出版社のOOH戦略
キホンのキ

jekiが描く交通広告の未来 VOL.10

※本記事は『新文化』2023年6月15日号1面特集を一部改稿したものです

交通広告、屋外広告などアウト・オブ・ホームメディア(OOH)への出稿を検討する企業が増えています。ウェブやテレビ広告にはない特徴をもつ一方、全体像が捉えにくいため、効果的な使い方をめぐり試行錯誤している社も多いのが実情です。出版社におけるOOHの価値とは何でしょうか。ストラテジック・プランナーでMove Design Labリーダーの中里が解説します。

出版社×OOHの価値

出版社がOOHに広告出稿する目的は主に2つあります。1つ目は流通対策。とくに首都圏の書店の棚取りにおいて、交通広告への出稿は、営業のセールストークや交渉の材料として機能しています。もう1つはマーケティング的な効果を期待しての出稿です。これについて詳しく掘り下げていきましょう。

出版社によるOOH出稿の価値は、第一に「都市生活者への効率的なリーチ」が図れる点にあります。出版社にとってOOHはテレビCMまでは投下できない予算で、都市部にて効率的にリーチができる媒体として活用されています。コロナ禍で野村総合研究所と一緒に行った共同研究でも、首都圏における比較的小規模の広告出稿の場合、交通広告のリーチ効率は、テレビやウェブメディアを凌ぐことがシミュレーションで明らかになりました。「広告接触者の質の高さ」も魅力の1つです。OOHは物理的に屋外にあるため、外出が活発なビジネスパーソンや若者に半ば必然的にリーチします。これは家に閉じこもりがちな層へのリーチが相当数含まれる他のメディアとは対照的です。また、年収の高い層ほどOOHに接触するというデータもあります。こうしたアクティブで購買力の高いOOH接触層と、雑誌・書籍との相性が良いことは言うまでもありません。

さらにもう1つの特徴である「リーセンシー効果」も大きな価値です。これは直前にブランドを刷り込むことで、直後の購買行動に影響を与える効果のことで、平たく言えば書店の近くで広告に触れさせることによって、その後の実行動、つまり購入を促進できることを意味します。これは私の実感でもありますが、雑誌や書籍はその場の偶然の出会いと衝動で買うことが少なくないのではないでしょうか。そうした瞬間的な熱を移動シーンで生み出し、その熱の冷めやらぬうちに書店へ足を運ばせ、商品を手に取らせられるOOHはとても実効的なメディアと言えるでしょう。

一方で、電車内の広告で知った書籍を手元のスマホで検索し、その場で購入するといった行動も昨今では珍しいことではなくなりました。リアル書店と同様に、OOHを通じてそうした偶然の出会い(セレンディピティ)を生み出すことができるのです。消費社会が成熟した現在は、「今日買いたい本が、明日は買いたくない」ということが普通に起こります。書籍を買うモーメント(瞬間)を直接的に生み出していくOOHの価値は決して小さくないと私は考えます。

OOHならではの「ブースト」「シェア」

また、私たちが「ブースト効果」と呼ぶ垂直立ち上げの効果も期待されます。1日で行きと帰りの2回接触させられるOOHは、短い期間で認知や興味関心を一気に生み出します。多くの企業で、新商品やサービスの立ち上げ時にOOHへの大量出稿を通じてブランドを世の中に一気に露出させる戦略がよくとられますが、それはまさにブースト効果を狙ったものと言えます。書籍で言えば、新刊や重版が決まったタイミングの出稿でSOV(シェア・オブ・ボイス、※注1)を一気に高めようとするケースがこれに当たります。このブースト効果は、世の中で〝流行っている感〟の醸成にもつながり、新商品に関心はあるものの、買い物にはやや慎重な層(アーリーマジョリティ)を動かしていく意味でも、とても有効な手段と考えられます。

さらに、最近のOOHに期待される効果として「シェア効果」があります。OOHをスマホで撮影し、SNSで共有する生活者が近年増えています。私たちの調査では、そのような行為をする生活者が2年間で約2倍になりました(グラフ参照)。

こうしたシェア行為は、二次的なリーチを生み出すだけでなく、シェアした本人も対象への関与や愛着を深めることにつながっていきます。以上の通り、OOHは限られた予算でハイポテンシャル層への効率的なリーチ&フリークエンシー(※注2)を生み出し、それが実際の購買行動へと結び付き、昨今では二次的な波及にもつながっていきます。出版社もOOHに出稿することで、こうしたマルチなマーケティング効果が得られると私は考えます。

リーチなら「車両メディア」
インパクト狙いで聖地化も

では、実際にどのように使えばいいのでしょうか。ここではOOHの代表的な交通広告について説明します。
交通広告は、駅構内に出稿する「駅メディア」と電車の中吊り広告に代表される「車両メディア」に分かれますが、駅メディアは特定のエリアを狙い撃ちした展開や、話題性や口コミを生み出す際に有効です。

一方でリーチを広げたいのであれば、車両メディアを検討すべきです。出版社の交通広告への出稿は、車両メディアが中心で、中吊りや、ドア横のポスターやドアガラスに貼られたステッカーなどを使って、ヒット作や複数のタイトルをセットで紹介しながら認知を獲得する展開がよく見られます。

その一方で、最近はコミックなどのIP(知的財産)ものにおいて、ターミナル駅でインパクトを狙った展開が急増しています。渋谷であれば駅にある柱とそのそばの壁面をジャックした展開、新宿では音の出る巨大なデジタルサイネージでインパクトを狙った展開も散見されます。そうした場所は聖地化し、ファンがわざわざその広告を見に来てSNSなどで拡散するようになっています。この流れは一過性のブームではなく今後も拡大していくものと思われます。

ところで、いまOOH界隈を賑わせているワードのひとつに「応援広告」があります。これは一般の生活者がアイドルなどの自分の好きな〝推し〟の広告を自腹で出稿するものです。クラウドファンディングで広告費を集め、OOHに出稿するケースも見られるようになりました。もはやOOHは企業だけでなく生活者のものでもあると言っても過言ではありません。とくに熱狂的なファンがいるIPは、OOHを使ったプロモーションを戦略的に狙っていくべきと考えます。

進化する“アウト・オブ・ホーム”

OOHの起源は太古の壁画と言われ、最古の広告フォーマットとも言われます。それが今は、DXで大きく変わろうとしています。看板やポスターは徐々にデジタルサイネージへと置き換わり、ネットワーク化されながらDOOH(Digital Out Of Home、※注3)として、生活空間に溶け込んでいきます。一方で小売は、店内にサイネージを整備し、自社アプリやECと連動した「リテールメディア」を推進しています。もちろん書店も例外ではありません。
OOH、リテールメディア、さらにモバイルが三位一体となった時、〝アウト・オブ・ホーム〟は強力なマーケティングフィールドへと変貌することでしょう。それによって出版社にも、大きなビジネスチャンスが到来するものと思います。

〈注1〉特定業種内での広告含む全メディア露出に占める、当該ブランドのシェアのこと。
〈注2〉生活者への広告の到達率とその頻度のこと。
〈注3〉OOHの中の、デジタル屋外広告のこと。サイネージ広告など。

上記ライター中里 栄悠
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jekiが描く交通広告の未来 VOL.16

中里栄悠(Move Design Lab プロジェクトリーダー/シニア ストラテジック プランナー/TRAIN TV ブランドマネージャー)

佐藤雄太(jeki交通媒体局 TRAIN TV事業部長 兼 メディアソリューション推進センター プラットフォーム開発部)

中村真(jeki交通媒体局 TRAIN TV事業部 兼 メディアソリューション推進センター プラットフォーム開発部)

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