
この夏も、個人的に気になる作品の公開が多い映画。業界的に新型コロナウイルス感染症のダメージを受けていましたが、2022年には興行収入・入場者数ともに、2019年の8割程度まで回復をみせています※。動画配信サービスなどを利用することで、映画館まで足を運ばずとも、公開から短いタイムラグで作品が楽しめるようになっている昨今、映画はどのようにみられているのか。映画鑑賞の実態を、移動の観点から調べてみました。
※一般社団法人日本映画製作者連盟「日本映画産業統計」より
映画は「どちらかといえば好き」な人が約半数、映画が「好き」な人がもっとも多いのは20代以下
映画に対する関与度を、「好き」、「どちらかといえば好き」、「どちらかといえば興味がない」、「興味がない」の4段階で聴取したところ、「好き」と回答したのは全体の18.8%、「どちらかといえば好き」が46.7%で約半数を占める結果となりました。「どちらかといえば興味がない」、「興味がない」と回答した人も、マジョリティではないものの、少なくないボリュームとなっています。
映画好き(映画が「好き」と回答した人)がもっとも多い年代は、20代以下(18~29歳)でした。

年間の映画鑑賞作品数の全体平均は、映画館では1.7本、家では11.9本
鑑賞数は映画への関与度によって大きな差があり、映画館での鑑賞率は若年層ほど高い
映画館と家(テレビ、動画配信サービスなど)での1年間の鑑賞作品数を聞いたところ、全体の平均は映画館1.7本、家11.9本と、圧倒的に家の方が多い結果となりました。本数の分布としては、映画館では「0本」が62.8%、「1本」が15.8%を占め、家では「0本」が36.8%で、「4~5本」や「6~11本」が1割を超えています。
映画関与度別にみてみると、映画館、家ともに、関与度が高いほど明らかに鑑賞本数が多くなっています。
年代別に1年間の鑑賞率をみると、映画館では若年層ほど高く、家では50~60代で高くなっています。


鑑賞したい場所は、全体では映画館派が約4割、家派が約6割
映画好きと20代以下のみ映画館派が家派を上回る
鑑賞本数としては家が圧倒的ですが、意識としては、映画館と家のどちらが志向されているのでしょうか。全体では、映画館派(「映画館でみたい」、「どちらかといえば映画館でみたい」と回答した人)42.0%に対し、家派(「自宅・家でみたい」「どちらかといえば家・自宅でみたい」と回答した人)58.0%で、家派がマジョリティという結果になりました。
属性別では、映画関与度別では映画好き、年代別では20代以下のみ、映画館派がマジョリティとなっています。

映画館での鑑賞のネックは、全体では時間の制約や外出の手間、20代以下ではチケット代
意識の面でも家派が映画館派を上回る結果となりましたが、映画館ではなく家で映画をみたい理由として、家派全体では、「自分の好きなタイミングでみられる」45.8%、「映画館まで出かけるのが手間・面倒」44.7%が、上位2項目となっています。
ただし、家派の中でも20代以下においては、上記2項目は3割台にとどまり、「映画館のチケット代が高い」42.9%が1位、「コスパがいいと思う」28.6%が全体よりも高くなっています。また、Z世代はタイパ重視といわれることが多いですが、「途中停止したり、再生速度を変えられる」という理由は、年代があがるほど高く、20代以下ではむしろ全体よりも低くなっています。20代以下は費用面、高年齢層ほど時間制約的な観点から、家を選んでいる傾向にあるようです。

20代以下では「映画をみに行く」という行動自体をエンタメとして捉える傾向があり、映画好き以上に感想・評価をシェアすることから、公開後の初速をつける鍵を握ると考えられる
一方で、家ではなく映画館でみたい理由の上位は、映画館派全体では、「大画面で高品質な映像・音響でみたい」59.9%が圧倒的に高く、次に「映画だけに集中できる」44.4%、「映画をみた実感が持てる」37.1%となっています。
映画館派の中でも20代以下においては、「映画館の雰囲気が好き」45.1%が、「大画面で高品質な映像・音響でみたい」46.2%と肩を並べる高さとなっています。

「映画をみるためだけに外出する」人の比率は、映画好きで高いだけでなく、年代が低いほど高くなっています。20代以下においては、作品そのものを楽しむことに加えて、映画館に出かけてその空間で映画をみる、という体験も、エンタメとして捉えられている様子です。
また、「映画の評価や感想をSNS等で発信する・人に話す」人の比率は、20代以下で40.5%と突出し、映画好きの22.6%を大きく上回る結果となっており、公開後、20代以下の若年層を取り込めるかどうかが、話題化を通じた観客動員数を左右する要因の一つになっていそうです。

夫婦割引、シニア割引といった高年齢層向けの価格優遇サービスがあるなかで、初速をつける鍵を握っていそうな20代以下において、値上がり傾向にあるチケット代がネックになっていることから、もしかすると、若年層向けのサービスデー設定などが、映画館まで足を運んで作品を楽しむ人を増やすことに有効なのかもしれません。
<調査概要>
- 調査手法 : インターネット調査
- 調査対象 : 全国18~79歳の男女 1,200人に実施
- 調査期間 : 2023年7月1日~2日
五明 泉 Move Design Lab代表/恵比寿発、編集長
1991年jeki入社。営業局配属後、通信、精密機器、加工食品、菓子のAEを歴任、「ポケットモンスター」アニメ化プロジェクトにも参画。2014年営業局長を経て2016年よりコミュニケーション・プランニング局長。