
私たちMove Design Lab(MDL)は、移動減少社会において芽生えつつある「新しい移動(MOVE)」の兆しをウォッチし、その可能性を探っています。
新しい移動の一つである「聖地巡礼」に着目し、そのリアルと巡礼者のインサイトを探るべく、体験型ゲーム・イベント【リアル脱出ゲーム×ラブライブ!サンシャイン!!「孤島の水族館からの脱出」】にフォーカスしたこの特集ですが、現地取材に続き、巡礼者の移動ログデータの分析を実施しました。
今回分析に活用したのは、スマートフォンなどのモバイル端末の位置情報のデータ※です。特定の端末の時間毎の位置情報をつなぐことで、ある人の1日の行動の軌跡を見ることができます。
静岡県沼津市を中心とする周辺一帯、北は三島駅、南は修善寺駅、西は沼津駅、東は伊豆長岡駅の内側を分析対象エリアとしました。
※位置情報データは、株式会社Agoop「ポイント型流動人口データ」を使用。データの地図上へのプロットにあたっては、国際航業株式会社及び住友電気工業株式会社の地図をベースに、技研商事インターナショナル株式会社が提供している「MarketAnalyzer TM」を使用しました。データは、端末に紐づくIDのログとして処理されるため、個人が特定されることはありません。
【リアル脱出ゲーム×ラブライブ!サンシャイン!!「孤島の水族館からの脱出」】参加者の多くが、アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(以下「ラブライブ!サンシャイン!!」と表記)のファンであることから、利用可能なデータの中から、イベント開催期間(2018年3月19日~6月3日)に、あわしまマリンパークに来場した人(端末)の、イベント参加日の移動ログデータを分析しました。
イベント参加者のリアルな足取りから見えてきたことを、ご紹介していきます。
まずは、「ラブライブ!サンシャイン!!」ファン(イベント参加者)が、イベント会場である「あわしまマリンパーク」のほかに、どのようなスポットに足を運んでいるのかを確認しました。

地図上で、色が緑に近いところは訪問者が少なく、赤・紫に近いところは訪問者が多いスポットです。つまり、赤・紫色のスポットは、「ラブライブ!サンシャイン!!」ファンの多くが訪れる、特に人気のスポットとみることができます。
人気スポットの多くは、アニメの舞台として登場する、いわゆる「聖地」。沼津駅周辺、沼津港、内浦エリアの海岸沿いのスポットに加えて、少し内陸に入った長岡温泉駅(バスターミナル)と伊豆の国パノラマパークロープウェイも人気です。
ちなみに、こちらはエリア一帯の聖地を押さえて巡礼をしている人のログデータです。

交通アクセスを気にせずに巡礼スポットを訪れるかどうかは、コンテンツへの愛の深さを測る一つのバロメーターなのかもしれません。
次に、今回の分析対象であるイベント参加者の移動ログを、大きく3タイプに分類してみました。
1つめは、イベント会場である「あわしまマリンパーク」以外にはどこにも立ち寄らない「直行直帰型」。2つめは、「あわしまマリンパーク」の他にもエリア内の聖地を訪れて、その日のうちに岐路に着く(エリア外に移動する)「エリア周遊日帰り型」。
3つめは、「あわしまマリンパーク」の他にもエリア内の聖地を訪れて、エリア内に宿泊する「エリア周遊宿泊型」。
3タイプの出現比率は、直行直帰型:エリア周遊日帰り型:エリア周遊宿泊型=2:5:3、という結果でした。
現地取材を行った際の感覚では、「直行直帰型」や、「あわしまマリンパーク」から比較的近い内浦エリア止まりの人が多いのでは?という印象でしたが、実際には、せっかく沼津まで来たのだから、美味しいお魚を食べにいこう、近場の温泉に泊まろう、と、沼津というエリアそのものを楽しんだ「ラブライブ!サンシャイン!!」ファン(イベント参加者)が多かったようです。

一言で聖地巡礼といっても、巡礼の仕方は、巡礼者のコンテンツへの思い入れや、地域の観光資源によっても異なりそうです。
今回のケースでは、イベント参加者の8割がイベント会場以外の場所にも足を運んでいました。
聖地巡礼は、ちょっとしたアクセス改善やエリアそのものの魅力発信の仕方によって、その先に更に移動を生み出すチャンスを秘めていると感じました。
現地取材、移動ログデータ分析と続いてきたこの特集では、【リアル脱出ゲーム×ラブライブ!サンシャイン!!「孤島の水族館からの脱出」】イベント運営者へのインタビューも実施しました。そちらにもぜひご期待ください。
五明 泉 Move Design Lab代表/恵比寿発、編集長
1991年jeki入社。営業局配属後、通信、精密機器、加工食品、菓子のAEを歴任、「ポケットモンスター」アニメ化プロジェクトにも参画。2014年営業局長を経て2016年よりコミュニケーション・プランニング局長。