、総合不動産企業への出向や秘書業務も経験。その後は、同社の生活サービス事業を担う事業創造本部にて、不動産事業や駅ビル・事業開発等、幅広い事業を担当。2020年6月より現職。現在は、JR東日本グループ全体の生活サービス事業戦略に携わる。

上記ライター直井 伸司
(jekiメディアマーケティングセンター センター長)の記事

NFT・ブロックチェーンが持つ、メディア・コンテンツ領域の可能性 ブロックチェーンの本質は「協業、共創」にある

jekiデジタル VOL.16

直井伸司(jekiメディアマーケティングセンター センター長)

忰田純一(コンテンツビジネス局 コンテンツプロデューサー)

NFT・ブロックチェーンが持つ、メディア・コンテンツ領域の可能性。ブロックチェーンの本質は「協業、共創」にある

企業が保有するデータ活用がもたらすマーケティングの未来<後編> 今後の広告会社は「データ活用・情報伝達代理業」にシフトする

jekiデジタル VOL.13

直井伸司(jekiメディアマーケティングセンター センター長)

橋爪俊文(jekiメディアマーケティングセンター 部長代理 兼 株式会社Data Chemistry)

企業が保有するデータ活用がもたらすマーケティングの未来<後編>今後の広告会社は「データ活用・情報伝達代理業」にシフトする

jeki Digital

劇的な変化を続けるデジタル領域において、移動や体験、リアルとオンラインなど、jekiの特性をいかした取り組みの紹介や有識者との対談をお送りします。

>記事一覧はこちら

>記事一覧はこちら

  • 直井 伸司
    直井 伸司 jekiメディアマーケティングセンター センター長

    1992年jeki入社 。約17年間、人事部門にて、採用、教育、評価、制度など人事全般を担当。 その後、JR局にて、「JR SKISKI」や「大人の休日俱楽部」のキャンペーンなどJR東日本関連の案件を担当した後、 第一営業局にて、JR東日本グループの商業施設の担当などを経て、 2019年7月、メディアマーケティングセンターのセンター長となり、現在に至る。