ウィズコロナ時代におけるオフィスの新たな価値とは
〜理想の「働く場所」の実現に向けて、コクヨとOfficefactionの挑戦<後編>

新規事業開発 VOL.3

写真右:コクヨ株式会社 ワークプレイス事業本部ワークスタイルマーケティング本部 ソリューション企画部 グループリーダー 松本 俊夫氏
写真左:株式会社Officefaction 代表取締役 樋口 徹氏

新型コロナウイルスによるパンデミックは、人々の生活を大きく変えるきっかけとなった。働き方も例外ではなく、緊急事態宣言による外出制限でテレワークやオンライン会議が一気に浸透。企業や従業員の意識は大きく変化し、オフィスの価値も見直されつつある。これからのオフィスはどうあるべきなのか。
日本人の働き方に向き合い続けてきたコクヨの松本俊夫氏と、出向起業制度を活用して新しいオフィスの価値づくりに取り組むOfficefactionの樋口徹氏が語り合った。

前編はこちら

出向起業制度とは

経済産業省が推進するスタートアップ支援を目的とした制度。
「大企業人材等新規事業創造支援事業補助金(中小企業新規事業創出促進対策事業)」を用いて、一定規模以上の企業に所属する社員が退職せずに、自身で外部資金や個人資産をもとに起業し、その独立した資本のスタートアップへ出向、あるいは長期研修等の形で事業を行なう際の支援を行なっている。大企業に属する人材を将来への不安を軽減した形でスタートアップへ転出させることにより、起業の担い手を増やそうとするもので、すでに30社近い企業がこの制度を活用して起業している。

オンラインが便利になってもリアルのコミュニケーションは超えられない

Officefactionはコロナ禍でのオフィス環境の変化を受けて事業をスタートしたのでしょうか。

樋口:実は、事業の構想はコロナ禍の前から持っていました。オフィスにはたくさんのビジネスパーソンが集まっています。最初は、広告の媒体価値と同じ発想で、あれだけ人が集まる場所ならば何らかの価値があるのではないかと考えました。そこで、ビジネスパーソンにリーチしたい、届けたいサービスを展開している事業者や個人と、オフィスをマッチングできれば喜ばれるのではないかというのが発想の源です。

その後、コロナ禍で緊急事態宣言が発出され、2020年の4〜5月はオフィスに人がいなくなった。本当は会社を辞めて起業しようとしていたのですが、そのタイミングでそうしていたらどうなったか、思い出すだけでヒヤヒヤします。結局、オフィスに人が完全に戻ったわけではありませんが、人と人が何かを成し遂げようとするとき、リアルは絶対になくならない。オンラインで便利になることもありますが、リアルでコミュニケーションすることは超えられないと思いました。出社する人も少しずつ増えて、オフィスにも新しい解釈や機能が必要になるのではないかと考え、出向起業制度を利用して起業することを決めました。

今は、アフターコロナのコミュニケーションにおける課題解決をテーマにしています。経営者や経営陣は、社員には出社してほしいという考えを根強く持っているように感じます。ただ、それを海外の経営者のように一方的に指示するのも難しい。その一つの解決策として、オフィスでのコミュニケーションを生み出すきっかけづくりや、出社したくなるオフィスづくりがあります。仕事中に疲れたらマッサージやヨガのレッスンを受けることができる、家では飲むことができないような美味しいコーヒーを飲むことができるというリラックス系のものや、ビジネス英会話のレッスンを受けられるというスキルアップ系のものなどをオフィスで体験できるようにして、オフィスで働くことの魅力を高めていくことを目指しています。

今は、トライアルを通じてニーズや課題を洗い出し、改善を続けている最中ですが、面白い事例として、クラフトビールの試飲会をやりたいという依頼がありました。以前では絶対に認められなさそうな話ですが、コミュニケーションのあり方が再考されている今だからこそ、許容されるようになったのだなと感じる象徴的な経験でした。

松本:出社する人が減って、新入社員も中途入社の人も、いつ誰が加わったのか把握しにくくなっています。そうなると「あなた誰だっけ」ということも増える。社内の人間同士でも顔を合わせる機会がないのでコミュニケーションを成立させることも難しい。それならば交流のきっかけを作ろうと考える企業は増えています。
僕も今、社内でパーティーを企画しています。形式的な付き合いを強制したいわけではなくて、顔合わせのため。一度会っておけば何かあったときにもやりとりがしやすい。僕らが社会人になって当たり前のように学んできた人間関係のあり方を知らないままに仕事をするようになった人も増えています。そこで業務以外でも、リアルで顔を合わせるきっかけとして、Officefactionのようなサービスは重要になってくると思います。

従業員と会社がそれぞれに自立し、共存する。
そのとき求められる「働く場所」とは。

お二人が考えるこれからのオフィスのあるべき姿はどんなものでしょうか。

松本:まだ僕自身、答えにたどり着いていませんが、「何のために働いているのか」という話に繋がると思っています。おそらく、答えは一つではないとも思っています。
これまではそれを一つに絞ろうとして、最大公約数的なものを見つけたがっていた。それがコロナ禍を経て、働き方の多様性を認めざるを得ない状況になった。答えが一つではない以上、責任を持って働くのであればそれぞれが好きな形で働けばよくて、それをお互いに認め合っていかないと次の時代に合ったクリエイティブは生まれないのではないでしょうか。
従業員の喜びそうな環境やサービスを会社が一方的に考えても、満足を得ることは不可能だと思います。

樋口:松本さんの考え方に共感するのは、形式論や建前ではなく、基本のところにある概念をしっかり考えているところ。もう一つは、正解は一つではないことを前提にしていて、多様性を認めようとする姿勢です。フリースペースやオープンアドレスというのは新しいオフィスのあり方の先にある形なのかもしれません。松本さんがおっしゃるような多様性を認めるとか、概念的なものがベースにないと一過性で持続性の低いものになってしまうのだと思います。

僕のように会社に籍を置きながらスタートアップにチャレンジできているのも、jekiという会社が認めてくれているから。会社という組織も異質な存在を認めることが求められる時代になったからなのではないかと感じます。

働き方やその場所についても多様性を認め、選択肢を多く持ってもよいのではないかということですね。

松本:実は、僕はオフィスという概念が好きではなくて「働く場所」という言葉を使っています。僕が作って届けているのは「働く場所」ですと。「オフィス」というとどうしても事務所みたいな固定されたイメージがありますが、「働く場所」は形にとらわれません。まず「場所」があって、そこに価値が生まれていくのだと思っています。

樋口:私も、オフィスとはこうあるべきものという固定観念にとらわれず、「出社する価値を感じられる場所」「働きたくなる場所」づくりを目指していきたいと思います。

樋口 徹
株式会社Officefaction 代表取締役
広告代理店でキャリアをスタート。
ベンチャー企業などを経てjekiに転職し、新規媒体の開発などに携わる。
2021年に株式会社Officefactionを創業。経済産業省の出向起業支援制度に採択されスタートアップ。
自分で考え、自分で決めて、自分で行動する環境に身を置くべく起業を決意。二児の父であり、猫を愛す。
キャンプ、サウナ、子どもとの公園探索が趣味。

松本 俊夫
コクヨ株式会社 ワークプレイス事業本部 ワークスタイルマーケティング本部 ソリューション企画部 グループリーダー

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