移動離れする若者たちは「おこもり派」になっている?

Move Design Lab VOL.23

移動離れする若者たちは「おこもり派」になっている?
○○離れする若者…とはよく言われますが、移動も例外ではありません。「Move Design Lab VOL.2」でご紹介しましたが、20代は移動回数が少なく、「ひきこもり」自覚のある人が多くなっています。どうすれば、若者たちの移動を活性化することができるのでしょうか? 今回は彼らの外出実態と移動の意識に追り、ヒントの一つを探りました。

「ひきこもる」若者たち。若者の移動の少なさという社会問題。

去る2017年12月、「MOVE実態調査2017」より、生活者の移動実態や、スマートフォンによる「ファーストプレイス化」※1についてご紹介しました。

※1 「ファーストプレイス化」とは、これまで、外出しなければできなかったこと、例えば、仕事や学習、買い物、娯楽などが、外出せずに在宅のままできてしまう状態を指します。

そこから見えてきたものは、20代の移動回数の少なさ。なんと、70代よりも少ないという結果でした(図表1、図表2)。

図表1、図表2

上記は平均値ですが、移動回数が多い人・少ない人の構成はどのようになっているのでしょうか。移動回数を、3rd移動の多少で3つ(移動量「多」「中」「少」)に区分し、年代別に移動量の構成を見てみました。

※注)生活の場は、自宅すなわちファーストプレイス、職場や学校といったセカンドプレイス、それ以外の場所であるサードプレイスの3つに分類することができます。セカンドプレイスに向かう移動を「セカンド移動(2nd移動)」、サードプレイスに向かう移動を「サード移動(3rd移動)」と定義し、3つの場と、それらの場をつなぐ2つの移動それぞれについて、行動・意識を詳細に聴取しています。

3つの場に対する意識 注目すべきは、20代の「移動量 少」の構成。約半数が「移動量 少」となっています(図表3)。

図表3

また、今の20代は家にいることを好む傾向にあり(図表4)、さらに「ひきこもり」自覚のある人の方がマジョリティとなっています。「自分はどちらかといえば『ひきこもり』だと思う」※2という質問に対しては、20代のほぼ4人に1人が「非常にそう思う」、6割強が「そう思う」(「非常にそう思う」・「まあそう思う」)と答えています(図表5)。

図表4
図表5 ※2 ここでの「ひきこもり」とは、回答者の認識にもとづくもので、厚生労働省が「ひきこもり」と呼んでいる「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」とは異なります。

こんなにも若者が移動をせず、不活発のままでよいものでしょうか。私たちMove Design Lab (MDL)では、若者の移動の少なさを社会問題として捉え、どうすれば若者の移動を活性化できるのか考えていきたいと思います。そこで、今回は、若者の移動の実態と意識をさらに探ってみました。

遊びに出ない若者たち。「おこもり派」の若者たち。

まず、移動を目的別・年代別に見てみました(図表6、図表7)。すると、若者は、平日の「洋服・雑貨・家具・家電などの買物」「友人知人との外食」「友人知人との娯楽」「一人での娯楽」のいずれも少なくなっていました。特に、平日の「友人知人との外食」が30~50代よりも約10pt、60~70代と比較すると約20ptも少なくなっていました。言ってみれば、飲みにケーションが減っているということ。20代は他年代に比べて、平日は遊んでいない様子が見えてきました。若者は、平日は仕事に集中しなければならず、遊べないのも仕方ないか…と思いきや、休日も驚く結果でした。やはり平日同様、他年代より外出率は少ない様子。休日の「洋服・雑貨・家具・家電などの買物」「友人知人との外食」「友人知人との娯楽」はもっとも多い年代のスコアより約10ptほど少なくなっていました。なんと、60~70代よりも少ない項目もあります。一方、「一人での娯楽」は20代も他年代と変わらない実施率でした。若者たちは、まったく出かけないというわけではなく、一人でのおこもりを楽しむ「おこもり派」となっているようです。実際、生活意識について見てみると、一人の時間をつくるようにしている人も他年代より多い様子でした(図表8)。

図表6 図表7 図表8

20代の移動活性のヒントはスマホの使いこなし?

最後に、移動量別の移動に関する意識について、20代の特徴を見てみたいと思います。
全体の結果と比較すると、20代では、移動量が多いほどスマホを使いこなして移動の幅を広げている様子がうかがえます。移動量と情報リテラシーとは相関するのかもしれません(図表9、図表10)。

図表9 図表10

移動は、生活行動の一つという見方だけではなく、生活全般のアクティブさや、人との交流・交際、情報感度といったものの指標となることも見えてきました。
MDLでは、これからも移動、とりわけ若者の移動に注目していきます。

上記ライター松本 阿礼
(駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー)の記事

Move Design Lab

Move Design Labは生活者の「移動行動」を探求し、”新しい移動“を創発していくことをミッションに始動したプロジェクトチーム。その取り組みをシリーズで紹介していきます。

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  • 五明 泉
    五明 泉 Move Design Lab代表/恵比寿発、編集長

    1991年jeki入社。営業局配属後、通信、精密機器、加工食品、菓子のAEを歴任、「ポケットモンスター」アニメ化プロジェクトにも参画。2014年営業局長を経て2016年よりコミュニケーション・プランニング局長。

  • 中里 栄悠
    中里 栄悠 Move Design Lab プロジェクトリーダー/シニア ストラテジック プランナー

    2004年jeki入社。営業局、駅消費研究センター、アカウントプロデュース局を経て、2014年よりコミュニケーション・プランニング局に所属。シニア・ストラテジック・プランナーとして、メーカー、サービス、小売など幅広い企業のコミュニケーション戦略立案に携わる。

  • 彦谷 牧子
    彦谷 牧子 Move Design Lab データアナリスト/ シニア ストラテジック プランナー

    リサーチ・コンサルティング会社を経て、2009年jeki入社。JR東日本保有データの分析・活用業務に従事した後、2014年よりコミュニケーション・プランニング局に所属。化粧品、トイレタリー、通信機器等幅広いクライアントのコミュニケーション戦略をはじめとしたプランニングを担当。

  • 市川 祥史
    市川 祥史 Move Design Lab リサーチプランナー/ データアナリスト

    市場調査会社にて、企業のマーケティング課題の解決に従事。2017年jeki入社。コミュニケーションプランニング局配属。交通広告・キャンペーンの効果測定を中心に、クライアントの課題発見・解決を支援する。

  • 鷹羽 優
    鷹羽 優 Move Design Lab ブランドコンサルタント

    ブランド戦略を専門とし、菓子・飲料・生活雑貨・人材など多くのブランド開発、リブランディングを手掛けた後、2018年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。ブランドマネジメントの観点からコミュニケーション立案を行う。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 渡邉 裕哉
    渡邉 裕哉 Move Design Lab ストラテジック・プランナー

    2020年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。飲料、トイレタリー、ホテルなどのプランニングを担当する。

  • 明山 想
    明山 想 Move Design Lab コミュニケーションプランナー

    2021年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。BtoB、トイレタリー、クレジットカード会社などのプランニングを担当。

  • 片山 晴貴
    片山 晴貴 Move Design Lab コミュニケーションプランナー

    2021年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局配属。 家電、損害保険、不動産などのプランニングを担当する。