「To Go ストック」が、ワカモノ移動を変える。(中編)

Move Design Lab VOL.47

こんにちは。Move Design Labです。

前回の記事で、2019年に実施した私たちのオリジナル調査「Move実態調査2019」の結果から、20代女性の移動回数がここ2年間で急増していること、その背景にあるSNSなどで知ったコト情報を「行きたい場所リスト(To Goリスト)」としてネット上に保存する行動、「To Goストック」についてご紹介しました。

この「To Go ストック」をする層は、しない層に比べて実際の移動量が明らかに多いことから、デジタル上のアクティビティがリアルなお出かけ行動に少なからぬ影響を与えているのではないか、と私たちは見ています。
今回はこの「To Go ストック」の背景にある生活者変化について考えてみたいと思います。

20代女性に見られる「ソーシャル移動者化」

一見、他愛のないミクロな行動変化のように見える「To Go ストック」の背景には、生活者のデジタルとの関わり方について大きな変化があるのではないか。そうした考えから、デジタルとリアルの双方に対する意識の構造をつかむために、2つの切り口から生活者を4つの層に分類してみることにしました。
一つは「SNSに対して積極的かどうか」、もう一つは「外出に対して積極的かどうか」です。

Ⅰ…外出にもSNSにも積極的な層。「ソーシャル移動者」
Ⅱ…外出に積極的だが、SNSには消極的な層。「アナログ移動者」
Ⅲ…外出にもSNSにも消極的な層。「慎重派」
Ⅳ…外出に消極的だが、SNSには積極的な層。「ソーシャルウォッチャー」

この4つの層の内訳はどのようになっているのでしょう。まず全体で見たものが以下になります。

ボリュームの大きいものがSNSに消極的なⅡ層とⅢ層で、外出への積極性の有無でそれぞれ約3割ずつ存在しています。ただ、SNSが上の世代にも徐々に浸透してきていることで、Ⅱ層もⅢ層も2年前調査と比べるとシェアを落としていることが分かります。つまり大きく言えば左から右の「SNSシフト」が見られます。

さて、これを移動回数が2年で大きく増えた20代女性に絞ったものが次のものです。

20代女性では、外出にもSNSにも積極的なⅠ層が約4割を占めていました。2年前と比べ、13ポイントも比率を伸ばしていることから、デジタルもリアルも活発な女性が、近年急速に拡大していると読み取れます。
他の層にも目を向けると、外出に消極的なⅢ層やⅣ層が減り、外出に積極的なⅠ層とⅡ層の割合が増えていることが分かります。先に説明した通り全体では左から右の「SNSシフト」が見られましたが、20代女性においては下から上の「外出シフト」が見られます。この点から、SNS巧者の20代女性において、デジタルとリアルの関係性が他とは異なる次のフェーズに移行しているのではないかと私たちは見ています。
あくまで仮説ですが、20代女性において次のような変遷が存在していると考えます。

まずSNSにコンシャスになっていく流れがⅢ層からⅣ層への流れで、これはSNSを取り入れ、SNSを盛んにチェックするようになる流れです。この「慎重派」から「ソーシャルウォッチャー」への右シフトは、年齢が上の層で今まさに起きている現象です。
しかし、20代女性においては“次”の流れが起きているように見えます。それはⅣ層からⅠ層への流れ、つまり、SNSをチェックする「ソーシャルウォッチャー」から、SNSで見たものをリアルに体験する「ソーシャル移動者」へと切り替わっていく上シフトの流れです。SNSがきっかけとなり、リアルなお出かけを希求する流れが20代女性を中心に今生まれ始めているのではないでしょうか。

デジタルとリアルの相乗関係が生み出す新たな移動の輪

現在の20代女性においてまさにそうであるように、SNSは他者の投稿にLIKE(いいね)するものから、気になる投稿をSTOCK(ストック)して実際に実現しようとするものへと、使い方が拡張しているように見えます。
SNSで見たものを自ら追体験しようとする外出行動をここでは仮に「ソーシャル移動」と呼びますが、このソーシャル移動は大きなポテンシャルを秘めています。
次の図をご覧ください。

ある人がSNSでシェアした体験を、別の人がストックし(To Goストック)、その体験があるとき追体験され(ソーシャル移動)、またその体験がシェアされて広がっていく、という連鎖が今生まれようとしているのです。これはリアル移動が爆発的に生まれていく下地が水面下で徐々に整ってきている、と言っても過言ではありません。

見方を変えれば、一人の中でデジタルとリアルを行ったり来たりしながら、最終的に他者へと伝播していく流れと言えます。相反するものと思われがちなデジタルとリアルですが、両者が互いを触発していく相乗関係が確実に存在します。デジタルがリアルな行動を生み、リアルがデジタルを活性化させる。そんな流れを生み出すことができれば、移動の豊かな社会はもっと作れるはずです。

次回は「To Goストック」をより詳しく理解するために実施した追加調査の結果をレポートさせていただきます。

(次回に続く)

<「Move実態調査2019」調査概要>

  • 調査主体 : 株式会社ジェイアール東日本企画 Move Design Lab(MDL)
  • 調査手法 : インターネットアンケート調査
  • 調査期間 : 2019年3月5日~3月7日
  • 調査エリア : 全国
  • 調査対象者 : 18~79歳の男女
  • サンプル数 : 2,200

上記ライターMove Design Labの記事

Move Design Lab

Move Design Labは生活者の「移動行動」を探求し、”新しい移動“を創発していくことをミッションに始動したプロジェクトチーム。その取り組みをシリーズで紹介していきます。

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  • 五明 泉
    五明 泉 Move Design Lab代表/恵比寿発、編集長

    1991年jeki入社。営業局配属後、通信、精密機器、加工食品、菓子のAEを歴任、「ポケットモンスター」アニメ化プロジェクトにも参画。2014年営業局長を経て2016年よりコミュニケーション・プランニング局長。

  • 中里 栄悠
    中里 栄悠 Move Design Lab プロジェクトリーダー/シニア ストラテジック プランナー/TRAIN TV ブランドマネージャー

    2004年jeki入社。営業局、駅消費研究センター、アカウントプロデュース局を経て、2014年よりコミュニケーション・プランニング局に所属。シニア・ストラテジック・プランナーとして、メーカー、サービス、小売など幅広い企業のコミュニケーション戦略立案に携わる。

  • 彦谷 牧子
    彦谷 牧子 Move Design Lab データアナリスト/ シニア ストラテジック プランナー

    リサーチ・コンサルティング会社を経て、2009年jeki入社。JR東日本保有データの分析・活用業務に従事した後、2014年よりコミュニケーション・プランニング局に所属。化粧品、トイレタリー、通信機器等幅広いクライアントのコミュニケーション戦略をはじめとしたプランニングを担当。

  • 市川 祥史
    市川 祥史 Move Design Lab リサーチプランナー/ データアナリスト

    市場調査会社にて、企業のマーケティング課題の解決に従事。2017年jeki入社。コミュニケーションプランニング局配属。交通広告・キャンペーンの効果測定を中心に、クライアントの課題発見・解決を支援する。

  • 鷹羽 優
    鷹羽 優 Move Design Lab ブランドコンサルタント

    ブランド戦略を専門とし、菓子・飲料・生活雑貨・人材など多くのブランド開発、リブランディングを手掛けた後、2018年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。ブランドマネジメントの観点からコミュニケーション立案を行う。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 渡邉 裕哉
    渡邉 裕哉 Move Design Lab ストラテジック・プランナー

    2020年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。飲料、トイレタリー、ホテルなどのプランニングを担当する。

  • 明山 想
    明山 想 Move Design Lab コミュニケーションプランナー

    2021年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。BtoB、トイレタリー、クレジットカード会社などのプランニングを担当。

  • 片山 晴貴
    片山 晴貴 Move Design Lab コミュニケーションプランナー

    2021年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局配属。 家電、損害保険、不動産などのプランニングを担当する。