ウィズコロナ時代におけるオフィスの新たな価値とは
〜「オフィスの新たな価値づくり」に取り組む、コクヨとOfficefactionの挑戦<前編>

新規事業開発 VOL.2

写真左:コクヨ株式会社 ワークプレイス事業本部ワークスタイルマーケティング本部 ソリューション企画部 グループリーダー 松本 俊夫氏
写真右:株式会社Officefaction 代表取締役 樋口 徹氏

新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の生活を大きく変えるきっかけとなった。働き方も例外ではなく、テレワークやオンライン会議が一気に浸透。一方、リアルのコミュニケーションが激減したことで、従業員のメンタルヘルスが悪化しているという結果も出ており、その原因には従業員間や上司とのコミュニケーション不足や変化が挙げられている※。
快適な職場環境を考えるとき、リアルのコミュニケーションは必要不可欠な要素であることが見えてきた今、これからのオフィスはどうあるべきなのか。日本人の働き方に向き合い続けてきたコクヨの松本俊夫氏と、出向起業制度を活用して新しいオフィスの価値づくりに取り組むOfficefactionの樋口徹氏が語り合った。
※日本生産性本部「第10回『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート」

出向起業制度とは

経済産業省が推進するスタートアップ支援を目的とした制度。
「大企業人材等新規事業創造支援事業補助金(中小企業新規事業創出促進対策事業)」を用いて、一定規模以上の企業に所属する社員が退職せずに、自身で外部資金や個人資産をもとに起業し、その独立した資本のスタートアップへ出向、あるいは長期研修等の形で事業を行なう際の支援を行なっている。大企業に属する人材を将来への不安を軽減した形でスタートアップへ転出させることにより、起業の担い手を増やそうとするもので、すでに30社近い企業がこの制度を活用して起業している。

新しい働き方を支援するコクヨとOfficefaction

松本さんが所属するワークプレイス事業本部について教えてください。

松本:コクヨは120年近くの歴史を持つ企業です。そのルーツは文房具、ものづくりにありますが、そこから家具、オフィス用品、そしてそれらを使う空間の構築へと事業領域を広げてきました。2022年1月に策定した中期経営計画「長期ビジョンCCC2030」では、私たちの役割を「WORK &LIFESTYLE Company」と定義。
「ワークスタイル領域」と「ライフスタイル領域」のふたつの領域で事業を成長させていくことを目指しています。私が所属するワークプレイス事業本部は「働く」のワークスタイル領域に位置づけられ、皆さんが働きやすい環境をつくるための支援を家具的な側面からアプローチしています。

樋口さんは出向起業制度を利用してOfficefactionを立ち上げています。

樋口:出向起業制度は国の政策で、経済産業省が推進するスタートアップ支援を目的としていますが、私もこの制度を利用して、ジェイアール東日本企画(jeki)に籍を残した形で2021年にOfficefactionを立ち上げました。
Officefactionでは、空いたスペースを保有する企業と、そのスペースを使ってビジネスパーソンにサービスを提供したい事業者をつなげるプラットフォームを開発しています。現在はボディケアやヘッドスパ、ヨガレッスン、飲食系のサービスを中心にトライアルを進めていますが、特にコロナ禍において、このようなサービス提供は、従業員が出社する動機付けやモチベーション向上にもつながると考えています。また、コロナ禍による収入減で打撃を被っている飲食やマッサージなどの事業者は、収入を得る機会を生むことができ、企業とWIN-WINの関係を構築することができると考えています。
私は、Officefactionを通じて、「出社したくなるオフィス」「働きたくなるオフィス」をつくっていくことを目指しています。

コロナ禍で感じる、リアルのコミュニケーションの重要性

コロナ禍で私たちの働き方は大きく変わりました。そこにはマイナス面だけではなく、前向きなところもあったと感じています。

松本:パンデミックで変わったのは、いかに生きるか、働くかという価値観だと思います。それくらい大きな変革が生まれたと認識しています。当社には20%チャレンジと言って、自身の業務の20%を他部門に充てるような、役割や業務の多様性から得られる経験値を求める社員も増えています。目の前の仕事に邁進することの尊さに加えて、それだけではない進路もあることに気づいたことは良かったのではないでしょうか。

樋口:表面的には通勤の時間がなくなった、無駄な会議が減った、家族の時間が増えたということはあります。ただ、一番重要なのは、会議を開く意味や集まって働く理由、人と直接対面して話すことの重要性、そういうことの本質を考えざるを得なくなったことです。その結果、やはりリアルのコミュニケーションが大事なのではないかという気づきを得られたことが一番のプラスだと思います。

一方でマイナス点もありますね。

樋口:リアルのイベントが開催できなくなった時期もありましたし、小売店や飲食店にはアクリル板などが置かれていました。物理的な「壁」があることで、ソーシャルディスタンスだけではなく、心理的なディスタンスも発生していると感じています。これは確かにマイナス面ではありますが、そうしたマイナスをいかにプラスに転じていくかということが、新たなビジネスにもつながります。私のOfficefactionもその一例です。

松本:マイナス面というか、これは気づきなのですが、変化した方がいいはずなのにそれを拒んだ人もいました。何もかも変えればいいと思っているわけではありませんが、なかなかこういう時代は経験できない。でも、変化の波にさらされるのは怖いというのも理解できる。これは2019年までの何十年という間、緩やかながらも右肩上がりの感覚があって、日本人の大半はそれに慣れてしまって変化というものに実感がなかったのではないでしょうか。

樋口:変化が必要な場面でも、変わることができないというのは自分自身、考えさせられます。

「働きやすい環境」を模索する

変化という点では、オフィス改革の一環でフリーアドレスを導入したものの、結局座る席が固定化されてしまうという話を聞きます。変わりたいという思いと行動が必ずしも直結するわけではありません。

松本:フリーアドレスの固定席化はよくある話ですが、それはルールを決めていないからです。建前的に始めたり、上司の命令だったりということではうまくいかない。何事も現場が本気でやらないとできないのに、現場を無視して方針を決めるような、日本らしい決め方も一因かもしれません。

樋口:フリーアドレスの目的は、オープンなオフィスを作ってコミュニケーションを活性化させることも一つだと思います。だけど、「場所をつくりました。はいどうぞ」と言われてもコミュニケーションは取れない。松本さんがおっしゃるような本質を伝えて、理解してもらわないと変わるのは難しいのかもしれません。

コクヨさんは空間のコンサルティングも行なっています。コロナ禍を経て、オフィスという空間の考え方にも変化があったのでしょうか。

松本:当社では1969年から「ライブオフィス」という形で、社員が働いている姿を見てもらう取り組みを続けています。そこで見てもらいたいのは、皆さんこうしましょうということではありません。これからの働く場所はこんな風になっていきますよという提案です。

社員が働く姿が実際に見学できるライブオフィス。写真は1969年当時。 https://www.kokuyo.co.jp/com/liveoffice/history/

当社では20年以上前からフリーアドレスを採用しています。自分の物が固定された場所にあると、自然に人はそれに依存していきます。そうではなくて、人が自由に動いて、社員同士がコミュニケーションを取って、業務を遂行していこうという考えからです。

フリーアドレスは、コロナ禍以前はそれほど浸透していませんでしたが、今は導入を検討する企業も増えているように感じます。その狙いは、出社制限などでオフィスも広い場所が必要でなくなったこと、業績が下がって家賃が負担になったことによる経費の削減です。大々的にそう説明することは少ないかもしれませんが、改革が目的という本質を求める理由より、現実的な課題への対策という面はあります。ただ、大事なのは、坪単価やデザイン、空間という話ではなく、そこで何をなすのか、目標を立てることだと考えています。

私たちはICTを使って会社の現状を研究し始めています。ビーコンで位置情報を取得し、社員にはバイタルを計測するデバイスを着用してもらい、誰がどこで何をしているのか、行動の傾向や心身の状態を観測しています。これによってやる気になる場所、労働生産性が高まる場所とはどんなものなのか、論理的に説明できればと思っています。

「2023コクヨフェア」では、さまざまな実験のプロセスを経て生み出された空間やプロダクト、サービスなどを、実際のオフィスで紹介

そういう意味ではコンサルティング事業は非常に大事なフェーズにあるといえます。感情への作用が重要であれば、植物やアートといったデザイン性の高いコンテンツも取り入れるべきでしょう。情報はどんどん更新されていくはずなので、そのスピードに対応して柔軟に変わっていくことが今後のスタイルになっていく。クライアントとなる企業が目指す価値を実現するために、自由度の高いサービスを提供することを求められるでしょうし、それに応えることが私たちの目指すところでもあります。

樋口 徹
株式会社Officefaction 代表取締役
広告代理店でキャリアをスタート。
ベンチャー企業などを経てjekiに転職し、新規媒体の開発などに携わる。
2021年に株式会社Officefactionを創業。経済産業省の出向起業支援制度に採択されスタートアップ。
自分で考え、自分で決めて、自分で行動する環境に身を置くべく起業を決意。二児の父であり、猫を愛す。
キャンプ、サウナ、子どもとの公園探索が趣味。

松本 俊夫
コクヨ株式会社 ワークプレイス事業本部 ワークスタイルマーケティング本部 ソリューション企画部 グループリーダー

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