【MDLスペシャルインタビュー】SCRAP×jekiで聖地巡礼を語り尽くす(後編)

Move Design Lab VOL.20

前回に引き続き、株式会社SCRAPでコンテンツディレクターを務めるきださおり氏、そしてきだ氏と共に【リアル脱出ゲーム×ラブライブ!サンシャイン!!「孤島の水族館からの脱出」】をプロデュースした株式会社ジェイアール東日本企画の百々(どど)、有馬に話を聞きました。

聖地巡礼の現在地

Move Design Lab(以下MDL):SCRAP様はこれまでさまざまなコンテンツと組んでリアル脱出ゲームを展開されていますが、沼津を舞台にした【リアル脱出ゲーム×ラブライブ!サンシャイン!!「孤島の水族館からの脱出」】では聖地巡礼の要素が加わったことで、大きな反響を呼びました。

きだ:「ラブライブ!サンシャイ!!」は、そもそも聖地巡礼がストーリーに組み込まれた作品です。作品に感情移入するファンにとっては、メンバーが生活する土地に行き、そこで自分が一緒に何かができるというのは大きな魅力です。
これは私見ですが、「ラブライブ!サンシャイン!!」はプロジェクトの立ち上げ時からすごいプランナーがいたのではないかと思っています。実際に沼津に足を運ぶと、本当にそこにあのメンバーたちが生活している感じがします。あの旅館にはあの子が住んでいるのだろう、この喫茶店であの子たちがミーティングをしているのだろう、そういった感覚を覚えるのです。このリアリティがつくれているのは本当にすごいと思います。

MDL:聖地は作品そのものはもちろん、作品の受け手にもリアリティを与えてくれるようですね。私たちは「ラブライブ!サンシャイン!!」についてほぼ知識はありませんでしたが、聖地の沼津に行ったことで作品との距離が一気に縮まりました。
こうした経験からも、聖地巡礼は他にはないポテンシャルを感じました。

百々:私もこの仕事を通じて、聖地巡礼には大きな可能性があると改めて感じています。
もっとも、聖地巡礼は今やどのコンテンツでも当たり前に見られるようになったことも事実です。既に聖地巡礼はある種のコモディティ化が進行しています。
作品の舞台だからというだけでは、なかなか人は動かなくなってきています。はじめは盛り上がっても、徐々に尻すぼみになっている聖地も多いと聞きます。

有馬:コンテンツが雨後の筍のように生まれるなか、聖地も増産されています。そうした環境下で、聖地にプラスアルファする仕掛けが必要になってきているのかもしれません。
今回であれば、リアル脱出ゲームがそれにあたると言えそうですね。

百々:ところで今回、リアル脱出ゲームと聖地巡礼が融合したことで、聖地巡礼の価値が少し拡張したんじゃないかと感じています。つまり、リアル脱出ゲームによって、自分が主体となってコンテンツと向き合えたのではないかと。
登場するメンバーと一緒に困難を乗り越えるという体験は、今まではほとんどなかったことです。

有馬:確かにそれはありますね。ファンは基本、コンテンツに対し受動的であることが求められますが、今の時代は必ずしもそうではなくなってきていますよね。MDLのレポートでも触れていましたが、「聖地」であっても二次創作が非常に活発です。コンテンツとファンとの距離感が少しずつ変わり始めているように思います。

MDL:私たちも聖地巡礼のフィールドワークを通じて、コンテンツに対するファンの欲求の高次化が見られるのではないか、と感じました。コンテンツをただ視聴し、グッズを購入する、といった受動的ものから、コンテンツへの主体的な関わり方を意識的あるいは無意識的に模索するようになってきている。聖地巡礼もそうした潜在ニーズの受け皿として機能しているのではないか、と。

リアルは替えがきかない

MDL:さて、聖地を語る上でのキーワードの一つに「リアル」があると思っています。
SCRAP様の提供する「リアル脱出ゲーム」は、その名の通り生活者のリアルへの潜在欲求をうまく取り込まれているように思います。
創業10周年を迎えられる今、改めて「リアル脱出ゲーム」の価値についてどのようにお感じになりますか。

きだ:今仰っていただいたように、私どもSCRAPではこれまで一貫して「リアル」を提供してまいりました。
今の時代にあっても、生活者が自らリアルに行動したことが、替えのきかない体験として心に残っていくと思っています。そしてそのことの価値は決して小さくないはずです。たとえば映画やテレビゲームといったものを通じても感情やストーリーが心に残ることはありますが、自分がリアルに行動した体験というものは本質的に意味が違うはずです。
今は「体験」もさまざまあってVRのようなデジタル上の体験への注目が集まっていますが、現時点ではリアルのほうがまだ分があると感じています。日常と地続きのリアルだからこそ生まれる感情は確実にあるし、そうした体験を求める人がここ数年でむしろ増えてきていることも実感しています。

百々:コミュニケーションは今、大きくデジタルへ動き始めていますが、その一方でブランドエクスペリエンスの視点から再びリアルに目を向ける企業も増えてきているように感じます。
今回の聖地巡礼のように、「場のコンテクスト」を加えることで、その効果はさらに高められるのではないでしょうか。

有馬:プロモーションの現場をやっている者として、リアルの価値は間違いなくあると確信しています。
ただ、それがなぜか?という点について今のところ明確に説明ができていないように思います。
リアルなコミュニケーションを企画する上で、その価値の見える化がとても大きな課題だと感じています。

リアル×ゲーミフィケーション

MDL:さて、きだ様が今考えられていることについてもお伺いできればと思います。

きだ:まず一つは、私たちの提供する物語体験を世界中に広めていきたいと考えています。これを日本だけでなく、もっとアメリカや中国に広げていきたい。
一方で、生活者の日常のシーンにもっとゲームが入り込めないか、といったことを考えています。たとえば電車に乗るという日常のシーンがありますよね。そこに「山手線にだけ住んでるモンスターがいるらしい」という物語と仕掛けを設置することで、電車に乗るという行為がもっとワクワクするものにできないか? そう思うのです。
電車に乗るということは本来、どこかに連れて行ってくれるワクワクする行為ですよね。そこに何か物語を埋め込むことはできないか、と。
「Suicaでピッ」も超日常的な行為ですよね。こうした日常にありふれた行為に新しい価値を付加することができないだろうか、と。

MDL:「ゲーミフィケーション」という言葉がありますが、日常の習慣的な行為がゲーム化できればそのインパクトは計り知れないですね。電車などの移動行動をゲーム化できれば、移動はもっと活性化できるかもしれませんね。「移動のゲーミフィケーション」は改めて考えていっていいかもしれません。

百々:今回の【リアル脱出ゲーム×ラブライブ!サンシャイン!!「孤島の水族館からの脱出」】では、会場となった淡島の歴史に触れていただくコンテンツも展開しました。自画自賛になりますが、ゲームを楽しみながらその土地について学べるというのは良かったと思います。
こうした学びの要素は生活者に考える機会を提供することになります。生活者が主体的に考える機会を提供することで、情報への関与はガラッと変わってくると思います。

有馬:そこにゲームの要素をうまく組み込めるといいですよね。

きだ:たとえばすごい性能の良い掃除機があったとして、その掃除機で床をきれいにしたらヒントが出てくる、みたいな。
お客様は純粋にゲームを楽しむことができて、企業にとっては商品のPRになる。

百々:ある種のwin-winが成立するわけですね。
確かにリアル脱出ゲームを広告モデルで展開するのはアリかもしれませんね。

きだ:それを駅という圧倒的な場で提供する。ワクワクしますね。

有馬:ぜひやりましょう! 私が企画書を書きます(笑)!

MDL:聖地巡礼についてお話を伺ってまいりましたが、コンテンツ、リアル、そしてゲーミフィケーションとさまざまなお話をいただき、聖地巡礼の奥深さとポテンシャルに気付かされました。
変わりゆくコンテンツとファンとの関係性、そしてその発信源としての聖地からますます目が離せませんね。
本日はありがとうございました。

百々 大和
第五営業局第三部
2012年jeki入社。交通媒体局配属後、2014年より現在の営業局に所属し、流通を中心に担当。従来の広告領域に留まらない、多くの事業分野(商品企画、イベント企画等)に挑戦し、プロジェクトリーダーとして取り組んでいる。

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Move Design Lab

Move Design Labは生活者の「移動行動」を探求し、”新しい移動“を創発していくことをミッションに始動したプロジェクトチーム。その取り組みをシリーズで紹介していきます。

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  • 五明 泉
    五明 泉 Move Design Lab代表/恵比寿発、編集長

    1991年jeki入社。営業局配属後、通信、精密機器、加工食品、菓子のAEを歴任、「ポケットモンスター」アニメ化プロジェクトにも参画。2014年営業局長を経て2016年よりコミュニケーション・プランニング局長。

  • 中里 栄悠
    中里 栄悠 Move Design Lab プロジェクトリーダー/シニア ストラテジック プランナー/TRAIN TV ブランドマネージャー

    2004年jeki入社。営業局、駅消費研究センター、アカウントプロデュース局を経て、2014年よりコミュニケーション・プランニング局に所属。シニア・ストラテジック・プランナーとして、メーカー、サービス、小売など幅広い企業のコミュニケーション戦略立案に携わる。

  • 彦谷 牧子
    彦谷 牧子 Move Design Lab データアナリスト/ シニア ストラテジック プランナー

    リサーチ・コンサルティング会社を経て、2009年jeki入社。JR東日本保有データの分析・活用業務に従事した後、2014年よりコミュニケーション・プランニング局に所属。化粧品、トイレタリー、通信機器等幅広いクライアントのコミュニケーション戦略をはじめとしたプランニングを担当。

  • 市川 祥史
    市川 祥史 Move Design Lab リサーチプランナー/ データアナリスト

    市場調査会社にて、企業のマーケティング課題の解決に従事。2017年jeki入社。コミュニケーションプランニング局配属。交通広告・キャンペーンの効果測定を中心に、クライアントの課題発見・解決を支援する。

  • 鷹羽 優
    鷹羽 優 Move Design Lab ブランドコンサルタント

    ブランド戦略を専門とし、菓子・飲料・生活雑貨・人材など多くのブランド開発、リブランディングを手掛けた後、2018年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。ブランドマネジメントの観点からコミュニケーション立案を行う。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 渡邉 裕哉
    渡邉 裕哉 Move Design Lab ストラテジック・プランナー

    2020年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。飲料、トイレタリー、ホテルなどのプランニングを担当する。

  • 明山 想
    明山 想 Move Design Lab コミュニケーションプランナー

    2021年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。BtoB、トイレタリー、クレジットカード会社などのプランニングを担当。

  • 片山 晴貴
    片山 晴貴 Move Design Lab コミュニケーションプランナー

    2021年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局配属。 家電、損害保険、不動産などのプランニングを担当する。