応援広告がもたらす価値とは?
jeki応援広告事務局「Cheering AD」×Move Design Lab(MDL)対談<前編>

jekiが描く交通広告の未来 VOL.12

今、OOH界隈で応援広告が大きな話題となっている。さまざまなメディアでも取り上げられ、生活者の間でも徐々に知られるようになった応援広告。昨今の“推し活”ブームも手伝って、さまざまな企業とコンテンツホルダーが入り交じりながら市場が拡大している。
中でも交通広告や屋外広告を使った「応援広告(センイル広告)」が活況だ。生活者が広告主となることで生まれる応援広告は「聖地」となり、人の移動も生み出している。この度、一般消費者向け応援広告のECサイト「Cheering ADオンライン」が立ち上がったタイミングで、この新しい広告のカタチ、新しい移動のカタチについてjeki応援広告事務局とMove Design Lab渡邉が語り合う。
※本記事内では、「応援広告」と「センイル広告」は同義語として使用しています

応援広告の今

Cheering AD立ち上げのきっかけは韓国の応援広告とうかがいました。応援広告の未来を考える上でも韓国から学べることは多そうですね。

河原:韓国の地下鉄ではかなり多くのセンイル広告が掲出されており、ターミナル駅を歩くと目に触れないことはないくらいです。トレインジャック・ラッピングも盛んですし、交通広告以外にもサイネージ・カップホルダーイベント・映画館内のラッピングなど、多岐にわたります。

江部:テレビCMや雑誌、新聞などマス媒体に掲出されている例もよく見るので、企業の広告と同じ様にセンイル広告が掲出されているなと思います。

韓国ではあらゆるタッチポイントで応援がされているのですね。日本よりも数段先を行っているようですが、そのような中でもOOHはどういったポジションなのでしょう?

小林:韓国でのセンイル広告がOOH主体なので、センイル広告といったらOOHに出すっていうのが根付いているっていう印象です。センイル広告を実際に見て回って楽しむ「センイル広告巡り」という言葉もあるくらいです。
実際に見に行って写真を取りたいファンも沢山いらっしゃるからか、WEB系の応援広告はあまり見ない気がします。

江部:街中にセンイル広告が多数掲出されていることもあり、推しの誕生日に合わせて渡韓し、センイル広告を見たり、カフェを巡ったりしている方も多い印象です。OOHの応援広告が観光資源の一つになっているかと思います。

渡邉:「推し活×移動」でいうと聖地巡礼がトレンドではありますが、コンテンツ側から聖地となる場所を提供するのに対し、応援広告は生活者側から「聖地」を作っていると言えるのではないでしょうか。
応援広告は、移動減少社会で移動を活性化させる種になりそうです。

なるほど、応援は移動を生み出す。さらに言えば応援は集客につながるとも言えそうですね。
ところで韓国で文化として根付いている応援広告について、もう少し教えてください。

河原:2017年頃のオーディション番組「PRODUCE101 シーズン2」で急速に広がったと感じます。日本でもオーディション番組が流行したように、当時の韓国でも「推しへの投票」を求めて応援広告を出稿したことがきっかけと感じます。

小林:最近では、事務所がある付近の建物や若者が集まる施設をラッピングしてしまう事例もあります。実際に見たこともありますが、日本で例えると若者に人気の商業施設を全面ジャックしてしまうような状態と言えそうです。

江部:韓国では、センイル広告がファン全体の一つのイベントとして捉えられている印象です。

小林:内容としてはほとんどが推しの誕生日を祝う広告です。
最も規模が大きい事例ですと、本場K-POPアイドルの誕生日に合わせてのクラウドファンディングで、1億円以上集まったと聞きます。

では、日本における応援広告の状況はいかがですか?

河原:「Cheering AD」が依頼を受ける広告は、約10万円前後のものが多いですね。1人でというよりは、ファンが集まって出し合うケースが多いです。

江部:初期は、駅のポスター1枚から始まっていましたが、今やファン自身がメディアプランニングして、クロスメディア展開をすることが増えた印象です。複数エリアで実施することも増えており、47都道府県ジャックの実績もあります。日本でも応援広告文化が定着しつつあるのかな、という印象です。

渡邉:先日、VTuberの誕生日を祝う応援広告で、同日に全国5ケ所のビジョンに出稿し、都内ではアドトラックを走らせる、というような大規模な出稿を行った事例を見て驚きました。日本でも徐々に応援広告のタッチポイントの広がりを感じます。

「推し活」の流行と応援広告

以前リリースされた「推し活・応援広告実態調査」を改めて読み返してみたのですが、10~40代の約6割に推しがいるというのはなかなかすごいファクトだと感じました。

渡邉:昨今、あらゆるメディアで「推し活」「推し」が取り上げられるようになりました。一昔前は限られた“オタク”の文化だったものが、徐々に“オタク”ではない人にも広がっています。動画を見たり、SNSで発信したり、イベントに参加するなど、自分がやっていること=「推し活」であるという認識が広がっていったことで、このようなスコアになっていると考えます。

小林:昔からやっていたことが「推し活」という言葉で、定義づけされたように感じます。

江部:我々メンバーは「ヲタ活」の方が馴染みがあったりもしますが、「推し活」という言葉ができたことで、多くの人の中で、共通言語化したというのはありますよね。

河原:SNSを見ていても、「推し活しました」という投稿をよく見ますね。
「推し活」という言葉のおかげで自分の好きなことを発信しやすくなったと思います。

渡邉:また、コロナ禍の影響も大きいと考えます。行動制限によって、YouTubeやNetflixなどの動画配信サービスに触れる時間が増えたことが要因の一つと考えています。今まで知らなかったコンテンツに触れたり、好きなコンテンツを深く知ったりと、単に好きなコンテンツから、日常生活の一部になり、なくてはならない存在とまで進化したことで、「推し」にまで昇華した人が多くいたのではないでしょうか。

応援広告を出稿する価値とは

引き続きデータの話ですが、“国民総推し時代”が近づく中、応援広告を出稿する理由として最も高かったのは、「推しを周りに知ってほしいから」。当然と言えば当然の結果ではありますが、“自腹”でそこまでやろうとは普通思わないのではないか、とも。ファンがファンを増やしたいインサイトはどういったものなのでしょう?

渡邉:「推しをもっと知ってほしい」の背景には、推しの素晴らしさをより多くの人と「共有したい」「分かち合いたい」という想いがあると思います。また、推しの話ができる人とつながることができれば、さらに推し活が充実化する、という側面もあると思います。

応援広告を出す人の根底には、「推しに幸せになってほしい」という心理があるのだと考えます。「推しの幸せ」には、東京ドームでのライブやCDが売れるとかさまざまなことがありますが、それを達成するためにまず「知ってほしい」と思うのではないでしょうか。

小林:応援広告が広がったきっかけであるオーディション番組では「デビューしてほしい」という感情から、宣伝することにつながっていると思います。

江部:カテゴリーやコンテンツにもよりますが、「生きていてくれてありがとう」というような感謝をしているファンの方も多いと思います。

渡邉:その感覚はあると思います。私が応援広告を出稿した理由を振り返ると、アーティストが出す曲を聴いて、元気になったり、勇気づけられたりした原体験が強くあったように思います。売れてほしい、幸せになってほしいというのと同じくらい感謝を伝えたい想いもありました。

河原:今後は、スポーツであったりジャンルにかかわらず、「推しを幸せにしたい」「推しに感謝を伝えたい」と思うファンの応援手段の一つとして、「応援広告」が選ばれるよう頑張っていきたいと思っています。

※「Cheering AD」では、スポーツの応援広告窓口も行っております。
https://cheering-ad.jeki.co.jp/blogs/news/albirex
https://cheering-ad.jeki.co.jp/blogs/pickup/frontale

面白いなと思ったのは、応援広告を実施した後、さらに推し活が加速するというデータです。

渡邉:応援広告を出稿する前後では、ファン視点での推しとの関係性が強固なものになっていくのではないかと考えます。実際に私が出稿したときには、ファン団体を立ち上げて、複数人で相談しながら内容を詰めていきました。また、事務所の方と広告素材について連絡を取ったりしました。このような体験は、動画を見たり、イベントに参加するような言わば“受動的な推し活”ではなく、ファンアートを描いたり、推しを他者に広めるということに近しい“能動的な推し活”と言えると思います。
また、一番印象的だったことは、自分が出稿した応援広告に対して「推し」から反応をいただけたことです。「推し活」の中でも一線を画す体験であったと思います。実際にその後のグッズ購入やイベント参加につながっています。

河原:韓国では、それを「認証ショット」と呼んでいます。誕生日広告に本人が行って「見たよ」とSNSに上げるとファンの間では「認証ショットをくれた」と話題になります。そうなると、渡邉さんのようにみんなますます応援するようになります。韓国でもそんな感じなんです。

渡邉:認証という言葉はまさに的を射ていると思います。自分たちが数ヶ月の間準備したものが、しっかり推しに届き、本人から認めてもらえたというのは、一つ他にはない価値かもしれないですね。
反応をもらう点だけで言えば、配信での「投げ銭」という方法もありますが、性質が異なると思います。

小林:実際に私が掲出した際も、応援広告をデザインするために、推しの魅力について深く考える必要があって、より推しへの好きが深まっていきました。推しのことを考える時間も皆さん楽しまれていると思います。

河原 千紘
jeki-X所属
K-POP好きで韓国でセンイル広告を見たことがきっかけで、社内新規事業コンテストで応援広告事業を提案。採択され、本業の傍らjeki応援広告事務局を立ち上げメンバーに。現在は、「Cheering AD」専任として、EC、データ、デジタル戦略を統括する。推しは SM ENTERTAINMENT所属アーティスト。

江部 恭子
jeki-X所属
メンバーの河原と韓国旅行へ行った際にセンイル広告を見て感動し、共に社内新規事業コンテストに応募し、メンバーに。現在は専任として、主にエンタメ関係の事務所や、応援広告の窓口委託を受けている事務所の対応および新規承諾交渉を行う。
推しは、K-POP(WOODZ)とサンリオ。

小林 礼奈
第三営業局所属
大学生のときに応援広告の出稿経験あり。jeki入社後は、OOHメディア局に所属し、交通広告のバイイングの知見を活かしてjeki応援広告事務局では、媒体社との交渉や、付箋広告等の新媒体・商品メニューの開発、問い合わせ対応を行う。
推しは、K-POP・JO1。

渡邉 裕哉
コミュニケーション・プランニング局所属。ストラテジック・プランナー
さまざまなクライアントのコミュニケーション戦略策定のサポートをしながら、生活者の移動を研究する「Move Design Lab」に所属。jeki応援広告事務局と共同で「推し活・応援広告実態調査」を実施。最近某アーティストの応援広告を企画し、「Cheering ADオンライン」を通じて出稿した。
推しは、ちいかわ(祭壇あり)と阪神タイガース。

上記ライター河原 千紘
(jeki-X)の記事

上記ライター江部 恭子
(jeki-X)の記事

上記ライター小林 礼奈
(第三営業局)の記事

上記ライター渡邉 裕哉
(Move Design Lab ストラテジック・プランナー)の記事

jekiが描く交通広告の未来

生活者の行動やメディア環境が激変するなか、jekiが描く交通広告の未来とは。調査で見えてきた交通広告の今や、新たな価値創出の取り組みを紹介します。

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