変わりゆく広告
テレビ・雑誌離れ世代を引き寄せている“体験型広告”(前編)

ナレッジワークス株式会社 取締役 亀山悦治

広告業界に知見のある方を講師として招き、jeki社員を対象とした多彩な講義を展開する「恵比寿大学」。「恵比寿発、」では、その一部の講義を広く社外にも発信していきます。第1回目ではナレッジワークス株式会社取締役の亀山悦治氏に、体験型広告の可能性について寄稿していただきました。

テレビ・雑誌離れ世代を引き寄せている“体験型広告”とは?

みなさんは、誰に向けてどのようなメッセージを伝えようとしていますか?

テレビや雑誌などを当たり前のように見ていた時代には、広告は自然に目に飛び込んでくる情報であり、受け入れることが当たり前となっていました。しかしその形は既に崩れ始めているのではないでしょうか?ショートストーリー仕立て、優れたクリエイティブ、楽しいアイデアなどで、つい見てしまうCMや広告など成功する事例もまだまだありますが、テレビ離れや雑誌離れの世代に対し、それらが的外れになっていないか改めて見直す時期に来ているのかもしれません。

私が所属している会社でもスマートフォン向けのARソリューションを2012年頃から提供していますが、利用される広告主の方々に対して一言お伝えしているポイントがあります。「広告動画がARで見られますよ!」 と告知した場合、見られる確率が下がる傾向にあるという点です。わざわざ広告と知っていた広告動画を見たいとは思わないということです。

当たり前といえば当たり前ですね。「ここでしか体験できないスペシャルコンテンツがARで見られますよ!」と告知した場合、自ずと視聴回数が増加し、さらに自発的に拡散する傾向があることが分かっています。もちろんコンテンツそのものが一番重要であることは言うまでもありません。

広告と感じさせない広告の効果 – 共有体験型広告とは

今人々は、一方的に見せられる何かではなく、自らが体験したことや友人や家族、恋人と体験したことに対して価値を見出し始めているといえるのではないでしょうか。自分がそのストーリーの中で主人公になることができる体験に価値を感じ始めているといえるでしょう。

ゲームの世界が顕著です。従来のゲームではプレーヤーをコントローラーなどの操作ボタンで動かしていました。しかし仮想現実(VR)の世界では自分自身がその世界に入り込んだような体験を得ることができます。拡張現実(AR)の世界では、現実の空間の中に出現する世界と接点を持つことが可能となります。

その体験は、今まで体感したことがない計り知れない感覚を伝えることができる可能性を秘めているといえるでしょう。ここで取り上げる感覚とは、目に見えていること(視覚)だけでなく、嗅覚、聴覚、触覚、味覚、空間移動、時間を超えたような感覚も含んでいます。これらが仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の技術で体験できるようになりつつあります。

このような仮想空間の中で、広告を広告としてではなく、ある時は刺激的に、ある場面では心地良い体験として、利用者が意識しないよう自然に感じさせることができたら、どのようなことが起きるでしょう。実際に体験したかのように脳内にその感覚が刷り込まれ、次の行動を自ずと促されることになるのではないでしょうか。繰り返し与えられる心地よい体験は、無意識に行動意欲を高める効果を持っているのですから。

ぬりえARアプリケーション「daub(だーぶ)」

ナレッジワークス開発による、色を塗ったぬりえが3Dになって動き出すARアプリ。VRモードにも対応。
公式サイト:http://daub.knowledge-works.co.jp/

試食や試着という体験は実世界でのことですが、試食や試着を行った人と、行わなかった人ではその商品への関わり方や興味は大きく異なります。いわゆる「体験した」という一線を超えた時点で、自分自身を強く動機付けしてしまうため欲求が急速に高まり始めるのです。

また、例えば自分のことをよく理解してくれる店員に対しては、その人から買いたいという気持ちが生まれるでしょう。仮想現実の中の仮想店舗で自分のことをとてもよく理解している店員が接客してくれたら、来店回数も購買意欲もよりいっそう高まることは想像に難くありません。AI対応のバーチャル店員の出現により実現できるようになります。ここまで進化すると、広告という枠組みから離れてしまうかもしれませんが、このような世界はすぐそこまで来ているのです。

拡張現実(AR)の世界でも、広告には見えないような広告が見受けられます。以前、ある量販店が玩具の販売のための広告をARで実施したことがありますが、紙のカタログと仮想的に体験できるARカタログでは明らかに購買率が変わったことを説明していました。ARそのものの体験が広告となった分かりやすい例といえるでしょう。

国内外で始まる新しい広告への取り組み

現実的な視点で見た場合、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)の利用は、まだまだ直接的に広告としてのコンテンツを視聴する内容のものが多いのですが、多くの大企業がその可能性について既に取り組みを開始しています。

GoogleはArea120という社内ワークショップで、VRアプリケーション向け広告フォーマットのテストを行い公開しています。キューブ状のアイコンを表示し、手に持ったコントローラーを使ってレーザーポインタで触れるか、一点を注視すると動画広告が再生されるといった方式となっています。

百度が取り組むAR動画広告は、「百度モバイルアプリ(手机百度)」のARカメラ機能を起動し、商品パッケージなどをスキャンすることで商品のARが体験できます。

ARプラットフォームアプリケーション「 aug!(オーグ)」

このような方式は、私が所属しているナレッジワーク株式会社が開発したARプラットフォーム aug!(オーグ)でも数多くの商品プロモーションや体験型広告で活用されています。例えばカップ麺やお菓子のパッケージ、旅行やイベント、学校案内などをARで視聴し体験することが可能となっています。

■公式サイト:http://aug.knowledge-works.co.jp/

株式会社アキタ 公式ARアプリケーション

株式会社アキタが提供するトレーサビリティ機能をもった公式ARアプリケーションでは、TV CMでも有名な「寝冷えネコ」が「きよら」のたまごパックから3DCGで飛びだすだけでなくCMを再現したゲームが楽しめます。

■公式サイト:http://www.akitatamago.co.jp/kiyora-new/kiyora_index.html

後編は、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を広告として実際に導入する場合の手法や手順、ポイント、効果について説明します。

<後編へつづく>

恵比寿大学

恵比寿大学

広告業界に知見のある人を講師として招き、jeki社員を対象とした多彩な講義を展開する「恵比寿大学」。このコンテンツでは、その一部を広く社外にも発信していきます。

>記事一覧はこちら

  • 亀山 悦治
    ナレッジワークス株式会社 取締役

    1987年からオフコン、クライアント&サーバ系のシステム開発に従事。1999年からWeb系システム開発会社に移籍後、主にWebサイト開発のPMを担当。2004年からナレッジワークスにて、新規サービスの企画等を担当。2009年より同社にてAR・VR・MRを使用したソリューション開発、実用化のための企画・提案・アプリケーション開発を担当。AR・VR・MRについては、一般向け・企業向けセミナーの講師を年に数回以上実施。AR関連書籍の執筆等、精力的に活動を行っている。

    ナレッジワークスのサイト http://hp.knowledge-works.co.jp/

    出版物
    感覚デバイス開発-機器が担うヒト感覚の生成・拡張・代替技術「第3編 感覚デバイスが創る未来生活」
    http://www.nts-book.co.jp/item/detail/summary/it/20140700_19.html
    よくわかるAR〈拡張現実〉入門
    https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=1506